社会はなぜ左と右にわかれるのか の商品レビュー
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紀伊国屋書店のノンフィクション特集として平積みされていて興味があったので読んだ。選挙のたびに自分の肌感覚と結果の違いに驚くことが多く、たとえば先日の都知事選での石丸候補の躍進などは想像していないことであった。もはや分断が当たり前の世界において、右派、左派の原点を科学的な視点で見つめ直す一冊で非常に有用であった。正直、本著の内容をすべて信用していいのかという点はなんとも言えないが、どうして左派が今窮地にあるのかは理解できた。 タイトルにもなっている議題に至るまでの前提となる知識の解説に十二章あるうち十章を割いている。主には「道徳とは何か?」というテーマについて、哲学、心理学、生物学、社会学といった様々な学問からアプローチを行い、「正しい」と各人が感じるプロセスやどのように思想が形成されていくか、膨大な引用とともに説明がなされている。本文中の注釈だけで60ページもあるし、トータル500ページオーバー。著者自身もToo muchだという認識はあるようで、章末に毎回まとめが用意されており論点を整理してくれているのはありがたかった。ただそれでも自分の脳のキャパでは、全部の議論をフォローできていない気がする。 メインの主張がいくつかある中で興味深かったのは、直感と理性に対する、象と乗り手のアナロジーであった。我々は理性的で考えた結果、判断や結論を下していると考えがちだが、実態は逆で本能的に結論を決めつけ、その後に理性で判断理由を補強しているという主張であった。つまり象が先に動き出していて、乗り手はあくまで微調整でしかないということ。また道徳的な問題に関して考えを変える可能性のある手段は人との対話のみ、という主張はそれこそ直感と一致した。同じようにシニカルな視点として、グラウコンの「私たちは、真に正しくあるよりも正しく見えることに配慮する傾向を持つ」という話もSNSで個人が意見を発信しやすくなった今こそ重要な主張だと感じた。哲学は本当に古びることのない偉大な学問よ… 本の命題に答えている内容としては、六つの道徳基盤による右派、左派に対する分析が挙げられる。ケア/危害、自由/抑圧、公正/欺瞞、忠誠/背信、権威/転覆、神聖/堕落といった六軸の中で右派、左派が重要視しているものは何か?左派はこのうちケア/危害、自由/抑圧を大事にしているが、残りの項目をおざなりにしている。それに対して右派はそれぞれをバランスよく大事にしているので、票を集める観点で見れば広く抑えることが可能だろうのことだった。具体的にオバマが大統領に当選した際のムーヴを例に挙げながら解説してくれており分かりやすかった。社会の構成員の思想として右派、左派ともに両極に振り切れた人よりもグラデーションがある中で広く感情を捉えるアプローチが必要であることがよくわかった。合理的な政策の議論ももちろん大切だが、情動の部分が大きく作用していることは否定し難い事実としてある。最終章になって、やっと具体的に右派、左派について深く考察していて、ここはかなり読み応えがあった。結論としては「根本的に悪い人はいない。両方言い分があり、それぞれの良いところを活かして社会を前進させるしかない」というある種、玉虫色にも見える結論ではある。しかし、本来政治とはそれぞれの主張をぶつけ合い、妥協点を見出していく作業のことであり、今は一歩も譲らないことが是とされてしまうことに問題がある。本著がたくさんの人に読まれて、右派、左派が歩み寄れる時代が来て欲しい。いや来ないのか…
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「人を傷つけない」が道徳の主軸ではない。 人は、「なんかやだな」に後付けで理屈をつけがち。 情熱は理性の主人。情熱が死ねば、理性も死ぬ。 直感が思考を開始させる。 情動は直観の一部。 直観と理性は、別個の対立するものではなく、同じプロセスのちがう位置関係の存在。 直観が象...
