ファスト&スロー(下) の商品レビュー
下巻では、まず行動経済学として知られることになった人間の選択行動について論じられている。さらに、二つの自己として、経験する自己と記憶する自己の違い、苦痛や幸福の評価軸の違い、について論じられている。双方とも興味深いテーマである。 第四部は経済的合理人である「エコン」に対して、系...
下巻では、まず行動経済学として知られることになった人間の選択行動について論じられている。さらに、二つの自己として、経験する自己と記憶する自己の違い、苦痛や幸福の評価軸の違い、について論じられている。双方とも興味深いテーマである。 第四部は経済的合理人である「エコン」に対して、系統的に誤る「ヒューマン」を対峙させる。この議論が、行動経済学の名で知られる意志決定に関する理論である。プロスペクト理論という名前でも有名で、S字を描く価値関数のグラフで知られている。人の選択において「参照点」「感応度逓減性」「損失回避」の特性を考慮すべきとされている。いったん保有するとその価値以上に手放すことを忌避する傾向「保有効果」も有名だ。 たとえば、同じ金額であっても選択にあたっては、変化の絶対値よりも割合の方を重視するとか、得る方よりも失う方を重視するというものだ。これらは「システム1」の特質から導き出せる。期待値よりもリスクを嫌う、変化の大きさに反応する、ということが人が適者生存の過程で生き残るにおいて有利に働いたということだ。言われてみればそうだよなというものだが、慎重にデザインされた実験から導き出されたのは最近の研究からだ。この辺りの議論は、本書でも何度も取上げられているがセイラーとサンスティーンの『実践行動経済学』と合わせて読むとよいだろう。 めったに起りそうもないことに対して過大な重みづけをすることも知られているが、「システム1」で解釈可能とされる。質問の表現の仕方(「10%が死ぬ」か「90%が生き残る」か等)で選好が大きく変化することを示したフレーミング理論も行動経済学の大きな功績とされている。 これらの選好に関する結論だけでなく、その結果が導き出される実験についても解説が詳しい。本書が長くなっている原因でもあるのだが、非常に重要なポイントでもある。 第五部は、「経験する自己」と「記憶する自己」の話。 記憶に基づく評価はピーク時と終了時で決定され、その持続時間には影響されないというものである(持続時間の無視とピーク・エンドの法則)。つまり、記憶されるものは経験されたものと同じではないということである。記憶する自己自体は「システム2」の産物かもしれないが、その快楽の評価は「システム1」から来るものである。それは記憶というものが何のために進化の過程で獲得されたのかをも示している。 まとめると、これらのことを「システム1」と「システム2」という仮説モデルにて説明したのが、本書である。ある分野の活性化など脳神経学の知見にも一部言及されているが、今後より具体的な研究が進む分野となるだろう。コールドウェルの『価格の心理学』でも参照されているが、実際のビジネスや政策にも適用される分野で広がりが期待できる。 改めて、細かいところは飛ばしてもいいので、読むべき本。
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第5部 「二つの自己」は下手な自己啓発書よりよっぽど幸福になるための方法が書かれている。 人間の体験に対する評価方法は「持続時間の無視」と「ピーク・エンドの法則」で決まる。 従って休暇を過ごすときはこのことを念頭に置いて計画を立てれば、思い返した時に素晴らしい休暇になるはずだ。
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結論部のリバタリアン・パターナリズムの議論は特に興味深かった。 多くの人が抱いているであろう「合理的な経済主体」という考え方がいかに現実とそぐわないか、本書を読めばよく理解できる。これは個々人の生活から政策決定レベルまで広く影響を及ぼすような、かなり驚くべき事実だと思う。
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システム1直感的にわかるもの、システム2計算など頭を使わないとわからないもの。システム2は怠け者で、知的努力を嫌がる。 この二つのシステムを使い、人は意思決定をしていると。例文が米国的過ぎてピント来ない箇所も多かったが、面白かった。 以下、印象に残ったトコ。 平均的には最も活発...
