怪物はささやく の商品レビュー
苦しみから逃れようとする自分自身をどうやったら赦すことができるかという問題。 自分の心の中だけは偽れないという問題。 心の中のことで苦しまなくてもいいというイチイの木からのメッセージ。
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聞きたくないのに、聞こえてくる声。 どこからどこまでが本当か、なんてナンセンス。コナーは病気に苦しんでいる母と暮らしている。バイタリティにあふれた祖母とは気が合わない。父は新しい家族と暮らしている。窓から見えるイチイの大木が、怪物となって襲ってきた。彼はコナーに、物語を話せと言...
聞きたくないのに、聞こえてくる声。 どこからどこまでが本当か、なんてナンセンス。コナーは病気に苦しんでいる母と暮らしている。バイタリティにあふれた祖母とは気が合わない。父は新しい家族と暮らしている。窓から見えるイチイの大木が、怪物となって襲ってきた。彼はコナーに、物語を話せと言うが、コナーに語ることはなかった。ないのか、本当に? 誰だって、心の中に秘めたものをことばにするのは難しい。でも、目をそむけたままではいられない。いられなくなる時が来る。ことばにできない「物語」は、大きな力を持て余して暴走するかもしれない。しっかりと見つめて、語らなくてはならない。誰もが「物語」を信じたい。辛いことからは逃げたい。それは、ダメなことではない。傷つきながら、迷いながら、それでも、自分はどうしたらいいのか、行動することで真実を話すのだ。悪夢のような考えに飲み込まれる前に。 さあ、バトンが渡された。わたしも、語らなくては。大いに暴れようと思う。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
クライマックスまで暗く閉塞感に満ちた感じで物語が進むんだけど、主人公が木の怪物と触れ合うことで少しずつ主人公を縛り付けてきたものが解けて行って、ラストに主人公が本音を言うところで一気に物語を覆う闇が解放される感じがよかった。 木の怪物の正体は結局わからないけれど、あれは主人公にとってのなんだったのか色々想像したくなる。 おばあちゃんとの関係が、最初険悪だったのが段々いい方向に変わって行くのもよかった。 本文に描かれてる黒い挿絵?も、主人公の内面を表してるみたいで、雰囲気あってよかった。
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ずっと表紙は見たことあったのだけれど、ジム・ケイの表紙が怖くて手に取れなかった・・・。 ですが、映画化もするしと思ってついに読みました。 なんというか・・・そりゃそうだよ、そんなの考えちゃうよ、という意外にもいかにもな児童文学でした。
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なかなか深い話だった。児童文学にしては高度な内容に思えました。 人のエグい部分や純粋に清らかな部分を教えてくれる、胸にジリジリ焼きつくようでしたよ。 主人公のように強く生きたい。
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映画を先に観たのだが... もう、胸がいっぱいな瞬間が何度もあった(涙) 映画の原作って、どちらかの方がいい、というようなことが多いと思うが、どちらも素晴らしい稀有な本だった。 怪物の造形も、お母さんやおばあちゃんの様子も原作のイメージ通りで、中でも秀逸なのは語られる物語。 映...
映画を先に観たのだが... もう、胸がいっぱいな瞬間が何度もあった(涙) 映画の原作って、どちらかの方がいい、というようなことが多いと思うが、どちらも素晴らしい稀有な本だった。 怪物の造形も、お母さんやおばあちゃんの様子も原作のイメージ通りで、中でも秀逸なのは語られる物語。 映画では三者三様の趣で、より豊かにストーリーが紡がれているが、文章も負けていなかった。 全体に、こんなに悲しくて苦しくて、安直な言葉だが “かわいそう” なのに、終わりのあたたかな気持ちは、一体なんだ? とても好きな作品に出会えて大変にうれしい。 ほかの作品も読んでみなければ。
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読み時を逃したままずっと積んでいたのだけど、映画が公開されたのでこんどこそと思って読んだ。 誰の心にもひそむ自己中心性や弱さを、怪物との対決――いや、対話?――を通じて、真正面から見つめることを余儀なくされる13歳のコナー。 でも、その気持ちは、ほんとうに誰にでもあるよといい...
