聖痕 の商品レビュー
美しい子供,葉月貴夫の性器切り取られてからのきらびやかな一生.その容姿,頭脳,財力,たったひとつのものの欠如以外過剰なまでの力.圧倒されました.そして何よりそれを支える文体にも圧倒されました.
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何かを喪はなければ、それも比類無き透徹した狂気ゆえの純粋さによって奪はれなければ示現できない聖なるモノ。 ある種、現代の殉教とも言えるような雰囲気を独特な文体とともに揺蕩わせている…。
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何より著者の老獪な文章力に舌を巻く。誰の真似でもなく(昭和初期の文体のパロディと言えなくもないが)、リズムがあり、ビートがある。遠慮呵責なく難解な熟語を使い、読点もほとんど無いのだが、流れるように読める。この本がどのように評価されているのかは知らない。著者の本は8割方読んでいるが...
何より著者の老獪な文章力に舌を巻く。誰の真似でもなく(昭和初期の文体のパロディと言えなくもないが)、リズムがあり、ビートがある。遠慮呵責なく難解な熟語を使い、読点もほとんど無いのだが、流れるように読める。この本がどのように評価されているのかは知らない。著者の本は8割方読んでいるが、見知らぬ場所へ誘うストーリーも含め、大傑作の一つなのではないか。
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筒井康隆の現時点での最新長編の語り口は視点の移動という実験だ。通常は一人称小説だったり三人称小説だったり、視点はひとつに保たれていなければならないとされるが、ここで視点はコロコロと移っていく。映像作品などはそんなものかも知れないが、それを小説でやってしまう。まずは擬古的な文章で...
筒井康隆の現時点での最新長編の語り口は視点の移動という実験だ。通常は一人称小説だったり三人称小説だったり、視点はひとつに保たれていなければならないとされるが、ここで視点はコロコロと移っていく。映像作品などはそんなものかも知れないが、それを小説でやってしまう。まずは擬古的な文章で始まるのだがそれは老人が回想しているかのようだ。何を回顧しているのかといえば幼い頃のことのようである。次の段落は赤ん坊が快適な子宮から引き離され怒っている台詞になる。それから視点は周囲の人々などに何の説明もなく移動する。対話もほとんど括弧抜きで羅列される。つまりそういうわけ。私がこうして喋っているじゃない。うんうん。すると今度はあなたが何か言うわけ。俺がなんか答えるよな。答えるでしょ。普通なら括弧でどこまでが一人の台詞か区別されるけど、それがないのよ。それじゃあ誰が喋っているかわからないじゃないか。わかるのよ。口調ってものがあるじゃない。おおそうじゃのう。いや、だからそういうことすると誰が乱入してきたかわからなくなるでごいす。『創作の極意と掟』によれば、こうした記述について行けなかったのは普段小説を読まない人だけだったという。 語り口のもうひとつの特徴は枕詞や古語の濫用であり、後半に行くほど増えてきて、難解な古語には脚注をつけてまで敢えて使用せんとす。それにて生まるるものはあたかも音楽の如き律動なり。 そうした語り口で語られる内容はというと、上述の生まれて怒っていた赤ん坊、葉月貴夫の物語である。聖痕とは、義手、義歯、義眼。あ、これはパーマー・エルドリッジの、だった。 貴夫は中小企業の経営者家庭の長男で、類まれな美貌を持つ。ええっ。男の子。まあ。男のお子さんなの。嘘みたい。女の子だってこれほどの。ところが、5歳の時、彼は変質者に性器を切り取られてしまう。ここまでほんの数ページ。聖痕とは切り取られた痕のことなのである。 作者の目論見は、リビドーのない人物を生み出すこと。人間を動かす動因は広義の性欲であるという考えから、それがない人物を作りだす実験である。リビドーのない人間には、つまるところ小説にしろ映画にしろ音楽にしろ、芸術の深奥を理解することはできず、よって、貴夫はどんなに上手に歌を歌っても真の表現はできない。もっとも、性ホルモンを無くしたからって、リビドーがなくなるわけではないのは、宦官やカストラートの行状をみればわかるが、本書ではそういうことにしておこうということだ。 貴夫の家族は貴夫にそのような欠陥があることをひた隠しにする。そんな貴夫に唯一残された悦楽が味覚であった。味覚を研ぎ澄ましていく貴夫は、料理の世界へと進んでいくが、この世のものとも思われぬ美貌を持つ貴夫に男も女も引き寄せられ、貴夫の秘密が暴かれる危機が何度となく襲ってくる。作者のサディスティックな筆がいつ貴夫を襲うかだくめいて読むこととなる。(註:だくめいて どきどきして) 貴夫が陰部を切り取られ、一家がこっそりと居所を移したときは折しもオイルショックであり、その後も貴夫の半生の語りの随所にその時代の風物や重大事件に言及される。少年の貴夫がテレビで「バビル2世」を見ていたり、アメリカと中国が国交を樹立したり、そしてバブルに翻弄され、最後にやってくる大きな出来事といえば当然あれである。他方、貴夫を手にかけた犯人は捕まらないままであり、その決着もひとつのクライマックス。 語り口も語りの内容も表現欲に満たされており、筒井さんよ、あんたにゃ、聖痕はないね。
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まず、まだまだ知らない日本語がたくさんあることに驚き。枕詞や難しい日本語を多用するところに筒井さんの実験的姿勢が感じられて楽しかった。 内容については、性欲のない聖人のような人生も自分の軸がブレることなく信念を持ててそれはそれで魅力的、だけど性欲があるがゆえに足掻いたりみっ...
