月は怒らない の商品レビュー
驚いた。もともと哲学的な側面を持つ作品(特に歴史もの)が垣根氏の持ち味ですが、本作で描かれる精神世界はこれまでとは傾向を異にするものだったからです。 印象深かったことがふたつあります。 ひとつ目が恭子と記憶障害を患う元大学教授の老人・オオキドとのやりとり。 人間の存在...
驚いた。もともと哲学的な側面を持つ作品(特に歴史もの)が垣根氏の持ち味ですが、本作で描かれる精神世界はこれまでとは傾向を異にするものだったからです。 印象深かったことがふたつあります。 ひとつ目が恭子と記憶障害を患う元大学教授の老人・オオキドとのやりとり。 人間の存在には、ことさら意味などありません。よって人生にも意味はないのですから、それに囚われる必要もないのです。 心地よいほどの見切り方だと思いました。 ふたつ目が主要人物間の関係性。 老人を含め、梶原・弘樹・和田の4人とも恭子に関心を持ちますが、恭子から関心を寄せたのは老人だけだったことです。 やるせないほどの「孤独」をやり過ごす術として老人が「水観」の境地に達したように、恭子も「闇を照らす月」の境地を会得しており、互いにどこかで通じ合うものがあったからだろうと思います。 そして最後に恭子が梶原を選んだ理由は…… など、いろいろ考えさせられることが多く、実におもしろい作品でした。
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続けて垣根さん。一時期固めて読んでいたのですがご本人の不調によりしばらく休筆されたときに離れそれきりになっていたうちに復調され、喜ばしい限りです。表面のストーリーは一人の女性と、その女性が定期的に会っている年齢もタイプも育ちも環境も全然違う三人の男性の話。お互い他の男性の存在は知...
続けて垣根さん。一時期固めて読んでいたのですがご本人の不調によりしばらく休筆されたときに離れそれきりになっていたうちに復調され、喜ばしい限りです。表面のストーリーは一人の女性と、その女性が定期的に会っている年齢もタイプも育ちも環境も全然違う三人の男性の話。お互い他の男性の存在は知らずに付き合い始めるのですが、あることと女性の決心をきっかけにその三人が交錯して、そこまで丁寧に静かに重ねられて積み上げられていたことどもが、トランプのタワーがバランスを崩してバラバラになるみたいな感じで動くのが読んでいてぞくぞくしました。垣根さんご本人もオフィシャルサイトで書かれていましたが、暴力とセックスの描写はありつつだいぶん控えめなので読みやすかったです。そしてストーリー展開とは別に底辺に流れている、この作品のテーマについての読ませ方提示の仕方も見事で、多少戸惑いはありましたが、最後まで読んで、タイトルの意味にも納得。読み終わってからいろいろ調べものをしたくなりました(まだしていないのですが)。離島に住んでいるので日頃から海、空、山、木々、鳥たち、虫たちを見ているのですが、見ているようで見ていなかったかもね?!などと思ったりしました。残された謎や伏線も無かったし、満足してすっきりと読了しました。
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かなり好きです。 中盤まで話がどういう方向に行くのかわからず、それぞれの生活を挟みながら静かに時間だけが過ぎていく。後半で作り上げた世界が混ざり流れができる。恭子の心持ちも自身に近い部分もあり理解できる。著者の他の作品とは少し雰囲気が違うかもしれないが良作だと思う。
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痴漢を取っ捕まえ、ホームの片隅で過剰なほどの暴力を奮った後、財布を奪い取り、後々足の着くクレジットカード類には目もくれず、現金だけを抜いて、被害に遭った女性に被害料と言って大方を差し出し、自分の手数料分も一部抜いて立ち去る男。職業は、悪質金融業者から過重債務処理を請け負うフリー...