読み時を逃したままずっと積んでいたのだけど、映画が公開されたのでこんどこそと思って読んだ。 誰の心にもひそむ自己中心性や弱さを、怪物との対決――いや、対話?――を通じて、真正面から見つめることを余儀なくされる13歳のコナー。 でも、その気持ちは、ほんとうに誰にでもあるよといいたくなる。絶対的な善とか悪なんてなくて、すべての人間の心のなかでその両面が複雑にからみあっているんだよな。 だけど、それを見ぬ振りをしてふたをしておくと、とんでもない暴力となって爆発するのかもしれない。そこらへんも、コナーの年齢とあいまってとてもリアル。 あと、このイラスト(ジム・ケイ)がほんとうにすばらしい。この怪物の造形。悪夢からそのまま抜け出してきたみたいで、ほんとうに夢に出そうだ。
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『ボグ・チャイルド』の作者シヴォーン・ダヴドの遺した原案を『心のナイフ』三部作を書いたパトリック・ネスが完成させた作品。誰もが避けられない人生の不条理に直面した十三歳の少年の苦悩と恐怖、そしてそれらからの救済をファンタジー仕立てで描いている。いわゆる剣と魔法の世界でも、心のナイフ...
『ボグ・チャイルド』の作者シヴォーン・ダヴドの遺した原案を『心のナイフ』三部作を書いたパトリック・ネスが完成させた作品。誰もが避けられない人生の不条理に直面した十三歳の少年の苦悩と恐怖、そしてそれらからの救済をファンタジー仕立てで描いている。いわゆる剣と魔法の世界でも、心のナイフシリーズのような世界が舞台でもなく、現実を生きる私たち人間の心理世界の話なので前者を期待して読むと失望するかもしれないが、感動的な作品。
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読み終わってから、今週末映画が公開されると知ってびっくり。最近続けて読んでるシヴォーン・ダウドの、亡くなった後遺されていた構想を元に書かれた作品。シヴォーン・ダウドの作品は、どれも、危機に晒され傷付けられた子どもが、自らの力と周りの人々の力で、前に進んでいく姿を描いている。きれい...
読み終わってから、今週末映画が公開されると知ってびっくり。最近続けて読んでるシヴォーン・ダウドの、亡くなった後遺されていた構想を元に書かれた作品。シヴォーン・ダウドの作品は、どれも、危機に晒され傷付けられた子どもが、自らの力と周りの人々の力で、前に進んでいく姿を描いている。きれいごとでなく、人間のダメな部分、醜い部分もちゃんと描いていて、でも最後はそういうところもひっくるめて昇華されるところが、素晴らしい。 さて、映画は観に行くべきか...。本はモノクロの挿し絵が絵本のようにふんだんに挿入されていて、それも素晴らしかったので、フルカラーで実写化する必要なかったのでは?と思ったり。怪物や、怪物の語る物語を、クリエイターが実写化したくなる気持ちは分かるけど。 映画化するなら、「ボグ・チャイルド」の方が見たかったけど、地味すぎるかな。
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前々から気になっていた作品。読もう読みたいと思いつつも、読めばきっと打ちのめされると思い躊躇していました。また読んでしまうのが勿体なくも思っていました。思い切って読んでみるとやはり打ちのめされました。しかしそれはとても素敵な読書体験だったのです。自分の中で大切な一冊となりました。...
前々から気になっていた作品。読もう読みたいと思いつつも、読めばきっと打ちのめされると思い躊躇していました。また読んでしまうのが勿体なくも思っていました。思い切って読んでみるとやはり打ちのめされました。しかしそれはとても素敵な読書体験だったのです。自分の中で大切な一冊となりました。 13歳の少年コナーは母親とふたり暮らし。母親は病に冒され、そのことを学校で広めてしまった幼馴染みの少女とは折合いが悪くなり、周りのみんなからは腫れ物を触るように扱われ、いじめっ子グループに目を付けられ暴力を受ける。そんなコナーの元に夜中に現れた怪物。怪物はコナーが望んだからやって来たと言う。そしてこれから三つの物語を語り、そのあとコナー自身に四つ目の真実の物語を語るように言うのだった。 母親の入院のため祖母の家に行くことになるが、祖母とは元々馬が合わず、やって来た父親も自分を助けてくれない。そんな暗鬱な思いに満ちていく様子が、キリキリと締め付けるように描写されます。コナーの視点で書かれる物語ですが、そこから読み手が第三者的に見ることにより、コナーが築く壁が見えてきます。世界中の全てが敵になったような、世界中の全ての不幸を背負ったような気分になっているコナー。だからこそコナーは誰にも打ち明けられない思いを胸に秘めます。怪物はそれを語れと言う。そして胸に秘めたその思いも真実ならば、もうひとつの語られぬ思いも真実であると。矛盾するふたつの思いはひとりの人間の中で同居し得るものだと告げます。不幸に立ち向かうということは、我慢することでも無理矢理乗り越えようとすることでもない。まずは自分の思いに真っ正面から向かい合うこと。真実を語ること。 最後に母親に告げた真実の言葉。それによりコナーの心は解放されたのでしょう。それこそが救いであり、不幸に対抗する唯一の武器。読み手を締め付けていたものも消え去り、浄化されたような読後感が残ります。
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