サイレンと犀 の商品レビュー
感想 死を待つ心持ち。だけど胸には爽やかな風が吹き抜ける。諦めでも開き直りでも無い。これが見栄で固まった私の唯一の本音。心地よい仕事終わり。
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歌人、岡野大嗣の第一歌集。著者は2014年に短歌研究新人賞次席を獲得。昨年は、NHK短歌の選者も務めていて現代短歌界を代表する歌人の一人と言える。 著者は、昔『短歌ください』に投稿していて、そこに掲載されていた短歌を単行本で読んでとても面白いなと気になっていた。いくつか、この歌...
歌人、岡野大嗣の第一歌集。著者は2014年に短歌研究新人賞次席を獲得。昨年は、NHK短歌の選者も務めていて現代短歌界を代表する歌人の一人と言える。 著者は、昔『短歌ください』に投稿していて、そこに掲載されていた短歌を単行本で読んでとても面白いなと気になっていた。いくつか、この歌集の短歌を紹介したい。 図書券で買ったジャンプのその釣りを生まれたての犬で返されかける (この短歌は、作り話じゃないような気がする。わからないが。) 地下街は地下道になるいつしかにBGMが消えたあたりで (確かに、BGMがあるかどうかが「街」と「道」の違いかもしれない) ねるまえに奥歯の奥で今朝食べたうどんの七味息ふきかえす もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい 消しゴムも筆記用具であることを希望と呼んではおかしいですか (もし消しゴムがなかったら、失敗してもやり直すことができない) 生きるべき命がそこにあることを示して浮かぶ夜行腕章 トピックス欄に訃報が現れてきらきら点るNEW!のアイコン 春空に千鳥格子の鳥たちを逃がしてつくる無地のスカート
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ふとすれ違うひともこういう詩を読んでいるかもしれないなんて思ったら多分誰にでもやさしくなれる気がする 本当に好きな歌集
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微笑ましくて、エモい。 この人の短歌をもっと読みたいと思った。 道ばたで死を待ちながら本物の風に初めて会う扇風機 いつか、自分と重なりそうな気がした一首。
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あたたかさと寂しさの共存 味を付けるならベースは甘いけど塩味も苦味も入ってるような感じ。好きでした。 好きな歌 ・友達の遺品のメガネに付いていた指紋を癖で拭いてしまった ・さみしさを体現したい風船のトイプードルがしぼむみたいに
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「もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい」 をSNSで見かけて岡野さんの短歌にとても興味が湧いて買ってみた本。 よくわからないものも多かったけど、うしろの解説を読んでなるほど!!ってなるものが多くて、あぁ私はまだまだ情景を読み取る力が弱い……と落ち込んだ...
「もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい」 をSNSで見かけて岡野さんの短歌にとても興味が湧いて買ってみた本。 よくわからないものも多かったけど、うしろの解説を読んでなるほど!!ってなるものが多くて、あぁ私はまだまだ情景を読み取る力が弱い……と落ち込んだ。 岡野さんは取るに足らない日常が気になって仕方がない、と解説されていたが本当に取るに足らない日常を切り取るのがうまいなぁと思った。 また将来読み直してみたい一冊。 読む時の自分の置かれている環境によって刺さる短歌も変わるんだろうなと楽しみ。
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X(旧Twitter)でよくイラストとともに一首ずつ流れているのが「なごむなあ」と思い衝動買いした一冊。 これを読んだ日は、ちょっと疲れていて、何も読みたくなかったけれど手持無沙汰だったので、この歌集なら読めるかもと思い手に取りました。 拝読してみるとなごむ歌ばかりではなかっ...
X(旧Twitter)でよくイラストとともに一首ずつ流れているのが「なごむなあ」と思い衝動買いした一冊。 これを読んだ日は、ちょっと疲れていて、何も読みたくなかったけれど手持無沙汰だったので、この歌集なら読めるかもと思い手に取りました。 拝読してみるとなごむ歌ばかりではなかったのですが、疲れていても読める範囲内でした。 イラストの無垢な感じも手伝ってくれているのかもしれません。 軽妙に飄々と詠まれている感じですが、泣ける歌もありました。 <散髪の帰りの道で会う風が風のなかではいちばん好きだ> <ともだちはみんな雑巾ぼくだけが父の肌着で窓を拭いてる> <ゴッホでもミレーでもない僕がいて蒔きたい種を探す夕暮れ> <ポケットの硬貨2枚をネクターに変えて五月の風のなか飲む> <本棚のむこうでアンネ・フランクが焦がれたような今日の青空> <マーガレットとマーガレットに似た白い花をあるだけ全部ください> <もう声は思い出せない でも確か 誕生日はたしか昨日だったね> <もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい> <実行犯が億人組でそのうちのひとりが僕である可能性> <あかねさすIKEAへゆこうふたりして家具を棺のように運ぼう>
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NHK短歌選者で、穏やかな中にも真摯にゲストの話を聞く姿にグッとくる。 あとがきに「自分が忘れたくないと思った何かを、見知らぬ誰かにも伝えたいという願いから」との思いがこもった歌集。どの歌も、生活のふとしたそこまで特別でない場面を切り取って説得力のある歌でじんわりと伝わる。 ...
