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若き日の哀しみ の商品レビュー

3.7

16件のお客様レビュー

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2024/01/02

ダニロ・キシュを日本語で読む……なんと甘美な体験だろう(もちろん山崎佳代子の訳業がなければ成り立たなかったことだ)。激動の時代を生きたこの作家の書いたものを、わざわざ政治性を切り離して読むことは端的に無意味かつ無礼な振る舞いというものだ。でも、それを踏まえてもなおキシュのこの繊細...

ダニロ・キシュを日本語で読む……なんと甘美な体験だろう(もちろん山崎佳代子の訳業がなければ成り立たなかったことだ)。激動の時代を生きたこの作家の書いたものを、わざわざ政治性を切り離して読むことは端的に無意味かつ無礼な振る舞いというものだ。でも、それを踏まえてもなおキシュのこの繊細さは「大文字の言葉」「イデオロギー」が塗りつぶしてしまうものをこそすくい取っていると評価したい。子どもはその幼心に、大人たちやこの世界の愚かしさと崇高さを見抜く目をすでに持ち合わせている。そんな唯物論的な目線と詩心が幸福に融合する

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2022/12/21

第二次大戦中に、ユダヤ人である父親が強制収容所に送られ帰らなかったという、著者自身の少年期の体験に基づいた小説。 (著者の母方はユダヤ人でないため、家族の中で父親だけが収容所に送られたのだ) その、恐ろしく歴史的な大きな出来事を、決して直接的な表現で描かないという点は、ダニロ・...

第二次大戦中に、ユダヤ人である父親が強制収容所に送られ帰らなかったという、著者自身の少年期の体験に基づいた小説。 (著者の母方はユダヤ人でないため、家族の中で父親だけが収容所に送られたのだ) その、恐ろしく歴史的な大きな出来事を、決して直接的な表現で描かないという点は、ダニロ・キシュの作品全てに渡って貫かれている。 物語はあくまで、繰り広げられる慎ましい日常に焦点を当てる。 だからこそ、ふとしたときに滲み出すような哀しみの描写に、少年の人生の至る所隅々にまで、歴史のもたらす悲劇が染み込んでいる、ということを読み手にはっと痛感させる。 叫ぶような哀しみの訴えとは違う、著者独特の技法であり、幼い少年が苦しみにじっと耐えて生きる様子に心を打たれる。 最後に少年に届く手紙に、この物語が「『若き日の』哀しみ」というタイトルである理由を教えられた。 若き日の哀しみは、成長とともに消えるのではない。 身体の器官のようにその人の一部となり、人生を共に生きるものとなる。 ダニロ・キシュの詩的で美しい描写を日本語で届けてくださる、訳者で詩人の山崎佳代子さんに、心から感謝する一冊です。

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2022/10/06

海外文学は独特の翻訳文が合わないことが多く、読まず嫌いをする傾向にありましたが、小川洋子さん推薦、という帯の言葉に惹かれ、読み始めると、冒頭、一行目から文章の美しさに感動しました。 翻訳者の山崎佳代子さんが詩人であることも理由のひとつかもしれません。抒情性が高く、一文一文が丁寧に...

海外文学は独特の翻訳文が合わないことが多く、読まず嫌いをする傾向にありましたが、小川洋子さん推薦、という帯の言葉に惹かれ、読み始めると、冒頭、一行目から文章の美しさに感動しました。 翻訳者の山崎佳代子さんが詩人であることも理由のひとつかもしれません。抒情性が高く、一文一文が丁寧に紡がれていました。   第二次世界大戦渦、ホロコースト、という歴史を踏まえて読むと、幻想的な雰囲気や不穏さが漂う描写にぐっと暗い背景が迫ってきます。 残酷にならざるを得ない、捨てて行かなければならない、引き裂かれてもう二度と会えない。 表題作は嗚咽しました。 こんなに、悲しいことが、あってはいけない、と思います。 人語を解する犬、というのはファンタジーです。ですが、この哀しみを少しでも癒すために、少年に必要だった、切実なファンタジーです。 同じ時代、アンディと似た境遇に心も体も引き裂かれた少年少女が、どれほどいたのかと思うと、苦しくてたまりません。 海外文学への印象が大きく変わり、心を深く大きく揺さぶられた一冊です。

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2022/01/12

文、言葉が美しい。言葉の裏にあるものから一層人間の深みや悩みを味わいもするが、何であろうと美しさの価値は美しさ自身にあり、悲惨を潜めた構造自体が美しい。だから美しさが苦しくもある。折に触れて読み返すと思う。

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2021/09/16

作者の第二次世界大戦中の体験などを自伝的に扱った作品。 一見美しい文章ですが、文章の背景には第二次世界大戦中の悲惨な出来事や時代背景が垣間見えて、それがより一層文章をどこか儚く美しくしています。 どこか哀愁漂う作品。当時のことなどをもっと学んでから読むと、より味わい深い作品になり...

作者の第二次世界大戦中の体験などを自伝的に扱った作品。 一見美しい文章ですが、文章の背景には第二次世界大戦中の悲惨な出来事や時代背景が垣間見えて、それがより一層文章をどこか儚く美しくしています。 どこか哀愁漂う作品。当時のことなどをもっと学んでから読むと、より味わい深い作品になりそうです。

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2019/08/14

確か、これが初めての五つ星評価のはずだ。友人のいる旧ユーゴスラビアの作家による短編集だということもあるのだろう。だが、その要因を除いても、深く心に残る佳作である。まるで詩のような短編の連なりであり、子供を題材にした美しくも、愛おしくも、そして、その裏には悲しみが潜んでいる。あまり...

