歌うクジラ(上) の商品レビュー
細部にわたって練られた未来世界。そのシステムや背景までもが現代から順を追って論理的に積み上げられ、形作られています。それが数えきれないくらい多岐にわたる選択肢のひとつを辿らせたものだとしても、そこには説得力があり、現代と地続きにクリエイトされている。だから、この小説の世界観に悪酔...
細部にわたって練られた未来世界。そのシステムや背景までもが現代から順を追って論理的に積み上げられ、形作られています。それが数えきれないくらい多岐にわたる選択肢のひとつを辿らせたものだとしても、そこには説得力があり、現代と地続きにクリエイトされている。だから、この小説の世界観に悪酔いもしてしまうのです。猟奇的な殺人描写や暴力や、性描写や性暴力の描写がたくさんでてきます。「現代をオブラートで包んでいる」と解説で吉本ばななさんが書いていらっしゃるとおり、物語としてはそうなのだと思うのですが、エロやグロやバイオレンスを物語の表面に刻んでいく手法は、オブラートに包むというよりは、現実にタトゥーをいれる方法で物語にしているようにも感じられました。倒錯というか逆説というか、複雑というか作家独自の手法なのかもしれない。昔からよく言われているように、脳に直接響くような文体と相まって、この手法によって、物語や文章のインパクトが強くなっていて、ときに心理的にダメージを受けもします。読み手に対して爪痕を残すようなところがある。しかし、文章をひとつずつ見ていくと、内容としては難解な箇所はあっても、文章を読む行為に対しては比較的バリアフリーというような、やさしい文章で書かれています。くだいて、わかりやすく、これは人に伝えるためのものなのだ、ということがはっきり意識されています。それは伝える内容のイメージがとても強いがためなのもありそうです。僕も、自身の文章を推敲する時には参考にしようと思いました。わかりやすさを考え、文章それ自体の難易度は低くすること、ですね。
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2012.4記。 遺伝子工学的な操作でごく一部の特権階級のみが実質的に永遠の寿命を手に入れ、一方で階層分化が極限まで進行している未来、という思いっきり著者・村上龍っぽい設定の長編小説。重要機密の記録されたICチップを体内に埋め込まれた主人公が居留区を脱出し、最上層の人々が住む世...
2012.4記。 遺伝子工学的な操作でごく一部の特権階級のみが実質的に永遠の寿命を手に入れ、一方で階層分化が極限まで進行している未来、という思いっきり著者・村上龍っぽい設定の長編小説。重要機密の記録されたICチップを体内に埋め込まれた主人公が居留区を脱出し、最上層の人々が住む世界を目指す。 SF好きの人が読めば色々と「元ネタはあれだこれだ」というのが目についてしまうのかもしれないが、小道具・ストーリーもさることながら、「情報が管理され、治安がコントロールされ、そういう社会で特権階級として永遠の命を得た場合の(暗黒の)精神状態」に対する想像力がすごい。描写のエログロも相変わらずだが、読ませる。 しかし、警備ロボットの徘徊するレストラン、地下の人工農場、宇宙ステーションレジデンスに代表される未来空間、これを映画化するとしたらずばり大友克洋によるアニメーションに期待。というか主人公の少年の名前が「アキラ」なのは偶然だとは思うが・・・
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3度目でようやく読了。 なかなか読み進められなかったのは 意味不明な世界と気持ちの悪い描写。 それがこの世の中なのは分かるけど。 再読したら、もう少し楽しめるかな。
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未来の世界のありようが、現在の世界の延長線上で生々しく描かれている。 その中で主人公が、操作された運命をまっすぐ突き進み、最終的に自分の存在意義に気づく。 人の狂気や欲望が、発達したテクノロジーを苗床に、歪ませた世界には恐怖を覚えた。それは、そうなるように誰かが意図したわけでは...
未来の世界のありようが、現在の世界の延長線上で生々しく描かれている。 その中で主人公が、操作された運命をまっすぐ突き進み、最終的に自分の存在意義に気づく。 人の狂気や欲望が、発達したテクノロジーを苗床に、歪ませた世界には恐怖を覚えた。それは、そうなるように誰かが意図したわけではなく、ある問題解決の結果、そうなってしまったという、人の意思によらぬ現象としてそうなった。 主人公はそうした世界で、父親の遺言を頼りに進むべき道を見出すのだが、それも操作されたものであり、実は自分では何も選んでなかったという絶望。 最後に「それ」を選び、自分の生きる意味を見出せてよかった。不確かなかのうせいの中で。
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人類は2023年に不老不死の遺伝子を手に入れ、自分の記憶をデーターに変換して保存することが可能になる。その一方、文化経済効率化運動により欲望は人間の悪とみなされ、食事はあらゆる栄養素がはいっている棒食が常食となる。人口減少は止まらず移民の依存度が上がる。生産性は下がり、円は暴落、政治は世襲議員と女だらけの国会と内閣になる。格差は広がり最貧層の若者が街頭で暴動を起こす。そんな恐ろしい近未来は、いつもの約束で村上龍っぽくエロもグロもありの怪しげな世界観満載。
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相変わらずの村上龍ワールドが全開! いやあ、もう、読みづらいのに止められないw 「5分後の世界」に通じるSF設定かと思っていたんですが、もっとディストピア要素が強くなっていましたね。これは昨今の世相を反映したからかな? 後編ではどうなることやら。
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22世紀の日本?を舞台に、父から預かった氏名を果たすための冒険する少年アキラの物語 上巻は世界観の描写が呑み込めずやや読みづらいシーンが続きますが、 娯楽都市ピーチボーイでの一見など盛り上がりどころはきちんと用意されており、登場人物も交換を持ちやすい人格だと思います。
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ビジュアル的に想像するのがとても困難であるが…おもしろい。いまのところ。 ただハリウッド映画ですでにありそー。
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2022年、海底から歌声が聞こえた。その歌声はザトウクジラが発していた。そのクジラからはSW遺伝子、不老不死の遺伝子が発見される。 その発見から100年後、日本社会は徹底的な階層化が進んでいた。 新出島。犯罪者はここに送られる。 政府のデータ管理をしていた男が突然に逮捕され、判決でテロメアの切除をされた。 細胞の再生を司るテロメアを削除されると急激に老いはじめ一週間と生きられない。 この社会の真相を暴け。データチップを渡された息子、アキラは新出島を脱出する。 特殊能力が身についた末裔クチチュのサブロウ、反政府勢力のアンと三人は社会の中枢へと潜り込んでいく。 日本のディストピアを描くと言えば村上龍だろう。 句読点が少なく、セリフも文章に入る文体は読みにくい。 その読みにくさが物語の雰囲気の陰鬱さを表現している。 物語の方向はどこへ向くのか。 上巻だけでは何とも言えないから下巻に続く。
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苦手克服の予感。読みにくいけど、疾走感がある。なんで近未来の日本を題材にしたとき舞台が九州になりやすいんだろ。文化効率化運動とか、想像できる未来のあり方でちょっと怖い。ネットとかはどうなってんのかな。攻殻があたまをよぎった。 2014/07/12読了。
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