ファスト&スロー(下) の商品レビュー
意思決定における判断の誤りについての教科書のような本です。上下巻でなんやかんや読了(下巻のサイエンス誌掲載の論文含む)まで数ヶ月かかってしまいました。バイアスやヒューリスティックについて、読みやすい文章で書かれています。
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下巻では、上巻で述べられた認知バイアスのフレームを受けてさらに議論が進み、一般的傾向としての「自信過剰」の問題と、実はそれが資本主義の原動力になっていることや、計画の錯誤、保有効果、稀少確率の過大評価、メンタル・アカウンティング、感情フレーミング、「経験する自己」と「記憶する自己...
下巻では、上巻で述べられた認知バイアスのフレームを受けてさらに議論が進み、一般的傾向としての「自信過剰」の問題と、実はそれが資本主義の原動力になっていることや、計画の錯誤、保有効果、稀少確率の過大評価、メンタル・アカウンティング、感情フレーミング、「経験する自己」と「記憶する自己」の2つの自己、物語として記憶される人生、幸福の基準などなど、どれをとっても興味深い話題がてんこ盛り。おもしろくて最後まで一気に読み通しましたが、読み流して終えてしまうにはもったいない深い話ばかりでした。 この手の話題は、年齢を重ね、経験を経るに連れて一層理解が深まるように思いますし、いずれ時間を経てぜひまた読み返してみたい本だと思います。
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著者ダニエル・カールマンは2002年のノーベル経済学賞を受賞した心理学者である。 本書は氏の研究業績が上下2冊に収められており、下巻は「自信過剰」「選択」「二つの自己」の3テーマからなる。いずれも、経済学が想定する合理的な「エコン」と現実の「ヒューマン」がとる行動の違いを解き明か...
著者ダニエル・カールマンは2002年のノーベル経済学賞を受賞した心理学者である。 本書は氏の研究業績が上下2冊に収められており、下巻は「自信過剰」「選択」「二つの自己」の3テーマからなる。いずれも、経済学が想定する合理的な「エコン」と現実の「ヒューマン」がとる行動の違いを解き明かしている。 「エコン」は自信過剰にならないし、矛盾する選択もしないし、自己は一つである。すなわち、エコンは一貫性がある。 だがヒューマンは一貫性をもたない。どういった場合に一貫性が損なわれやすくなるのかを、本書は様々な実験結果を踏まえて解説する。 ・自信過剰が起こるのは、不都合な要因の過小評価・手持ちの情報の過大評価をするから ・同じ質問も表現を変えるだけで矛盾する選択を誘導できる。多くの場合、選択した当人は矛盾に気付かない ・ある体験から生じる「幸福感」は、体験を通じてもっとも幸せだったときのピーク値と、体験を終えたときの程度で決まる。持続時間は関係ない。 また「幸せ」はさまざまな意味をもつので、人生の一つ一つのできごとにおける満足と、全体としての幸福感の評価は別物である。 本書を読みながら自分の行動を振り返ってみたとき、著者が「矛盾」と指摘する選択を自分自身がとっていることに気付かされる。 自分としてはその選択はごく自然な選択であり、合理的に判断したつもりであったにも関わらずだ。 本書は研究業績の総括である。ノウハウ本ではない。したがって、本書を読めば合理的な判断ができるようになるものではない。 とはいえ自分の思考を客観視する手がかりがたくさんある。また、思考のフレームワークを作る手がかりにもなる。
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著者のノーベル賞に繋がったプロスペクト理論についても登場する下巻。下巻は特に意思決定におけるバイアスの除去について重要な知見を与えてくれます。経営者、実業家、会社の幹部の人たちは当然知っておくべき知識だと思いますが、あまり浸透していないのかな。 逆に広告代理店や弁護士、代議士な...
著者のノーベル賞に繋がったプロスペクト理論についても登場する下巻。下巻は特に意思決定におけるバイアスの除去について重要な知見を与えてくれます。経営者、実業家、会社の幹部の人たちは当然知っておくべき知識だと思いますが、あまり浸透していないのかな。 逆に広告代理店や弁護士、代議士なんかは、この辺りの知識を巧みに使って商売してるのだから、世の中ちょっと怖いな、と思いました。つまり、バイアスを避けるためではなく、意図的にバイアスの罠にハメるような応用しかされていない。ちょっと表現を変えるだけで、一般人の判断を麻痺させる事ができるわけだから、ちょっとした殺戮器官ですよね。 それこそ義務教育で主要科目として教えておかないと、まともな民主主義は機能しないな、と思いました。
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一定の規則性が存在しない状況では、直感は信用できない 直感の妥当性は下記条件で満たされる ・十分に予見可能な規則性を備えた環境であること ・長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること 計画の錯誤を減らすには 「多くの人は過去の分布に関する情報を軽視または無視...