まず、まだまだ知らない日本語がたくさんあることに驚き。枕詞や難しい日本語を多用するところに筒井さんの実験的姿勢が感じられて楽しかった。 内容については、性欲のない聖人のような人生も自分の軸がブレることなく信念を持ててそれはそれで魅力的、だけど性欲があるがゆえに足掻いたりみっともなかったりする人生も、その俗っぽさがいいなぁと思った。全てはその人次第で、良くも悪くもなれるなぁ、と。激動の世の中を生きる色んな人間の人生について読めてとても面白かった。
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朝日新聞に連載してたそうだ。5歳の時におちんちんを切られた男の子の人生記。すごーく面白いってわけじゃないけど、やっぱ面白かった。私の中に筒井康隆は住みついているとしみじみ思う。難しい言い回しが多く、注釈も多い。これは筒井康隆の造語なのではないかと思うものも。七瀬の(カッコ書き)もあったし、暴力的な部分もあるし、エロティックなところもあるし。いちいち筒井康隆だなぁと思ってしまう。ほんと貴夫は神様のようだよなぁ。
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古語、会話文を地の文と同化させる等々の文体、そして何より、主人公の美しさに驚嘆させられた。 いやはや、すごい小説だった。 ただ、わざわざ震災を絡める意図が見抜けなかった。
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買ったはいいが、どこかに往ってしまってようやく読むことが出来た。 類まれなる美少年だが、幼少時変質者に性器を切り取られてしまい、リビドーを生涯持たない男として歩む半生を書いた本。裕福な家庭に生まれ、恐ろしいくらいに美しく、しかも東大に進む彼。全女性からの憧れを受けるも、女に全く興...
買ったはいいが、どこかに往ってしまってようやく読むことが出来た。 類まれなる美少年だが、幼少時変質者に性器を切り取られてしまい、リビドーを生涯持たない男として歩む半生を書いた本。裕福な家庭に生まれ、恐ろしいくらいに美しく、しかも東大に進む彼。全女性からの憧れを受けるも、女に全く興味なく、興味は美食。そんな男が青年から社会人になり、なんと結婚し、果ては子供まで・・・。そんな人生記は読んでみたいでしょう、まして筒井が書いたとなれば。たくさんある脚注も面白い。
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1973年、葉月貴夫は5歳にして性器を切り取られた。しかしなお美しく健やかに成長した貴夫は、周囲の人びとのさまざまな欲望を惹き起こしていく―。彼は、果たして我らの煩脳を救済し給うのか?巨匠筒井康隆が、古今のありとある日本語の贅と、頽廃的なまでの小説的技術の粋を尽して、現代を語り、...
1973年、葉月貴夫は5歳にして性器を切り取られた。しかしなお美しく健やかに成長した貴夫は、周囲の人びとのさまざまな欲望を惹き起こしていく―。彼は、果たして我らの煩脳を救済し給うのか?巨匠筒井康隆が、古今のありとある日本語の贅と、頽廃的なまでの小説的技術の粋を尽して、現代を語り、未来を断固予言する、数奇極まる“聖人伝”
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※このレビューにはネタバレを含みます
齢80になる大御所の最新作であるが、その作風は実に瑞々しい、やけに古色めいた文体は後半になるにつれ興が乗ってきたのか甚だしくなるが、ストーリーの展開を妨げる物でもなく、一昔前の文学を読んでいる気にさせるが、内容は現在に至るまでの話である。5歳で生殖器を失った主人公ではあるが、以後の人生は順風満帆であり、わざわざこんな人生を物語にする必要があるのかとも思ったが、スケープゴートが失くした生殖器だったなんて、まるで星新一のショートショートの落ちではないか、さすがはSF小説家である。
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