世界の経営学者はいま何を考えているのか の商品レビュー
告白すると『世界の経営者はいま何を考えているのか』というタイトルだと本を読み始めた後しばらくするまでそう思っていた。読めばわかるが(読まなくてもわかるが)、「経営学者」が考えることと「経営者」が考えることはずいぶんと違う。本書は「経営学者」が考える「経営学」のフロンティアに関する...
告白すると『世界の経営者はいま何を考えているのか』というタイトルだと本を読み始めた後しばらくするまでそう思っていた。読めばわかるが(読まなくてもわかるが)、「経営学者」が考えることと「経営者」が考えることはずいぶんと違う。本書は「経営学者」が考える「経営学」のフロンティアに関する本。著者もニューヨーク州立大学バッファロー校にアシスタント・プロフェッサーとして籍を置く現役の経営学者だ。 まずは『もしドラ』の影響を受けている(?)日本の読者に向けて、ドラッカーが経営学の世界では興味の対象ではない、ということから始める。ドラッカーの言葉は、名言ではあるが、実証的ではないため経営学の研究対象としては相応しくないと「経営学」の世界ではみなされているからだ。その事実に対比する意味で、企業データに関して統計手法を駆使して実証的研究を行うものを経営学としている。ちなみにドラッカーの方でも自分のことを「社会生態学者」であるとし、「経営学者」とは定義していないのではない。そういう意味でフェアではない取上げ方ではある。戦略的ではあるが。 著者によると、現在の世界の経営学の「マクロ分野」は主に三つのディシプリンにわかれているとのこと。その三つとは、ポーターなどの「人は本質的に合理的な選択をする」という仮定をおく古典的「経済学ディシプリン」、ハーバード・サイモンに代表される「認知心理学ディシプリン」、社会学の手法を応用する「社会学ディシプリン」が存在するという。どのディシプリンを選択するかで、経営学者のキャリアプランにも大きな影響があるという。 何年も前にミンツバーグが『戦略サファリ』というそのタイトルに若干の皮肉を込めた経営学で乱立するスクールの状況を描いた著作を出したが、その頃から経営学の状況は変わらず(ひどくなっている)、それは経営学という「学問」に伴う根源的な特質であるということなのかもしれない。 本書では、経営学のフロンティアとして、ハイパー・コンペティションやトランザクティブ・メモリー、モデレーティング効果、コンピテンシー・トラップ、ソーシャル・ネットワーク、ストラクチュアル・ホール、ホフステッド指数、リアル・オプション、買収プレミアム、コーポレート・ベンチャー・キャピタル、などの概念を紹介している。それはそれで、おもしろいが、本当に実際の経営において役に立つのだろうかという思いがわいてくる。 著者はそのことに十分に自覚的である。そして著者は、現在の経営学に対して次の3つの課題を指摘する。 課題① 経営学者の理論への偏重が、理論の乱立化を引き起こしている。 課題② おもしろい理論への偏重が、重要な経営の事実・法則を分析することを妨げている。 課題③ 平均にもとづく統計手法では、独創的な経営手法で成功している企業を分析できない可能性がのこる。 まさしくこれらの課題が、「経営学者」が考えることと「経営者」が考えることが交わらない理由である。 経営学のフロンティアを紹介するということでは、説明も読者に優しく、本書は面白い。一方、ビジネススクールはその存在意義はあるとしても、経営学という学問に存在意義は果たしてあるのか、という疑問はさらに強くなった。おそらくは、著者の意図とは反対に。そして、それは一度私企業に勤めた後に学問の世界に戻った著者も疑問として持っていることと同じであるかもしれない。
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☆3.5 経営学の知見が広がる、良い本だよ! 読み進めると、「経営学の理論は統計学を道具として実証される」ことの違和感がどうしても沸き上がってきた。平均化したデータから導き出された理論は、「平凡な企業とは違うポジショニングや行動力」を獲得することで競争に勝つ、と直感的に理解できる...
☆3.5 経営学の知見が広がる、良い本だよ! 読み進めると、「経営学の理論は統計学を道具として実証される」ことの違和感がどうしても沸き上がってきた。平均化したデータから導き出された理論は、「平凡な企業とは違うポジショニングや行動力」を獲得することで競争に勝つ、と直感的に理解できる企業経営のエッセンスと、そもそもそぐわないように感じられていたから。 しかし著者は、実証研究を重要視する最近の潮流を示すことで、素人が抱きそうな疑問に易しく鋭く回答したところが、とても親切だよ。内生性の問題も直感的に理解できたよ。 そのほかにも、「組織の記憶力」では知のインデックス化が組織にも自然に適用できること、「知の探索と深化」では組織も両利きの経営が必要なことが興味深いよ。個人に適用できる理論が組織にも当てはまることが面白い。
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世界の経営学者が考えている知のフロンティアの紹介。 以下、特に面白かった箇所を抜粋。 ⚪︎経営学概要 ・経営学とはつきつめて言えば人間、あるいは人間集団の意思決定を分析すること ・欧米型=仮説を立てて統計分析により検証 ・日本型=ケーススタディ ・経営学には教科書がない。論文を...