システム1直感的にわかるもの、システム2計算など頭を使わないとわからないもの。システム2は怠け者で、知的努力を嫌がる。 この二つのシステムを使い、人は意思決定をしていると。例文が米国的過ぎてピント来ない箇所も多かったが、面白かった。 以下、印象に残ったトコ。 平均的には最も活発な投資家が最も損をし、取引回数の少ない投資家ほど儲けが多い。 単純で統計的なルールの方が直感的な「臨床」判断よりも正しい ヘッドフォンの検証だと言って縦に頭を振りながら主張を聞かせると、賛成しやすい。横に振らせると、反対しやすい。 プライミング効果 笑顔を作ればよい。本当に気分が良くなるから。 親切で優しい気持ちで人に接するとよい。親切で優しい気持ちになれるから 内容がほぼ変わらない報告書が出てきたとしたら、わかりずらい社名より分かりやすい社名の会社の物を信用する。
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経済的な面の説明がやっと出てきた。しかし意思決定についての心理学的なわかりやすい解説である。認知心理学の学習で面白くなかったらこの本を読んでみることがいいであろう。
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p16 「十分に予見可能な規則性を備えた環境」=閉じた環境。長期的にパラメータをある程度限定でき、その個数の変動が小さいと考えられる場合 p65 ジャックとジルの例えがベルヌーイの誤りを指摘しているようには理解できない。前段との違いは起点(参照点?)が過去であること、マイナスの...
p16 「十分に予見可能な規則性を備えた環境」=閉じた環境。長期的にパラメータをある程度限定でき、その個数の変動が小さいと考えられる場合 p65 ジャックとジルの例えがベルヌーイの誤りを指摘しているようには理解できない。前段との違いは起点(参照点?)が過去であること、マイナスの変化を含んでいる事だが、現時点の富だけで効用が決まる(=前後の変化を含んでいない)とは言っていないのでは?
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行動心理学の教科書としてとてもよい1冊だと思う。 認知的錯覚を「システム1」と「システム2」、「エコン」と「ヒューマン」のように対極にあるものを使って表記している点はとてもわかりやすい。明確な正解はないが、これらをバランスよくうまく使うためのヒントは得られるように思う。
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良い休日になった。 経済は心理で動く。 過ちは続くが、少しは合理的な判断が出来るようになった。 がん保険はいるべきか。 がんは若いうちは少ない可能性だから入らないで、なった時のためにお金を貯める。後悔しないために入る。 どちらが正しいか。。
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上巻では多少難しい感じていたのですが、下巻は短い章の中に、論文の紹介、わかりやすい解説と実際にありそうなシチュエーションでの対策と上巻の説明を補填するような流れで一気に読めてしまいました。 面白いキーワードばっかでしたが、記憶に定着させたい内容を備忘録として整理。 ■ピークエ...
上巻では多少難しい感じていたのですが、下巻は短い章の中に、論文の紹介、わかりやすい解説と実際にありそうなシチュエーションでの対策と上巻の説明を補填するような流れで一気に読めてしまいました。 面白いキーワードばっかでしたが、記憶に定着させたい内容を備忘録として整理。 ■ピークエンドの法則 ある出来事の印象は、ピークの満足度と終わったときの満足度の平均になる。 身も蓋もないですが、終わり良ければすべて良しということらしいです。 ちなみに痛みも徐々に緩和して終われば記憶としてはだいぶ緩和されるらしい。 ■サンクコスト(埋没費用) 物事を決定する際に、決定する以前に投入したコストのこと。 既に投下済だから意思を決定する際には考える必要がなく、サンクコストは無視して成功するか失敗するかで考えた方がよい。 人間は損したくないからサンクコストに捕われて合理的な判断ができなくなってしまう。 サンクコストは気づきにくいから利害関係がない人に相談するとよいと思います。 個人より組織の方が ■広いフレーミング 個別の勝ち負けではなく、何事も平均での勝率考える。長いスパンもっと言えば人生の勝ち負けで考えて行動するとよい 負けているゲームで逆転するのは難しいく、損失回避と感情によって相まって結局より大きく負けてしまう。すっぱり諦めて次のゲームに移るべき。 特に負けているときに、負けを一気に取り返せる手法を見つけてしまうと、その成功確率を無視して選択してしまう。(麻雀で一発逆転で役満を狙ってしまうが可能性が0に近かったりする) また、勝っているときは手を抜かずにを勝ちきることが大事。特に勝っているときにどん欲さがなくなってしまう傾向がある。
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良書。 上巻に続き、わかりやすい内容に仕上がっている。翻訳が上手というのか。 行動経済学なんて興味がなくても、マーケティングで統計から、ユーザーフローまで考えたりする仕事についてる人なら、間違いなくためになるはず。 目から鱗ってものじゃないかもしれないけど、必読です。
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