日本農業の真実 の商品レビュー
日本の農業が抱える問題点を概観できる。10ヘクタールまでは作付面積を増やせば平均費用を減らすことができるにもかかわらず、販売水田農家の73%が1ヘクタール未満しかない。作付面積が3ヘクタール未満では、農業所得が農業外所得より低い。1時間あたりの農業収入が1000円を超えているのは...
日本の農業が抱える問題点を概観できる。10ヘクタールまでは作付面積を増やせば平均費用を減らすことができるにもかかわらず、販売水田農家の73%が1ヘクタール未満しかない。作付面積が3ヘクタール未満では、農業所得が農業外所得より低い。1時間あたりの農業収入が1000円を超えているのは、養豚、北海道の水田作と畑作のみ。これでは、農業の担い手が減り続けるのは当然だろう。 米の価格と流通は2004年に自由化されたが、生産調整は40年間も続いている。食料確保のための政策は必要だが、生産者の創意工夫を活かし、意欲を高めることができる政策への足取りが遅い。政治が機能していないというか、選挙対策や政権争いによって混乱させられている。2007年の参院選の大敗を受けて、自民党の農林族議員は、米価を維持するために備蓄制度を利用することを主導した。これによって、生産調整に参加する農家より参加しない農家の方が有利という不公平な状況になった。 この本を読んで改めて感じたのは、農業の問題を考えると、農政だけでなく政治そのものの問題まで考えなければならないということ。うんざりしてしまう。 ・農産物全体の生産量を示すラスパイレス指数は、1980年代後半までは上昇していた。人口はほぼ同じペースで増加しているので、食料自給率が低下し続けているのは、1人当たりの消費量が増えたため。1990年代以降は生産量も減少している。 ・1955〜2005年の50年間に、肉類は9倍、牛乳・乳製品は7.6倍、果実は3.5倍、魚介類は1.3倍に増加し、米は0.55倍、イモ類は0.45倍に減少した。 ・1960〜2009年に、養豚農家は100分の1以下になったが、1経営あたり頭数は600倍になった。酪農農家は20分の1近くになったが、1経営あたり頭数は30倍に増えている。 ・1時間あたりの農業収入が1000円を超えているのは、養豚、北海道の水田作と畑作のみ。 ・食料供給力を確保することを目的に、カロリー供給力が最大となる農業生産を行った場合の試算結果は、イモ類を増やして畜産物などを減らす場合に、1日1人当たり1890〜2030カロリーとなる。 ・2007〜08年の食料価格高騰の中で、最大時には12か国が米や小麦の輸出を禁止した。 ・自給的農家を除く水田作農家の作付け面積は、73%が1ヘクタール未満で、0.5ヘクタール未満は42%。作付面積が3ヘクタール未満では、農業所得が農業外所得より低い。 ・稲の作付け面積と平均費用との関係を調べると、生産量あたりの費用が低下するのは10ヘクタールまで。 ・米の消費量は1962年をピークに減少し始め、1967〜68年に連続豊作となって在庫が積みあがったため、1969年から生産調整が始まった。現在は、水田の4割に当たる100万ヘクタール以上が生産調整の対象となっている。 ・1980年代末には自主流通米が全体の5割を超え、ヤミ米も消費量の2割以上に達した。1995年に食糧法を施行して食管法を廃止し、政府が管理する米は備蓄米とミニマムアクセス米のみとなった。2004年に食糧法を改正して、米の流通と価格を完全自由化した。生産調整は、減反面積の配分から米の生産目標の配分に変更し、産地ごとの目標に対して消費者の需要を反映させた。道府県で4ヘクタール以上、北海道で10ヘクタール以上の経営者に対して、米価が下落した場合の補填措置を手厚くした。
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今日、巷を賑わせるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉において目に留まるのは、やはり農業関係者たちの反対である。しかし、少なくない人々が、どこかそれを冷ややかに見ているところがある。それは、例え農業関係者たちの反対が、至極まっとうなものであるにせよ、反対を押し切ったところで...
