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自分ひとりの部屋 の商品レビュー

4.5

32件のお客様レビュー

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2025/01/05

さすがの名著。女性と文学の歴史を主軸に、女性が教育や社会経験、そして経済的独立から遠ざけられてきたことが何を意味するのか。そして世に多くの書物はあれおよそ男性の目を通した「女性」しかほとんど描かれないことがどんなに歪んでいるか…などなど、フェミニズムについて明快に語っている。すご...

さすがの名著。女性と文学の歴史を主軸に、女性が教育や社会経験、そして経済的独立から遠ざけられてきたことが何を意味するのか。そして世に多くの書物はあれおよそ男性の目を通した「女性」しかほとんど描かれないことがどんなに歪んでいるか…などなど、フェミニズムについて明快に語っている。すごいと思うのは、その的確な着眼点と分析もさることながら、そうした諸問題への怒りや恨みを諌め、皮肉まじりだろうが同時代の男性識者の女性蔑視発言まで貴重なご意見として朗々と紹介するその余裕とちゃめっ気だ。まあ、言い換えれば、そのような「中立さ」を示しておかないと男性社会に受け入れられるのも難しかったのだろう。 読んでいて思ったのは、作中でも紫式部だけ軽く紹介されているが、平安女流文学について。彼女たちが同時代のヨーロッパとは異なり(ギリシャローマにまで遡れば女性詩人はいたが)、女性でありながら優れた文学作品を世に送り出せたのは何故だったのだろう?作者が女性作家が活躍するに必要なものとしてあげる二つの要素、安定した収入と「自分だけの部屋」、前者はあっただろうがそれ自体はヨーロッパでも女官はいたはずだ。後者…もしかすると、平安時代の通い婚システムが貢献したのだろうか。多くの女性は、婚家ではなく実家で暮らせたはずで、それがより時代の下ったゴリゴリの家父長制下よりは自由が多い、執筆環境を生み出せる「自分だけの部屋」に繋がったのだろうか…?などと考えながら読んだ。紫式部や清少納言の実際の暮らしについてはよく知らないので、合っているかはわからない。 本作から約100年。ウルフが現代を見たら何を思うだろうか。文壇での女性の活躍については、なかなか満足いただけるのでは。一方で、他の職業、たとえば棋士だったり、クラシック音楽だったりの世界では、私自身の寡聞の問題もあるがまだその限りではない気がする。他にも、彼女の語った社会的歪みで、まだまだ「あるある」として頷きながら読んだものは多い。それでも着実に、年500ポンド(概念)と「自分だけの部屋」を持っている女性は増えているし、私自身もそうだ。私自身が何かを生み出せているわけではないが、バトンを繋いでいくことで、「シェイクスピアの妹」を殺さない社会を作っていくからね、そうやって先人たちに手を振りたい気持ちだ。

Posted byブクログ

2024/11/27

読んでいる途中だけど、忘れないうちに書きたいことを書いておく P72 それに、百年も経てばーーと、わたしは思いました。ちょうど自分の家の玄関に着こうとしていました。もはや女性は保護してもらう性別ではなくなっているでしょう。論理的に考えれば、かつては阻まれていた活動と労苦の...

読んでいる途中だけど、忘れないうちに書きたいことを書いておく P72 それに、百年も経てばーーと、わたしは思いました。ちょうど自分の家の玄関に着こうとしていました。もはや女性は保護してもらう性別ではなくなっているでしょう。論理的に考えれば、かつては阻まれていた活動と労苦のすべてに参加している、ということになりそうです。 1929年、今からちょうど100年くらい前にウルフが考えていたことと、私の生きる今の世界(2024年)を比べてみる。 女性は「保護してもらう」性別では無くなってきているし、 ウルフの頃に阻まれていたであろう、活動や労苦の多くに参加できるようになったことは間違いない でも、それでも生きづらいと感じるのはなぜだろう? 思うに、【参加できるようになった】ということがまず息苦しさの元にある なぜ、女性が阻まれていた数々のことに参加するために許可(それも男性の!)が必要だったのか (続)