「人を傷つけない」が道徳の主軸ではない。 人は、「なんかやだな」に後付けで理屈をつけがち。 情熱は理性の主人。情熱が死ねば、理性も死ぬ。 直感が思考を開始させる。 情動は直観の一部。 直観と理性は、別個の対立するものではなく、同じプロセスのちがう位置関係の存在。 直観が象で、理性が乗り手。 乗り手は象に仕える存在。 情動を含めて、直観は認知の一種(自動的なプロセス)で、思考の一種(理性にコントロールされたプロセス)ではない。 サイコパスは思考するが感じない。 IQは、「包括的で公平な検討」よりも「自分の主張の補強」に使われる傾向がある 人によってバランスのちがう、5つの道徳基盤。 左派は2つ、右派は5つに訴える。 新奇好みと新奇嫌悪が共存する、雑食動物のジレンマ。 そりゃ右左は分かれるし、右が有利? 自然選択は「集団志向性」のレベルが上昇する方向に作用する。蜜蜂で言うところの「巣」が、人間で言うところの「規範や制度、神を素材にした道徳共同体」。それを死守するために殺し合う。「集団による虚構の共有力」のパワーがめっちゃ強いし、共有された末のアウトプットを守ることへの執着もめっちゃ強い。 戦場では、国や理想より、むしろ仲間の兵士のために自らの命を危険にさらす。 熱狂的な踊りは、集団の団結を図るための、ほとんど普遍的な「バイオテクノロジー」。「筋肉の結束」の一形態。「集合的沸騰」 最善の社会を築き、個別の状況を考慮した上で最大の幸福を追求することが、現代の保守主義の真の目的 という主張。「保守主義=宗教信仰=科学」の否定ではない。 保守主義とリベラルの、隠と陽という捉え方。 でも、実際の今の状況は、マニ教的な二極化。道徳は、人を結びつけ、盲目にする。自陣営があらゆる戦いに勝利することに世界の運命がかかっているかのごとく争うイデオロギー集団に、わたしたちを結びつける。 多様性の高い人種が集まる環境のもとで暮らす人々は「頑なになる」、つまりカメのようにひきこもってしまうらしい。多様性は人々を内向きかつ利己主義的にし、地域社会の貢献に対する関心をそぐ。 差異を強調することは、人種主義を緩和するのではなく強化する。
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タイトルからは政治のにおいが香るが、理性や感情、意識や無意識といった、人間の内面に関わることに興味のあるあらゆる人に勧められる素晴らしい一冊。「本書は、皆で仲良くやっていくことが、なぜかくも困難なのかを考える本だ」「道徳は文明の発達を可能にしてきた、人類の類まれなる能力であること...
タイトルからは政治のにおいが香るが、理性や感情、意識や無意識といった、人間の内面に関わることに興味のあるあらゆる人に勧められる素晴らしい一冊。「本書は、皆で仲良くやっていくことが、なぜかくも困難なのかを考える本だ」「道徳は文明の発達を可能にしてきた、人類の類まれなる能力であることを本書で示したい」らしい。直観と理性の関係、道徳の起源、人間の持つ政治の道徳的基盤、私たちが集団を志向する理由などが、論理的かつ明快に説明される。個人的には、リチャード・ドーキンスやダニエル・デネットといった新無神論者が否定する宗教に存在意義を見出しているところ、集団選択を肯定しているところがおもしろかった。 印象に残ったところメモ。 ・成功の秘訣をたった一つあげるとすれば、それは他者の考えを把握して、自分の視点からと同程度に、他人の視点からものごとを見通す能力だ。 ・悪臭を嗅ぎながら他人を裁くと、より厳しい判断をする。 ・乳児は、社会環境を理解する能力を先天的に備えている。→人間はけっして、空白の石板として生まれてくるわけではない。 ・人間は、他人の言葉に異を唱えるのには長けていても、ことが自らの信念になると、ほとんど自分の子どものごとく扱い、疑ったり、失う危険を冒したりはせずに、なんとか守ろうとする。 ・私たちは何かを信じたいとき、「それは信じられるものなのか?」と自分自身に問う。これに対し、何かを信じたくない場合には、自分自身に「それは信じなければならないものなのか?」と尋ねる。 ・自然の畏敬を感じると、集団志向のスイッチがオンになる。 ・世俗的なコミューンの9%、宗教的なコミューンの39%が長期間存続した。後者の圧倒的な勝利。 ・新無神論者が高コスト、非効率、不合理として捨て去る儀式の実践こそは、人類が直面するもっとも困難な課題の一つをつまり親族関係なくしていかに協力が可能かという問題を解決してくれるのだ。
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大げさでなく、全人類が読むべき良書。価値観とは何か、道徳とは何か、正義とは何か、宗教とは何か、すっきり理解できる。バイアスに関する本を複数読んだ後に本書を読んだが、とても理解が深まった。2014年初版だが、まったく古びていない。 本文486pの大作だが、読み手の心(象)に配慮して...
大げさでなく、全人類が読むべき良書。価値観とは何か、道徳とは何か、正義とは何か、宗教とは何か、すっきり理解できる。バイアスに関する本を複数読んだ後に本書を読んだが、とても理解が深まった。2014年初版だが、まったく古びていない。 本文486pの大作だが、読み手の心(象)に配慮して書かれているので、このページ数の必要があったことを強く感じさせる。はじめに本論は出さず、読み手が受け入れられるようになるまで辛抱強くエピソードやストーリーの説明を続ける。 建設的な話をするためにはこの過程が事前に必要だということであれば、わかりあうためには人がお互いに長時間をついやさなければならない。(本の厚さにめげず、読み続けようとした人だけが理解できる。) その壁を越え、ぜひ多くの人に読まれてほしい。
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道徳的価値観、良いことがどうか、正しいかどうかについて、単一の答えはあるのだろうか? もしあるとすれば、今の国家間の対立、政治的対立は、どちらかが頭が悪い、ということになってしまう。一方で、善悪は所詮人それぞれ、感じ方次第としてしまうと、集団の善悪は権威か多数の力で決めざるを得...
