謎の独立国家ソマリランド の商品レビュー
今日本語で読める一番詳しい、ソマリ(ア)近現代史、内戦とその後を書いた本ではないかと思う。そして、ソマリ社会のすべてとも言え、内戦や海賊を理解するのに欠かせない氏族システムやソマリ人の考え方、文化が非常におもしろい。 首都モガディショで内戦が始まった91年、独立を宣言した北部の...
今日本語で読める一番詳しい、ソマリ(ア)近現代史、内戦とその後を書いた本ではないかと思う。そして、ソマリ社会のすべてとも言え、内戦や海賊を理解するのに欠かせない氏族システムやソマリ人の考え方、文化が非常におもしろい。 首都モガディショで内戦が始まった91年、独立を宣言した北部のソマリランドは、その後二度の地域内の氏族どうしの内戦を自分たちで和平交渉を行い「清算」し、96年にソマリランド憲法を制定、氏族の人口に比例した議会で政党政治を続けているらしい。武装解除もしているし治安もいい。選挙の後に暴動も起きず、政権交代も受け入れている。 民族と国家の関係や、憲法とは何か?民主主義とは何か?平和を維持するとはどういうことか?について、欧米や国連を気にするがゆえに超越していて、日本の改憲護憲論争が間抜けに見えるくらいのインパクト。ソマリランドの政治家や政府官僚のほうが、日本の政治家より立憲主義、民主主義を勉強していて、かつ実践しているんじゃないか? 政治的な偏りも偉そうな先進国目線もアフリカへのヘンな肩入れもなく、対等な存在として受け入れられ内側をつぶさに見てきた著者に敬意を表します。(アニメに例えるのはちょっとくどかったですが) 個人的には、アル・シャバーブとソマリ社会の関係、イスラム過激派とイスラム国家の矛盾をようやく理解できてよかった。
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内戦状態にあったアフリカ・ソマリアの中に、内戦 を自力で終結させ、独立を宣言した平和な「共和国」 がある、という。 しかも、情報はわずかでこの分野の専門家もいない。実際に行ってみると、この「国」はやはり謎だらけだった。公称人口は約350万人で、独自の通貨「ソマリランド・シリング」が流通。 覚醒効果のある木の葉「カート」を食べながら人々との交流を深めていく中で、様々な氏族に分かれ掟で合理的に解決を図るソマリ人社会を理解していく。 さらには海賊国家プントランド、戦国南部ソマリアを自らの目で見て描かれている。高野秀行の新たな代表作ともいえる。 カートを咬みながら、自分が海賊を雇って船を襲った場合の見積を作成してしまうあたりが高野秀行らしい。(襲うのは日本の船)
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分厚い本だけれども、すごくおもしろくかつ読みやすくて一気に読みました。 異国の旅の語りのおもしろさと、未知だった歴史・社会・文化を知る楽しさの両方を堪能できます。 すごいところだ、ソマリランド!
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リアル北斗の拳か、はたまたラピュタか…? アフリカの、謎に包まれた「ソマリランド」の体当たりルポ。 ややこしいことをわかりやすく、面白おかしく書かれていて、面白ルポタージュとして読めます。 しかし、ソマリランドの状態の考察からは西欧にがんじがらめになっているイデオロギーへの批判も...
リアル北斗の拳か、はたまたラピュタか…? アフリカの、謎に包まれた「ソマリランド」の体当たりルポ。 ややこしいことをわかりやすく、面白おかしく書かれていて、面白ルポタージュとして読めます。 しかし、ソマリランドの状態の考察からは西欧にがんじがらめになっているイデオロギーへの批判も浮かび上がってきていて、現地で体験したからこその作者の熱い思いがにじみ出ています。 理屈抜きでも面白いし、深く読んでも味わい深い、最高な一冊でした。 どんどんソマリ化していく高野さんも見所です。
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超絶お勧め。こういう本と巡り会うために人は読書するのだと言っても過言ではないと思う。高野氏の本は表層的な意味ではエンタメ本なのだが、別の側面から見るとほぼ全ての本において、洗練された国際社会・政治の教科書なのである。 無政府状態が続き"リアル北斗の拳"状態が続...
