トマト・ゲーム の商品レビュー
女性作家特有のねっとりとした毒々しさが苦手だと毎度言っているわけですが、幻想文学などにおいてはそれが濃密であればあるほど独特の幻惑感となって良しとされるのもまた理解できるし、そのとおりだとも思う。 しかしながら、実際問題としてどうしても凶悪な胸焼けで内臓が爛れていくまま読み進めな...
女性作家特有のねっとりとした毒々しさが苦手だと毎度言っているわけですが、幻想文学などにおいてはそれが濃密であればあるほど独特の幻惑感となって良しとされるのもまた理解できるし、そのとおりだとも思う。 しかしながら、実際問題としてどうしても凶悪な胸焼けで内臓が爛れていくまま読み進めなければならない。不快感に苦しめられるとわかっていてもなお、その世界観を垣間見たいと思ってしまうジレンマ。 その最高峰たる皆川作品は、その強烈な誘引力には到底逆らえず、何度も手にとっては内臓を焼かれながら必死に喰らいつき、読了後は屍のようになるのが常。 今回もまたその美しい蜘蛛の巣の糸に絡め取られて手を出し、いつもの様に打ちのめされて今に至ります(苦笑)。 それでもまた懲りること無く、繰り返しその艶やかな華に手を伸ばすことをやめられない。
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皆川さんの、1973~76年ごろの作品を収めた短篇集。 読みたくて読みたくて買って、でも、すぐに読むわけじゃなくて、積読というのとも違って、「私の準備が整うまで、待っていて欲しい。その背表紙を毎日眺めて、どっぷり浸かれるようになる日を待っていて欲しい」本の、待機場所というのがあ...
皆川さんの、1973~76年ごろの作品を収めた短篇集。 読みたくて読みたくて買って、でも、すぐに読むわけじゃなくて、積読というのとも違って、「私の準備が整うまで、待っていて欲しい。その背表紙を毎日眺めて、どっぷり浸かれるようになる日を待っていて欲しい」本の、待機場所というのがある。 そこで半年眠っていてもらった、「トマト・ゲーム」である。 半年間、何度も手に取り、表紙をうっとりと眺め、ブックカバーをかけようとして、「でも、まだだ…」と感じ、本棚に戻した。 やっと、皆川さんの世界にずぶりと沈みきる準備ができました。 『いつか華麗な狂気の世界を、文字の上にもあらわしたいと、一枚、二枚、と書きつづけています。』(p.431、受賞コメントより。皆川さんの言葉。) 不安と恐怖は、狂気と仲良しだ。 いつの時代も、きっとそれらは仲良しなんだろう。 全然違う時代の、全く知らない少年少女の、恐怖や不安や焦燥や憎悪を、しかし私は知っていると思った。 登場人物たちを、身近に感じてしまう。 その身近さに同族嫌悪を感じる、孤独さも。 心配ばかりが降り積もる、不安と恐怖とそれから憎悪に絡め取られたら、輪郭の曖昧な狂気の世界の靄が足元からたちこめる。 皆川さんがその怖ろしさを、『華麗に』描いてくれるから、孤独にならずにすむことができるのだと、感じた。 何の音楽もかけず、皆川さんの本とこんな時間を過ごせる。 今日は素敵な一日だった。 また「待機場所」に皆川さんの本を新しく追加しないといけない。
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「犯罪小説短編集」みたいな紹介をされてました。全体に暗いお話が多い。途中までは結構引き込まれるんだけど、どのお話も「これで終わり?」と感じてしまう。ちょっと物足りなさがあったかな。 一番面白く感じたのは最後の「漕げよマイケル」。お父さんへの崇拝っぷりとそれが崩れた絶望が伝わってきました。
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あらすじ(背表紙より) 壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉...
