罪悪 の商品レビュー
2012年の締めくくりに読んだ本。前作に引き続き、淡々とした語り口で作家が担当した案件が紹介されていく。前作と異なる点は刑事裁判を担当することになった作家の当初の期待と、その後の挫折が語られる。弁護士でさらには刑事裁判を担当すると聞くと華やかな映画のワンシーンを思い浮かべがちだが...
2012年の締めくくりに読んだ本。前作に引き続き、淡々とした語り口で作家が担当した案件が紹介されていく。前作と異なる点は刑事裁判を担当することになった作家の当初の期待と、その後の挫折が語られる。弁護士でさらには刑事裁判を担当すると聞くと華やかな映画のワンシーンを思い浮かべがちだが、この本を読むとつくづく彼のような職に就かなくて良かったと思ってしまう。ミステリーとはまたちょっと違うが、あっという間に読めてしまう本だ。
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「ドイツの冬を想わせるどこまでも乾いた罪の記録」 まつりの日にブラスバンドの男たちから集団暴行にあった少女、教師であった妻の教え子である少女から冤罪を着せられた男、夫のDVから逃れるため恋人と謀り夫を手にかけさせた妻、など一人の弁護士が実際に起こった事件をもとに語る15の罪の記...
「ドイツの冬を想わせるどこまでも乾いた罪の記録」 まつりの日にブラスバンドの男たちから集団暴行にあった少女、教師であった妻の教え子である少女から冤罪を着せられた男、夫のDVから逃れるため恋人と謀り夫を手にかけさせた妻、など一人の弁護士が実際に起こった事件をもとに語る15の罪の記録。 かつてドイツで一冬を暮らしたことがあった。ドイツの冬は乾燥し暗くて底冷えがする。まるで調書を読んでいるかのような本書の文章は、身体が記憶しているそんなドイツの冬を想い起こさせる。本書は、そこにかかれている内容の湿り気を全て取り去り手のひらからぱらぱらとはたきおとしていくようなどこまでも乾いた罪の記録である。 書かれている事の重大さにもかかわらず、あまりにも淡々と読み進められてしまったゆえに、書評を書くにあたって思わず再度読み直してしまった。 日本でこういうトーンの作品が書かれたなら、おそらくもっと新聞記事っぽくなるように思うが、『アウステルリッツ』や『移民たち』などゼーバルトの作品にも通じるこの淡白さの中に入り混じる寂寥感はどうもドイツの気候風土と無縁ではないように思えてならない。そこのところ著者の『犯罪』も読んで確認してみたい。
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体温の低い文章が強烈な印象を残す短篇集。うららかで陽気な祭りの日に起きた、実に愚かしく陰惨な事件のスケッチから幕が開き、この本が、法による裁きと「罪」との間の、決して埋まらない隙間を扱うものであることを告げる。けっしてバラエティに富む短篇集とはいえないものの、ささいなことから人生...
体温の低い文章が強烈な印象を残す短篇集。うららかで陽気な祭りの日に起きた、実に愚かしく陰惨な事件のスケッチから幕が開き、この本が、法による裁きと「罪」との間の、決して埋まらない隙間を扱うものであることを告げる。けっしてバラエティに富む短篇集とはいえないものの、ささいなことから人生を決定的に破壊されてしまうひとびとの悲劇を描く「イルミナティ」や「子どもたち」から、タランティーノの映画を見ているような「鍵」まで、どれも見事な手際。そしてしめくくりの「秘密」は、あっと言わせてニヤリとさせる、ちょっとしたボーナストラックみたい。装丁もよく雰囲気をつたえていて◎。
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前作「犯罪」に続いての短編集。 同じく犯罪の裏に隠された真実が現職の刑事弁護士である著者により淡々と語られます。 妻が夫を殺した事件。10年以上夫から虐待を受け続け,ついにその毒牙が我が娘に向けられようとしたとき,妻は夫に手をかける。 「殺人」という事実だけを観れば,「殺...
前作「犯罪」に続いての短編集。 同じく犯罪の裏に隠された真実が現職の刑事弁護士である著者により淡々と語られます。 妻が夫を殺した事件。10年以上夫から虐待を受け続け,ついにその毒牙が我が娘に向けられようとしたとき,妻は夫に手をかける。 「殺人」という事実だけを観れば,「殺人罪」の適用をすればよいだけかもしれませんが,そこに隠された真実をどこまで汲み取ることができるのか,逆に汲み取らなければいけないのか?裁きの際にその真実が活かされるのか否か?またもや考えさせられる内容でした。
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前作の『犯罪』が面白かったので読んだ。 私は前作の方が練られていた感じがして好きだった。 今回のも淡々としているという点は同じで、悪くはないのだけど、期待度が高かったから、ちょっと肩すかしを喰らった気分。 逆の順番に読んだら楽しめたかもしれない。
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twitterでオススメと書いていた方の書評に惹かれて読んでみたところ、冒頭の「ふるさと祭り」で一気に引きこまれ久しぶりに短時間で読破。市井の普通の人々が犯罪者となる過程がそれぞれの短編の中で独特に描かれている。 特に印象に残ったのは「子どもたち」「雪」「清算」「寂しさ」。 だれ...
