抱擁、あるいはライスには塩を(下) の商品レビュー
豊かで恵まれた、互いを思いやり、明るく 誇りある幸福な家族の、ひとりひとりの想いを のぞいてみると…。 時代も、環境もかけ離れた、自分にとっては まさに「ものがたり」の話のようなのに、 ていねいに描かれた光景、匂い、気配に まるでそこにいるような心地になった。 哀しみがひたひた...
豊かで恵まれた、互いを思いやり、明るく 誇りある幸福な家族の、ひとりひとりの想いを のぞいてみると…。 時代も、環境もかけ離れた、自分にとっては まさに「ものがたり」の話のようなのに、 ていねいに描かれた光景、匂い、気配に まるでそこにいるような心地になった。 哀しみがひたひたと足下から浸されるような 想いになり、読後はいい知れぬ深い哀しみ、 切なさ、孤独感で胸が苦しくなった。 誰にも起こりうる感情の発露、 それによる行き違い。 理性ではおさえなられないままに 突き進んでしまう恋の行く手。 生きることは、素晴らしく、でも カンタンではないけれど ふとした優しさに生かさせてゆく。 哀しいけれど、やさしい結末に 不安のようなやすらぎを感じた。
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桐ちゃんが死んじゃったのは、ショックだった…… そして、ラスト……やはり自分の本当に求めるところに向かうべきなのかもしれない。人生は、一度しかない。
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思いもよらない出来事が起こり、衝撃的な過去が明らかになる。 そして、別れが次々と訪れる。 賑やかだった不思議な家族もやがてバラバラになってゆく。 それぞれの登場人物が個性的で徐々に引き込まれていく物語だった。 2016.3.7
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東京・神谷町の広壮な洋館に三世代十人で暮らす柳島家。 小中高校には通わず家庭で上等な教育を受け、大学から社会に出すという教育方針を持つ風変わりな一族の、愛と秘密の物語。 章ごとに語り部が変化し、年代も行ったり来たりするから、最初のほうは頭の中で人間関係を整理するのが難しく感じた...
東京・神谷町の広壮な洋館に三世代十人で暮らす柳島家。 小中高校には通わず家庭で上等な教育を受け、大学から社会に出すという教育方針を持つ風変わりな一族の、愛と秘密の物語。 章ごとに語り部が変化し、年代も行ったり来たりするから、最初のほうは頭の中で人間関係を整理するのが難しく感じたけれど、上下巻全て読み終えて思ったのは、その順番に必然性があったのだということ。そのことがわかってからまた読み返したら、さらに深く感じるものがあるのかも知れない。 種違いの長女、そして腹違いの末っ子が含まれた四人の子どもたちがその事実を知りながら違和感なく暮らし、その両親である菊乃と豊彦はお互いの異性関係を容認している。 四人の子どもたちの祖母である絹はロシアから亡命してきたロシア人で、実はこの人が一番大きな秘密を抱えている。 そもそも小中高に通わせない教育方針というのが一般社会からはかけ離れているのだけど、そういう極端な決まりごとに関わらず、ひとつの家庭の蓋を開けてみれば一風変わった習慣というのがけっこうあるものだし、その中で当たり前に暮らしていると変わっているということに気づかなかったりする。他人の家庭は異国のようなものだ。柳島家の人々を見ていたら、おかしいけれどおかしくない、と思ったりした。 それぞれの個性が爆発している登場人物たちはとても愛おしく、ある場面では本気で哀しくなり、ラストは時間が過ぎゆくことの寂しさを感じた。 同じ家の中で暮らす家族の、それぞれ違った人生。そして一人離れ、一人欠けして時間が過ぎていくということ。 四人の子どもたちの叔父で、菊乃の弟である桐之輔のキャラクターがとても良かった。自由で、孤独で、刹那的で。 タイトルの意味を知った瞬間の、感心の唸り。愛と自由、という意味だと解釈。 江國香織さんの最近の作のなかでは、一番好きかも知れない。
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長編だけれども全然苦じゃなく、楽しくすいすい読み進められた。それは、時間が行ったり来たりし、語り手が変わるからなのかもしれないけれど。でも、この家族がほんとうに愛しい。 この大きな家の、一部屋一部屋の匂いがわかる気がした、全体的に埃っぽく、物悲しくもあたたまった匂い。過ぎ去った...