あらすじ(背表紙より) 壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉を驚愕の犯罪に巻き込む「獣舎のスキャット」等、ヒリヒリするような青春の愛と狂気が交錯する全8篇収録。恐怖と奇想に彩られた、著者最初期の犯罪小説短篇集。
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「トマト・ゲーム」皆川博子◆壁に向かってバイクで疾走し、直前でターンする「トマト・ゲーム」で賭けをする表題作と他7編。狂気じみた話が多い。屈折している。あまり耽美的な感じもしなくて、悪い夢が延々と続くようで少し疲れた。というか文庫の表紙からして怖い。好きな人は好きだと思う。
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「トマト・ゲーム」 真っ赤なトマトになっちゃいな式のバイク乗り。 「アルカディアの夏」 「獣舎のスキャット」 姉が弟を見る眼の異様さを裏打ちするのは、何か。 弟からの意趣返しが凄まじい。 「蜜の犬」 強者と弱者の関係が引っくり返る、しかも比較的ピュアな少年によって。 「アイデースの館」 アングラ演劇崩れの青年が作ったポルノムービーの、男たちが仮面をつけている。 仮面の製作者は誰か。 過去にぐいっとズームがずれる感覚。 「遠い炎」 家政婦が旧知の人物だったことで座が奪われていく。 ちょっと似た話を映画で見たことがある。 「花冠と氷の剣」 これまたロマンチックな題名。 贅指の青年に惹かれる、精神病棟入院経験のある女。 幼児への嗜虐。 「漕げよマイケル」 受験戦争。同性愛。親子。
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皆川博子の初期作品集、復刻発売。 帯、あとがきの日下氏の「いかに初期から完成されていた作家かわかる」という表現が的を射ていると思う。 比較的淡々とした書き口なのに、ことごとく狂気や不穏さを感じとれるほど、文章・表現力は高い。 自分の好みより文学性が強めであるが、折に触れて他作も読...
皆川博子の初期作品集、復刻発売。 帯、あとがきの日下氏の「いかに初期から完成されていた作家かわかる」という表現が的を射ていると思う。 比較的淡々とした書き口なのに、ことごとく狂気や不穏さを感じとれるほど、文章・表現力は高い。 自分の好みより文学性が強めであるが、折に触れて他作も読んでいきたい。 3+
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入手困難だった作品が完全版として新たに読めるようになったのは非常に喜ばしい。ただ、読んでみると、どの作品も狂気を孕んでいて、かなりこちらも精神的に消耗を強いられます。持久走の疲れと全力疾走の疲れが一変に襲い掛かるような心持です。決して気持ちよい疲れではありません。が、どこかで味わ...
入手困難だった作品が完全版として新たに読めるようになったのは非常に喜ばしい。ただ、読んでみると、どの作品も狂気を孕んでいて、かなりこちらも精神的に消耗を強いられます。持久走の疲れと全力疾走の疲れが一変に襲い掛かるような心持です。決して気持ちよい疲れではありません。が、どこかで味わった事があるかもしれないかも?と思わせる疲労感。実際心当たりがあったらヤダな。。。
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この密やかな毒に、指先からそっと浸して、ずっと痺れていたい…… そう思わせる皆川ワールド。 なんでこんなに底意地が悪くて性格が悪くて後味も猛烈に悪いのに惹かれるのか。 皆川先生の作品は、どれも幼女がそのまま大人になってしまったような儚さと残酷さがあって、どんな惨い内容にも、根底...
この密やかな毒に、指先からそっと浸して、ずっと痺れていたい…… そう思わせる皆川ワールド。 なんでこんなに底意地が悪くて性格が悪くて後味も猛烈に悪いのに惹かれるのか。 皆川先生の作品は、どれも幼女がそのまま大人になってしまったような儚さと残酷さがあって、どんな惨い内容にも、根底に無邪気さがあるように感じられる。 その残酷さに、どうしようもなく惹かれるのかも。 装丁の人形が皆川ワールドをあますことなく表現していて、美しい。
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