凍原 の商品レビュー
題名にある女性刑事松崎比呂が、『氷の轍』の大門真由同様、彼女自身が事件に深く関わりを持っている。 一方、捜査の主役は『氷の轍』と同じく片桐周平が担当する。後読みになったが、本書が先行刊行作品のようだ。 1992年7月の出来事で幕が開け、次は1945年8月の終戦前夜の話になり、そし...
題名にある女性刑事松崎比呂が、『氷の轍』の大門真由同様、彼女自身が事件に深く関わりを持っている。 一方、捜査の主役は『氷の轍』と同じく片桐周平が担当する。後読みになったが、本書が先行刊行作品のようだ。 1992年7月の出来事で幕が開け、次は1945年8月の終戦前夜の話になり、そして2009年に事件が起きる。 過去の出来事が現在の事件を引き起こす要因となるミステリーではよくある展開のパターン。 しかし、『氷の轍』同様、ミステリーというより、直木賞受賞の著者らしい文芸作品の色合いが濃い。 ソ連侵攻の樺太から逃れ、戦後の激動期を生き抜いた女性の一代記の感があり、濃霧に覆われた釧路の情景が作品に香華を添える。 捜査の過程で、片桐が比呂に告げる。 ある人物の「霧が晴れれば、今度は違うだれかの視界が曇るんだよ。水になったり水蒸気になったり、いつもどこかで曇り続けるんだ。見えない度胸も、ときには必要なんだ」 一般に、北海道には梅雨がないと言われているが、蝦夷梅雨という言葉があるのをこの書で知った。
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※このレビューにはネタバレを含みます
私の父は、樺太引揚者である。 今でも図書館に通い、自身のルーツが記載されているような資料を探していると思われる。(たまに大発見を見せてくれる) 元々推理小説も好きなので、この本を父にプレゼントしようかと思いながら読んだので、どうも作品に集中できなかった。 1992年、釧路での少年行方不明事件は、単純にミステリとして読んだ。 しかし、1945年8月の樺太パート。 ソ連の侵攻から逃れようとする人々の描写を、父はどう読むのだろう。 引揚者はまず函館に上陸するという記述を読み、第二の故郷として函館で成長した父は、何を思うだろう。 ミステリとしての作品以前に、樺太引揚者の気持を忖度してしまって、集中できなかった。 けれど、生きのびることだけを考えて樺太から引き揚げてきた長部キクの生き様と、釧路で殺された札幌の会社員・鈴木洋介の事件が徐々に重なりはじめた頃から、この物語の落としどころを考え考え、樺太は遠のいていった。 誰が悪いのだろうと言えば、彼も彼女も悪い。 自分の思いだけを優先した結果、人を傷つける連鎖が生まれてしまった。 特に、鈴木洋介の殺害については、何一つ悪いことをしていない彼がなぜ殺されなければならなかったのか。 青い目で生まれたことは彼の罪ではないし(彼の親の罪でもない)、自分のルーツを探すことは、自分を認める第一歩になるはずだったのに、それがなされることなく終わってしまった彼の人生は、生まれてきた意味は…。 考えるだに辛い。 彼こそは、殺される必要なく殺されてしまったから。 最初の過ちが償われていたら、彼が殺される必要は、または、別の彼が殺人犯になる必要は全然なかったのだ。 重苦しい読後感。 果たしてこれを、父に手渡していいものかどうか、今でも迷っている。 *:春採湖のそばの大型書店って、コーチャンフォーのことですね。にこにこ。
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刑事ものと思って読むとなんかもんやりする話。 犯人の動機も弱い感じ。 桜木さんらしい北の大地に生まれた女性の悲劇といえば桜木さんらしい北海道(樺太)が舞台の時代小説とも読める。
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北海道で起こった事件を過去にトラウマがある主人公が追っていく話 主人公の過去の事件とともに全てが明らかになってくるので伏線回収などはしっかりされていた物語、ミステリーとしては面白かったと感じる。 背景なども面白く歴史も踏まえて読んで良かったと思う作品ではあった。 しかし、点数が...