道徳的価値観、良いことがどうか、正しいかどうかについて、単一の答えはあるのだろうか? もしあるとすれば、今の国家間の対立、政治的対立は、どちらかが頭が悪い、ということになってしまう。一方で、善悪は所詮人それぞれ、感じ方次第としてしまうと、集団の善悪は権威か多数の力で決めざるを得なくなり、あまり幸せな感じがしない… 本書は、このようなテーマを扱う道徳心理学に光を当て、人類学的な観察に遺伝学の知見を取り入れ、悟るか逃げるしかなかった道徳の問題について、共通理解の可能性を啓く、世の中を良くしたいと考える人の必読書だ。 本書のポイントは、味覚受容器に例えられる6つの道徳基盤である。人類が進化的に獲得した道徳感情の源泉を明らかにし、所謂左派と右派は道徳基盤の強弱が要因だとする。不規則に人それぞれとすると相対主義になり、同意と解決の道は閉ざされてしまう。だが道徳基盤のバランスだとすると、共通理解のスタートになる。 論理的な説得力もあるし、世界を良くする実用的な意義もある理論であり、あらゆる社会性に関わる人のリテラシーとして必要だと感じた。
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田舎在住ですが、最近都市からUターンで戻ってきた年配の方が、地域の祭りや習慣を否定する発言を繰り返し、コミュニティが混乱しているところです。 家族以外の集団が価値観を共有するための仕組みとして機能してきたものが否定されていくと、その先には繋がりの崩壊もあるのかもしれません。 個人...
田舎在住ですが、最近都市からUターンで戻ってきた年配の方が、地域の祭りや習慣を否定する発言を繰り返し、コミュニティが混乱しているところです。 家族以外の集団が価値観を共有するための仕組みとして機能してきたものが否定されていくと、その先には繋がりの崩壊もあるのかもしれません。 個人的にはリベラルな考えをもっていると自覚していますが、道徳的な価値について考えるよい機会になりました。
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内容を端的に示すフレーズ「心は乗り手と象に分かれ、象が99%のプロセスを占め、乗り手の仕事は象使える事だ」など幾つもあった。 人の行動・思考の仕組みについて面白い意見があり、考えさせられる点が多くある。
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リベラル=民主党が勝てないのは、感情に訴えることがないから。 理由を説明する前に、好き嫌いを判断している可能性がある。 無意識の選択に対して、理由は後付けしてしまう。後付の理由を自分で信じてしまうことも。 離断症候群の右手と左目の選択の違い 利他的であることは、進化論的にありえるのか? まとまりとしての利他的集団のグループは反映する結果あり。
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素晴らしい。素晴らしく読むのに時間が掛かった。それくらい、まどろっこしい論旨になっているが、通読するとなぜこういう構成になっているかが腑に落ちる。それくらい、価値観や道徳観、支持政党の問題は根深い。 小生による理解では、書き手の主張はおおむね以下のようになる。 - 「まず直感、それから戦略的な思考」・・・人は道徳的なイシューに出くわすと、まず直感で良し悪しを判断する。そのうえで理由づける。理由付けに失敗しても判断を変えることはない。 - 「道徳は危害と公正だけではない」・・・本書では6つの道徳基盤が存在し、その強弱がその人の道徳観を形作っているとする。左派は「ケア/危害」「自由/抑圧」の2つの基盤に重点を置き、他の道徳基盤「公正/欺瞞」「忠誠/背信」「権威/転覆」「神聖/堕落」に対する感度が低い。保守は6つの道徳基盤に対してバランスよく取り入れる傾向がある。 - 「道徳は人々を結びつけると同時に盲目にする」・・・人間は利己的でありながら集団を形成するホモ・デュプレックスである、とする。文化のみでなく遺伝子レベルで共進化しており、人が集団に属しようとする欲求は非常に強い。私は2つの道徳基盤だけでなく、6つ全部に目配りします、といった頭で考えてサインしたところで何の役にも立たない。 欧米的な個人主義の価値観にさらされていると、リベラル的な(下手するとリバタリアン)こそが真っ当な価値観と洗脳されがちであるが、筆者は異を唱える。中国の陰陽の考え方を持ち出し、左派も右派も政治を真っ当な方向に進めていくために必要な考え方とする。右派は道徳基盤の毀損に気づきやすく、左派は現体制で虐げられている迫害に気づきやすい。非常に真っ当な結論だ。 結論だけ読みたければ、Conclusionの項目を読めばよろしい。が、原題 "Why Good People are Devided?" を知りたい人はじっくり腰を落ち着けて読んでみることをおススメする。良書。
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とても面白かった。我々は感情を理性で正当化するし、それを前提に政治的党派性を見ればリベラル勢力は保守勢力よりも感情に訴える基盤に偏りがあり支持を広げられないとするのも理解できる気がした。
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