私のいない高校 の商品レビュー
青木淳悟はいつも実験的な小説を書くという印象がある。で、読み始めてしまってから、あれ何でこの本を読んでいるのだったかな、という疑問を抱くことになる。というのも、別に実験的な小説を読みたいと思う程に文学にハングリーな訳ではないからなのだが、その著者の名前の背表紙は何か自分の中にある...
青木淳悟はいつも実験的な小説を書くという印象がある。で、読み始めてしまってから、あれ何でこの本を読んでいるのだったかな、という疑問を抱くことになる。というのも、別に実験的な小説を読みたいと思う程に文学にハングリーな訳ではないからなのだが、その著者の名前の背表紙は何か自分の中にあるものを引き寄せるらしい。 青木淳悟の小説は事実を述べた文章をパーツのような組み上げる。このあいだ東京でね、も同じような文章群からなる本だった。そういう組み合わせから何かが立ち上がっているのかも知れないのだけれど、それを感知するには至らない。不可解なのである。この小説では「私」という人称で指示される人物が出てこない。それだけのことで他は何も変わらないと言ってしまうこともできると思うのだけれど、何かが動き出す気配は消えてしまう。 もちろん、それはとても実験的で意欲的なことなのだとは思う。一人称のいない世界を第三者だけで動き回る。ところがとても不思議なのだが、一人称で呼ぶ人物のいない世界は、全ての人が消えてしまってもぬけのからのように見えてしまうのだ。そしてとてつもない空虚な感じが漂ってしまう。その感じには見覚えがある。それは自分以外の存在は全ての自分の脳の作り出した想像の産物ではないかと疑ってかかった時に感じるあれだ。 そういう小説があってもよいとは思うけれど、どうしても「何故」という疑問がつきまとう。青木淳悟、ますます遠のくような気がしてならない。
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創作物についてひとつの意見を持っている。それは「創作物は発表された時点で作者の手を離れ受けてのものになる」というものだ。それに従うならばこの「私のいない高校」という小説は、発表されてもなお作者が作品を手放していないと感じる。 局アナがナレーションを付けたドキュメンタリーを見ている...
創作物についてひとつの意見を持っている。それは「創作物は発表された時点で作者の手を離れ受けてのものになる」というものだ。それに従うならばこの「私のいない高校」という小説は、発表されてもなお作者が作品を手放していないと感じる。 局アナがナレーションを付けたドキュメンタリーを見ているような感じだった。
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共学になったり留学生が来たり教室で物が無くなったり。いろいろ問題になりそうなことが起こるのに全体に何も起こらないまま淡々と粛々と日記のように事実だけが細かに書き連ねられていく、ある意味とても不気味な小説。 自意識過剰でゆがんだ自己顕示欲に満ち満ちた高校生たちってのが、本当は「どこ...
共学になったり留学生が来たり教室で物が無くなったり。いろいろ問題になりそうなことが起こるのに全体に何も起こらないまま淡々と粛々と日記のように事実だけが細かに書き連ねられていく、ある意味とても不気味な小説。 自意識過剰でゆがんだ自己顕示欲に満ち満ちた高校生たちってのが、本当は「どこにもいない私」そのものなのかもしれない、と思ったりして。
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タイトルに対して抱くイメージと、書かれている内容にギャップがある。読み終わってみればなるほど確かに「私」がいないのだなとわかる。 読んだあとで何と書こうか考えあぐねてすぐにレビューが書けなかった。 留学生を迎えることになった高校の担任が綴った丁寧な日々の備忘録といった内容だ。...
タイトルに対して抱くイメージと、書かれている内容にギャップがある。読み終わってみればなるほど確かに「私」がいないのだなとわかる。 読んだあとで何と書こうか考えあぐねてすぐにレビューが書けなかった。 留学生を迎えることになった高校の担任が綴った丁寧な日々の備忘録といった内容だ。参考にした記録があるようだ。おもしろくなくはないのだが、もし内容のまま「高校教師の備忘録」などといったタイトルにしてあったら手に取ったかどうか。どこまでアレンジしてあるのか知りたいような気がした。
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アンネの日記海外留学生受け入れ日誌(大原敏行著)※を一部参照しつつ、全体をフィクションとして改変・創作したものですと書いてあります。高校の先生が書いた日誌をさらに俯瞰している誰かの目線で書かれています。ところどころ担任は…が登場するので。業務日誌や報告書に近い雰囲気があって担任の...
