波形の声 の商品レビュー
今、短編ミステリの雄といえば長岡弘樹である。著作数が少ないが、量産できない理由は読めばわかる。最新刊も練りに練られた好編が揃っている。 表題作「波形の声」。臨時採用教員の熱意は、確かに生徒たちに伝わった。なるほど、タイトルの意味に納得。それに引き替え、何と浅慮なことか。 ...
今、短編ミステリの雄といえば長岡弘樹である。著作数が少ないが、量産できない理由は読めばわかる。最新刊も練りに練られた好編が揃っている。 表題作「波形の声」。臨時採用教員の熱意は、確かに生徒たちに伝わった。なるほど、タイトルの意味に納得。それに引き替え、何と浅慮なことか。 「宿敵」。いずれ誰にでも振りかかる問題。誰だって認めたくはない。自ら退くことはなかなかできない。本作中唯一、切ない1編。 「わけありの街」。このような立場に追い込まれた母が、何人いるのだろう。司法の不条理を描いた例は数あれど、これには唸らされた。少しは救われるのか…。 「暗闇の蚊」。さしずめ、長岡弘樹版『動物のお医者さん』か。これもタイトルに鍵がある。息子にこんな調査をさせる獣医師の母もどうかと思うが…。 「黒白の暦」。食品会社でライバル関係にある2人の女性。社長命令で接待に臨むが…。見て見ぬふりをするのが大人なのだろうか。ある意味完敗を喫したね。 「準備室」。嵐を覚悟したらなぜか過ぎ去り、しかし結局嵐が…という話。この上司の本質は、果たしてどちらなのか悩ましいが、主人公は懲りたに違いない。 最後を飾る「ハガニアの霧」。実業家として成功した男が、まんまと一杯食わされた。動機の面も申し分ない。それにしても、嗚呼もったいない…。 全7編、いずれも意外性に富んでいる上に、多彩さに感服する。こんな設定をよく思いつくものだ。最近、短編ミステリといえばライト路線のシリーズ作品が多い。ファンの裾野を広げる意味で、それが悪いとは言わないが、長岡弘樹さんのような職人気質の作家を、新しいファンにも知ってほしいと切に願う。
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7つの短編だがどの作品にも共通しているのは人間同士の繋がりや執念、登場人物の心理をリアルにそして、繊細に描く。長岡弘樹の作品の特徴だと思う。表題作の含みのある終わり方と作品の雰囲気がすごく好き。どの作品も葛藤がいい感じに描かれており、読んでいるだけでドキドキする。前半の作品は良かったが後輩の作品は若干、失速気味な感じがした。
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大好きな短編もので、ミステリーとしてはとっても緻密で 驚きもあるんですが ちょっと現実離れした種明かしな作品もあります。 日常で考えて、そんなに人って注意深く生きてるかな? という疑問が湧きます。 それでも、感動すら覚えるものもあり 読み終えた感想は、とっても...
大好きな短編もので、ミステリーとしてはとっても緻密で 驚きもあるんですが ちょっと現実離れした種明かしな作品もあります。 日常で考えて、そんなに人って注意深く生きてるかな? という疑問が湧きます。 それでも、感動すら覚えるものもあり 読み終えた感想は、とってもグット。 さすが、今人気のミステリー作家の方だと思いました。 一押しは「準備室」と「黒白の暦」 父親として、こういう子どもがからんでくる作品は かなり惹きこまれます。 ラストで全てがつながる瞬間は 涙も出てきました。 短編小説の良さがふんだん味わえる本だと思います。
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ひとつひとつの文を、じっくり読み解いていかないと世界が見えてこない。何気ない言葉の裏にたくさんのものが潜んでいるのだ。 そうやって読み進めていくと、ラストでくらっと景色が変わる。 短編集なので、ちょっと物足りない感じだったかな。
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