NHK短歌選者で、穏やかな中にも真摯にゲストの話を聞く姿にグッとくる。 あとがきに「自分が忘れたくないと思った何かを、見知らぬ誰かにも伝えたいという願いから」との思いがこもった歌集。どの歌も、生活のふとしたそこまで特別でない場面を切り取って説得力のある歌でじんわりと伝わる。 身近な音楽やショッピングモールの連作、ワクワクしてはしゃいだあとの我に返る切なさも残る。句読点、クエスチョンマーク、カタカナが多用されて独特の調べと語感、行間になっている。目で読むのと音読するとでは雰囲気が変わる気がする。 開くたびに気になる歌が違う。 春だから母が掃除機かける音聴きたくなって耳をすませる え、七時なのにこんなに明るいの?うん、と七時が答えれば夏 ゴッホでもミレーでもない僕がいて蒔きたい種を探す夕暮れ 抜けるほど青い空って絶望と希望を足して2で割った色? じいさんがゆっくり逃げるばあさんをゆっくりとゆっくりと追いかける さかさまの洗面器からざぱーんと水。さようなら今日のできごと 踏んづけた蜂は生きてたあの夏のプールサイドのバケツのなかで 僕ひとり乗せた車で僕はいま僕の命を預かっている ショッピング・カートにねむる子らのまなうらにバーコードの万華鏡 アンコール良かったね、ってひとしきりひたってもまだはしゃいでる耳 日めくりがぼそっと落ちて現れた画鋲の穴の闇が深いよ 僕を切り売りするような感覚で切り取る分割証明写真
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今、短歌界の第一線を走る岡野大嗣さんの第一歌集。 日常であまりにも些細で素通りしてしまうようなことを切り取って歌にしている。 歯に挟まった七味、捨てられた扇風機、希死念慮だって歌になる。
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岡野大嗣(1980年~)氏は、大阪府生まれの歌人。2011年に作歌を始め、2014年に短歌研究新人賞次席。2018年に出版した、木下龍也との共著歌集『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』は、短歌の書籍として近年では異例といえる、発行部数1万部を超えた。 本書は、2...
岡野大嗣(1980年~)氏は、大阪府生まれの歌人。2011年に作歌を始め、2014年に短歌研究新人賞次席。2018年に出版した、木下龍也との共著歌集『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』は、短歌の書籍として近年では異例といえる、発行部数1万部を超えた。 本書は、2014年に発表された第一歌集である。 私は50代の会社員で、最近短歌に興味を持つようになり、お気に入りの歌人(俵万智、穂村弘、東直子、枡野浩一、木下龍也ら)による入門書や歌集、多数の現代短歌歌人を集めたアンソロジー等を読み、半年ほど前から新聞歌壇への投稿も始めた(最近ポツポツ採用されるようにもなった)。 岡野大嗣については、自ら木下龍也に影響を受けたと公言し、共著歌集の出版や短歌教室の開催しており、その作風も比較的近く、今回単独の歌集を入手した。 俵万智の『サラダ記念日』(これは社会現象でもあったため、短歌に関心のなかった私も一応読んでいた)以降の現代短歌がこんなにもバリエーションに富んでいることは、最近いくつかのアンソロジーを読むようになって知ったのだが、その中には、素人・初心者の私にはわからない・面白くないものも少なくなく(全く個人的な感想です)、そうした中で、木下や岡野の歌になぜ惹かれるのか、これについては、山田航氏が短歌アンソロジー『桜前線開架宣言』に書いていたことを読んでよくわかった。というのは、山田氏によれば、木下や岡野は、「ここにかけがえのない僕がいる」と主張することを是とした近代短歌の精神、よって自ずと私小説的になる近代短歌の作風に真っ向から歯向かい、ふとした瞬間に兆した感情を共有することを目的として歌を詠んでいる、即ち、「個の詩型」ではなく「場の詩型」を志向しているということなのだ。そして、私にはこの感覚・志向がとても合っている。 岡野は本歌集のあとがきに次のように書いている。「僕はよくため息をもらす。中吊り広告の品のない見出しや、ひと粒ずつが骨のかたちのドッグフードや、・・・に。苛立ちや虚しさ、不安や悲しみ、驚き、ときに祈り。ネガティブかポジティブかを問わず「忘れたくない」と感じさせる何かが自分を通過したときに、僕はため息をもらしているのだと思う。僕にとって短歌は、短く、静かにもらすため息のようなものだ。ため息は流れていってしまうけれど、短歌は残る。短歌に残して、読み返せば、何度でもそのため息のもとになった情景を心に甦らせることができる。・・・僕の短歌は、岡野大嗣という人間のモニュメントになんてならなくていい。そんな大げさなものが残ってしまうなら、怖くて短歌なんて続けていけない。だとすれば、僕はなぜこの歌集を世に送ろうとするのか。それは、千年以上も前の詠み人知らずの歌に心を動かされることがあるように、自分が「忘れたくない」と思った何かを、見知らぬ誰かにも伝えたいという願いからだと思う。」 山田航曰く「短歌のポストモダンへの一つの回答となりうる」、80年代生まれの歌人による第一歌集である。 (2021年12月了)
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