FBI美術捜査官 の商品レビュー
まさに『回顧録』。読み始める前は、堅苦しく美術犯罪の歴史が羅列されているのかと思っていたのですが、大間違いでした。著者はかつてFBIの美術犯罪チームを率いていた百戦錬磨の捜査官。潜入捜査の模様が生々しく書かれていました。犯人との駆け引きは勿論ですが、FBI内部の軋轢や他機関との縄...
まさに『回顧録』。読み始める前は、堅苦しく美術犯罪の歴史が羅列されているのかと思っていたのですが、大間違いでした。著者はかつてFBIの美術犯罪チームを率いていた百戦錬磨の捜査官。潜入捜査の模様が生々しく書かれていました。犯人との駆け引きは勿論ですが、FBI内部の軋轢や他機関との縄張り争いに苦労する様がとくに(笑)扱った美術品の内容も多岐にわたり、誰もが知っている巨匠の作品だったりアメリカの国宝だったり南米の古美術だったりとバラエティ豊か。美術に興味がある人には一押しです。
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こんな捜査官がいるだろうか? 逮捕者から後日Eメールがくる捜査官。それも恨みや脅しのメールではなく、 「打ちのめされたのは確かでも、きみとの時間は楽しかった。紳士でいてくれてありがとう。(略)きみがきみの仕事をしなければ、おそらく別の誰かが同じことをしていたんだろうし、その相手を...
こんな捜査官がいるだろうか? 逮捕者から後日Eメールがくる捜査官。それも恨みや脅しのメールではなく、 「打ちのめされたのは確かでも、きみとの時間は楽しかった。紳士でいてくれてありがとう。(略)きみがきみの仕事をしなければ、おそらく別の誰かが同じことをしていたんだろうし、その相手をきみのように好きになれたとは思えない」「この手紙は冗談でもいたずらでもアピールでもないし、まして字面以上のことを訴えるメッセージでもない。幸運を。」 などと? 美術犯罪などと言うと、小説や映画の中の華麗なる犯罪を思い浮かべてしまうけれど、美を愛するがゆえの犯罪などない、すべて金のため、というのが現実らしい。 また、FBIに美術犯罪の専従チームが出来たのはここ10年のこと、というのも意外である。 そして、潜入捜査の5つのステップ 1、ターゲットを見つけ、2、自己紹介し、3、信頼関係を築き、4、そして裏切り、5、最後に家に帰る の1〜3は、まるで恋愛のようでもある。相手を見つけ、相手の心に入り、共有共感関係をつくって信頼を得る。 そのあと、(相手にとっては)ドンデン返し、捜査する方としては本領、となるわけである。 まさに小説か映画かというようなシーンがたくさんあるのに、これはあくまで現実。 無事に、妻や子の待つおうちに帰れてよかったね、とも思ってしまうのであった。
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ノンフィクションなのに、エンターテインメントの冒険小説を読んでいるみたいだった。著者は元FBI。絵画や文書などの美術品の盗難に専従してきた捜査官。美術館や博物館から強奪された事件や、いわゆるお宝鑑定番組がらみでの詐欺など、興味深い事件ばかりで飽きさせない。美術品や骨董品の裏シンジ...
ノンフィクションなのに、エンターテインメントの冒険小説を読んでいるみたいだった。著者は元FBI。絵画や文書などの美術品の盗難に専従してきた捜査官。美術館や博物館から強奪された事件や、いわゆるお宝鑑定番組がらみでの詐欺など、興味深い事件ばかりで飽きさせない。美術品や骨董品の裏シンジケートに消えた盗難品を取り戻すための、危険な潜入捜査の内幕なども詳しく(関係者の安全や捜査の機密もあるのですべてを書けなかったと、著者の断わりはあるものの)充分にスリリングでした。 強盗事件の手口は粗雑で、ハリウッド映画のように華麗なわけじゃない。美術品を盗むのじゃなくて、彼らは金になる物を盗んでいるだけだから。骨董や遺物を盗むということは、高価だからだけじゃなく、持ち主である家族の歴史や、遺跡の歴史を踏みにじる行為だから罪深いという著者の考え方に共感できました。 困った上司や困った組織に悪戦苦闘するさまも人間ぽくて。 フィクションの痛快さとは違うところで面白く読めました。
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驚くべきことに、1990年から2005年の間に世界中で総額10億ドルを超える絵画が盗まれてきたそうだ。ルーブルは混雑する土曜の午後にコロ―を持ち去られ、オックスフォードでは大晦日にセザンヌが、リオではマティスにモネにダリ、スコットランドの城ではダ・ヴィンチの名作も盗まれている。 ...
