ファイト・クラブ 新版 の商品レビュー
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これはすごい。 一世を風靡した”ファイト・クラブ”。 当時映画は観た記憶はある。 とんでもなくかっこいいブラッド・ピット、激しい暴力性のイメージが強烈なまでの印象を残している。 が、それ以外の物語の部分となるとほぼ忘却の彼方。 原作を本で読んだこともなかったし、チャック・パラニュークの名すら意識したこともなかった。 最近、『ファイト・クラブ』の作者が長い空白の時を経て新作を出したと聞き、この機会に読んでみるかと手に取った一冊。 まず、度肝を抜かれるのがその文体。 最初は何を言っているのかほぼ頭に入ってこない。 何やら精神に異常をきたしているのか、薬でトリップしてしまっているかのような支離滅裂さと急速な場面転換。 ただ、注意深く、というかちゃんと言葉を沁み込ませて読んでいくとギリギリ理解できる。 理解できてくると、そのぶっ飛び具合が逆にかっこいいとさえ思え、クセになる。 なんとも不思議な文体だ。 デイヴィット・ピースとかジェイムズ・エルロイなんかを彷彿とさせるが、彼らともまた一味違う。 著者あとがきを読むと完全に狙った結果のようにコメントしており、ものすごい技術だと感じた。 そして、この文体を新訳で見事に表現しているのが池田真紀子さん。 最高です。 物語性としても、これはこの世界観に憧れ、かぶれる輩が多く出てくるだろうと思うような中毒性のある陶酔感が半端ない。 不眠症に悩みながらサラリーマン生活を送り、そこそこの暮らしをしているものの今ひとつ生きている実感が薄い主人公。 迫り来る死と向き合うことでその空虚さを埋めることが出来ると気付き、病を詐称し、様々な病気の互助グループ通いをするが、そこで出会ったマーラ・シンガー。 彼女も自分と同じ詐病と確信する。 なぜなら、自分と同じく複数の互助グループで見かけるから。 彼女が居ると見透かされているようで互助グループの活動に没入できない。 何とかマーラと話を着けようと近づくが、あえなく交渉決裂。 そんな中、出会ったタイラー・ダーデンというカリスマ男。 最初はウェイター業の中で行うちょっと過激ないたずら(と言うには悪意ありすぎだが)と少人数での”ファイト・クラブ”の開催を共に行い、やや歪んだ方法で人生の彩りを取り戻して行くのだが、次第にエスカレートし、コントロールが効かなくなって行く。。。 ”生”を実感するために繰り返す、正気とは思えない暴力、悪事の数々、狂乱。 ともすると、足を踏み入れてしまいそうになる危うさを牽引力とするカルト的でパンクな唯一無二の物語。
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自分の人生がまるで欺瞞だと感じても、人を殴ってはいけないし自分を傷つけてはいけない。それらは完全に間違ってる。 そして、ときには一度どん底まで落ちてみないと分からないこともある。 ところどころ興味を持続できない章もあったが、中盤から終盤へと差し掛かったあたりの大学中退ボーイとの...
自分の人生がまるで欺瞞だと感じても、人を殴ってはいけないし自分を傷つけてはいけない。それらは完全に間違ってる。 そして、ときには一度どん底まで落ちてみないと分からないこともある。 ところどころ興味を持続できない章もあったが、中盤から終盤へと差し掛かったあたりの大学中退ボーイとのシーンは、映画にもあったけど、小説で読むと切れ味はさらに格別で、ぐちゃぐちゃになっていく終盤の前で一息をつけるページになっている。 この数ページのエピソードはあまりにも美しいから、このシーンを読むためだけにでもこの小説を読む価値がある。すでに映画を観た人でも。 人間扱いされないことに切れたタイラーが、結局形を変えて同じことをしているということは、一応指摘しておきたいと思う。タイラーも神ではなく、絶対的な正義でもなく、思想に絡め取られ自分の人生を見失い世界の中でもがきながら正解を探し求める一人だということだろう。 ただ映画を先に観ない方がいいね。 読む度にシーンがチラついて全然読むのに集中できない。
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旧訳を読んだのが大分昔なのでうろ覚えだけど、旧訳よりかなり読みやすくなった印象がある。だからと言って文体が綺麗になった訳じゃなく、ゴチャゴチャ感と不安定さはあるので洗練されたという感じ。映画よりも生々しさを感じるのが面白かった。
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比喩の嵐 ファイトクラブ リサイクルや速度制限なんか臨終を宣告されてから禁煙するようなもの タイラーは僕の夢なのかもしれない。あるいは、僕がタイラーの夢なのか モナリザでけつを拭く 「我々の世代には大戦も大不況もない。しかし、現実にはある。我々は魂の大戦のさなかにある。文...