今日、巷を賑わせるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉において目に留まるのは、やはり農業関係者たちの反対である。しかし、少なくない人々が、どこかそれを冷ややかに見ているところがある。それは、例え農業関係者たちの反対が、至極まっとうなものであるにせよ、反対を押し切ったところで、日本の農業の先詰まり感を払拭するにあたわないからかもしれない。農業就業人口に占める65歳以上の割合はすでに6割を超え、その耕作放棄地もおよそ40万haと埼玉県の面積より大きい。2013年末にはついに、40年に渡って続けられたコメの生産調整(減反政策)の廃止が打ち出されるに至った。いうまでもなく、日本の農業はいよいよもって大きな節目を迎えようとしているのだ。著者の振り返る1986年、第8回多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)の時も、やはり農業関係者たちの反対は大きかった。政府もまた、いくつかの農作物が関税化される中にあって「一粒たりとも米は入れない」と、ほとんど感情的な決議でもって、コメの関税化を阻止した。しかし、その代償として課せられた最低輸入機会(ミニマムアクセス)の追徴は、実は、コメを関税化したときの試算より、はるかに大量のコメを国内に輸入させる結果となった。そして、関税化された農作物に向けられた6兆円を超える対策費もまた、使途の不透明なまま、これといって農業を活性化できないままに露と消えた。はたして、脊髄反射的な反対は、何も生みだすことはできない。では、いったいこれからの日本の農業はどうあるべきなのか。これまで日本の農政の最前線にいた著者による、悲観論でも、楽観論でもない公平かつ論理的な日本農業史。なお、著者はTPPに賛成なのかとえばもちろんそうではない。著者が本書で殊更に訴えているのは、賛成反対を議論する以前に、農業がまだ何も理解されていないということである。かつて、日本の人口の9割が農民だった。しかし、今日、人口の9割が農業を知らない。だとしても、農業が自分たちの生活に直結した問題であることは誰もが知っている。冷ややかな目を向けることなかれ、これは自分たち全員の問題である。
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戦後農政は、常に時代の荒波に翻弄されてきた。そんな中にあっても、農業政策の立案作業に携わってきた歴代の先人たちは、大海原の彼方に見え隠れする将来のあるべき農業の姿を見極めようと、惜しまぬ努力を積み重ねてきた。 生源寺先生は、数々の政府会合の委員として、農政の意思決定の現場に立ち会...
戦後農政は、常に時代の荒波に翻弄されてきた。そんな中にあっても、農業政策の立案作業に携わってきた歴代の先人たちは、大海原の彼方に見え隠れする将来のあるべき農業の姿を見極めようと、惜しまぬ努力を積み重ねてきた。 生源寺先生は、数々の政府会合の委員として、農政の意思決定の現場に立ち会ってこられた。本書では、時代の変遷とともに、農政に携わる人々の意識がどのように変化してきたか、その背景に何があったかが、克明に記される。 現在、農政を揺さぶる大波は、過去に例をみないほどの高さに達している。その効果であろうか、世間の注目度も格段に高まっている。このチャンスにこそ、我々は農業の将来展望を人びとに力強く訴えることができるであろうか。いまその真価が問われる。
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http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066084/
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流れが分かりやすく書いてある。良書である。もっと早く読んでればよかった・・。 農業経済の授業で聞いたことのある話も出てきたので、そのような点からも印象に残っている。
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国内の農業について、徒に「文化」、「歴史」、「環境維持」といった副次的なことに引き摺られない論旨に感嘆。「文化」の継承という面での農業の役割は確かにあるが、「生業」として成立しない以上、その「文化」はごく限定的にしか生存し得ない(宮中での蚕の養殖のように)。「生業」として成立させ...