アンネの日記海外留学生受け入れ日誌(大原敏行著)※を一部参照しつつ、全体をフィクションとして改変・創作したものですと書いてあります。高校の先生が書いた日誌をさらに俯瞰している誰かの目線で書かれています。ところどころ担任は…が登場するので。業務日誌や報告書に近い雰囲気があって担任の感情表現がなく、生徒の行動や発言に先生的分析(教育効果のほど)を加え一喜一憂しています。すごく描写がリアルです。誰でも高校時代を思い出すことでしょう。修学旅行に行くという話では最近読んだ悪の教典を思い出すのですが、真逆を行くような何も起こらない話。多くの先生はこの本のように誠実に務めを遂行しているのだろうなと妙にナットク。あえて、つまんないなあと過ぎていく毎日毎年もここまで感情を押し殺して実直に書くと普遍で素晴らしい学園の営みに思えます。※9/13読了
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読了後、不思議な気分になる小説です。 しかしこの言語化できない、腑に落ちない感覚が好きな人には最高の小説ではないでしょうか。 『群像2011年8月号』に掲載された青木淳悟と阿部和重の対談が、この作品をもっとも面白く読める批評だと思います。 どっから読んでもすばらしいですが、速...
読了後、不思議な気分になる小説です。 しかしこの言語化できない、腑に落ちない感覚が好きな人には最高の小説ではないでしょうか。 『群像2011年8月号』に掲載された青木淳悟と阿部和重の対談が、この作品をもっとも面白く読める批評だと思います。 どっから読んでもすばらしいですが、速読だけはダメです。 一文一文丁寧に読みましょう。
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この小説の仕掛けを味わうには、少なくとも二度読む必要があると感じる。一度目に感じた違和感をひきずりつつ、考えつつ、二度目を読むとおもしろさがだんだんわかってくる。ゆっくり歩くと仕掛けがわかってくる、だまし絵のなかに入り込んだような読み心地。「楽しませてもらう」のではなく、発見の楽...
この小説の仕掛けを味わうには、少なくとも二度読む必要があると感じる。一度目に感じた違和感をひきずりつつ、考えつつ、二度目を読むとおもしろさがだんだんわかってくる。ゆっくり歩くと仕掛けがわかってくる、だまし絵のなかに入り込んだような読み心地。「楽しませてもらう」のではなく、発見の楽しさがわかる読み手向け。
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「私のいない」=「主人公がいない」あるいは「物語の焦点がない」という感じか。とにかく普通の小説を読むのとはまったく違う手触りの作品。ともすれば無機的な記録文となりかねないものを小説として成り立たしめているものは何かというのは追々考えたい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
主人公視点のない小説。その構造上、盛り上がりに欠けてしまい、ともかく読み続けるのが辛かった。タイトルからしてミステリー的展開になるものと踏んでいたので、書き方がどう活かされるのか期待していたけども、とうとう最後まで普通に終わってしまった。それが新しいってことなら、自分にはわからない。
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+++ カナダからの留学生(でも英語が苦手)を受け入れた、とある高校での数ヵ月―。描かれるのは至ってフツウの学園生活のはずなのに、何かが、ヘン…。“物語”の概念を覆す、本邦初「主人公のいない」青春小説。 +++ 自分の中にある「小説」というものの定義を当てはめて読んではいけな...
+++ カナダからの留学生(でも英語が苦手)を受け入れた、とある高校での数ヵ月―。描かれるのは至ってフツウの学園生活のはずなのに、何かが、ヘン…。“物語”の概念を覆す、本邦初「主人公のいない」青春小説。 +++ 自分の中にある「小説」というものの定義を当てはめて読んではいけない一冊である。センセーショナルな事件が起こるわけでも、謎解きがあるわけでもなく、もどかしい恋愛も愛憎劇も、心あたたまるエピソードがあるわけでもない。ブラジル出身のカナダからの留学生ナタリー・サンバートンを迎え入れたある高校の日常が、担任教師の覚え書きのような日誌のような形式で綴られているだけなのである。ほんとうにそれだけなのである。留学生とクラスメイトたちとの交流も、担任教師の目に見える範囲でさらりと現象のみに触れている程度であるし、特定の誰かの心情が深く描かれているわけでもない。日々の時間割とか、留学生にどんな対応をすべきかという試行錯誤とか、学校行事の進行具合などが、どれも淡々とした表情で並んでいる。面白いのかどうかよくわからないというのが正直な感想なのだが、不思議ななにかに引っ張られるような気もするのがますます不思議である。
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