近代の呪い の商品レビュー
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「近代とは何だったのか」をテーマに、日本や世界の近代化を問い直している。一般に、近代がわれわれにもたらしたものは人権・平等・自由の三点に漸くされる。しかし、江戸時代においても無秩序状態というわけではなく、その時代に即した人権のとらえかたがあり、前近代社会よりも一面では近代社会のほうがキュウクツで、江戸時代にもそれなりの平等はあったことなどを興味深い内容だった。 筆者が考える近代の恩恵は「衣食住の豊かさ」である。フリーな市場経済の世界化が衣食住の貧困を克服させた。その大小として2つの近代の呪いを人類は背負い込むことになったという。ひとつはインターステイトシステムであり、もうひとつは世界の人工化である。 生活のゆたかさを新たにとらえ直し、経済成長がなくなればこの世は闇というような考え方を克服することは難しい。具体的にどうしたらいいのか。
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熊本大学での講義を書籍化したもので、・近代と国民国家・西洋化としての近代・フランス革命再考・近代のふたつの呪いの4話と、大佛次郎賞を受賞したときの講演・大佛次郎のふたつの魂の五つの章からなる新書です。民衆と市民の違いとはなにか。僕はEテレ「100分de名著」という番組のハンナ・アーレントの回で解説の仲正昌樹さんが平易に説明してくれていたことでその違いを知ったのですが、本書ではそのあたりももう少し深く、近代と結び付けて解説してくれいて、このトピックについて何か読みたいところだったので、渡りに船といった体で読むのを楽しみました。要するに、民衆とは、国家天下のことはどこ吹く風で、自分の周囲の出来事にしか関心が無く、そういった生活圏で楽しんで暮らす人々。比べて市民とは、その国家の構成員であることを自覚していて、政治について経済について、いろいろ勉強したうえでコミットしていく種類の人たちをいいます。昨今の文化人には「みんな、市民になろうぜ」っていう種類の言説や思想が多いですよね。良いか悪いかは、本書において、その良し悪しについて解説があります。なるほどなあと思いますよ。どっちに傾くかにしても、極端に100%針が振れるようなのは害悪になりますね。近代の呪いのふたつの面についても、端的に言ってしまえば、ナショナリズム化していく構造的な面と、人間中心主義ゆえに自然を消費するものとしてとらえてしまうがゆえに、生まれてから死ぬまで人工的世界に浸ってしまう貧しさ、もっと言えば、それは間違いなんじゃないかと著者は言ってますが、そういった社会構造や心理の面に疑問を持とうと訴えています。本書では、近代を考えていくことで、そういった現代の病巣がみえていくかたちになっています。フランス革命とはなんだったか、だとか、近代化といえば人権・平等・自由の獲得だが、そもそもそれは真実なのか、といった見ていき方があり、つぶさにみていくことで、さきほど書いたような、近代の呪いと結びつく。滋味の感じる語り口の文章です。それでいて論理的で非常に有機的な近代論になっています。しっかりしていて興味深く教えられる好著だと思いました。
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一つめの呪い。近代とは、民衆がお上から口だしされないでも自分たちで成り立たせている自主性が撃滅された時代。世界経済は、民衆が国民として統合された国家同士が地位を競うインターステイトシステム。国民国家が進むにつれ、個人は社会の管理を受けざるを得なくなる。 二つめ。資本主義によって衣...
一つめの呪い。近代とは、民衆がお上から口だしされないでも自分たちで成り立たせている自主性が撃滅された時代。世界経済は、民衆が国民として統合された国家同士が地位を競うインターステイトシステム。国民国家が進むにつれ、個人は社会の管理を受けざるを得なくなる。 二つめ。資本主義によって衣食住に困らない豊かさを実現した一方で、自然はホビー化し、生活空間は人工化した。自然というコスモスの中に自分の実在を謙虚に位置付ける感覚を失ってしまったこと。
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著者の近代観はほんとうに勉強になる。自分が常識としていることをぐるっとひっくり返してくれ、新たな探求を促してくれる。
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15/5/28 明通寺読書会 若泉さん担当の本です 渡辺京二 著 フランス革命など視点が違っておもしろい
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革命とか嫌いなんだね。この人。 フランス革命に絶望した…そんな言葉が行間にあふれていて、読んでいて辛い。専門家ではありません、と予防線を張りつつ大佛次郎の『パリ燃ゆ』へのあんまりな評価。 どう考えても、呪われてるのは作者自身?
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近代に対する評価についてはこれまで読んだものと大きな違いはないような気がする...結局何を考えたら良いのだろう
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熊本大学での講演が中心で、そのため非常に読みやすい。もし講演を実際に聴いていたら、一生懸命メモをとっただろう。実は、まるで学生のように、本に線を引いて、簡単なレジメを作ってしまった。なんというか「お勉強心」が刺激される。 「近代」の両義性についての著者の考えが、かみ砕いて語られ...
熊本大学での講演が中心で、そのため非常に読みやすい。もし講演を実際に聴いていたら、一生懸命メモをとっただろう。実は、まるで学生のように、本に線を引いて、簡単なレジメを作ってしまった。なんというか「お勉強心」が刺激される。 「近代」の両義性についての著者の考えが、かみ砕いて語られている。「近代化とは何か」というテーマは、決して議論されつくしたわけではないとあらためて感じた。自分がいかに無意識に、通説的な歴史観の枠組み内でものを考えているかということを痛感する。 アカデミズムとは距離を置いてきた著者ならではの、射程の長い考察で、もっと突っ込んだ話を聞きたくなる。もう八十歳をこえられたそうだが、「進行中の仕事が一つ、これから書きたいと思う大きなテーマが二つ」あるとのこと。うーん、すごい。
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大学での講演を文章化したもの。 近代の呪い(もたらされたもの)とは、 ナショナリズムの強化 世界の人工化 生活の豊かさとは何か、を問い直そう。 フランス革命は日本でよく言われているほどいいものではなかった、もいう事だけ伝わった。
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おどろおどろしいタイトルではあるが、講演録なので内容は平易である。 近代とはどういう時代であったか? それは市場経済が世界化することによって始まり、かつてない衣食住の向上(ゆたかさ)を人類にもたらした。 しかし、それが皮肉にも「ふたつの呪い」に転化していく。 一つ目。ゆたかさをインターステイトシステムのなかで維持していくためには、強力な国民国家(民族国家)づくりが必要だった。その結果、民衆世界の自立性は解体され、民衆は教育された「国民」として国家に拘束されていった。 二つ目。急激な経済成長と人間中心主義を前提とする近代科学は、自然を資源として収奪し、自然と切り離された生活世界の人工化=カプセル化を推し進めた。 これが近代だ。本書はそういう著者の思想のエッセンスとなっている。 個人的には、近代の起点として神話化されたフランス革命が決してバラ色ではなかったと説く第三話が強く印象に残った。
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