ラジ&ピース の商品レビュー
サバサバと無駄をそぎ落とした文章がこの人の持ち味だろうが、本作はその極北とも言える世界。 他の作品においては、文章こそ簡潔(ただし力強い)だが、個性豊かな登場人物(躁うつ病患者、アルコール依存症者、左翼活動家等々)たちが物語をコミカルに切なく彩っていた。 本作では物語の展開や、登...
サバサバと無駄をそぎ落とした文章がこの人の持ち味だろうが、本作はその極北とも言える世界。 他の作品においては、文章こそ簡潔(ただし力強い)だが、個性豊かな登場人物(躁うつ病患者、アルコール依存症者、左翼活動家等々)たちが物語をコミカルに切なく彩っていた。 本作では物語の展開や、登場人物たちの関係性も、限りなく平坦に描かれている。 上りもしないし下りもしない。 ただ一人の人間の絶対的な孤独だけが、白紙の上にスーと浮かび上がる。 けれどその孤独は、柔らかな光に包まれている。 そんな印象。
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表題作は、あんな風にともだちになれるのかなって思った。 うつくすまふぐすまは、うつくしまふくしまってことかな。
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借りたい本を何冊か、プラス軽いやつと文庫のなかから何冊かと拾ってきた本。表題作と「うつくすま ふぐすま」の2篇収録。「うつくすま ふぐすま」は、「うつくしま ふくしま」というやつかな~と思ったら、会津出身、横浜出身のふたりの女性の話だった。 表題作は、群馬のローカルFM局で番...
借りたい本を何冊か、プラス軽いやつと文庫のなかから何冊かと拾ってきた本。表題作と「うつくすま ふぐすま」の2篇収録。「うつくすま ふぐすま」は、「うつくしま ふくしま」というやつかな~と思ったら、会津出身、横浜出身のふたりの女性の話だった。 表題作は、群馬のローカルFM局で番組を担当する女性の話。仙台のラジオ局で担当していたニュース番組が終わり、無性に新しい土地へ行きたくなった野枝は、あちこちの放送局の面接を受ける。それで受かった群馬のFM局で、野枝は午後の新番組「ラジ&ピース」のパーソナリティを務めるようになる。 リスナーから送られてくるメールも増えてきた。その全てに目を通しながら、野枝は考える。「楽しいトークなんて番組の中だけのものだと思っている。自分の違う人格がやっている仕事だと思っている。」番組のオンエア中にも、自分は何だと思う。「さまざまな恋愛経験をしたふりをしなければならない。いつでも隠していた知恵を取り出せる女のふり。それがパーソナリティ。」 ある日、野枝は気づく。 ▼野枝の声が空を飛んでいるのではなかった。 リスナーたちが空を飛んで、スタジオの野枝のそばに座るのだった。… からっぽのブースにたくさんの心が集まるのだった。 読み上げるメールも、読まないメールも、それから送信されないメールも同じことだった。 ラジオは発信されるものではなかった。人が集まるところにたまたま野枝がいる、そういうことなのだと野枝は思った。(pp.94-95) 「ラジオは発信されるものではなかった。人が集まるところにたまたま野枝がいる、そういうことなのだ」と読んで、はっとする。情報を発信する、発信、発信、発信、というのが攻撃的なほどにネットなんかを飛び回ってるなーという感じがこのごろとみに強くなっていたが、メディアはそういうどっちか向いただけの矢印のようなものじゃなくて、つながる場なんだろうと思った。 自分が発信の中心にいるように思っていた野枝が、そうではないと気づいたとき、野枝の自意識のヨロイもすこしほぐれる。誰からも干渉されたくないと思いつのっていた野枝の、人との関わり方に変化がうまれる。 「うつくすま ふぐすま」は、同姓同名の回文女子、二人の中野香奈の話だった。 「オトコに脳味噌はいらない」と思っていた中野香奈。自分とつきあうような大抵のオトコは凡庸。彼氏の慎一郎のこともこう思う。 ▼凡庸な証拠にかわいそうな慎一郎は言うのだ。 やっぱり年金のこととかしっかり考えた方がいい、とか。 ほんとは俺の方が運転が上手い、とか。 十年たったら俺の方が稼いでる、とか。 見苦しい。 小さな、小さな、男のプライド。そして見栄。ハナの差でいいからつきあっているオンナに勝ちたい気持ち。もしも男性全体として女性にちょっとでも勝っているのなら、俺がだめでも俺はおまえにちょっとだけ勝っている。なんだそりゃ。(p.149) あー、おかしい。こんな感じで慎一郎に対するコメントが差し挟まれつつ、話のメインストリームは、妹を通じて同姓同名、6つ上の中野香奈さんと会う中野香奈のこと。「ナカノさん」「カナさん」とポジションはすぐ決まって、そしてときどき会うようになった。何でも忘れちゃうナカノさん。だけど、その行動からナカノさんはちゃんとした人なんだなと香奈は思う。 ナカノさんと会うのは楽しい。しかし慎一郎とは、今では一個の話題が五分で終わる。昔は0個の話題で無限大にしゃべれたのに。「だめだこいつ」「捨てちゃわないと」と思うこともある。 「何度もやってるけど、オトコと別れるのってどうしてこんなに気分がいいんだろう」と、そんなところで話は終わる。おかしくて、おもしろかった。 (12/31了)
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感情は抑える必要もない。音楽のように豊かに溢れ出せばいい。悲しみも、喜びも、ときには怒りだって。たまには踏み外したっていい。(本文より) 群馬のローカルネタ、ラジオの現場の描写が新鮮。 なじめない、なじまないでやってきたローカルFMでパーソナリティを務める30代の主人公、新しい...