一定の規則性が存在しない状況では、直感は信用できない 直感の妥当性は下記条件で満たされる ・十分に予見可能な規則性を備えた環境であること ・長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること 計画の錯誤を減らすには 「多くの人は過去の分布に関する情報を軽視または無視しがちであり、この傾向がおそらく予測エラーの主因だと考えられる。したがって計画立案者は、入手可能なすべての分布情報が十分に活用できるように、予測問題の枠組みを整える努力をしなければならない」 死亡前死因分析は自信過剰に対して効果的 損失回避 損失は利得より強く感じられる 損失回避率はおおむね1.5〜2.5 悪は善より強し 安定した関係を維持するためには、楽しい会話と楽しくない会話の比率を少なくとも5対1にしなければならない プロスペクト理論 四分割パターン 利得|損失 95%の確率で1万ドル貰える|95%の確率で1万ドル失う 高い確率 万一の落胆を恐れる |なんとか損を防ぎたい 確実性の効果 リスク回避 |リスク追求 不利な調停案も受け入れる|有利な調停案も却下する --------------------------------------------------------------- 5%の確率で1万ドル貰える|5%の確率で1万ドル失う 低い確率 大きな利得を夢見る |大きな損を恐れる 確実性の効果 リスク追求 |リスク回避 有利な調停案も却下する|不利な調停案も受け入れる 左上欄はベルヌーイが論じた領域:リスク回避的 左下欄は可能性の効果が働く。宝くじが人気なのはこのため 右下欄は保険をかける状況 右上欄が驚きの領域で多くの不運な状況である、起死回生の一手を打とうとして大失敗をおかす ・狭いフレーミング:決定1と2は二つの単純な問題と考え、別々に処理する ・広いフレーミング:四つの選択肢のある一つの問題と考え、1回の決定で処理する 複数の決定を一つにまとめて扱える場合は、いつでもそうするほうがよい 小さく勝って小さく負けるが損失回避を防ぐ呪文 個人投資家は四半期に一度見直せば十分 広いフレーミングで考えるように努める 後悔をあまり重大視すべきではない、たとえ後悔するとしても、いま考えるほどひどくはないものだ 並列処理は単独評価より合理的な判断が下される 持続時間の無視とピーク・エンドmp法則 記憶する自己は経験する自己よりも独裁者 ハッピーになるいちばん簡単な方法は、時間の使い方を自分でコントロールすることだ。自分の好きなことをする時間を増やせばいい 幸福を感じる気質というものは身長や知能のように遺伝する 全体のテーマとしては認知的錯覚 システム1とシステム2 エコンとヒューマン 経験する自己と記憶する自己 資本主義は認知的錯覚の上に成り立っている
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エコン(合理的経済人)とヒューマン。 80%の確率で100万円•20%は0円と、確実に46万円もらえるのとどっちがいい?という時、エコンは期待値が高い前者を選び、ヒューマンは後者を選ぶ。 前提が違うのは、経済学と心理学という分野の違いだと思うけど、学生の時はエコンに固執していたな...
エコン(合理的経済人)とヒューマン。 80%の確率で100万円•20%は0円と、確実に46万円もらえるのとどっちがいい?という時、エコンは期待値が高い前者を選び、ヒューマンは後者を選ぶ。 前提が違うのは、経済学と心理学という分野の違いだと思うけど、学生の時はエコンに固執していたなあ。ヒューマンという考え方でもう一度あの題材を取り扱ってみたい。 また、公正性に対して参照点があるというのも興味深い。10ドルのスコップが売っていて、大雪の日に需要が上がるから15ドルにした。エコンは正しいと考えるが、ヒューマンは不公正と考える。 さらに、10ドルで雇っていたバイトの給料を、失業者がたくさん出た際に7ドルに下げるのは不公正と考えるが、そのバイトではなく新規バイトを7ドルで雇うのは公正とする。参照点を何にするかは大切。 企業も、社員の給料を下げたい場合は、今いる人は据え置きで、次に入社してくる人や中途採用者の給料を下げた状態で雇うのが反発は少ない。 利得と損失では、損失への効用は利得の2倍。 テロは利用可能の連鎖を引き起こす。統計的に無視できる確率であったとしても。 ヒューマンは、合理的な判断をしていると考えていても、実は損失回避性が働き、適切な判断が出来ていないことがある。 個々の判断よりも総和で考えるほうが、期待値は高くなる。 サンクコストはサンクコスト。現状で最善の選択をすることが必要。赤で終わりたくないとか、気質効果まんまだよね。 大事なのは並列評価だ。単独評価では回答が変わってくる。 宝くじが300円で、期待値は145円だから、「1550円損する宝くじを買うかどうか」という質問にも置き換えられる。ぷぷっ。 燃費と環境問題もそう。リッター18kmを25kmにする努力よりも、リッター5kmの車を10kmの車に交換するような施策の方が効果があるかも。まあ、どれくらい使われているかという前提次第だけど。 訳がうまいのもあって、スラスラ読めるし、読むと賢くなった気にさせる良書でした。
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かなりの良書。読めば、人生を二倍豊かにする事ができます。 それと同時に、人間の思考の限界とそれをどうする事もできない事を、これでもかと教えてくれる本。 具体例がこれでもかと出てくるので、イチイチ再認識しながら読め、理解も深まります。 統計や確率が絡んだ時、確実にあなたの直感は間違...
