エコー・メイカー の商品レビュー
これは私にとって、この人生で出会って良かったと思える一冊。 重大な事故に遭い、奇跡的に一命を取り留めたものの、脳の障害の一つ、カプグラ症候群を発症したマーク。 そしてそのマークのカプグラ症候群により、他人と認識されるようになってしまった姉、カリン。 途方に暮れたカリンが縋るよう...
これは私にとって、この人生で出会って良かったと思える一冊。 重大な事故に遭い、奇跡的に一命を取り留めたものの、脳の障害の一つ、カプグラ症候群を発症したマーク。 そしてそのマークのカプグラ症候群により、他人と認識されるようになってしまった姉、カリン。 途方に暮れたカリンが縋るように頼った元恋人ダニエルや著名な脳神経科学者ウェーバー。 カプグラ症候群により奇異な言動を繰り返すマークによって、それに関わる周囲の人間も期せずして自分自身が人生で抱える問題に直面し、そして苦悩していく。 マークはもちろん、カリンやウェーバーも、マークの言動をきっかけに「自分は何者であるか」という一貫したアイデンティティを取り戻そうと必死にあがく。 登場人物が全員必死にあがいていく中で、とりわけ、カプグラ症候群を患ったマークの少年のような純粋さが心に刺さる。 登場人物にも、そして我々読者にも。 最初はやっかいだな、と思っていた症状。中盤になると「もう、このままでもいいんじゃないか?」と思うようになり、最後には、「治らないで欲しい」とまで思うようになる。 すごいんだ。これ。本当に。 ニュアンスとしては少し「アルジャーノン」っぽいというと伝わるかもしれない。 ただし、圧倒される具合は、本作の方が上だと個人的には思っている。 パワーズなので、一筋縄ではいかない。 分量としても600ページ強あるので、読み進めるのに結構時間がかかる。 圧倒的に調べ上げた脳の機能障害に関する知見。本作のテーマを比喩的に支える鶴の生態と行動学。 そしていかにもパワーズな暗喩と詩的表現が全体にちりばめられている。 難解な部分も多い。 それでも、時間をかけてでも、この物語を読み進めていきたいという衝動は最後までなくならなかった。 私は2週間くらいかかったかな。忙しかったのもあるけど、それでも時間をみつけては読み進めた。 読み進めざるを得なかった。 今、具体的に何が面白かったのかと問われて「これ!」と言えるものが出てこない。 ただ断片を思い出す度に、「ああ、素晴らしかった」という感想だけが出てくる。 もう少し時間が経ったら、うまく良さを抽出できるのかもしれない。 まあでもそれは、その時に。 全然伝わらない感想になっちゃったけど、とにかく私にとっては、人生で出会って良かった一冊だった。 それに尽きる。
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いやー長かった。なぜこんなに長いのか、著者なりの理由はあるのだろうが、そこまでの熱心な読者でない人間からすると、もう少し核心をコンパクトにまとめてほしかった。 911後のアフガン・イラク戦争について、おそらくはリベラルであろう著者と違った登場人物たちの思いが丁寧に描かれているとこ...
いやー長かった。なぜこんなに長いのか、著者なりの理由はあるのだろうが、そこまでの熱心な読者でない人間からすると、もう少し核心をコンパクトにまとめてほしかった。 911後のアフガン・イラク戦争について、おそらくはリベラルであろう著者と違った登場人物たちの思いが丁寧に描かれているところは感心した。
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表現の仕方がとっても美しい本です。 私が無知なせいで途中何度か読めない漢字が出てきて、調べてる間にリズムが途切れてしまったのが悔やまれます(自業自得です…) 登場人物が抱えるそれぞれの荷物や葛藤の中に身を置いた時、いいようのない息苦しさのようなものを感じました。ストーリー的に...
表現の仕方がとっても美しい本です。 私が無知なせいで途中何度か読めない漢字が出てきて、調べてる間にリズムが途切れてしまったのが悔やまれます(自業自得です…) 登場人物が抱えるそれぞれの荷物や葛藤の中に身を置いた時、いいようのない息苦しさのようなものを感じました。ストーリー的には途中でなんとなくオチが読めてしまうところが少しだけ残念。
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カナダヅルの飛来地ネブラスカを舞台に、事故から親しい人を偽物と感じてしまうカプグラ症候群を発症した青年を巡る物語。 ケアマネ、介護士としての私の仕事柄、脳が萎縮したり、傷ついたりしたときに生じる心や性格の変化、その中でなんとか統合を守ろうとする本人や他者の受容について考えてしま...
