近代世界システム(Ⅰ) の商品レビュー
本書はウォーラーステインの主著『近代世界システム』全4巻の第1巻だが、原著は1974年、邦訳は1981年に刊行されている。90年代前半頃まではギルピンの「覇権安定論」やモデルスキーの「覇権サイクル論」の流行ともあいまって「世界システム論」が随分もてはやされた。もっともウォーラース...
本書はウォーラーステインの主著『近代世界システム』全4巻の第1巻だが、原著は1974年、邦訳は1981年に刊行されている。90年代前半頃まではギルピンの「覇権安定論」やモデルスキーの「覇権サイクル論」の流行ともあいまって「世界システム論」が随分もてはやされた。もっともウォーラーステインに代表される従属学派の「世界システム論」はシステムを一種の搾取の体系と考えるが、ギルピンらの「覇権理論」はシステムを支える「覇権」を一種の公共財と考える。大雑把に言えば前者はシステムを「告発」し、後者はシステムを「擁護」(少なくとも価値中立的に記述)する。その意味でアプローチは対称的だ。 マルクス主義の公式では資本主義は労働者の絶対的窮乏化に直面して早晩崩壊するとされていたが、福祉国家化を遂げた先進資本主義諸国では、もはやそのような展望は現実味を失っていた。そこで飛びついたのが「従属理論」であり、それを洗練させたのが「世界システム論」である。国内的な階級対立を世界的な階級対立にスライドさせることで、搾取理論の延命を図ろうとしたとも言える。世界システムの「中核」の繁栄は「辺境」を搾取することによってのみ維持できるというわけだ。したがって資本主義は始まりにおいて既に「世界システム」を前提としていたというのが基本テーゼである。 レーニンの『帝国主義論』では、資本の自己増殖が国内市場の飽和に突き当り植民地獲得に乗り出さざるを得ないとされていた。つまり一国的な資本主義がまずあって、その病理的発展形態として帝国主義が位置付けられていたのだが、それからすると本書は確かにパラダイムチェンジである。ヨーロッパにおける資本主義と国際分業体制の同時成立を鮮やかに描き出しており、プレ近代〜初期近代の歴史分析としてはかなり説得力を持っている。ついでながら、ウォーラーステインの先駆けとなる理論的蓄積が既に1960年代の日本に存在したことを指摘しておこう。河野健二や角山栄を中心とする京大人文研グループの「世界資本主義論」である。それは一国的な国民経済の枠組みに囚われた大塚史学への批判でもあった。 本書に対しては従属理論の元祖A・G・フランクが、西洋中心主義でアジアへの視点を欠いていると批判している。もっともな批判ではあるが、資本主義成立のメカニズムの歴史的解明として、なお本書が一級品であることに違いはない。ただ現代世界の分析枠組みとしては、90年代初頭には理論的有効性を失ったと言わざるを得ない。いかに洗練されようとも搾取理論ではNIES・ASEAN諸国の驚異的な経済発展を説明できない。2000年代以降BRICS諸国が台頭するに至っては何をか言わんやである。評者は2巻までしか読んでないが、残念ながら1巻ほどインパクトはなかった。今のところ3巻以降を読む予定はない。
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著書の研究姿勢が書いてある前置きの部分がなるほどという感じ。世界システム論が様々な分野から批判を受ける部分についてで、それでも包括的な取り組みに価値があるというのは共感。内容は面白い。
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近代世界システムI―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立― (和書)2014年02月20日 22:33 I. ウォーラーステイン 名古屋大学出版会 2013年10月10日 読み応えのあるいい本でした。このシリーズを4巻まで読めるのはラッキーなことだと思うので読み続けたい...
近代世界システムI―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立― (和書)2014年02月20日 22:33 I. ウォーラーステイン 名古屋大学出版会 2013年10月10日 読み応えのあるいい本でした。このシリーズを4巻まで読めるのはラッキーなことだと思うので読み続けたいと思います。 ウォーラーステインさんも書いていたけれどかなり注解が多いです。最初はどう読んでいくかその方針に迷いましたが僕の場合、章のはじめにその章の注解をまとめて読んでそれから本文を読むことにしました。注解だけ読んでいても読み応えも面白さもあり退屈しません。 確か7巻まで構想されていると書いてありました。楽しみですね。
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社会学というよりは歴史、さらに経済史である。宗教改革であるプロテスタントが辺境、例えばポーランドではカトリックに戻ったということと経済の仕組みが説明されている。さらにイタリアやフランスでのカトリックと経済の強い結びつきが説明されている。 これは、奴隷制度についてのアメリカとヨー...
社会学というよりは歴史、さらに経済史である。宗教改革であるプロテスタントが辺境、例えばポーランドではカトリックに戻ったということと経済の仕組みが説明されている。さらにイタリアやフランスでのカトリックと経済の強い結びつきが説明されている。 これは、奴隷制度についてのアメリカとヨーロッパ、 ユダヤ人の差別についてのヨーロッパの国々での違いについても、各国での違いが説明されている。 日本の多くの経済書では、アメリカとヨーロッパでまとめて説明されているが、そうではない、という見方が大切であることを示している。
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米社会学者 I・ウォーラーステイン逝去 世界の歴史・社会全体を単一のシステムととらえる「世界システム論」の提唱者。 ご冥福を。
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【由来】 ・本の使い方 P213 【期待したもの】 ・ ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。 【要約】 ・ 【ノート】 ・ 【目次】
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1974年当時盛んだったマルクス主義歴史学の生産関係の理論(何でもかんでも上下関係で捉えようとする理論)を吹き飛ばした一冊。ウォーラーステインの名はともかく、グローバル経済、グローバリゼーションなどと世界の一体化を説く議論自体を知らない人はいないだろう。国際政治を読み解く上で国際...
1974年当時盛んだったマルクス主義歴史学の生産関係の理論(何でもかんでも上下関係で捉えようとする理論)を吹き飛ばした一冊。ウォーラーステインの名はともかく、グローバル経済、グローバリゼーションなどと世界の一体化を説く議論自体を知らない人はいないだろう。国際政治を読み解く上で国際経済を無視する論者はいないだろう。 むしろ、今となってはそれ以外の見方をするのが極めて難しくなっていることの方が問題になっているようにも思える。かつてマルクスが打ち立てた見方が各国のエリートの心を捉えて離さなかったように、今や多くの「エリート」はこの本を読んだか読んでいないか関係なくこの本の枠組みに従っている。なんとも恐ろしい一冊である。 歴史としてはあまりに大きすぎておそらくどの分量でも足りることはないので、歴史の見方を考える一冊くらいに位置付けられるのかなとは思う。多分、訳者がそれに特化した本を出してるのでしょう。
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ふー。本書の理解には、中世西洋史の一通りの知識が必要なので、ついていくのがとってもしんどかった。 16世紀ヨーロッパを中心とする近代世界システムの誕生についての、長大で骨太な専門書。 世界システムとは、広範な分業体制を含むシステムで、経済的な役割は、世界システムの全域で均質で...
ふー。本書の理解には、中世西洋史の一通りの知識が必要なので、ついていくのがとってもしんどかった。 16世紀ヨーロッパを中心とする近代世界システムの誕生についての、長大で骨太な専門書。 世界システムとは、広範な分業体制を含むシステムで、経済的な役割は、世界システムの全域で均質ではない。システムの内部で、特定の集団が他人の労働を搾取する能力を強め、それを正当化していく。そうして、地域間格差は拡大するが、技術進歩が格差を覆い隠す。そんな今も変わらない基本構造の起点が、書かれていたことの一つだと、私は理解したのです。 ふー、しんどかった。
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