東京「スリバチ」地形散歩 の商品レビュー
いよいよ東京湾を跨ぐ東京ゲートブリッジが開通し「水の都」とも形容される東京。しかし、水は高い所から低い所へ流れるという事実からも分かるように、東京は山あり谷ありの起伏に富む大地なのだ。本書では窪地状の谷を「スリバチ」と命名し、ゴマでもするかのように褒めたたえている。 著者は東京...
いよいよ東京湾を跨ぐ東京ゲートブリッジが開通し「水の都」とも形容される東京。しかし、水は高い所から低い所へ流れるという事実からも分かるように、東京は山あり谷ありの起伏に富む大地なのだ。本書では窪地状の谷を「スリバチ」と命名し、ゴマでもするかのように褒めたたえている。 著者は東京スリバチ学会の会長。この東京スリバチ学会、奇しくも団地団と同じ3人で活動をスタートし、現在は会員も増殖中とのこと。考えてみれば東京には谷のつく地名が本当に多い。山手線内だけでも渋谷、四谷、千駄ヶ谷、市ヶ谷、茗荷谷、神谷町、谷中など。他にも麻布、赤坂、麹町などは旧町名で谷町と呼ばれていたそうだ。 本書ではこれらの谷に共通するポイントとして「スリバチの法則」というものが紹介されている。そのうちの一つは、「建物は地形の起伏を増幅するように立つ」というもの。これは、高台には高い建物が立ち、スリバチの底には地面にはりつくような低層高密度な街並みが広がっているということである。実はこれは東京に限った現象ではなく、世界各地の都市や集落で見ることができる普遍性のある現象であるそうだ。ちなみに、つい先日渋谷駅の超高層化計画の記事を見かけたのだが、スリバチの法則には真っ向から反しており、先行きがやや不安である。 また後半では、東京における各エリア毎のスリバチ事情が、魅力たっぷりにレポートされている。図版や断面図も豊富であり、ついつい「書を捨て谷に出よう」となることは請け合いだ。 地名とは自分とって身近なものほど、記号化してしまいがちなものである。地形やその由来を感じながら街を歩くことは、すなわち地名を身体化するということでもあるだろう。そんな好奇心に思い切って身を委ねてみると、身近な日常ほどいつもと違った風景に見えてくるのかもしれない。
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