冥土めぐり の商品レビュー
過去の満ち足りていた生活に執着する母と、金が全てと言わんばかりの弟、そしてそんなどうしようもない家族に締め付けられていた奈津子。脳神経の発作によって働けなくなってしまった夫・太一と来たのは、かつては豪華なホテルであり、今は区の保養所になり下がってしまった、母のかつての"思い出の"...
過去の満ち足りていた生活に執着する母と、金が全てと言わんばかりの弟、そしてそんなどうしようもない家族に締め付けられていた奈津子。脳神経の発作によって働けなくなってしまった夫・太一と来たのは、かつては豪華なホテルであり、今は区の保養所になり下がってしまった、母のかつての"思い出の"場所だった。 太一はいろんなことに執着しない。全ては海の満ち引きのように移り変わって当然なんだと、まるでそんな風に思っているかのよう。夫婦二人きりの旅行で、奈津子はそんなことに気づくのだ。過去が今へと移り変わっていく以上、過去に雁字搦めにされてた自分も一歩ずつ前に踏み出せるのだと。 奈津子の前進を妨げていたもの、それはきっと彼女自身の思い込みだ。何も変わらないんだという諦めの境地。太一は変化を自然に受け入れる。当たり前の変化を当たり前のこととして受け入れること、それは意外と難しいことなのかもしれないが、前に進むためにはきっと必要なことなのだ。
Posted by
と、言っても、私が読んだのは文藝春秋の全文掲載なので、読んだのは表題作のみ。 以前、鹿島田さんの作品を読んだ時、正直、印象は薄く、私の中で、彼女は女性作家のその他大勢に分類されてしまっていた。 私はこういう、不条理で理不尽で、でもそれこそが現実で、主人公がそれにどう向き合って...
と、言っても、私が読んだのは文藝春秋の全文掲載なので、読んだのは表題作のみ。 以前、鹿島田さんの作品を読んだ時、正直、印象は薄く、私の中で、彼女は女性作家のその他大勢に分類されてしまっていた。 私はこういう、不条理で理不尽で、でもそれこそが現実で、主人公がそれにどう向き合っていくのか、っていうお話はすごく好きで。 こんなにも深く突き刺さってくる作品を描く人だと思っていませんでした。 受賞インタビューでも、最後にすごく印象的なことを話されていたので、少しだけ略しながら引用。 「人間がすごく不幸なのは、国家や社会規模の"公的な不幸"を抱えながら一人一人に固有の"私的な不幸"を抱えているところです。その公的な不幸と私的な不幸の比重というのは同じだと意識することが、うまく生きるコツかなと私は思います。たとえばいま、東北の震災がニュースで取り上げられたかと思うと、いじめで自殺する子どものニュースが報じられます。この二つの不幸は同じ比重だと考えるべきだと私は思うんです。不幸の大きさは、公的であろうと私的であろうと変わりません。 私的な不幸を、『たいしたことないから』とか『もっと大変な人がいるから』などと言って忘れたことにして乗り越えようとするのは違います。『自分の悩みは結構深刻な問題だぞ』と自覚するのは意外と大切なことで、私的なことだから人に相談したりSOSを発するのは恥ずかしいとは思わないほうがいい。大人でも子どもでも一緒です。 私自身、デビュー後、つらい時期がありました。その時は憂鬱そのものを直視した本を読み、自分の精神状態の大変さを自覚することで、少し救われました」 私も普段から大切にしていること。でもそれを、こんな風に、文字にして表現する人には、なかなか出会えない。 私が求めていた作品、作家さんが、まさにここに。さかのぼって、他の作品も読みたいです。
Posted by
奈津子が障害を持った夫、太一と1泊2日の旅行へ出かける話。旅行先は可つて奈津子が家族で泊まりに行った豪華なホテルだが、今は保養所になっていて格安で泊まることができる。 夫の太一はあまり好きな人物ではない。奈津子の母も、弟もだが。 しかしラストは、ほんのすこし希望が感じられてよか...