Posted byブクログ

2024/10/10

理解が追いつかないところもあり、読み通すのに時間がかかったが、胸が熱くなる瞬間がいくつもあった。女性を鼓舞する励ましのメッセージ。いつか読み返したい。

Posted byブクログ

2024/08/29

ここに書かれている内容がどうこうというのではなく、架空の物語を通して自分の考えを伝える文章の手法と、注記と本文を行ったり来たりしながら当時の温度感、歴史を感じるという読書体験がただただ楽しかった。読書好きの読書好きを更に加速させるような本。

Posted byブクログ

2024/03/05

「女性が小説を書くには、お金と自分ひとりの部屋が必要である」というのが本書の命題であり、創作において前提となる物質的条件ならびに社会的条件の必要性を強調した点で重要な論考である。創作を単なる才能に還元することはできず、物理的条件という前提が極めて重要であり、その不平等な分配を是正...

「女性が小説を書くには、お金と自分ひとりの部屋が必要である」というのが本書の命題であり、創作において前提となる物質的条件ならびに社会的条件の必要性を強調した点で重要な論考である。創作を単なる才能に還元することはできず、物理的条件という前提が極めて重要であり、その不平等な分配を是正すべきというのは、もっともだとおもう。シェイクスピアに同じ才能の妹がいたら…というくだりはなんとも悲痛なイメージであり、歴史的なジェンダー格差を嘆かずにはいられない。 自分ひとりの部屋という象徴的な要素については、家族の接触による中断から創作活動が解放されるという消極的側面についていくらか論じられるにとどまる。欲を言うと、もう少しこの概念を深掘りし、「自分ひとりの部屋」が生み出す積極的な精神的作用についても語ってほしかった。 女性は男性の姿を拡大する鏡の役割を果たしてきたというような、フェミニズム論としても本書は重要だが、著者はあくまでも、本質的な男性性と女性性の調和が「自然」で望ましいものだと考える。つまり、本質主義的であり、ジェンダー規範が社会的に構築され外在的に賦課されるという意識は希薄である。この点については批判の余地がある。しかし、両性がその内面に男性性と女性性を有しており、その無礙な発露=両性具有性が創作に重要であるという指摘は、アニマ-アニムス論とも通づるところがある興味深い指摘である。

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2024/01/21

女性と小説というテーマを掘り下げ、数世紀にわたる小説を読み解きながら女性と貧困、女性と家事・育児などの目線を交えて語られるフェミニズム批評。 女性は男性を2倍に写す鏡の役割を務めてきたため、男性たちが優越感を与えてくれる女性を手放さないという第二章には笑ってしまった。ほんとそう...

女性と小説というテーマを掘り下げ、数世紀にわたる小説を読み解きながら女性と貧困、女性と家事・育児などの目線を交えて語られるフェミニズム批評。 女性は男性を2倍に写す鏡の役割を務めてきたため、男性たちが優越感を与えてくれる女性を手放さないという第二章には笑ってしまった。ほんとそう。いまでさえ。 この本で語られる100年後まであと5年。あと5年でなにが変わるというのかと憂うことは簡単だけど、それよりもなにかを書いていきたいね。年収と自分ひとりの部屋があるうちに。

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2023/11/19

メアリー・ビートンの、10月の数日を追い、女性と小説について考える読書体験、おわり。 原書の発売が95年前…あと5年で、100年か…。この中で語られる良い方の100年後を実現するなんてとても難しく思える。 小説家にとっての〈誠実さ(integrity)〉をウルフは「これが真実だと...

