リア家の人々 の商品レビュー
文部省の官僚だった砺波文三は、終戦後に公職追放の憂き目に遭います。妻のくが子と環、織江、静の三人の娘を抱えて職をうしなった彼は酒に溺れた日々をすごします。やがて新たな職を得て、一家にふたたび平穏が訪れたかと思ったものの、くが子が病に倒れ、この世を去ります。病床にある妻を気遣いなが...
文部省の官僚だった砺波文三は、終戦後に公職追放の憂き目に遭います。妻のくが子と環、織江、静の三人の娘を抱えて職をうしなった彼は酒に溺れた日々をすごします。やがて新たな職を得て、一家にふたたび平穏が訪れたかと思ったものの、くが子が病に倒れ、この世を去ります。病床にある妻を気遣いながらも、同僚の未亡人である窪園千鶴子の経営する小料理屋を訪れた彼は、彼女と関係を結びます。 妻が亡くなり、文三は千鶴子との再婚を考えますが、妻の一周忌でその話をもちだしたところ娘の環は猛然と反対し、文三は娘たちとともに妻のいない家で戦後という時代を生きていくことになります。やがて環や織江は結婚し、砺波家には文三の甥で東大受験をめざす高校生の秀和がやってきていっしょに暮らすようになります。文三は、娘たちや若い秀和の熱中する戦後の文化の隆盛に戸惑いながら、家のなかにも起こりつつある変化を横目でながめつつ老いていきます。 シェイクスピアのリア王の孤独に、戦後という時代を生きた文三のすがたをかさねあわせた作品です。この時代の世相にくわしく立ち入り、登場人物のそのときどきの心理が形成されていくロジックについて分析的なことばを書きつらねていく著者のスタイルは本作でも健在です。その一方で、孤独のなかへと沈んでいく文三と、恋人の石原と別れて家を出ていく静の将来に、著者がなにほどかの希望を託しているようにも思えて、興味深く読みました。
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「橋」「巡礼」に続けて読みました。橋本治さんのエッセイ(評論)は、読んだことあるけれど、小説は初めて。評論も独自視点で思考の渦に巻き込まれるけど、小説も独自な設定で(ゴミ屋敷の主人、犯罪者、元戦犯の官僚と娘)昭和を描いていた。誰かに何かを話したくなるけど、それが簡単にまとまらない、橋本ワールド。
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どこの家庭もそうとは言えないと思うけど 女を子供に持つ父親の葛藤を 見事に表していると思う 少なくとも私の父親も同じように考えたであろな、 というところが多々あった
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・半年もたたぬ間に、総理大臣はもう二度代わっている。新しくなろうとしても、国の中枢はそうそう変われない。「これなら大丈夫だろう」と思われる人物を連れて来ても、国の中枢にふさわしいと思われる人物なら、なんらかの形で汚れている。「新しくなる」ということは、そう簡単なことではないのだ。 ・人にはそれぞれの背景がある。同じ時、同じ場所にあっても、それぞれに得るものは違う。違うものを得て、同じ「一つの時代」という秩序を作り上げて行く。一切が解体された「戦後」という時代は、新しい秩序という収まりを得ることに急で、その秩序を成り立たせる一人一人の内にあるばらつきを知らぬままにいた。 ・誰に言いつけられたわけでもない。「東大に行きたい」と言い出したのは、自分自身なのだ。「東京の伯父さんは東大を出ている。僕も東大に行きたい。東京に行って東京の子になりたい」と願って、それはかなえられた。東京でも有数の進学校に通い、寄宿先の伯父や従妹には愛された。秀和は「祝福された子供」だった。それがいつか、すき間風が吹き込むように、薄れて行った。誰かが秀和を追い詰めているわけではない。秀和を守っていたものの力が少しずつ後退して、秀和は「孤立」というものを感じるようになっていたのだ。 ・それは政治でもない、思想でもない。政治や思想の言葉を使ってパラパラに訴えられたものは、その社会の秩序を形成する人間達の「体質」である。だからこそ、東京大学の教授達は、学生達から罵られ、嗤われ、困惑し怒っても、なにが問われているのかが分らなかった。秩序を形成する者の「体質」、形成された秩序の「体質」が問われるようなことは、かつて一度もなかった。なにが問われているのか分かったとしても、事の性質上、それはたやすく攻められることがなかった。だからこそ、事態は紛争へと至って、その紛争は、そう簡単に解決されることがなかった。仮に紛争が収まって「元の状態」へ戻ったとしても、問題を発生させた「元の状態」がいいものであるのかどうかが、分からないからである。 ・「私、自分で探したいの。自分になにが出来るのか、出来ないのか、それが知りたいの。自分のこと、なんにも知らないの。だから、なにが出来るかを、自分で探してみたいの。私、この家の中のことしか知らないみたいな気がするの。いけない?」と言った。
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橋本治は19世紀も、20世紀も、江戸も、あれこれみんな総括して見せて、たぶん、最近の新書では「平成」も総括していたと思うが、おしまいには借金も総括して逝ってしまった。さびしい。 1969年で終わるこの小説は、「昭和」というよりも、「戦後」を総括して見せているとぼくは思った。 ...