かなりの良書。読めば、人生を二倍豊かにする事ができます。 それと同時に、人間の思考の限界とそれをどうする事もできない事を、これでもかと教えてくれる本。 具体例がこれでもかと出てくるので、イチイチ再認識しながら読め、理解も深まります。 統計や確率が絡んだ時、確実にあなたの直感は間違っています。
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下巻では2つの人種と2つの自己が語られる。2つの人種とは、理論の世界に住む、経済学に登場する合理的な存在のエコンと現実の世界に住む、行動経済学に登場する合理的ではない存在のヒューマン。2つの自己とは、現実を生きる「経験する自己」と記録をとり選択をする「記憶する自己」。 直感や計画...
下巻では2つの人種と2つの自己が語られる。2つの人種とは、理論の世界に住む、経済学に登場する合理的な存在のエコンと現実の世界に住む、行動経済学に登場する合理的ではない存在のヒューマン。2つの自己とは、現実を生きる「経験する自己」と記録をとり選択をする「記憶する自己」。 直感や計画の錯誤、楽観主義によって、大抵予測は外れる。この話は上巻の、システム1,2の続きだ。 そこから、従来の経済学よりも現実に則したプロスペクト理論が説明される。効用は参照点からの変化に影響され、さらに損失は利得より強く感じられる。保有効果や損失回避、単独評価と並列評価が不一致する選好の逆転などにより、人間はエコンのように合理的にはなれない。 また人間には記憶する自己を過大評価し、エンディングの記憶が幸福度の評価になりやすい。このように人の心理に従って正しく幸福の計測値を図ることは、政策などにも関わってくる。
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システム1(直感)の錯覚をシステム2(熟考)にいかに是正させるか。ということで直感が犯す間違いがこれでもかと出てくるが、中には、その間違いは人としていいんじゃないかと思うようなものもある。また、直感の間違いっぷりがいかにも数字に弱いアメリカ人らしく、アジア系なら結論は変わらないに...
システム1(直感)の錯覚をシステム2(熟考)にいかに是正させるか。ということで直感が犯す間違いがこれでもかと出てくるが、中には、その間違いは人としていいんじゃないかと思うようなものもある。また、直感の間違いっぷりがいかにも数字に弱いアメリカ人らしく、アジア系なら結論は変わらないにせよ、もう少し比率が変わってくると思われる。 折に触れて思い出すと、仕事にもプライベートにも様々な場面で応用が効きそうな手がかりがてんこ盛りであり、興味深い本であることは間違い無い。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「エコン」と「ヒューマン」についてはあまり興味を抱かなかったが、「二つの自己」はストライクだった。経験と記憶がどのように相互関係にあるのか、その特徴がよくわかる。 巻末の論文の資料価値も高い。 〈スキル習得の基本条件〉 ①十分に予見可能な規則性を備えた環境であること ②長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること →この二つがあれば直感はスキルとして習得可能である。まず規則性を見いだすこと、その上でその規則性を学ぶコンテンツを作成することが重要だ。 楽観バイアスは、認知バイアスの最も顕著なもの。人は自分の立てた目標は実際以上に達成可能だと思い込む。 行動して生み出された結果に対しては、行動せずに同じ結果になった場合よりも、強い感情反応が生まれやすい。後悔も含めて。 「フレーミング効果」 問題の提示の仕方が考えや選好に不合理な影響を及ぼす現象 〈経験と記憶〉 記憶の特徴は、「ピークエンドの法則」と「持続時間の無視」。 経験と記憶を混同するのは認知的錯覚。 過去から学んだことは将来の記憶の質を最大限に高めるために使われ、必ずしも将来の経験の質を高めるとは限らない。 きっと記憶に残るだろうと感じられる経験は、そうでない経験より大きな重みと意味を獲得する。 「焦点錯覚」 そのとき注意が向けられていた生活の一要素が、総合評価に置いて不相応に大きな位置を占めることになる。 システム1に起因するエラー防ぐには、認知的な地雷原に入り込んでいる兆候を見落とさず、思考をスローダウンさせ、システム2の応援を求める。
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