国内の農業について、徒に「文化」、「歴史」、「環境維持」といった副次的なことに引き摺られない論旨に感嘆。「文化」の継承という面での農業の役割は確かにあるが、「生業」として成立しない以上、その「文化」はごく限定的にしか生存し得ない(宮中での蚕の養殖のように)。「生業」として成立させつつ、周辺環境に適合させていくプロセスの先に、「自給率」や「食糧安全保障」n議論があるべきであって、単純に「食糧を抱え込む」発想は、貿易によって勃興した戦後日本の「アンチテーゼ」にしかなり得ない。本書のような冷静な考察を踏まえた議論を、全中含めて政治の場でおこなうことが、誠実に農業に向き合っている人々に対しての誠実な態度ではないだろうか。
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日本農業の現状を再確認するための本。食料自給率など不安にさせるようよう誘導させる解釈が多い中、この本はかなりフラットな視点から語られていたと思う。今まで農業は大きく保護され、消費者重視ではなく生産者重視であった。農家の自助力をこれから大きく鍛えていくことがかなりの命題となってくる...
日本農業の現状を再確認するための本。食料自給率など不安にさせるようよう誘導させる解釈が多い中、この本はかなりフラットな視点から語られていたと思う。今まで農業は大きく保護され、消費者重視ではなく生産者重視であった。農家の自助力をこれから大きく鍛えていくことがかなりの命題となってくるはずである。
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※このレビューにはネタバレを含みます
テレビなどでしか農業問題を知らなかった自分としては、初めて知る考え方がたくさんありました。とかくテレビは短時間で伝えるために、右か左か的な伝え方になりますが、この本を読むと右と左だと思っていた考え方の間に様々な考えがあったことを知ることができます。
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作付面積が大きくなるにしたがい費用は低下していくものの、一部の例外を除いて、日本でコストダウン効果が出てくるのは、現時点では10ヘクタールまで。規模の拡大に伴う圃場の遠距離化と田植の可能な期間が20日間と短いことから、人手と作業機械に大きな制約があるためだ。したがって、価格という点で米国とは大きな差が生じているのが現実。また、高齢化、低年収など、担い手問題は喫緊の課題となっている。加えて農政が未来へのビジョンもないまま迷走逆走を繰り返しており農業経営者の不安を募らせている。他方、日本の農産物の輸出額は輸入額の10分の1に過ぎないが、それでも年々増加している。しかも輸出先は今後も発展が期待されるアジアの国々。日本の農業の強さと弱さを見極めたうえで、正しく現実を認識し、最善の手立てを講じることが、今後の農業・農政に求められている。主張に偏りがなく自然に素直に読めた。また、日本の農業と農政の歩みを振り返る中で、ガットウルグアイラウンドなんて言葉も出てきたが、当時、迷走農政に翻弄され右往左往していたことなども懐かしく思い起こした。
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友人に借りた本だったが、良書だった。 日本の農業について中立的な立場で知りたいという読者向け。 昨今では「農協が悪い」「TPPは参加するべきではない」等の感情論が飛び交う農業であるが、本書はその日本の農業について客観的に分析していたため、現状を冷静に把握できた。 その所以は筆者...
友人に借りた本だったが、良書だった。 日本の農業について中立的な立場で知りたいという読者向け。 昨今では「農協が悪い」「TPPは参加するべきではない」等の感情論が飛び交う農業であるが、本書はその日本の農業について客観的に分析していたため、現状を冷静に把握できた。 その所以は筆者が農業の「歴史」という点に着目して述べているからだろう。 主だったテーマは「自給率」「農政」「コメの生産」等であるが、農政については政策が設定された歴史的な背景や目的から丁寧に記述されているため、深く理解することができる。 1つ難点を挙げるなら、過去の農業政策や農業経済等といったテーマが多いため、農業や農政を全く知らない人にとっては読むのが難しい点だろう。 勿論これは筆者が中立的な立場で日本農業の現状を説明しようと試みたため、必然的にそうなったものである。 感情論に走らず、中立した立場を維持するためには、これまでの「歴史」を丁寧かつ客観的に解説する必要があるからだ。 ただ、軽い気持ちで農業・農政のことを知りたいと考える読者にとっては、本書は少し教科書的な退屈さを感じてしまうのではないかと思う。 良くも悪くも「新書」の完成度を超えている印象を受けた。 現在の農業の話題は本当に感情論が多すぎる。 筆者のように物事を冷静に分析し、その強みと弱みを客観的に把握したうえで議論するスタンスでなければ、真の解決は見いだせないだろう。 個人的には本書の内容以上に、筆者の考え方に感心した。
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