痴漢を取っ捕まえ、ホームの片隅で過剰なほどの暴力を奮った後、財布を奪い取り、後々足の着くクレジットカード類には目もくれず、現金だけを抜いて、被害に遭った女性に被害料と言って大方を差し出し、自分の手数料分も一部抜いて立ち去る男。職業は、悪質金融業者から過重債務処理を請け負うフリーランサー。 『ヒート・アイランド』シリーズの登場人物と言ってもおかしくなさそうな男の登場に、垣根涼介、古巣のクライムノヴェル・ジャンルへUターンか、と思わず快哉を叫ぶ。『君たちに明日はない』シリーズ以降、いわゆる庶民派普通小説のジャンルに転向した感の強い垣根涼介、実は、残念ながら本作でも別にクライムやノワールに戻ったということではなかった。これは現代という都会を漂流する男女たちの運命の交錯と、彼らの生き方の模索、そして変化を描いたヒューマン・ノヴェルであったのだ。 何故か天性の引力を持つ一人の女性を、男たちの視線で囲繞するように捉え表現しつつ、男たちも彼女を通して自分の人生に向かい合ってゆくという、簡単に言うとそんな構成だが、小説としてのストーリーテリングは、やはりこの作者の得手とするところ。奇妙な出会いや、それぞれの個性、劇中対話の癖の強さ、視点変化の醍醐味など、それぞれにプロの技巧として味わえる。 冒頭で紹介した粗暴な男にしても、不遇な育ちの末に人嫌いとなり、図書館に逃げ込んでは、ヒューマンな小説を避け、ジム・トンプスンやジョゼ・ジョバンニ、アンドリュー・ヴァクスやジェイムズ・エルロイなどのノワールを己のものとして読み漁る(何故かどの作家もぼくの愛読作家であるよ)。彼の他に、迷える軽薄学生、ノンキャリアの交番巡査、元エリートのホームレス、記憶障害の老人。小説は猫の目のように視点を変えてある一人の女性を中心とした円を描いてゆく。 ヒロイン、三谷恭子。市役所勤務。紺のスーツ。自転車通勤。地味なアパート住まい。顔立ちは特に目立たない。外食はせず手料理。趣味は部屋でジャズをかけることくらい。必要なこと以外は口にしない。謎の多い<ファム・ファタル>(<宿命の女>の意ですよ)的要素だけがともかく際立つ。 男たちは何故、彼女に引き寄せられるのか? 振り幅の大きな派手なストーリー展開ではないが、アラブ産のナイフや免許証など、小道具の使い方も印象的だし、ヒロインの時々の決断が全体の舵を切ることにより、彼らの世界が波立つ辺りも不思議な情景だ。 記憶障害の老人が及ぼす影響も強く、時に哲学的に偏るシーンなど小説としてどうかなと思うが、このこと自体、作者の最近の方向転換における模索や実験のようなものと思えば、興味が尽きない。次作『人生教習所』(現時点で未読)へと繋がるであろうこの作者の変化を、まずは追跡してみたいと思う。
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不幸な幼少期、知らず知らずのうちに月を見ることで心の平静を保つことを習得していた。それゆえ誰かに依存しないで自分の人生を自分で引き受けて生きていく強さを身につけたのだろう。好きな人が自分の思い通りに動いてくれなくても、それをそのままに受け入れる強さが良かった。
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あんまりピンとこなかった。恭子の魅力が私にはわからなかった。強く惹きつけられる何かを持っているんでしょうねぇ。 たぶん3人の男性と同時につき合っちゃうっていうところが共感できなかったのかも。なーんだ結局言い寄られたらつきあっちゃうんだぁ。来るものは拒まずかいっ!と思ってしまいま...
あんまりピンとこなかった。恭子の魅力が私にはわからなかった。強く惹きつけられる何かを持っているんでしょうねぇ。 たぶん3人の男性と同時につき合っちゃうっていうところが共感できなかったのかも。なーんだ結局言い寄られたらつきあっちゃうんだぁ。来るものは拒まずかいっ!と思ってしまいました。私はひねくれているんだろうか。
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魅かれるのも納得させられるような、恭子、どんな過去があるか知りたいという願望だけで最期まで止まらなかった。 それだけに曖昧な描写はやや拍子抜けだったが、 3人の男の心情にひきつけられる。 舞台が通ってた吉祥寺なのも生々しくていい。
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平たくゆうと、こじらせ系恋愛小説ただし垣根風。周りに流されず、自分で立って自分で決めることの美徳をもちつづけたっていいじゃないか、というようなお話。禅問答のような駆け引きと、人を見透かしているかのような振る舞い、地味なのにやたらに人を惹きつける女性の、一見オカルトな何かわからない...
平たくゆうと、こじらせ系恋愛小説ただし垣根風。周りに流されず、自分で立って自分で決めることの美徳をもちつづけたっていいじゃないか、というようなお話。禅問答のような駆け引きと、人を見透かしているかのような振る舞い、地味なのにやたらに人を惹きつける女性の、一見オカルトな何かわからない魅力の正体とは!正体とは!と正体まで結論づけて書いてあるのがいいよね。確かに魅力的な雰囲気ってあるものね。垣根涼介の小説が好きな人にすすめるというよりは、一人の時間が大切で、自分だけの秘密とかを楽しめるタイプの人におすすめ。
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何故かひかれる女性が居る。何故かは判らないが強引にでもその人と月逢いたい。それぞれの辛い過去が引き寄せる運命。新たなる道を歩む2人に幸あれ。
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地味で飾り気なく媚も売らず。なのになぜだか、一方的に惹かれられて(日本語変?)しまう恭子と、惹かれる男たち三人。 ヒトについて、禅の要素も入れながら、すこーしずつ明らかになる。私にもついていけた。恭子の何がそうさせるのか知りたくて一気に読んじゃった。 幸せを祈りたい。 垣根さん...
地味で飾り気なく媚も売らず。なのになぜだか、一方的に惹かれられて(日本語変?)しまう恭子と、惹かれる男たち三人。 ヒトについて、禅の要素も入れながら、すこーしずつ明らかになる。私にもついていけた。恭子の何がそうさせるのか知りたくて一気に読んじゃった。 幸せを祈りたい。 垣根さんて、やっぱり車好き。かなりマニアックと思う。そして、お料理上手なんじゃないかな。梶原の作った料理やってみたいなあ。サラサラと半ページぐらいに描写されてたサラダとパスタなんだけど、すごい美味しそうなんです。
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