橋本治は19世紀も、20世紀も、江戸も、あれこれみんな総括して見せて、たぶん、最近の新書では「平成」も総括していたと思うが、おしまいには借金も総括して逝ってしまった。さびしい。 1969年で終わるこの小説は、「昭和」というよりも、「戦後」を総括して見せているとぼくは思った。 しつこく低いアングルで撮り続けながら、延々とナレーションを入れていく。ここで解説を入れているのは誰だと思っていると、細目の笑顔の作家の顔が浮かんでくる。笑うしかないようなものだが、そうは言いながら、という気分で、その世界へ引きずり込まれてしまう。いつもの橋本治だ。 戦後史をこの角度で書いている人はそうはいない。小熊英二の仕事を面白いと思う人は、橋本治を見逃してはいけないとおもう。
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題名を見て想像されるようにシェークスピアの「リア王」になぞらえて書かれた小説です。舞台は戦後の日本、主人公は妻を40代で亡くした帝大出の文部省の官僚の砺波文三という設定です。 彼には3人の娘がいますが、リア王に登場する娘たちと同じような配役になっており、末娘の静との二人の生活が中...
題名を見て想像されるようにシェークスピアの「リア王」になぞらえて書かれた小説です。舞台は戦後の日本、主人公は妻を40代で亡くした帝大出の文部省の官僚の砺波文三という設定です。 彼には3人の娘がいますが、リア王に登場する娘たちと同じような配役になっており、末娘の静との二人の生活が中心となりお話は進みます。4部構成の章の最初に「リア王」から引用された台詞が入り、その話を象徴します。砺波家の人々を追いながら、実は敗戦後の日本の在り方や世の中の動きや、それに伴う人々のものの考え方、行動の変化に焦点があてられた構成になっています。 小説ながら、橋本さんならではの言葉の使い方の説明があるので、舞台を見ながら、解説をしてもらっているような感じがしました。 最後の方の場面で、学生運動の象徴のような東大の安田講堂占拠の事件は何故起こったのか、何故紛争が長引き入学試験の中止にまで至ったのかという、事件の本質が語られていて興味深いものがありました。東大出身の橋本さんは、確かこの頃、この事件に関しての今でいう有名なキャッチコピーを考えた人だったなあと思い至ったのでした。
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スピーディな語りと、めまぐるしく変わる語り手。ある男を中心とした家族の戦中戦後昭和史を怒涛の勢いで読まされた気持ちです。すごい! そういえば私この人の源氏物語すごく好きだった。 章のはじめに「リア王」からの引用があるのですが、シェイクスピアの方を知っていればもっと思うこと...
スピーディな語りと、めまぐるしく変わる語り手。ある男を中心とした家族の戦中戦後昭和史を怒涛の勢いで読まされた気持ちです。すごい! そういえば私この人の源氏物語すごく好きだった。 章のはじめに「リア王」からの引用があるのですが、シェイクスピアの方を知っていればもっと思うことがあったかなあ?とはいえ読むには敷居高い。「あらすじでわかるシェイクスピア」とかどっかにありませんかね(怠惰!)
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若干女性に対する悪意が読み取れる作品。笑える悪意でないのが悲しい。父親も父親で、妻の一周忌に相手側の了承を得ず再婚発表などと普通に考えてありえなさすぎて、後からこじつけたような出来事が多い印象をうけた。ただ、昭和初期から中頃の時代が描かれているので、その当時のおもなる歴史的出来事...
若干女性に対する悪意が読み取れる作品。笑える悪意でないのが悲しい。父親も父親で、妻の一周忌に相手側の了承を得ず再婚発表などと普通に考えてありえなさすぎて、後からこじつけたような出来事が多い印象をうけた。ただ、昭和初期から中頃の時代が描かれているので、その当時のおもなる歴史的出来事が当時の人の目を通して描かれているのは面白い。
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平凡な高級官僚であった砺波文三は、戦後の公職追放を経て無為無感動となりはてたが、生きていくための安らぎを家族にだけ求めようとしても、それは初老の男の独りよがりである。娘と言えども一人ひとりの人間として文三の思惑に従うわけもない。昭和の時の流れ、社会の変化にあわせて戦前のノスタルジ...
平凡な高級官僚であった砺波文三は、戦後の公職追放を経て無為無感動となりはてたが、生きていくための安らぎを家族にだけ求めようとしても、それは初老の男の独りよがりである。娘と言えども一人ひとりの人間として文三の思惑に従うわけもない。昭和の時の流れ、社会の変化にあわせて戦前のノスタルジーは消えゆくのみ。だがもはや文三は淡々と坂道を下りていくのみだった・・・というところ。 老いた父と娘達という配役で、リア王を本歌取りし、昭和時代の歩みが平凡な個人の歴史に様々な影響を与える様子を表現した小説。だがテレビドラマの脚本のようでもある。
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途中までは文三の駄目っぷりを何故か我が身に引き付けて読んだが、甥っ子が出てきてなにかやらかすかと思ったら説明要員みたいな扱いでやや拍子抜け。あと文三ってネーミングの適当さがすごい。
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