超絶お勧め。こういう本と巡り会うために人は読書するのだと言っても過言ではないと思う。高野氏の本は表層的な意味ではエンタメ本なのだが、別の側面から見るとほぼ全ての本において、洗練された国際社会・政治の教科書なのである。 無政府状態が続き"リアル北斗の拳"状態が続くソマリア(映画『ブラックホークダウン』で御存知の方も多いと思う)の中で、武装解除を行って独立し、平和を享受しているが、国際社会からは全く認められていないソマリランドという国がある。 この国は何なんだ?行って確認してみよう!というところから始まるいつもの高野氏。そして知らず知らず国際社会・政治の勉強を高野氏から受けている読者。 この本の本質は、本の帯に書かれた「西欧民主主義、敗れたり!!」に最も良く表されているのではないかと思う。
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事前に予約してサイン本をGET。いやこれは本当にすごい一冊でした。高野さん久々にホームラン。というか、世界的に評価されていいルポルタージュだと思います。 戦闘状態が続くソマリアの中で、独自に武装解除して平和に暮らしている、どこからも認められていない国「ソマリランド」。なぜそんなこ...
事前に予約してサイン本をGET。いやこれは本当にすごい一冊でした。高野さん久々にホームラン。というか、世界的に評価されていいルポルタージュだと思います。 戦闘状態が続くソマリアの中で、独自に武装解除して平和に暮らしている、どこからも認められていない国「ソマリランド」。なぜそんなことができているのかを、現地の人になじむことで、(彼ら自身が報道しないことを聞いて)あぶりだしていきます。そこには日本の崩壊しかかっている民主主義なんかはるかに超えた仕組みがある。その仕組みや彼らが持つ“氏族”について、日本の戦国武将の名前を(仮に)つけたりしながら、読者がすんなりと読めるようにしているという工夫はさすが。読み応えもあるし、面白いし、海賊国家プントランドや、内戦が続く南部ソマリアにも実際に足を運んで、なぜ海賊を国が取り締まれないのか、なぜソマリランドが内戦をやめられたのに、南部ソマリアはやめられないのかなど、その歴史や氏族のことでしっかり解説する。高野さん自身が納得するまで調べて、話を聞いているし、何より彼らが腹をわって話をする「カート宴会」に一緒になって参加しているからこそ聞き出せたことなんだと思います。 確かにエンタメノンフではあるし、面白く書いてあるのだけれど、ルポルタージュとして本当に価値ある一冊になっています。
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「民主主義」「平和維持」の「別解」を見せつけられているような感じがした。しかし、よく考えてみるとこの「別解」も全くの異次元からやってきたものではなく、我々がかつて過去に 通り過ぎて忘れてしまったものに非常に近いことに気付かされる。 などど難しいことを考えなくても、著者の「郷に入...
「民主主義」「平和維持」の「別解」を見せつけられているような感じがした。しかし、よく考えてみるとこの「別解」も全くの異次元からやってきたものではなく、我々がかつて過去に 通り過ぎて忘れてしまったものに非常に近いことに気付かされる。 などど難しいことを考えなくても、著者の「郷に入っては郷に従う」ぶりの面白さ、ソマリアの謎がジグソーパズルのピースを嵌めるように著者の中で明らかになっていく様は読んでいて痛快だし、著者が最後に至った境地にもうなずいてしまう。ボリューム満点だけど一気に読めてしまう本である。 2013年6月追記:先のアフリカ開発会議(TICAD V)においてアフリカへの投資が話題に挙がったが、皮肉にも、アフリカの投資案件の中で投資リスクとか利益構造が最もはっきりとしているもののひとつが海賊ビジネスだったりすることを本書は雄弁に語っている。さて、これをどう見るかだが...。 2013年12月追記:友人に貸していた本書が帰ってきたのでつい手に取ってしまい二周目の読了。試行錯誤と多大な犠牲の上に自らの手で作り上げた民主主義の凄さと、それを維持するためには多大な努力を続けなければならないことを再認識。
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法律や貨幣があり、それが機能して色々な仕組みや役割が当然のように存在している世界で生きていると、国家や法律、貨幣というものが何故必要なのか、最低限どういうことが必要なのか、ないとどうなるのか、ということを知る機会は見事にありません。 統一国家が崩壊し、他国の介入もままならない状...
