チャイルド・オブ・ゴッド の商品レビュー
残酷な事件の裏に漂う哀感。コーマック・マッカーシーの世界を読む。 「チャイルド・オブ・ゴッド」は初期作品(1973年)だか、映画化によって2013年に邦訳された。 アメリカ、アパラチア山脈にある貧困部落で、母は男と逃げ、父は自殺した。身寄りがなくなったレスター・バラードが育った...
残酷な事件の裏に漂う哀感。コーマック・マッカーシーの世界を読む。 「チャイルド・オブ・ゴッド」は初期作品(1973年)だか、映画化によって2013年に邦訳された。 アメリカ、アパラチア山脈にある貧困部落で、母は男と逃げ、父は自殺した。身寄りがなくなったレスター・バラードが育った小屋を含め周りの土地まで、税金滞納で競売にかけられるところから始まる。 住処をなくした彼は、破れ小屋を見つけ、孤独な自給自走の生活が始まる。それが7~10歳のころ。 粗野で粗暴で村人にも馴染まなかったが、車で森に入ってきた若者のカップルを見つけて殺し、それから連続殺人が始まる。 妹に対する近親相姦から、殺した女を屋根裏に隠して死姦を繰り返し、ついには放火。 家がなくなった後は複雑な地形にある洞窟にすみ。まれな大洪水にみまわれ、犯行が現れて逮捕状が出る。弱りきった体で逃げ迷い、病院に来て自供し、死ぬ。 多くの人種が混在している、広いアメリカの社会では、こういった山間部には貧困部落があり多くの小説の題材になっている。この犯人レスター・バラードもそうした社会で、人と交わらず教育を受けないで育つ。ライフルの腕を頼りに銃をいつも持ち歩いて狩りで食べ物を得ている。無知と、生きるために食べなくてはならないその日暮らし。しかしそういった生活は、危険から身を守ることを(独白で)言葉にすることが出来ても、自分自身を振り返ってみることなどまったく思いつかない。見方によれば動物的に、本能だけで動く主人公を残酷なまでに描き出している。 陰惨な、犯人に関して言えば社会に見捨てられた悲惨な人生ではあるが、コーマック・マッカーシーが書く文章は、四季の風のそよぎであれ、吹きすさぶ吹雪に揺れる木であれ、レスターが徘徊する足の下で砕ける霜柱や、落ち葉が映つる無数の不透明なガラスのような霜柱を透る光など、澄み切った自然の風物が、テーマを浮き彫りにさせるような透明感を持って書き表す。 青く青い高い空、澄み切った流れ、野草に吹く風の音。鳥や獣の鳴き声や鳥の羽根が風を切る音。雪の上に残っている獣の足跡。作者の筆致は独特の情感を持っている。 またこの作品は、ショートストーリーを積み上げることで、シーンが違っても実に気の効いた形で、回りの雰囲気や、中でもレスターの生い立ちが徐々に判明するように話が進んでいく。 会話は括弧で囲まず詩のような箇条書きで雰囲気がいい、それも大きな特徴で、こうした構成が酷薄な事件を和らげているようにも思える。 現実に起きた事件を基にしているとも言われるが、前面の露悪的な生々しい事件の周りが,まるで別世界に思えるような爽やかで透明で、殺されて無残な姿を晒す遺体の姿まで、大きな自然の中では、最後は静かに土に返るのが自然に思える。 多くは非情な世界を書いているが、そうであっても読んでいると、こういった境遇に生まれた主人公の性のようなものから深い悲しみが伝わってくる。 マッカーシーは作品が映画化され作家として安定した。今ではノーベ文学賞候補ともささやかれているという。
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なんとも恐ろしい小説を書くものです。凄惨な事件の内容ではありません。タイトルが示すように主人公が神の子であれば私もまた神の子だということ。高みから見れば個々の差など無いに等しく、それを納得させられてしまうことが恐ろしい。
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佐藤究氏がコーマック・マッカーシーが好きだというので読んでみた。C・マッカーシーを調べてみると、映画で「ノー・カントリー」「ロード」を見たことがあった。「ノー・カントリー」はコーエン兄弟が監督だから、「ロード」はヴィゴ・モーテンセンが出ていたので見た。どちらも穏やかな世界を描いた...