カナダヅルの飛来地ネブラスカを舞台に、事故から親しい人を偽物と感じてしまうカプグラ症候群を発症した青年を巡る物語。 ケアマネ、介護士としての私の仕事柄、脳が萎縮したり、傷ついたりしたときに生じる心や性格の変化、その中でなんとか統合を守ろうとする本人や他者の受容について考えてしまう。新しい〝その人らしさ〟として接していくのか、それとも改善すべきものとして治癒を目指していくのか。 分厚いけど一気読み、専門用語など全て理解できたわけじゃなけれど、あとがきの言うとおり、この本自体か脳を模した構造をしているとするならその脳というものの凄み、そして著者の力量を強く感じました。 カナダヅルの大群を、いつか死ぬまでに見に行きたい。
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事故で脳損傷を受けた弟(損傷した脳で施行される事柄やパターンが凄く面白い)と、それを親身に看病する姉や周囲の人々が織り成すドラマ。社会的状況、水域・環境問題、鶴の保護、姉の置かれた状況、脳神経学者の葛藤、事故の真相と残された謎のメッセージ。それぞれが絡み合って物語はすすむ。登場人...
事故で脳損傷を受けた弟(損傷した脳で施行される事柄やパターンが凄く面白い)と、それを親身に看病する姉や周囲の人々が織り成すドラマ。社会的状況、水域・環境問題、鶴の保護、姉の置かれた状況、脳神経学者の葛藤、事故の真相と残された謎のメッセージ。それぞれが絡み合って物語はすすむ。登場人物の全てが大なり小なり問題を抱えている。飽きることなく最後までグイグイと引っ張られるようにページが進む。最後の方に出てくる鶴が舞う描写は凄く詩的で美しい。パワーズは美しいものを実物よりも美しく描写する作家だと思う。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
事故により主人公カリンの弟がカプグラ症候群という記憶障害を発症(自分を姉と認識されない)→それに悩む悩む悩みまくりいいかげんしっかりせーよカリン!とハラハラしてしまう主人公の愛と葛藤の日々を大ボリュームで綴る人間ドラマ本なのだが、この弟の記憶が不安定なところがサスペンスである。 つまり事故の原因は?書置きは誰が?という謎解きサスペンスになっており(ただし推理小説ではないので推理はできません)、カリンの長すぎるうじうじっぷりが辛かったが読了後さわやかな気分に。 極限生活を送るカリンの恋人ダニエルがいけ好かない理由については、この2本後の『スマートサイジング』レビューにて。
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すさまじい。ポスト伊藤計劃は全てこの本が語っている。「意識の役目とは、自分にとって自分が馴染み深いものだと思わせることだ」
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マークが、事故に遭った。カリン・シュルーターはこの世に残ったたった一人の肉親の急を知らせる深夜の電話に、駆り立てられるように故郷へと戻る。カーニー。ネブラスカ州の鶴の町。繁殖地へと渡る無数の鳥たちが羽を休めるプラット川を望む小さな田舎町へと。頭部に損傷を受け、生死の境を彷徨うマー...
マークが、事故に遭った。カリン・シュルーターはこの世に残ったたった一人の肉親の急を知らせる深夜の電話に、駆り立てられるように故郷へと戻る。カーニー。ネブラスカ州の鶴の町。繁殖地へと渡る無数の鳥たちが羽を休めるプラット川を望む小さな田舎町へと。頭部に損傷を受け、生死の境を彷徨うマーク。だが、奇跡的な生還を歓び、言葉を失ったマークの長い長いリハビリにキャリアをなげうって献身したカリンを待っていたのは、自分を姉と認めぬ弟の言葉だった。「あんた俺の姉貴のつもりなのか?姉貴のつもりでいるんなら、頭がおかしいぜ」カプグラ症候群と呼ばれる、脳が作り出した出口のない迷宮に翻弄される姉弟。事故の、あからさまな不審さ。そして、病室に残されていた謎の紙片―。
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難解だった。。しかしこんな作家がいたんだという発見もあり。時間があれば、もう少し理解出来るまで読み返してみたい。
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最後の訳者解説によりあ!そういうことだったんだ!という驚きも含めて面白かった。実験的で理解しにくい構造の中にハッと琴線に触れるような一文を紛れ込ませるさすあのパワーズらしさもあって好きは好きなんだけど、他のパワーズに比べていまいち愛着がわかないのは、登場人物に特に共感できる人がい...
最後の訳者解説によりあ!そういうことだったんだ!という驚きも含めて面白かった。実験的で理解しにくい構造の中にハッと琴線に触れるような一文を紛れ込ませるさすあのパワーズらしさもあって好きは好きなんだけど、他のパワーズに比べていまいち愛着がわかないのは、登場人物に特に共感できる人がいなかったからなんだろうな、きっと。
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