北海道で起こった事件を過去にトラウマがある主人公が追っていく話 主人公の過去の事件とともに全てが明らかになってくるので伏線回収などはしっかりされていた物語、ミステリーとしては面白かったと感じる。 背景なども面白く歴史も踏まえて読んで良かったと思う作品ではあった。 しかし、点数が低い理由としては二つある。 一つ目に物語が頭に入ってきにくく、伏線らしきミステリー要素はわかりやすい。という点にある。人によっての読解力や想像力などの違いなどはたるが、視点や感情がコロコロ変わり、登場人物も多い。スケールも大きく内容上時系列も遡ったりが大きい為、整理しながら読み進めていくのが難しい(速読タイプよりも、じっくり考えて内容を深めていくタイプの方に合うのではないだろうか) 二つ目、主人公率いて誰にも感情移入がしにくい。 そもそも主人公は誰なのかを決めつけてはいけないのかもしれないが… 主人公は、物語を進める役割に値した人物として割り切らなければと思うほど、、薄すぎる。
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ある女性の大河ドラマのような壮大なスケールの話だと思うけど、ただただ鈴木洋介がかわいそう。簡単に殺されすぎ。 桜木紫乃は2冊目だけど、北海道=湿原=暗い、寂しいの印象で、ここにさらに今回は樺太、引き上げ・・・というワードも加わってさらにうら悲しい。天気で言うといつも曇りのイメージ...
ある女性の大河ドラマのような壮大なスケールの話だと思うけど、ただただ鈴木洋介がかわいそう。簡単に殺されすぎ。 桜木紫乃は2冊目だけど、北海道=湿原=暗い、寂しいの印象で、ここにさらに今回は樺太、引き上げ・・・というワードも加わってさらにうら悲しい。天気で言うといつも曇りのイメージ。 十河キクの工房や暮らしぶりの描写は、唯一の晴れのイメージだったんだけどな。
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直木賞作家、桜木紫乃さん初めてのミステリー長編。北海道警釧路方面本部女性刑事第一弾。釧路湿原でブルーアイの男性の死体が発見される。樺太、留萌、小樽、札幌、室蘭を舞台にある女性の半生が事件の鍵を握る。
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最初の方に出てくる性描写が女性作者のわりにリアルで生々しくしいと感じた。 時代が戦後直後の北海道を、舞台にしているということもあって、環境の極寒と人の余裕の無さからくる冷酷さがよく伝わってきた。 そこから紐解いていく殺人事件。時をまたいで、解決していく内容深めの話だと思う。
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この小説はを推理小説と思って読むと少しガッカリするだろう。最後まで犯人の動機については納得がいく説明がなかった。しかしながら、作者が得意とする影のある幸薄い女性の一生を描いた作品だと思って読めば、やはり味のある仕上がりになっていると思う。
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真冬の北海道の広大な大地に広がる曇天の空模様を連想する作品だった。谷地眼で消えた弟、刑事となった姉、湿原での殺人事件、被害者が固執した自身のルーツ、樺太からの引揚者、捜査線上に浮かぶ顔の無い女―。全てが複雑に入り混じり、濃密で大河的な人間ドラマが完成する。サブタイトルで警察小説を...
真冬の北海道の広大な大地に広がる曇天の空模様を連想する作品だった。谷地眼で消えた弟、刑事となった姉、湿原での殺人事件、被害者が固執した自身のルーツ、樺太からの引揚者、捜査線上に浮かぶ顔の無い女―。全てが複雑に入り混じり、濃密で大河的な人間ドラマが完成する。サブタイトルで警察小説をイメージすると私の様に少々面食らうかもしれない。不明瞭な犯人の動機だが、母への免罪を【代替品】に投影した因果だったのだろうか。自身の納得なしに前へは進めない物事を誰しもが抱えているのかもしれない、例えそれが誰かを傷つけようとも―。
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最近お気に入りの桜木さんの本なので、わくわくしながら読みました。 1992年、北海道釧路市市内の小学生が行方不明になった。 湿原に落ちたと思われるが、帰ってくることはなかった。 それから17年、姉の松島比呂は刑事として釧路に着任し、 その湿原で発見された他殺死体の現場へ。...
最近お気に入りの桜木さんの本なので、わくわくしながら読みました。 1992年、北海道釧路市市内の小学生が行方不明になった。 湿原に落ちたと思われるが、帰ってくることはなかった。 それから17年、姉の松島比呂は刑事として釧路に着任し、 その湿原で発見された他殺死体の現場へ。。。。 事件の捜査を始めると、そこには、激動の時代を生き抜いた、 顔のない女の一生が浮かび上がる! 最初から、面白くて、ぐいぐい引き込まれてしまいました。 時代が交差し、ある女性の存在が重要なカギになってくるのだけど、 それが、一体誰なのか?。。。わくわくドキドキ。。。 が。。。。最後の最後で犯人がわかるのですが、 なぜこの人が犯人なの? いったい、犯行の動機は何? ?????? 私の理解力がないのか?!。。。と、もう一度パラパラと読み返したけど。。。 うーん。。。。納得いかない。。。という感じでした。 惜しい!一冊です。
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