佐藤究氏がコーマック・マッカーシーが好きだというので読んでみた。C・マッカーシーを調べてみると、映画で「ノー・カントリー」「ロード」を見たことがあった。「ノー・カントリー」はコーエン兄弟が監督だから、「ロード」はヴィゴ・モーテンセンが出ていたので見た。どちらも穏やかな世界を描いたものではなかった。その逆。 さて、この「チャイルド・オブ・ゴッド」である。いやはや、こちらもぶっ飛んだ男の話だ。しかし悲しい話でもある。時代設定は1960年代前半。レスター・バラードという27歳の男の話。母親は男と駆け落ちし、父親は自殺した。少年期から一人で生活しているようなのだ。第三者の目、近所の人の目、でバラードの人となりが語られる。そして孤立し、家も焼けてしまい、山の洞窟に入り、普通の社会から見れば異様な自分の世界に入り込む。 その語り口は純文学。修飾語が多い。しかし美文調ではない。が独特の世界観を形作っている。そして訳文が、「・・・した。 ・・・した。 ・・する。 ・・・した。」と過去形での描写の中に、現在形の『・・する。』というのが入る。原文がそうなのだろう。これは佐藤究氏の文体ではないか。 あまりすらすらとは読めなかったが、独特の物語世界が印象に残った。レスターはとんでもないことをしでかすのだが、解説によると、これは実際にあった事件にヒントを得たということだ。事件の資料に当たれてはいないが、1992年の「ニューヨークタイムズ」のインタビュー記事にそう書かれているということだ。 2014年に映画化されているのだが、パッケージを見るとちょっとイメージとちがうかなあ。読んで感じるものとしては、この本の表紙があっている。頭の中、脳みそ、意識のイメージ。 訳者あとがきによると、地理的舞台は、アパラチア山脈に住む白人貧困層~いわゆるヒルビリー の世界を舞台にしている。4歳の時からテネシー州で育ったマッカシーはこの世界に親しみを覚え、長篇第一作から第四作までの舞台に選んでいる。(これがマッカーシー作品の南部時代で、『ブラッド・メリディアン』からアメリカ南西部に作品世界が移った)。 1973発表 2013.7.15初版 図書館 web本の雑誌 今週はこれを読め・ミステリー編 杉江松恋 2013.7.12 https://www.webdoku.jp/newshz/sugie/2013/07/12/173031.html
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国境三部作以降しか読んでなかったので、かなり驚いた。そこで主人公たちは、ひたすら謙虚に慎ましく生きるものとして描かれていたからだ。レスター・バラードは怖れ、毒付き、卑小な欲望に流され、涙を流し、生にしがみつく。ある意味、それらの主人公たちよりも人間らしいと言えるかもしれない。これ...
国境三部作以降しか読んでなかったので、かなり驚いた。そこで主人公たちは、ひたすら謙虚に慎ましく生きるものとして描かれていたからだ。レスター・バラードは怖れ、毒付き、卑小な欲望に流され、涙を流し、生にしがみつく。ある意味、それらの主人公たちよりも人間らしいと言えるかもしれない。これはコーマック・マッカーシーが絶対悪を描き始める前に、人間の卑小な悪、それこそが本質だとでも言うように描いたものだ。ただ、やはり精緻な日々の営みや、自然の描写は詩的、神秘的で美しい。氏の作としては短く、読みやすい。っても、子どもにオススメできるような内容じゃないけど笑
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どちらかといえば初期のころの作品だが、 独特の文体、表現はすでにこの時点で固まっていたのだと思う。 猟奇殺人ではなく、 それを取り巻く世界を描いたという訳者の解説はなるほどと思った。
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アメリカの大作家、コーマック・マッカーシーの70年台の作品。 中編くらいの長さで一気に読めてしまう。 幕開けからして主人公が親から引き継いだ家土地を競売にかけられ追い出されるシーンが描かれる。 山中に引きこもった主人公は世捨て人にもなれず、性欲の持って行きばに困った挙句、連続殺人...