twitterでオススメと書いていた方の書評に惹かれて読んでみたところ、冒頭の「ふるさと祭り」で一気に引きこまれ久しぶりに短時間で読破。市井の普通の人々が犯罪者となる過程がそれぞれの短編の中で独特に描かれている。 特に印象に残ったのは「子どもたち」「雪」「清算」「寂しさ」。 だれもが罪人になる瞬間があるのだ。
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あらすじ 「ふるさと祭りの最中に突発する,ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社イルミナティにかぶれる男子寄宿学校生らの,”生け贄”の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。何不自由ない暮らしを送る主婦が続ける窃盗事件。麻薬密売容疑で逮捕さ...
あらすじ 「ふるさと祭りの最中に突発する,ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社イルミナティにかぶれる男子寄宿学校生らの,”生け贄”の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。何不自由ない暮らしを送る主婦が続ける窃盗事件。麻薬密売容疑で逮捕された孤独な老人が隠す真犯人。――弁護士の「私」は,さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。 刑事事件専門の弁護士が,現実の事件に材を得て描きあげた十五の異様な物語。世界各国を驚嘆せしめた傑作『犯罪』の著者による,至高の連作短編集!(本書ソデから引用)」 感想 作者が同業者の弁護士ということだけで読んでみたのですが,素晴らしい作品だったのでめっけモノでした。2012年の本屋大賞を受賞した前作『犯罪』は未読なので,読むのが楽しみです。 救いのない,だけどあり得そうな結末の「ふるさと祭り」から暗澹たる刑事事件にまつわる物語が淡々と繰り広げられていきます。こういう人間の暗部を描く小説は好きなので最後まで楽しめました。ただし,あり得ない結末の「解剖学」を除いて。 どの短編も濃淡はさまざまであるものの,弁護士である「私」が関与しているので短篇集ではなく連作短編集という扱いになっています。ただ,「ふるさと祭り」と「秘密」以外の作品において,「私」は単なる語り部にすぎません。そして,物語の大部分は三人称で語られており,最後の方に「私」が一人称として登場してくるのに違和感がありました。 私は駆け出しの弁護士として刑事弁護に携わっています。今のところ,本書のような異様な物語の着想を与えてくれるような事件には関わってはいません。いずれ関わることになるかもしれません。しかし,フィクションとして読む分には楽しめるのでしょうが,実際に重苦しい事件に関与したときにどんな感情を抱くのか。
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短編集。 皮肉の効いたキレの良い短編がいくつかあり前作「犯罪」に比べるとより内面的。 好みとしては前作の方が良い。今回の方がオチが少々解りにくい。 最後の作品のオチは笑えるようで怖くもある。「私」はどちらだ?色々な読み方が出来ると思う。
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前作『犯罪』があまりに面白かったので期待して読んだけど、ややスケールダウンしている感が否めない。良いネタは前作で使いすぎたのだろうか。前作の犯罪はやむにやまれぬ動機があって、なんとか刑を軽くしてあげられないのかという話が多く、登場人物に共感できたのだが、今回は後味の悪い話も多い...
前作『犯罪』があまりに面白かったので期待して読んだけど、ややスケールダウンしている感が否めない。良いネタは前作で使いすぎたのだろうか。前作の犯罪はやむにやまれぬ動機があって、なんとか刑を軽くしてあげられないのかという話が多く、登場人物に共感できたのだが、今回は後味の悪い話も多いし、作りすぎの話もあって嘘臭くなっている。 ひとつだけネタばれ話を書く。 女性を誘拐し自宅に監禁し拷問を加えるため、用意周到に準備していた男が、いよいよ実行に移す日が来た。男の妄想は膨らむ。そしてターゲットを見つけ車のアクセルを踏み込む。残酷な連続殺人がはじまるのか… と、思いきやタクシーと衝突して男はあっけなく死ぬ。 これが事実なら無事でなりより、良かった良かったでいいのだが、小説と考えると実に拍子抜けだ。 このような、どうなのよそれは? という話もあれば、まあまあ面白く練られた話もあるので、読んでも損はないと思う。 でも、どうしても前作と比べてしまうなあ…
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犯罪を扱っている小説にもかかわらず、読みやすく、完成度が高い。法の裁きとは別の善悪の判断を読者に投げかけている。黒いオー・ヘンリーというか、才能。
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