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ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集 の商品レビュー

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141件のお客様レビュー

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2020/02/11

村上春樹さんの紀行文集。長編小説の間にちょくちょく短編小説や書き下ろしエッセイを入れてくることが多い村上さんなので、何か書き下ろしエッセイなのかなと思ったのだけれど、紀行文というテーマで過去の作品を集めたエッセイ集だった。主にはJALのファーストクラス向け機内誌(そんなものがある...

村上春樹さんの紀行文集。長編小説の間にちょくちょく短編小説や書き下ろしエッセイを入れてくることが多い村上さんなので、何か書き下ろしエッセイなのかなと思ったのだけれど、紀行文というテーマで過去の作品を集めたエッセイ集だった。主にはJALのファーストクラス向け機内誌(そんなものがあるんだ)用に書かれたもののようだが、ここに収められた文章は、実際の機内誌掲載のバージョンとは別に長めのバージョンを作っておいたものらしい。短いものはあくまで短い場所にフィットするように調整したもので、本来その文章が持つべき長さはこれ、という考えなのだろうか。そうだとしたらいかにも村上さんらしい。 この本では当然ながら村上さんが実際に行った場所が紹介されている。その中で紹介されているミコノス島には、自分は新婚旅行含めて2度行った。ニューヨークには一年間住んだ。ボストンにはニューヨークに住んでいるときに観光に行ったし、仕事の関係で一時期はほとんど年に二~三回程度行っていた。これらの場所に関する文章を、アイスランド、フィンランド、ラオス、トスカナ、ポートランドなど行ったことがない土地についての文章と比べると、惹き込まれる度合いが大きく違う。具体的な風景やエピソードが頭に浮かぶと(といってもとても不正確でざっとした印象に基づくものだが)、その文章がより直接的に自分に向けて語りかけているように感じる。 ミコノス島は、村上さんが『ノルウェイの森』を書き始めた場所で、初めて海外で住むことになった土地だという。久しぶりにその場所を訪れて綴ったのが「懐かしい二つの島で」の章だ。ミコノス島もドイツからジェット機が直接来るようになり、観光地としてますます栄えているそうだが、その文章と写真から受ける印象は二十年前(そう二十年も前なのだ)とあまり変わらない。写真も昔の記憶そのまま。この文章が書かれたのはギリシア経済危機の前だということだが、あの島は変わらないままでいてほしい。同じようにもう一度あの島に行って、あの頃はこうだったけど変わったねえとか、それでも変わらなくて懐かしいねえ、なんてゆっくり島を巡ってみたい。 ニューヨーク。村上さんは、タイムマシンができれば1954年のニューヨークに飛んで、クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ五重奏団のライブを心ゆくまで聴いてみたいという。自分はそこまでジャズに入れ込んでいないけれども、ここに書かれているいくつかのジャズ・クラブには行っている。ニューヨークのビレッジバンガード - 「不規則に折れ曲がった奇妙な形をしている」という記述から、明かりを落としたフロアでブロンドのニューヨーカー(たぶん)が目を閉じて少し頭を揺らしながらピアノトリオの演奏を聴いていた情景が甦った。思っていたより小さな空間。ああ、ここでビル・エバンスがあのピアノを弾いたんだなあと自分は思っていた。 ボストンは二度紹介されている。一つ目はボストンマラソンがメインなので、素敵な文章ではあるけれども、いまいち共感が薄かったのだけれど、二つ目はレッドソックスとホエール・ウォッチングの話でそうそう、という気持ちになった。ホエール・ウォッチングは確かにとてもゆったりとした気分になれた。懐かしいなあという気持ちでいっぱいになった。 村上さんの小説がアイスランド語にもフィンランド語にも翻訳されていることが触れられている。こういったマイナーマーケットの言語にまで翻訳されているということに対して、村上さんは珍しく誇らしげだ。 肩の力を抜いて気軽に読める。この中に行ったことがある土地があればきっと気にいると思う。 そういえば、最近旅というものをさっぱりしなくなったなあ、と少し寂しくもなった。 ※ コロンビア大学の近くにある「スモーク」というジャズ・クラブも紹介されているが、そんなのあったけと思って調べると、ちょっと歩くと遠そう。

Posted byブクログ