悪意の手記 の商品レビュー
電車の中だと気が散り、仕事終わりだと疲れて眠くなり、また小刻みに読むと内容を忘れてしまうため、読み進めることに非常に気を使う小説だった。 結果的に、自宅で一気読み。 頭の中を この物語のことでいっぱいにする必要があったし、読後はとても疲れてしまったが、読む価値のある話だった。 ...
電車の中だと気が散り、仕事終わりだと疲れて眠くなり、また小刻みに読むと内容を忘れてしまうため、読み進めることに非常に気を使う小説だった。 結果的に、自宅で一気読み。 頭の中を この物語のことでいっぱいにする必要があったし、読後はとても疲れてしまったが、読む価値のある話だった。 人を殺した人間には、自らの罪に罪悪感を持つタイプと持たないタイプがいる。 主人公は後者だ。 しかも親友を殺害する前から何度も自殺を試みているがいずれも失敗している。 この世界に生きている魅力を感じず、かといって死ぬことへの恐怖にも耐えきれない。 死ぬかもしれないという病気がまさかのまさか、完治してしまい、自然に死ねなくなってしまったところから、主人公の苦悩と暴走は始まる。 自分自身、殺人者は刑務所に服役し出所したあと、自分の人生をどのように捉えているのか、とても気になっていた。 例えばこの物語にも出てくる、暖かい陽の光に感動したり、目に涙を溜めるような瞬間は、果たして訪れるのだろうかと。 そして、責任をとるということはどういう風に捉えて居るのかと。 もちろん、殺害した人間は蘇らない。殺害への対処刑として死刑はあるが、執行には長い裁判からの判決、それに忍耐が必要だ。 この話は前半、加害者側の一人称で語られ、後半は被害者の視線を交えながら再び加害者の主人公の目線に戻って結末を迎える。 病気になり、周りは生きていく日常が約束されているのに、自分だけが死ぬという日常が、主人公を狂わせてしまった。 人を殺すことで逮捕され、地に落ちた自分を救ってくれる誰かが現れるのを期待している、という描写。 それに絡めて、多くの人間から容認されれば、時と場合によって人殺しは日常になる。 という箇所もハッとさせられた。 多人数の支持を得られれば、常識は変化するのだと。 それを自分勝手に解釈し、ルールを我がもの扱いした主人公が怖かった。 正当化するのに自白したくなかった主人公が、最後には自らの犯行を告白する場面では、涙が出てきた。 それはきっと、彼の中に少しだけでも良心があることがわかったからかもしれない。
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大学に通っていた頃、当時俺が悩まされていた家庭の問題だったか、或いは精神状態の話だったか、何かは忘れたが、唐突でくだらない、しかし自分だけが刺されているのではないかというようなテーマで講義が進むことが度々あった。自分の研究成果を嬉々として語る教授には強烈な憤りを覚え、それに喰らい...
大学に通っていた頃、当時俺が悩まされていた家庭の問題だったか、或いは精神状態の話だったか、何かは忘れたが、唐突でくだらない、しかし自分だけが刺されているのではないかというようなテーマで講義が進むことが度々あった。自分の研究成果を嬉々として語る教授には強烈な憤りを覚え、それに喰らいついて意見を述べる熱心な学生には虫唾が走った。一応の健康を取り戻した今、あそこでうまくやれていればというやりきれない思いが毎日波のように押し寄せる。何はともあれ進んでいくしかないのだけれど。この春から大学生になる弟には、悔いのない学生生活を送ってほしい。
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ミステリーに近い純文学という印象を受けた。 主人公の序盤での殺人からの心理的な様子、そして終盤でのそれを抱えてなおも生きて償うという姿勢がなぜだか人間らしく感じた。 少なくとも殺人者という現実は変わっていない。善良である訳が無い。 ただ、暗いだけではなく、少年犯罪というテーマに即...