感情は抑える必要もない。音楽のように豊かに溢れ出せばいい。悲しみも、喜びも、ときには怒りだって。たまには踏み外したっていい。(本文より) 群馬のローカルネタ、ラジオの現場の描写が新鮮。 なじめない、なじまないでやってきたローカルFMでパーソナリティを務める30代の主人公、新しい土地で出逢う人たちとのやり取りで、良い感じにこれまでのスタンスが乱れほぐれる。基本的・根本的に改めたり省みたりするようなものではなく、これもいいかもしれんくらいのもの。 そうそう変えられるものでもない自分のやり方や人づきあいの癖ってあって。誰かに意見されることもないし、もういいねんって、思ってたもんが、ちょっとしたきっかけで、ふわっとほぐれて緩まる瞬間って、爽快やし人づきあいの醍醐味って感じがする。
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自分の殻に閉じこもりがちな主人公が、群馬でのラジオDJの仕事を通して、少しづつ、周りに心をひらいていく。DJをしている時とその他の時のテンションの差がちょっと笑えるけど、自分も案外そういう所があるなあと思う面もある。 際立って劇的な場面があるわけではないけど、じんわりと展開していくこういう話は好きだ。
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自由の不自由と自由の孤独が、ラジオ番組の進行と録音ブースの外でのぎこちない生活との対比で浮き彫りにされる。 表題作はこれまで読んだ絲山秋子の作品の中でベスト。
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表題作を読み終えて、何故か、 自分もにっと笑ってました。 併録の短編も潔くて心地よい。 好きな作家さんなので評価は、 ほんの少しだけ贔屓目です。
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気がついたら絲山秋子氏の新しい文庫が出ていたので、さっと買って、さっと読んだ。 相変わらずの絲山調。 諦めみたいな感覚から逃れることができずに(逃れようという気がそもそもないのだが)生きるアナウンサー。 諦めの感覚から立ち直るでもなく、回復するでもなく、その感覚のまま肯定されて...
気がついたら絲山秋子氏の新しい文庫が出ていたので、さっと買って、さっと読んだ。 相変わらずの絲山調。 諦めみたいな感覚から逃れることができずに(逃れようという気がそもそもないのだが)生きるアナウンサー。 諦めの感覚から立ち直るでもなく、回復するでもなく、その感覚のまま肯定されていく心地良さ。 だから、絲山秋子はやめられない。
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*引用* オトコに脳味噌はいらない。 百歩譲ろうか。脳味噌だけでもホルマリン漬けにしたくなるような、常軌を逸した賢さならいい。でも、なかなかいないでしょう、そんなひと。凡庸でしょう、あんたもその前もまたその前も。つまり私とつきあう大抵のオトコは。少しお利口なら友達になって一生つきあった方がいいじゃない。オトコなんてあれよ、どうせ飽きるんだから。三年もったら大したもの。何に飽きるか。それは何のためにつき合うかと一緒。つまりセックス。べたべたして好きだの愛してるだのぐじゅぐじゅ言うこと。でもね、セックスとお利口は両立しないの、殆どの場合。オバカにならないとあんな恥ずかしいことはできないの。おわかり? ―― 『うつくすま ふぐすま』 p.148-149
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表題作と「うつくすま ふぐすま」の2編。 自分のコンプレックスの端っこが引っ掛かるし、読み流してると研ぎ澄まされた言葉がストレートにぶつかってきて、痛いし。 なんでこんなに面白いんだろ。
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