世界の経営学者が考えている知のフロンティアの紹介。 以下、特に面白かった箇所を抜粋。 ⚪︎経営学概要 ・経営学とはつきつめて言えば人間、あるいは人間集団の意思決定を分析すること ・欧米型=仮説を立てて統計分析により検証 ・日本型=ケーススタディ ・経営学には教科書がない。論文を読み漁るしかない。 ⚪︎マクロ分野の3つのディシプリン ・経済学 5F、RBV、リアルオプション・・・ ・認知心理学 知の探索、知の深化、トランザクティブメモリー、社会心理学 ・社会学 ネットワーク理論、ソーシャルキャピタル ⚪︎企業とは何か ・効率性 市場取引ではコストがかかり過ぎる部分を組織内部に 取り込んだもの ・パワー ・経営資源 ・従業員のアイデンティティ 経営者や社員がアイデンティティやビジョンを共有できる範囲 ⚪︎SCP=ポジショニング ・産業・産業内 ⚪︎コンペティティブ・ダイナミクス ・企業が積極的に競争行動をとることは業績向上に繋がるか →統計的には真 ⚪︎トランザクティブメモリー ・組織の各メンバーが他メンバーの「誰が何を知っているか」を知っておくこと。知識をうまく引き出せるか。 ⚪︎不確実性 ・技術革新の速い不確実性の高い産業→知の探索→弱い結びつきが有効 ・CAGE 海外進出時に市場以外に分析すべき事項のフレームワーク 国民性の距離、行政上の距離、地理的距離、所得格差の距離 ・ホフステッド指数 その国の人々が個人主義か集団主義か その国の人々が権力に不平等があることを受け入れているか その国の人々が不確実性を避けがちな傾向があるか その国の人々が競争や自己主張を重んじる男らしさで特徴づけられるか ・内省的な不確実性は潰し、外生的な不確実性を検討すべき ・リアルオプションは段階的な投資を検討するもの(買収前に合弁事業を実施する等) ⚪︎経営戦略の研究者の派閥 ・コンテンツ派:企業はどのような戦略を立てるべきか ・プランニング派:企業はどうやって戦略を立てるべきか ⚪︎M&Aプレミアムの3つの影響 ・思い上がり ・あせり ・国家のプライド ⚪︎CVC(コーポレイトベンチャーキャピタル投資) ・オープンイノベーションの促進。知の探索。 ・デメリットは大企業が技術を盗む ⚪︎未来 ・エビデンス・ベースと・マネジメント タバコと肺がんの相関のような実学 ・メタアナリシス 研究の研究
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学生に時の経営学を学び、ドラッカーも読んだが、経営学がいかに論理の学問かがあらためてよく分かった。著者が最後に書いている、エビデンスベースドマネジメント、メタアナリシスに期待します。どちらも医学統計ではよく使われています。
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この分野を網羅的、俯瞰的に概観するにあたり、大変参考になった。 しかし、読むにつれこの分野は、科学は言うに及ばず、学問とも言い難い「経営術」「経営道」に留まっているのではないかと感じる。 理論仮説の実証研究が9%なんて、ほぼ論文ではなく小説のようなものではないのか。
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経営学者が何を考えて、何に注目して研究しているのか、分かりやすく解説されている。企業活動において、ダイバーシティには2種類あることや、組織には誰が何を知っているのかを共有するトランザクションメモリーが重要という点は多いに参考になった。
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米国の大学院で経営学を学んだ著者が、著者なりの観点で日米の経営学の違いを述べています。 ”ドラッカー=経営学”ではないという、著者の意見については、成程と思いました。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
経営学は科学を目指している。 経済学ディシプリン、認知心理学ディシプリン、社会学ディシプリン。 企業とは「市場取引ではコストがかかり過ぎる部分を組織内部に取り込んだもの」 競争戦略論では、企業の究極的な目的は「持続的な競争優位」 SPCパラダイム、一言で表せば「ポジショニング」。第一に事業を行う上で適切な産業を選ぶ。 「競争度が低く、新規参入が難しく、価格競争が起きにくい産業」 産業の中でユニークなポジションを取り、顧客に価値を提供する「差別化戦略」。 価格だけでライバルとガチンコ勝負をするのは避けるべき。 競争戦略とは、競争をしない戦略。プラス、ユニークな価値。 トランザクティブメモリー、組織の各メンバーが他のメンバーの「誰が何を知っているか」を知っておくこと。 経営効果には見せかけの効果も念頭に置く(Kマートの失敗)。 ベンチマークは成功企業と、失敗企業の例をマークする。 新しい地を求める活動「知の探索」と既存の知識を改良する「知の深化」。 成功企業は「知の深化」に傾斜しがちコンピテンシートラップ。 イノベーションの本質は知と知の組み合わせから新しい地を生み出す。知の幅も広げておく。 3Mの15%ルール、IDEOのブレーンストーミング。日本のヤミ研。 事業計画。内生的な不確実性は潰す、外生的なものは不確実性として考慮に入れる。 リアルオプション
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競争優位を維持している企業の実態は、ある点での優位が持続するのではなくて、次々に競争優位となる点を継続して生み出し続けているのが本質。深い。
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WBS入山先生の書籍。刺さったのは、フロンティアの経営学ではケースより統計、両利きの経営、トランザクティブメモリー。そして一時的優位の考え方。現代のビジネス環境でもまだ持続的競争優位は当てはまるのだろうか?と疑問に持っていたので、一時的優位とハイパー・コンペティションの考え方は腑...
WBS入山先生の書籍。刺さったのは、フロンティアの経営学ではケースより統計、両利きの経営、トランザクティブメモリー。そして一時的優位の考え方。現代のビジネス環境でもまだ持続的競争優位は当てはまるのだろうか?と疑問に持っていたので、一時的優位とハイパー・コンペティションの考え方は腑に落ちた。
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