けもの道の歩き方 の商品レビュー
わな猟・網猟の免許を持ち、京都郊外に住む「若き」猟師のエッセイ。『ぼくは猟師になった』に続く2冊目の著書となる。京大卒で、運送業の傍ら、猟を行う。いわゆる「プロ」の猟師ではなく、自分や身近な人が食べる分を狩るスタイルだ。 本書は「日本農業新聞」に「森からの頂き物」として連載され...
わな猟・網猟の免許を持ち、京都郊外に住む「若き」猟師のエッセイ。『ぼくは猟師になった』に続く2冊目の著書となる。京大卒で、運送業の傍ら、猟を行う。いわゆる「プロ」の猟師ではなく、自分や身近な人が食べる分を狩るスタイルだ。 本書は「日本農業新聞」に「森からの頂き物」として連載されたエッセイを加筆・修正・再構成したもの。 けもの道を歩きながら、日本の自然と人の暮らしに思いを巡らすエッセイ集である。 大まかに3章に分かれ、それぞれに10ページ程度のエッセイが数編含まれる。 猟師として日々で会う生きものたちとの知恵比べ。昔からいる動物たちの生態、あるいは新たに増えつつある生きもの。生態を知ることで可能になる害虫対策。 イノシシ、ニホンザル、ニホンミツバチ、ムクドリ、ウサギ、ヌートリア。身近なさまざま生きものが登場する。 章ごとに差し挟まれる注や狩猟鳥獣の紹介もおもしろい。生きものを知る参考書としても価値ある1冊だ。 そうした個々のエピソードや豆知識も興味深いが、著者のエッセイにさらに魅力を加えているのは、一歩「奥」を見据える視点だろう。一昔前。山の少し奥。今では遠いもののように見えて、実はそれほどかけ離れてはいない、そんな「身近な」自然。 生きものの暮らしを見つめていくうちに、人が「普通」に、それこそ「自然」に生きるとはどういうことなのか、少しずつ少しずつあぶり出されてくるのである。 著者は決して「獣害対策のために狩猟をすべきだ」とか、あるいは「狩猟生活=エコである」とか、「主義主張」めいたことは言わない。電気も使うしコンビニにだって行く。既成のわなを買うよりはホームセンターの材料で安くわなをつくるが、何でもかんでも手作りに頼るわけでもない。便利であればトラックだってチェーンソーだって買って使う。 そこには自分の思いや感覚に素直であろう、という一貫した姿勢がある。 最後は「色づいた柿」と題される一文で終わる。自然に耳を澄ますような、余韻が残るよいエッセイだ。 冒頭で「若き」と書いたが、著者は40代である。猟師の世界では圧倒的に60歳を超える「ベテラン」が多いため、40代の著者が若手となる。興味を持って入ってくる若者もそれなりにいるが、さまざまな事情から、なかなか続かない。野生動物よりも猟師の方が絶滅危惧種だという冗談にならない冗談もある。 読み手である自分は50代を目前にし、体力も腕力もさほどないと来ては、自分が猟師を目指す道はちょっとないかなと思うのだが、土地に根付く文化としての猟が先細りになっていくのはあまりに惜しいようにも思う。
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猟師本。狩猟生活がよくわかる。里山は好きだし、わずかながら、そういったものへの憧れもあるので、とても興味深く読めた。日本でも獣肉食がもっと普及すれば良いのに。
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狩猟の種類や仕方、狩猟事情まで網羅的に書かれているが、何といっても狩猟に対する考え方、大げさに言えば生きることと死ぬこと、つまり「殺すこと」の考え方に感服する。 自然界に生きている生き物を採り、殺し、肉を食べる事は残酷か?過剰な餌をチューブで流し込み、肝だけ食べ、他は捨ててしま...
狩猟の種類や仕方、狩猟事情まで網羅的に書かれているが、何といっても狩猟に対する考え方、大げさに言えば生きることと死ぬこと、つまり「殺すこと」の考え方に感服する。 自然界に生きている生き物を採り、殺し、肉を食べる事は残酷か?過剰な餌をチューブで流し込み、肝だけ食べ、他は捨ててしまうフォアグラは残酷ではないのか? 実際に我々は肉を食べて生きているのだから「綺麗事」では片付けられない。 狩猟というと一般的に野蛮な印象で見られる事が多いだけに著者は非常に毅然としたポリシーやビジョンを持っている。 飽食の時代にぜひ読むべき一冊だと思う。
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「山賊ダイアリー」が好きならおすすめ。自然保護に興味がある、思想でベジタリアンになってる人などは本書を読むと考え方の幅が広がるだろう。里山バンザイの自然保護感が何たる浅薄かと自分が恥ずかしくなる。山に入り、漫然と狩りという名のレジャーを楽しむだけではなく、筆者のように日本の自然の...
「山賊ダイアリー」が好きならおすすめ。自然保護に興味がある、思想でベジタリアンになってる人などは本書を読むと考え方の幅が広がるだろう。里山バンザイの自然保護感が何たる浅薄かと自分が恥ずかしくなる。山に入り、漫然と狩りという名のレジャーを楽しむだけではなく、筆者のように日本の自然のありようについて考える人がいるのは非常に貴重な事だろう。考え方も独善に走らず、謙虚で視野が広い。良書。
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20151101 人と動物との関わりを通して今の時代を問いかける。食べて生きていく人間の本能に文明と言う飾りが付いたところに今が有るのかもしれない。未来について各自の考え方の一つなのではないだろうか。
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前著「ぼくは猟師になった」の延長と言えば延長だが、その後の東日本大震災や原発事故、鹿、猪の日本全国での増加で、日本社会そのものが変わってしまっていることが、猟師目線ならばこそよく分かる。
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本当に素朴でまっとうなバランス感覚のある著者の文章を読んで心底ほっとした。自然に対して人ひとりが背負える業、背負うべき業のサイズ感を実体験として持たれていて、その生活を無理なく実践されている事を尊敬します。
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