その日東京駅五時二十五分発 の商品レビュー
映画監督のみならず、作家としても素晴らしい西川美和。 今作品は戦争に纏わる話だ。 戦争を舞台に描く印象が薄かったため「おや?」と思ったが、末尾に著者本人も「ある事情」がなければ、描くつもりはなかったと記している。 私たちはあの時代を体験していない。 けれど、当時はこういった感覚...
映画監督のみならず、作家としても素晴らしい西川美和。 今作品は戦争に纏わる話だ。 戦争を舞台に描く印象が薄かったため「おや?」と思ったが、末尾に著者本人も「ある事情」がなければ、描くつもりはなかったと記している。 私たちはあの時代を体験していない。 けれど、当時はこういった感覚ではなかったのではなかろうか。特に物心が付いたときには不穏な世上であったならば・・・。 国に支配され、思考は止まる。 国に振り回され、戦争でボロボロになる。 けれども人々は儚くも逞しい。 どんな状況でも生きていってしまう。 「終戦」の一つのエピソードが話の軸だ。 意外な感も抱いたが、少し考えてみれば「さも有りなん」とも納得してしまう。 変わらず読者を魅了する流麗な文体と、隠された生々しさをご堪能あれ!
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「その日」とは、1945年8月15日。正午にいわゆる玉音放送が流れる終戦の日です。 オビには、「鬼気迫る」という評がついていますが、叙述はむしろ淡々としていて、ドラマチックな悲愴感はありません。 なぜ、そうなのかということと、読んでいる間に何回か味わった既視感の正体は作者あとがき...
「その日」とは、1945年8月15日。正午にいわゆる玉音放送が流れる終戦の日です。 オビには、「鬼気迫る」という評がついていますが、叙述はむしろ淡々としていて、ドラマチックな悲愴感はありません。 なぜ、そうなのかということと、読んでいる間に何回か味わった既視感の正体は作者あとがきで理解できました。 淡々としているのは、本作の元になった作者の伯父の回述がその時代を生きた当事者のもつ「軽やかさ」を反映しているためで、既視感は3.11の地震にあって感じた感覚と主人公の感覚が根っこの部分で同質のだったりするからなのだ、と。
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西川氏の作品としてはちょっと意外でしたが、あとがきを読んで、ああ、そうだったのか、と納得。激しい感情の起伏もなく、たんたんと書かれている中にところどころ「ぼく」の思いがそっと静かに火を灯す。そんな作品でした。
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この本が書かれた経緯についてはあとがきに詳しい。 広島に生まれたものが負うべき義務として戦争について知らされることが「頭が割れるほど嫌だった」という彼女。 伯父の体験の小説化という形で、こんな伝え方もあるよ、こんなふうにその時を過ごした人もいるよという、視点を変えたメッセージを提...
この本が書かれた経緯についてはあとがきに詳しい。 広島に生まれたものが負うべき義務として戦争について知らされることが「頭が割れるほど嫌だった」という彼女。 伯父の体験の小説化という形で、こんな伝え方もあるよ、こんなふうにその時を過ごした人もいるよという、視点を変えたメッセージを提供してくれた。 戦争と3・11についての思いにも共感。 年若い広島出身の作家の感性を高く買う。 モールス信号のデザインもよい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
終戦日の一日のこういう切り取り方もあるのかと、少しほっとしました。広島にたどり着いて出会った自転車で荷物を運んでいた姉妹のたくましさに、ほっとして救われる思いでした。
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読んでいるうちは、どこにたどり着くんだろうかと不思議な感じがしたけど、著者のあとがきを読んで納得しました。「すべてに乗りそびれてしまった少年」の戦争体験の話。
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誰も死なないけど、泣いた。いわゆる「戦争」を描いた本。でも、普通ならあるはずの、人が亡くなったり、悲惨な描写が、ない。特殊情報部という、一種独特な立場で戦争に関わった一人の兵隊にとっての戦争と終戦が、淡々と描いてある。 西川美和本人が、あとがきに書いていたように「その時代に生きた...
誰も死なないけど、泣いた。いわゆる「戦争」を描いた本。でも、普通ならあるはずの、人が亡くなったり、悲惨な描写が、ない。特殊情報部という、一種独特な立場で戦争に関わった一人の兵隊にとっての戦争と終戦が、淡々と描いてある。 西川美和本人が、あとがきに書いていたように「その時代に生きた当事者の中には、案外に『軽やかさ』のようなものも存在したのだということもまた、新鮮な発見」という、その通り。 一般的に「不謹慎」ということで、「非難」されかねなくて、だから表に出てこない、でも、人間や物事にはそういう面ってあるよね、という部分をしっかり描き切っていて、素晴らしい。こういう部分に光を当てて、表現できるように、私もなりたい…。ちなみに泣いたのは、友人の益岡さんのモールス信号の場面です。西川美和、最高ー
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映画と小説の関係は主と従ですみわけ、例えていえば映画が妻そして小説は愛人。映画をつくって小説を書く、それは消化して成仏させることだ・・・。と、いう意味のことをあるラジオ番組のインタビューで云われていた。この番組の中で紹介されて読んでみたくなったのがこの作品だ。 1945年に...
映画と小説の関係は主と従ですみわけ、例えていえば映画が妻そして小説は愛人。映画をつくって小説を書く、それは消化して成仏させることだ・・・。と、いう意味のことをあるラジオ番組のインタビューで云われていた。この番組の中で紹介されて読んでみたくなったのがこの作品だ。 1945年に召集されてから終戦を迎えるまでの3ヶ月間、陸軍の特殊情報部の通信兵として訓練を受けていた特殊な事情もあり、8月15日終戦前に敗戦を知らされ、列車で広島に帰郷する伯父の体験をもとにしたもの。 「あとがき」に依ると、折しも未曾有の東日本大震災起きた渦中で書き上げられた小説であると綴れれている。 嘘をテーマにしたいくつかの作品、映画『ディア・ドクター』とか観たが、これもラストで、ある嘘というか女性たちのしたたかに生きる逞しさが漲る読後感。
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ほぼほぼノンフィクション。 終戦をいつ何処で知ったか。。。 たいていの人は あの玉音放送だと思うけれど 特殊な状況でこのような経験をした人がいたのだと なんだかふわふわしたファンタジーのような 読後感でした。
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そしてぼくは、何も何もできない。頑張ってモールス信号を覚えたって、まだ、空は燃えている――。終戦のまさにその日の朝、焼け野原の東京から故郷広島に汽車で向かった「ぼく」。悲惨で過酷な戦争の現実から断絶された通信兵としての任務は、「ぼく」に虚無と絶望を与えるばかりだった――滅亡の淵で...
そしてぼくは、何も何もできない。頑張ってモールス信号を覚えたって、まだ、空は燃えている――。終戦のまさにその日の朝、焼け野原の東京から故郷広島に汽車で向かった「ぼく」。悲惨で過酷な戦争の現実から断絶された通信兵としての任務は、「ぼく」に虚無と絶望を与えるばかりだった――滅亡の淵で19歳の兵士が眺めたこの国とは。広島出身の著者が伯父の体験をもとに挑んだ、「あの戦争」。鬼気迫る中編小説。
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