驚くべきことに、1990年から2005年の間に世界中で総額10億ドルを超える絵画が盗まれてきたそうだ。ルーブルは混雑する土曜の午後にコロ―を持ち去られ、オックスフォードでは大晦日にセザンヌが、リオではマティスにモネにダリ、スコットランドの城ではダ・ヴィンチの名作も盗まれている。 こうした美術品および骨董品の盗難は、越境犯罪としては、麻薬、資金洗浄、不法武器輸出についで四番目にランクされる。ネットや通信手段、物流手段の発達、ヨーロッパ連合内で行われた税関の改革なども、犯罪を容易にすることを助長しているという。 本書は、こうした美術盗難品における捜査の一部始終を描いた知的ノンフィクション。著者は、FBIの中で長らく美術捜査官として活躍してきた人物で、日本人の血を引いているそうだ。 美術品犯罪の技量は、盗み自体よりその売却にある。作品が有名で価値のあるものほど、売るのが難しいのだ。著者によると美術品泥棒は十人十色であるが、一つだけ共通点があるという。彼らが盗むのは美のためではなく、金のためである。本当に芸術を愛する泥棒であれば、売却しようとはしないはずなので、足が付く可能性も低いのかもしれない。 捜査のほとんどは、潜入捜査にて行われる。その潜入捜査、実際には下記のようなステップで行われる。 ステップ1 ターゲットの見極め ステップ2 自己紹介 ステップ3 関係の構築 ステップ4 裏切り ステップ5 帰宅 潜入捜査の多くは、営業行為とよく似ているそうだ。要は人間の本質を理解することであり、相手の信頼を勝ち取って、そこにつけ込むということなのだ。そういった意味では著者は、凄腕の営業マンだ。潜入捜査のすえ、実際に、犯人を逮捕し、身元が割れたあと、「今回の件では打ちのめされたが、それもしかないと思っている。打ちのめされたのは確かだが、きみとの時間は楽しかった。だから文句はない。」などという手紙が届いたりしている。 その著者のキャリアにおけるクライマックスが、美術史に残る史上最大の事件ともいわれるガートナー事件での潜入捜査である。1990年に起きた、この総額五億ドルともいわれる占有捜査の模様が、ほぼ実話そのままに再現されている。この臨場感は、ぜひ本書にてご確認いただきたい。 著者の美術捜査官としての資質は、いわゆる探偵的なものよりも、美術に関する造詣の深さによるところが大きいのではないかと思う。それは、著者のこんなセリフにも表れている。「美術品泥棒はその美しい物体だけではなく、その記憶とアイデンティティをも盗む。歴史を盗む。」 そのような美術に関する知識を、著者は重罪容疑で起訴されている最中の、特別授業の中で培った。さらにその変わった経験を通して得たものは、物事を白か黒かということではなく、灰色の目で見るということもあったそうである。有罪無罪の別なく、容疑者が何を心から恐れ、何を聞きたがっているか、自分自身の経験を通して理解することができたのである。一体人生で何が功を奏すかなど、わからない。 彼がFBIに在籍した18年間で回収した芸術作品、骨董品など、しめて2億2500万ドル相当。しかし、その価値を決して金銭で測ることはできない。取り返した芸術作品は、人類の歴史を捉えた、かけがえのないものなのである。
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