ミステリーに近い純文学という印象を受けた。 主人公の序盤での殺人からの心理的な様子、そして終盤でのそれを抱えてなおも生きて償うという姿勢がなぜだか人間らしく感じた。 少なくとも殺人者という現実は変わっていない。善良である訳が無い。 ただ、暗いだけではなく、少年犯罪というテーマに即した物語だったと思う。 起きてしまった事件に対して本当に償うこと・責任を取ることなど誰にもできないと感じた。 だからこそ、日頃人間が生活する中で小さな殺意が生まれたときにこの話を思い出したい。 手記という形式だからこそ心に刺さるものがあり、リアルに感じた。
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人を殺してはいけないのはなぜかというテーマを作者がじっくりと丁寧に考えて執筆したことがよく伝わる。一つ一つの言葉に真実味があって入り込めた。この作者の文章は好きだなと改めて思った。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
読みやすかった。手記の形態で書かれた本作は、中村文則いつもの展開で、今回は絶望を経験した人間が、光の当たる現実に連れ戻され、やはり絶望としての生を全うするしかなかった人間の話。 恨みとは何なのか、人を殺すとはどういうことなのか、この世のきれいなものはどんなものなのか、いろいろ考えさせられた。
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主人公が体験して行くそれぞれに、生々しい手触りがあり、遠い出来事のようでも自分の生活の延長に感じる事が出来ました。 要所要所で、主人公がなぜそういった行為に及んだか、の理屈による説明が欠落している部分も、こういった状況にある人間の心理の動き方として、妙なリアリティを感じてしまいま...
主人公が体験して行くそれぞれに、生々しい手触りがあり、遠い出来事のようでも自分の生活の延長に感じる事が出来ました。 要所要所で、主人公がなぜそういった行為に及んだか、の理屈による説明が欠落している部分も、こういった状況にある人間の心理の動き方として、妙なリアリティを感じてしまいました。いつも理屈があるとは限らない。 自分から遠いはずの主人公の生活を追体験している様な恐ろしさがありました。
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最近、中村さんの本を読んでいない事に気付き、読み逃していたこちらを拝読。 ご本人もあとがきで書かれていましたが、中村さんがよくテーマにされている「悪」というモノにどっぷりと浸かれます。 なので、気分が落ち込んでいる時には読むのを控えられた方が宜しいかと思います。 読書、たのしー...
最近、中村さんの本を読んでいない事に気付き、読み逃していたこちらを拝読。 ご本人もあとがきで書かれていましたが、中村さんがよくテーマにされている「悪」というモノにどっぷりと浸かれます。 なので、気分が落ち込んでいる時には読むのを控えられた方が宜しいかと思います。 読書、たのしー!ひゃっほー!のテンションで読み始めた私ですら、引き摺られそうになりました。 流石だなあ…。
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少年と青年の狭間の衝動を突き詰めた作品。命あるものを殺める衝動の仮説は迷妄とした感情を順序立てながら表現する心理描写で数学の証明問題を解説しているような感じを受けた。手記の形をとった青年の独白にはリアリティがある。何かよからぬことに手を染めた経験があるのではと思わせる表現力は相当...
少年と青年の狭間の衝動を突き詰めた作品。命あるものを殺める衝動の仮説は迷妄とした感情を順序立てながら表現する心理描写で数学の証明問題を解説しているような感じを受けた。手記の形をとった青年の独白にはリアリティがある。何かよからぬことに手を染めた経験があるのではと思わせる表現力は相当な体力と想像力を働かせていたに違いない。 不道徳に相当する行為の原理のあらゆるものが、不安・恐怖・絶望 →弱さ・甘え→虚無→狂気→破壊・自壊 という心理の順で成立してるかもしれないと読書後半から何度も思った。 不安や恐怖を感じて急には気が狂ったりはしない。理性や共感性が必ず反応する。ただ正しく作用しているはずの理性や共感性が現実に負けてしまう時がある。あるいは解決できないと萎えてしまうときがある。自分の弱さに気づき甘えてしまう。実際の現実は毎日がその連続だ。 そして楽になるためにはと魔が刺す瞬間がある...。 殺人をしてしまう悪意がどう生まれて、どう付き合うかがこの小説のテーマだが、悪意の頂点を殺人だとして、それより小さな悪意の発生まで範囲を広げて考えてみると自分にも思いあたることが多くてゾッとする。 自分たちは小さな悪意がデフォルトな世界で生きている。そんなことを思わされた読書でした。
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中村文則さんの作品を文庫版の出版順で読んだので、これが4冊目になるけど、実際には土の中の子供の方がこれより後に書かれたようだ。銃、遮光、土の中の子供と比べて、悪意の手記の方が個人的に完成度の一番高い作品だ。ページ数的に初めての長編になるかもしれない。とても素晴らしい作品だった。
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人を殺してしまった青年は、常に死と罪に囚われている。死を考えるほど生と向き合うことになり、犯してしまった罪を突きつけられる。死を望みながら生きたがってる。人殺しに相応しいクズ人間として生きることを決意しながら、周りの人の幸せも願う。
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