比喩の嵐 ファイトクラブ リサイクルや速度制限なんか臨終を宣告されてから禁煙するようなもの タイラーは僕の夢なのかもしれない。あるいは、僕がタイラーの夢なのか モナリザでけつを拭く 「我々の世代には大戦も大不況もない。しかし、現実にはある。我々は魂の大戦のさなかにある。文化に対し、革命を挑んでいる。我々の生活そのものが不況だ。我々は精神的大恐慌のただなかにいる」 レイモンドkkハッスルのシーン 銃口を突きつけて本当にやりたいことを見つけさせる。今までのきみを殺す。タイラーのやりたいことはこれか ぼくはマーラにおやすみを言い、電話を切ろうとボタンに手を伸ばす。マーラの叫び声が次第に小さく、小さく、小さくなって消える。 現実から逃げるのは助けをこうているひとの声から逃げるように受話器から耳を離すよう ジッパーが開くように道が開く 天国では全て音のしないゴム底の靴だ。 パラニュークは言う。「我々は良い人間になるように育てられてきました。だからこそ、僕らの子ども時代のほとんどは周囲の期待に応えることばかりに費やされてしまいます。両親や教師やコーチの期待に応え、そして上司の期待に応える。こうして我々はどうして生きていくかを知るために、自分の外側ばかり見ているんです」 死を前にしたとき、日頃社会で大切だと思われていることの多くは価値を失う。金があっても、物があっても、地位も名声も、もはや何の意味もない。逆に、人との嘘のない繋がりや温かみ、あるいはちょっとした思いやりが、いつもより大きな意味を持って迫ってくる。 テレビのフットボール中継など、最高のセックスを楽しめばいいのにわざわざポルノ映画を鑑賞するみたいなもの
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抑圧された社会への反逆。 誰かが決めたレールを歩み続けることの疑問。 自己破壊による生への実感。 ファイトクラブにのめり込む彼らには共感できないまでも、この世の中にどこか息苦しさを感じながら歩んでいる自分自身に突き刺さる要素が多く、かなり衝撃を受けました。また、抑圧された社会へ...
