フレーミング 「自分の経済学」で幸福を切りとる の商品レビュー
人類はかつてないほど情報に関していっそう貪欲になっている。著者が一貫して主張しているのは、「情報の小さなピースを操作し、それらを組み合わせて、感情的に満足のいく物語をつくる」ことのメリットである。本の中では自閉症者を例に取り上げ、自閉症者が健常者と比べて、情報の整理整頓能力が非常...
人類はかつてないほど情報に関していっそう貪欲になっている。著者が一貫して主張しているのは、「情報の小さなピースを操作し、それらを組み合わせて、感情的に満足のいく物語をつくる」ことのメリットである。本の中では自閉症者を例に取り上げ、自閉症者が健常者と比べて、情報の整理整頓能力が非常に秀でていることを述べている。自分の好きな情報をかき集め、ピースをつなぎあわせることで、新たな発見があったり、イノベーションが起きる。しかし、東日本大震災後の多くの人々の行動を見ていると、これらの負の側面が強調されているように思えて仕方がない…
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すぐれたインプットなしに、すぐれたアウトプットは生まれない。ブログにしろTwitterやFacebookにしろ、何がしかのアウトプットを継続的に行うために、特定の視座に基づいた情報の収集や選別が重要なのは、言わずもがなだ。本書において展開されているのも、そのような情報の収集、選別...
すぐれたインプットなしに、すぐれたアウトプットは生まれない。ブログにしろTwitterやFacebookにしろ、何がしかのアウトプットを継続的に行うために、特定の視座に基づいた情報の収集や選別が重要なのは、言わずもがなだ。本書において展開されているのも、そのような情報の収集、選別に関する論考なのだが、視点が非常にユニークである。自閉症者の認知面での強みから、きわめて多くのことが学べるというのが、テーマなのである。 著者のタイラー・コーエンは、ジョージ・メーソン大学の経済学教授。いつも専門分野の枠組みを大きく飛び越えた切り口で、経済を語る。ちなみに、彼が博士課程の時に指導教授だったのが、ノーベル経済学賞を受賞したトーマス・C・シェリング。タイラーは、シェリングをこのように評している。「たいてい、最初は彼の話があまりに的外れに聞こえるため、こちらの話を聞いていなかったのかと思うのだが、一分たつと、的は外れても一理あるかもしれないと思うようになる。そして五分後には、彼が最初から、自分よりはるか先を歩んでいた。」そして、このシェリングへの評が一子相伝のごとく、そのまま本書の特徴として引き継がれているのが、印象的だ。 ◆本書の目次 第一章 風変わりな思考の未来 第二章 知られざる創造力 第三章 現代文化は、その輝かしい面でなぜ結婚に似ているのか 第四章 インスタント・メッセンジャー、携帯電話、フェイスブック 第五章 救済者としての仏陀とシャーマンとしての教授 第六章 「物語」の新しい経済 第七章 ヒーロー 第八章 美は思いがけないもの 第九章 自閉症者の政治学 第一〇章 世界はどこへ向かうのか 自閉症の大きな特徴のひとつとして、自分の関心のある分野において整理、系統立て、区分、収集、暗記、類別、リスト化などの行動により、情報をさらに体系化しようとする傾向があげられるという。ただし、そのような感覚与件の階層が他者とは異なっていたり、そうした階層をまったく持っていなかったりする場合もある。 誤解のないように述べておくと、著者は自閉症者のことを、蔑んでもいなければ礼賛しているわけでもない。何より本書において、とあるブログ読者から、著者自身がアスペルガ―症候群か、高機能自閉症に当てはまるのではないかという指摘を受けたというエピソードを紹介しており、自分自身の自閉症的な認知形態も認めているくらいなのだ。 そして今や、誰もがコンピュータやウェブを使って、自閉症のもつ情報吸収能力、情報処理能力、脳内整理能力、を再現、模倣することが可能な時代となった。われわれは脳の配線をまったく変えることなく、肉食、草食ならぬ情報食の生き物になることが出来るのだ。このように進化した脳内整理によって、内面的な楽しみの質や量が飛躍的に高まり、物語を消費するようになるというのが、著者の主張だ。わかりやすく言うと「文化の小さなピースを組み合わせ、その過程で自分自身に関する物語を紡ぎ出す」ということだ。その際に形成されるフレームを、「自分だけの経済圏」と定義し、見事に著者の専門領域に落とし込んで見せている。 また、このような脳内整理の行きすぎを防止するために、仏教に着目している点も興味深い。一般的な仏教は、自分自身の考えや行動を、穏やかな、すべてを受け入れる姿勢で自覚するという概念を重要視する。自分の周囲にあるものや、その奥深さに気づくべきであり、その現実にみずからを当てはめようとするパターンや秩序に惑わされてはならないという基本概念は、情報の整理・分類に関する行き過ぎの防波堤となるのだ。 こうした記述を読むと、著者が日本や日本文化をどのように見ているのかということも気になる。この点に関する著者の日本への評価は高い。具体的な記述は以下のようなもの。 日本文化はきわめて均質だと言う話はよく聞くが、実際は、多くの隠れた多様性を生み出している国でもある。オタクという日本のイノベーションが、あまり広く認識されていなかったり、それにふさわしい重要性を与えられていなかったりするのは残念なことだが、それでも、オタクは進歩のふさわしいひとつの形態を表している。 本書で描かれている自閉症的スペクトグラムの世界は、大量の情報をインプット/アウトプットしている人にとっては、心当たりのある点も多く、興味の惹かれるものであるだろう。そして、その人たちの背中を強く押してくれるような内容でもある。我々は、好きを貫き、ただひたすら邁進していけば良いのだ。
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