確か、これが初めての五つ星評価のはずだ。友人のいる旧ユーゴスラビアの作家による短編集だということもあるのだろう。だが、その要因を除いても、深く心に残る佳作である。まるで詩のような短編の連なりであり、子供を題材にした美しくも、愛おしくも、そして、その裏には悲しみが潜んでいる。あまり詳細にわたって書くと、その印象が壊れてしまう気がするので、多くは語るまい。

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2018/06/25

オススメ文庫王国外文編byトヨザキ社長より。早々に頭から読み進めるのを断念し、解説から読んだおかげで、物語背景とか分かった上で味わえたから○。深読み力をアップさせたい気持ちはありつつも、そのせいで楽しめなかったら意味ないじゃんっていう開き直りのもと、これからもちょっとページを繰っ...

オススメ文庫王国外文編byトヨザキ社長より。早々に頭から読み進めるのを断念し、解説から読んだおかげで、物語背景とか分かった上で味わえたから○。深読み力をアップさせたい気持ちはありつつも、そのせいで楽しめなかったら意味ないじゃんっていう開き直りのもと、これからもちょっとページを繰ってよく分からんときは、やっぱりまず解説から。で本作。いわゆる私小説で、それだけあって若き日の哀しみがひしひし感じられました。解説から読んだ割に感想うすっ!

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2018/04/01

昨年、単行本で読んだので再読。 今回は文庫本で読みました。 少年アンディの日常を描いた物語。 美しい文章でつづられた珠玉の短編集です。 ああ、そうですか。 そうなりますわね。 でも、これを知ると、どうでしょう。 ダニロ・キシュはユーゴスラビアの作家。 第二次大戦中にユダヤ人の父を...

昨年、単行本で読んだので再読。 今回は文庫本で読みました。 少年アンディの日常を描いた物語。 美しい文章でつづられた珠玉の短編集です。 ああ、そうですか。 そうなりますわね。 でも、これを知ると、どうでしょう。 ダニロ・キシュはユーゴスラビアの作家。 第二次大戦中にユダヤ人の父を強制収容所に送られ、自身は母と姉とハンガリーの田舎で過ごしました。 この少年アンディには、作者自身が投影されています。 それを知ったうえで読むと、作品の印象ががらりと変わります。 たとえば、「婚約者」という短篇。 アンディはかくれんぼをしていて、好きな女の子と隠れているところを友達に見つかってしまいます。 アンディに殴られた友達は、アンディの姉に訴えます。 姉から母に伝わるのを恐れたアンディは家に帰らないと決めます。 夏は川で魚を釣って暮らし、冬は村から村を回って百姓の手伝いをして暮らすと決心します。 ところが夜になって冷えて来て、寒さと恐ろしさ、それに母を悲しませたくないという思いで、「旅をあと回し」にして家のある村まで戻ってきます。 ああ、自分の子供時代にも似たようなことがあったな、と思わず吹き出してしまいます。 たしかに他愛のない話です。 他愛のない話ですが、上記のような背景を知ったうえで読むと、かくれんぼをしたり、好きな子といるところを見つかったり、家出をしたりする、その一つひとつの場面が一層愛おしくなります。 それから何と言っても「少年と犬」ね。 前回のレビューで書いたからもう書かないですが、この「少年と犬」は、読まないと人生の大きな損失です。 なお、本作は明日、私ともう一人の新聞記者がプロデュースして初めて行う読書会の課題図書になっています。 とーても楽しみです。

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2017/02/25

同じ経験・環境を共有できていないためか、何となくわかる様な、分からない様な…作品に流れる閉塞感というか、将来への期待を持てない哀しみと、敢えて滑稽に表現するしかない状況に、呼吸が乱れ、アンディのベルキさんへの手紙に涙する。

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2016/12/01

ダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』(山崎佳代子訳)読了。夢みたいな本でした。読んでいる途中にふと頭の中にぽっと『夢』という言葉が浮かびました。夢を言葉にしたら文字にしたら文章にしたらきっとこんな感じなんじゃないかと思いました。 夢みたいなんて変な感想だよなと思っていたのですが、巻...

ダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』(山崎佳代子訳)読了。夢みたいな本でした。読んでいる途中にふと頭の中にぽっと『夢』という言葉が浮かびました。夢を言葉にしたら文字にしたら文章にしたらきっとこんな感じなんじゃないかと思いました。 夢みたいなんて変な感想だよなと思っていたのですが、巻末の山崎佳代子さんの文章を読んでいたら私の感じた感覚は強ち遠くもなかったようでホッとしました。 「映画のように映像をつないでいくこと、これによって、悲愴感を和らげることができる」とあるし、「文学とは、類なき人生を縦糸に、夢の言葉を横糸に織り上げていく手作業である」ともあります。「僕の子供時代は幻想だ、幻想によって僕の空想は育まれる…」と、キシュ自身も1987年のインタビューで語っているそうです。 映像と心象描写と空想や幻想が私に夢という言葉を思い浮かばせたのだと納得しました。 この『若き日の哀しみ』は、本当に短い幾つもの話が連なってできています。 キシュは旧ユーゴスラビアの作家で、この本は第二次世界大戦中に少年だったキシュの自伝的連作短篇集です。 父親はユダヤ人で、強制収容所に送られて帰らぬ人になりました。 時代背景が暗いので、作品の中を流れる空気も暗いです。 けれども、衝撃的で悲惨な事実を直接的には書かず、少年の心象描写とアイロニーとで描き出しているので、まるでおとぎ話のような様相を呈しています。 ある意味、詩のような、不思議な感覚の作品でした。 私は結構好きです。

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