メアリー・ビートンの、10月の数日を追い、女性と小説について考える読書体験、おわり。 原書の発売が95年前…あと5年で、100年か…。この中で語られる良い方の100年後を実現するなんてとても難しく思える。 小説家にとっての〈誠実さ(integrity)〉をウルフは「これが真実だと読者に確信させる力」とここでは説明している。たしかに。読み手として確信が薄れた瞬間は、やるせなくなる。 10月のある日から、連想ゲームのようにリズミカルに、来し方の先達へと思いを馳せるこの随想… こんなにテンポが心地よいと思わなかった。

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2023/10/31

個人的なことは政治的なこと この見たことあるスローガンに繋がるウルフのこの本(訳者あとがきで知った)、語り口が柔らかくわかりやすいのでかなり読みやすかった。読めてないウルフあと『船出』くらいかな…久しぶりに小説も読みたくなった。 やる気がどうしようもないときにまた読み直したい。

Posted byブクログ

2023/10/10

当時の方にしては先進的な考えだとは思うんだけど、結局男女二元論の中で生きた人のご意見だなあと斜に構えてしまった。 でも経済格差の低い方は教育格差を乗り越えられないし、教育格差の低い方から詩人は生まれない、というのは目を背けちゃいけない、なおかつ変えてかなければならない事実だよな、...

当時の方にしては先進的な考えだとは思うんだけど、結局男女二元論の中で生きた人のご意見だなあと斜に構えてしまった。 でも経済格差の低い方は教育格差を乗り越えられないし、教育格差の低い方から詩人は生まれない、というのは目を背けちゃいけない、なおかつ変えてかなければならない事実だよな、とも思う。 それに、女性が筆を執ることが「乱心」「狂人」の兆しと取られた時代のことを考えれば、私達は小説を書いても(業界的に下に見られることはあったとしても)、奇人変人には当たらないこと、そうしたあり方を勝ち取ってきた女性たち、犠牲になった女性たちへの感謝を禁じ得ない。

Posted byブクログ

2023/06/13

女性が小説を書くためには、「年収500ポンドと自分ひとりの部屋」を持たねばならない、という主張をどう受け止めたらよいか、終始迷いながら読み終えました。 訳者の解説によれば、年収500ポンドはおよそ年収500万円と読みかえて差し支えないらしい。 年収500万円相当の労働とは、どん...

女性が小説を書くためには、「年収500ポンドと自分ひとりの部屋」を持たねばならない、という主張をどう受け止めたらよいか、終始迷いながら読み終えました。 訳者の解説によれば、年収500ポンドはおよそ年収500万円と読みかえて差し支えないらしい。 年収500万円相当の労働とは、どんな仕事であれかなりの時間を必要とするだろうし、時間を必要としないなら、何かしらの運の良さか才能に恵まれていなくてはならないのでは、と2023年の日本にいる私は、1929年のイギリスにいるウルフに言いたくなってしまう。(ちなみに、この作品の架空の語り手であるメアリーは、年収500ポンドを親戚の遺産から得ている設定になっている。) が、頭のどこかで、ウルフは1つのわかりやすい提案として、これらの条件を挙げたのではないかな、とも思う。 それは、ウルフは何度も本書の中で 作品はそれのみで、孤独のなかで誕生するわけではなく、年月をかけて人々が一体となって考えた結果として登場する、とも述べているから。 そしてウルフは、様々な制約のなかで自由に生きられない女性たちが、不幸な境遇や怒りにとらわれず、精神を白熱させることを重視し、たとえ1つの時代の1人の作家がそれを完璧に成し遂げられなかったとしても、詩人の魂は不滅で、一人ひとりの女性のなかで蘇るときを待っているのだ、とも、繰り返し述べています。 つまり、これらの条件がそろわなければ女性は小説を書けない、ということではなく、社会の様々な制約を炙り出しながら、いかに作品のために精神を白熱させられるか、過去から渡されてきたバトンを受け取り未来へたくしていくかが大切なのである、というメッセージなのではないかな。 そして、広い意味では、小説の書き手だけではなく、一人ひとりの女性がそのバトンの受け手となるのだと思います。 古典を読んでいるとき、だいたいは望遠鏡を一生懸命のぞいて遠くのほうで燃えさかる星を美しいなあ、と眺めているような気分なのですが、本書はその惑星からヒュッとバトンを渡されたような衝撃を受けた一冊でした。

Posted byブクログ