抑圧された社会への反逆。 誰かが決めたレールを歩み続けることの疑問。 自己破壊による生への実感。 ファイトクラブにのめり込む彼らには共感できないまでも、この世の中にどこか息苦しさを感じながら歩んでいる自分自身に突き刺さる要素が多く、かなり衝撃を受けました。また、抑圧された社会への反逆という点で、伊藤計劃「ハーモニー」の要素を強く感じました。ファイトクラブの影響を受けたと言われるのも納得です。 ただ、文章がかなり読みにくく、いまどの場面で誰が話しているのが分かりづらいのは欠点かも?結末はだいぶ違いますが、映画版がこの小説の映像化作品として非常に良くできているので、そちらを見た上で、保管として読むのが正解かもしれません。
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濃い。 映画版は視聴済みですが、原作を読んでやっと"カルト的"に支持される理由が理解できた気がします。 痛みや暴力の描写に濃淡があるなら、本作は原液の濃さでした。 大量消費の既製品に囲まれ、社会の歯車になって生活する。そうして生の実感が薄れ不眠症を患った主人公が、死を目前にした当事者たちと居るときだけ「自分は生きている」と感じることができる。 しかし、それは麻薬でした。 主人公はどんどん先鋭化していき、より強い生の実感を求めてファイト・クラブを創ります。このとき彼は、ファイト・クラブを創りスペース・モンキーを組織したタイラー・ダーデンが自分自身だと気がついていません。 タイラー・ダーデンは主人公の人格の一つであり、強い欲望が形を持った姿でもあった。 忌むべき父、神のメタファーを内面化し、究極の暴力を作り上げ、そして最後には自身の手で破壊します。 マーラの存在は救いにならなかった。主人公は男性性を憎みながらも欲していて、マーラへ向けたのは嫌悪と依存でした。それを愛と言ってしまう。 主人公にとって、彼女もまた人生の消費財の一つに過ぎなかったのだと感じました。
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映画はかなり忠実に作ってあるのね。 テンポよく読める、映画同様原作も刺激的、「生」を実感しているか?現状に満足か?ビシビシ来る。 そして作者のあとがきが地味に面白かった、これを読んだ上でまた映画を観直そう。
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この本。最初から最後まで面白かったかと言えば、そうではなくて、どちらかといえば、後半から急速に面白くなってきたという具合でした。 そのため、おそらく読む人を選ぶ作品であるだろうし、駄作と見られても仕方がない表現も一部あり、それらのデメリットを乗り越えた名作、という表現がこの作品...
この本。最初から最後まで面白かったかと言えば、そうではなくて、どちらかといえば、後半から急速に面白くなってきたという具合でした。 そのため、おそらく読む人を選ぶ作品であるだろうし、駄作と見られても仕方がない表現も一部あり、それらのデメリットを乗り越えた名作、という表現がこの作品について書ける、ネタバレなしの書評かな、と思います。 実はこの作品、出会ったきっかけはMr.Childrenの『ファイトクラブ』という曲から始まり、実際にその映画があったことから映画を見て、原作を読んだ、という経緯を踏んでいます。 大まかなあらすじと結末は、映画で既に知っているので、だからこそ、改めて読み切ることができたかもしれません。 主人公の「ぼく」と、「ジョン・タイラー」。 制度の中に生きる自分と、自由に生きる「タイラー」。 タイトルである、「ファイトクラブ」はどのようにしてできて、そしてどのような結末を迎えるのか。 世紀末の退廃感、主人公の不安を、ぐるぐる感じながら、刺激的な表現にちょっとクラっとしてしまいました。 後半で明かされる、びっくり仰天な事実から加速する物語の面白さをぜひ。
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初パラニューク。少し期待したが、イマイチ…。頭のおかしいサイコ野郎の妄想話(?)のようだった…。星二つ。
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私の人生はどこに向かっても、この本はバイブルとしたい。 ファイトクラブの映画のレビューで「かっけえ、これは男の映画だ」というレビューが割と多く、とても残念に思っていた。映像にするとタイラーが格好良すぎて、過激なシーンの本質がお洒落さに変わってしまうんだなあと、メッセージ性がある...
私の人生はどこに向かっても、この本はバイブルとしたい。 ファイトクラブの映画のレビューで「かっけえ、これは男の映画だ」というレビューが割と多く、とても残念に思っていた。映像にするとタイラーが格好良すぎて、過激なシーンの本質がお洒落さに変わってしまうんだなあと、メッセージ性があるストーリーなだけに、残念に感じていた。でもそれは監督であるデヴィット・フィンチャーの力量が、あまりにも凄まじいが故の事象だとも思う。 小説だとカルピスの原液くらい濃く、何を言いたいかが切実に鋭利に伝わってきて良い。 原作者のチャック・パラニュークが何を思って書いたのか、詩的な文や直接的な皮肉が混じった言葉で、独特の世界観を通して視えるのが面白い。 この小説を読んだから、私はなにかしら人生を変えようとは思わないけど、自己崩壊を投影させて、現実の自分を見直すのにはいいのかなって思う。
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