アメリカの大作家、コーマック・マッカーシーの70年台の作品。 中編くらいの長さで一気に読めてしまう。 幕開けからして主人公が親から引き継いだ家土地を競売にかけられ追い出されるシーンが描かれる。 山中に引きこもった主人公は世捨て人にもなれず、性欲の持って行きばに困った挙句、連続殺人と屍姦に手を染めていってしまう...凄まじく厳しく汚らしい話が美しい文体で綴られておりより凄惨な感じがする。 誰にでも薦められる作品では無いが大した文学であることだけは間違い無い...
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とある連続殺人犯のお話。内面は描かず、動機は問わず、ただたんたんと田舎のうらさみしい土地にたったひとり小屋に住み着き(無断)、狩をし、まきを割って暖をとる、そして気ままに暴力を振るい、動揺やためらいもなく人を殺す。彼は結局彼自身が送った人生に相応するような無機質な最後を迎える。読...
とある連続殺人犯のお話。内面は描かず、動機は問わず、ただたんたんと田舎のうらさみしい土地にたったひとり小屋に住み着き(無断)、狩をし、まきを割って暖をとる、そして気ままに暴力を振るい、動揺やためらいもなく人を殺す。彼は結局彼自身が送った人生に相応するような無機質な最後を迎える。読み終わって後を引くのは疑問や同情じゃなく、単純な淋しさ。
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2章の途中で読むのを断念しました。 「文学」として、どれほどの価値があって 傑作と評されているのかわかりませんが、 「小説」としては、面白くありませんでした。 少なくとも私には。 独特の文体とリズムがあって、原文がそうなのか 翻訳特有の文章感になっているのかわかりませんが た...
2章の途中で読むのを断念しました。 「文学」として、どれほどの価値があって 傑作と評されているのかわかりませんが、 「小説」としては、面白くありませんでした。 少なくとも私には。 独特の文体とリズムがあって、原文がそうなのか 翻訳特有の文章感になっているのかわかりませんが たぶん両方なんだろうと思います。 それに馴染める人は苦にならないと思いますが 殺伐とした内容に加えて、淡々とした地の文と やさぐれた会話文を読んでいると いやーな気分になってきて、どこに面白さを 見出していいのかわかりませんでした。
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数年前から読みかけの『ブラッド・メリディアン』を一旦置いて手に取った。連続殺人犯の物語である。起伏も抑揚もない会話にまっすぐに胸を突かれる。絶対的な孤独のうちに世界のなかを彷徨うとき、世界はどのように立ち現れ、人間はどのような本性をあらわにするのか。 凄惨さをきっちりと描き出し...
数年前から読みかけの『ブラッド・メリディアン』を一旦置いて手に取った。連続殺人犯の物語である。起伏も抑揚もない会話にまっすぐに胸を突かれる。絶対的な孤独のうちに世界のなかを彷徨うとき、世界はどのように立ち現れ、人間はどのような本性をあらわにするのか。 凄惨さをきっちりと描き出しつつ、文章の美しさと立ち上がってくる情景、におい、湿度にはただただ驚かされる。それがどこか痛快な読み応えというのも、とてもいいと思った。小説として、素敵なことだと。どこか人間の素晴らしさというか、人間を肯定している印象を受けることも また。 巻末のカポーティ『冷血』との比較がなされているけれど、個人的にはこちらのほうがより胸に迫るものがあった。 鋭利な“生”という芯が現れるまで削られて、ひりひりした世界に一時つかり、その世界から戻ってきたときのなんとも言えない透明感。
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内容はおどろおどろしい暴力だが、薄物一枚かぶせた現実感のない世界の、解剖を眺めているような感覚がした。感情表現のないたんたんとした描写の中に、ときどきはっとするような景色が広がって、不思議な世界観だった。彼も人間だったのだろうか?理解しあえるのだろうか?
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