長編だけれども全然苦じゃなく、楽しくすいすい読み進められた。それは、時間が行ったり来たりし、語り手が変わるからなのかもしれないけれど。でも、この家族がほんとうに愛しい。 この大きな家の、一部屋一部屋の匂いがわかる気がした、全体的に埃っぽく、物悲しくもあたたまった匂い。過ぎ去った時間の匂い。それから、雨の日の庭の匂いや、彼らが着ている上等な服のよそいきっぽい匂い。 嗅覚に語りかけてくる小説ってなかなかないんじゃないか。 裕福で、破茶滅茶で、人間関係が(普通に考えて)複雑で、でもなぜかとても幸福に満ち溢れている家族。子どもたちは大人になり、大人たちは死んでいく。彼らの何年もの歴史を語ってもらいながら、もっとおはなしを聞かせて!という子どもじみた気持ちになる。
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解説を読み、タイトルの意味を当ストーリー流に訳すと「愛、あるいは自由を」とあった。うん、確かに。と納得する。この家族は本当に変わっていて、実際こんな環境ありえないだろうと思いつつも、この日本のどこかに、存在していてほしい!!そんな人々。 下巻では、お寿司屋さんを招いた自宅での、卯...
解説を読み、タイトルの意味を当ストーリー流に訳すと「愛、あるいは自由を」とあった。うん、確かに。と納得する。この家族は本当に変わっていて、実際こんな環境ありえないだろうと思いつつも、この日本のどこかに、存在していてほしい!!そんな人々。 下巻では、お寿司屋さんを招いた自宅での、卯月のお披露目会のシーンが印象的。あと、絹の視点の章があって、思わぬ絹さんの告白に「そうだったのね!」と驚かされたり、とにかく内容が濃い。 最後に、屋敷に残るメンバーは、自由に、それぞれが居心地よく暮らしていく様が想像できて、これも安心する。またどこかで会いたい!
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しずかに終わっていく物語が心地よかった。章ごとに視点が変わり(話し手が変わる)、時間軸も変わり少しずつ一家の秘密が明かされていって面白かった。
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上巻に引き続き、常識からかけ離れた価値観をもつ家族の話。 なんか今の一夫一妻とかそういう考えに縛られたくないんだよねって思っている人は特に一読の価値あり。 一夫一妻制などに限らず、様々な価値観にこの家族はこの家族なりに考えて正しいと思えることをやっていて、とても素直でいじらしい。...
上巻に引き続き、常識からかけ離れた価値観をもつ家族の話。 なんか今の一夫一妻とかそういう考えに縛られたくないんだよねって思っている人は特に一読の価値あり。 一夫一妻制などに限らず、様々な価値観にこの家族はこの家族なりに考えて正しいと思えることをやっていて、とても素直でいじらしい。 私たちも一人一人、考える人間であれば、諍いなどせずに済むのかもと思わされた。
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ぎりぎり現代まで残る貴族的な人たち。最後に、ユリ叔母と母と陸子だけ(この「家」と意識が同化している人たち)が静かに残っていくラストが美しい。
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たとえば「闇というよりは水っぽい」のような、表現の巧さが随所で光る。そういう表現を目にするだけでも、文学作品を読む喜びを私は味わえる。日の光に溢れ、緑のざわめきと日なたの匂いが香ってくるような、明るく暖かな柳島家に始まり、そして未明のひっそりとした薄闇の中にランプの弱い灯りだけが...
たとえば「闇というよりは水っぽい」のような、表現の巧さが随所で光る。そういう表現を目にするだけでも、文学作品を読む喜びを私は味わえる。日の光に溢れ、緑のざわめきと日なたの匂いが香ってくるような、明るく暖かな柳島家に始まり、そして未明のひっそりとした薄闇の中にランプの弱い灯りだけが光るような、静かな柳島家に終わる。長い長いページとともに、柳島家の数十年の変遷をともに旅したような気持ちになる。少々長すぎる感もあるし「愛と性と家族」のあり方とか価値観が理解しがたいほどに特殊なので、完読するのになかなか疲れたが、ひとつの時代が終わって変わりゆく柳島家のいまを前に、不思議な余韻が残る。
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