奈津子が障害を持った夫、太一と1泊2日の旅行へ出かける話。旅行先は可つて奈津子が家族で泊まりに行った豪華なホテルだが、今は保養所になっていて格安で泊まることができる。 夫の太一はあまり好きな人物ではない。奈津子の母も、弟もだが。 しかしラストは、ほんのすこし希望が感じられてよかった。 99の接吻のほうはあまり頭に残らない話だった。 別の作品も読んでみたい。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
表題作「冥土めぐり」は、主人公奈津子が障害を負った夫太一とともに、かつて高級ホテルだった保養所を訪れるところから物語はスタートする。 奈津子は過去の栄光を慈しむ母親と湯水のようにお金が溢れると思っている弟によって苦しめられていた。かつて泊まったホテルが保養所と成り果てた姿は、まるで奈津子の家庭のようでもある。また淡々とした描写が読んでいる私にも影を落とした。しかし、ラストは僅かばかり光が見えるのがいい。 同時収録されている「99の接吻」は三人の姉が大好きな菜菜子だが、Sという美青年の出現に姉三人のバランスが崩れてしまう。 こちらは「冥土めぐり」とは全く違う作風で、中山可穂や松浦英理子を思わせるような内容だった。
Posted by
2012年芥川賞受賞作「冥土めぐり」と、「99の接吻」がおさめられている。鹿島田真希は、ふつうの人が思うすこし明確な言葉にしづらいものをすくいとって、変わった風に表現しているかんじ。「99の接吻」は書きたいことにまだまだ技術が追いついてない印象で、ほんとうにそのままそれらしい言葉...
2012年芥川賞受賞作「冥土めぐり」と、「99の接吻」がおさめられている。鹿島田真希は、ふつうの人が思うすこし明確な言葉にしづらいものをすくいとって、変わった風に表現しているかんじ。「99の接吻」は書きたいことにまだまだ技術が追いついてない印象で、ほんとうにそのままそれらしい言葉に移し替えただけ、みたいな。「冥土めぐり」のほうが優れた小説だとおもいます。まあ「冥土めぐり」も、これがソリューションなのかなあ、救済ってこんな風に訪れるものなのかなあ、と疑問でいっぱいだったけれど。案外現実のソリューションなんてこんなものなのかもしれない。わからない。 ところで、この膜がはったような現実との微妙な距離感、自分というものの希薄さ、それがさいきんの文学が表現しようとしてるものなんでしょうか。書きたいものはわかる。でも正確に汲み取れていると感じた小説はまだありません。
Posted by
本当に大切なモノは、以外に身近な些細なコトの中に有るのかも知れないなぁ♪夢を食べると高熱に侵される様な奇病から、一錠の解熱剤がやっと効能し快復する話?。シスコン!?大奥!?秘密の花園!?すごい偏狭観の話!?…の二話構成。
Posted by
依存してくる堕落した家族と距離を置いて、自分達の生活を営まない理由は復讐心があっての事なのか、イマイチ理由がわからなかった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
芥川賞ということで読んだ。 「冥土めぐり」 障害を持った夫と1泊2日の旅に出る主人公。 冥土めぐりだなんて言うから最後に心中でもするんじゃないかと気が気ではなかったが、そうではなかった。 家族の呪縛から楽になれる道筋が見えたようなのは良かったけど、夫の太一は読んでて嫌いなタイプだなぁ、いくら家族と縁を切ってもこの夫といるのはごめんだなあなんて思ってしまったので、ほんとうに人の幸せとはさまざまな形があるのだと思う。 「99の接吻」 四姉妹・末の妹の視点から見た、エロティックな姉たちとの暮らし。 母が離婚時に発した「酷い目なんて、遭っていたに決まっているじゃない。だけど、たくさんありすぎて、思い出せないだけよ」が、ものすごく印象的だった。 冥土めぐりよりはこっちのほうが好みだ。
Posted by
奈津子の母と弟は精神的に崩壊しているし、家族としては問題外だが、夫の太一だって私から見ればイライラのターゲットでもある。 しかし、奈津子にとってはやっと見つけた癒しであるし、自由も得ることができたのだ。 人は誰もが思ったとおりに生きればいいだけなのに、当たり前の尺度が狂ったがため...
奈津子の母と弟は精神的に崩壊しているし、家族としては問題外だが、夫の太一だって私から見ればイライラのターゲットでもある。 しかし、奈津子にとってはやっと見つけた癒しであるし、自由も得ることができたのだ。 人は誰もが思ったとおりに生きればいいだけなのに、当たり前の尺度が狂ったがために幸せを逃してしまう。 何が幸せなのか考えるのも難しい。
Posted by
表題作も99の接吻も、昭和の香りのする本という印象でした。 昔の映画を見ているような不思議な世界観です。 テーマとしては重い部類ですが、さらっと銀幕の世界に投影としてるという感じです。なんということもない一コマ一コマの感情の変化がこの作品を作っています。 99の方は好き嫌いがは...
表題作も99の接吻も、昭和の香りのする本という印象でした。 昔の映画を見ているような不思議な世界観です。 テーマとしては重い部類ですが、さらっと銀幕の世界に投影としてるという感じです。なんということもない一コマ一コマの感情の変化がこの作品を作っています。 99の方は好き嫌いがはっきりする作品ですね。このドロドロ感はくせになるかも。
Posted by