法律や貨幣があり、それが機能して色々な仕組みや役割が当然のように存在している世界で生きていると、国家や法律、貨幣というものが何故必要なのか、最低限どういうことが必要なのか、ないとどうなるのか、ということを知る機会は見事にありません。 統一国家が崩壊し、他国の介入もままならない状態のソマリア。その中で、民主主義の平和な国と、海賊マネーで潤う国と、戦争状態の国があります。その差は何なのか。 "氏族"の統治の功罪から、世界的には「最貧国」と言われる地域でのリアルな生活の実情を、護衛もつけずに現地の人やジャーナリストから情報を得ながら、空調もリクライニングもきかない飛行機で移動する、等身大の著者の書きっぷりから、そのリアルな実情を知ることができ、大変興味深い一冊です。
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高野さんご自身が渾身の作と言っているノンフィクション。 高野さんはよその国の複雑な事情を分かりやすく書くのが本当に上手い。普通の作家の本だと内容が頭に入らなくてつい流してしまうような複雑な事情や関係性がすんなり頭に入ってくる。 今回のソマリランドおよび旧ソマリア一体についてもそうだ。想像以上に平和なソマリランド、あちこちにある謎の独立国家、それらを根底から支える氏族制…。今まで全く知らなかった「海賊の国」が生き生きと、身近な存在として頭に入ってくる。 大変な力作だと思うが、私が★4つにしてしまった原因の一つとして、「高野さんの冒険譚が読みたかった」と言うのがある。もちろん危険なモガディショやプントランド訪問など、今回も高野さんは果敢に攻めている。ただ、危険すぎて自由度がなく、「アヘン王国」や「西南シルクロード」のようなワクワク感があまりなかった。「冒険している」とうよりは「連れて行かれる」という感じがあって、「これからどうなるんだろう?何が起こるんだろう?」というような先が気になる感覚、1つの冒険が始まり、クライマックスを迎え、大団円を迎えると言うような盛り上がりに欠けた。 もちろんソマリアの研究書としては本当に一級品だと思うし、高野さんの攻めの姿勢は★5つに値すると思う。 また本編の内容と直接関係があるわけではないが、高野さんの本1冊につき、印税が60万位というのが衝撃的だった。こんなに取材して、素晴らしい本を書くのに60万程度とは…。もっと評価されても良いと思う。是非高野さんのためにも本書をお買い上げ頂きたい。 最後にちらりと書かれていたラクダキャラバンの旅が楽しみだ。
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これは高野秀行にしか書けない国際社会の本だ。これは高野秀行にしか書けない政 治の本だ。 つまり、この本は高野秀行にしか書けないエンターテイメント国際社会政治ノンフィ クションだ。 普通の政治学者やジャーナリストがこのソマリランドを取材して発表したとしても、 きっとこんな作品...
これは高野秀行にしか書けない国際社会の本だ。これは高野秀行にしか書けない政 治の本だ。 つまり、この本は高野秀行にしか書けないエンターテイメント国際社会政治ノンフィ クションだ。 普通の政治学者やジャーナリストがこのソマリランドを取材して発表したとしても、 きっとこんな作品にはならない。「ソマリア共和国内におけるソマリランドの位置づ けと平和維持と民主化」なんてタイトルで味も素っ気もない論文にしてしまう。 地図で見るとアフリカ大陸がインド洋に向かって角を突きだしたような場所、国際 的には、ソマリア共和国とされる地域にソマリランドはある。 このソマリランドは、紛争が絶えないアフリカ東部にあって例外的に、住民自ら武 装解除を行い内戦を終結させ、複数政党制による民主化、普通選挙による大統領選挙 を行った民主主義「国家」なのだ。 「隣国」のソマリアは、無数の武装勢力が跋扈し「リアル北斗の拳」とも呼ばれて いるのに。 作者・高野秀行はこの「国」ソマリランド、そしてソマリアについて、ただの個人 的見聞だけでなく、十分な取材をし、歴史面社会面政治面にわたり、まとまった文章 を書きあらわした。 取材方法は、ミャンマーの辺境地域をルポした『アヘン王国潜入記』でもおなじみ のとにかく行ってみること。取材というよりも体験? 探検? 「自分の目で見てみないとわからない」ということで徹底している。 今回の作品は、いつもの紀行、探検色よりも政治色が強いが、あいかわらず訪れた 場所、出会った人と半端でない関わりを持つ。 ただの一日本人が、ソマリランドについて街ゆく人と激論を交わし、通訳から「兄 弟」と呼ばれるまでになる。 高野秀行の魅力、個性が炸裂する最終章まで読み進んでいってほしい。
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