未見坂 の商品レビュー
爽やかとは違う……。 都会育ちも田舎育ちも、老いも若きも、日本人の心のどこかをザラッと触って、「郷愁」とは似ているけどちょっと違う、不思議な気持ちが漂う。 9つの短編全て、ある特定の場所でつながった物語ではあるが、いわゆる「連作短編」ではない。 また、「未見坂」や「尾名川」な...
爽やかとは違う……。 都会育ちも田舎育ちも、老いも若きも、日本人の心のどこかをザラッと触って、「郷愁」とは似ているけどちょっと違う、不思議な気持ちが漂う。 9つの短編全て、ある特定の場所でつながった物語ではあるが、いわゆる「連作短編」ではない。 また、「未見坂」や「尾名川」などの固有名詞らしきものも登場するが、あくまで架空の場所のこと。 作者は物語を通じて、あたかも実在しているようにその場所や人々の生活を、なぞる。 細部まで丁寧に描かれたディテールは、普通のようで、それでいて、とても固有なものとなる。 読者は、作家の作ったこのジオラマを眺めながら、そこにある人や建物、音や風や匂いまでも感じ、物語への思いを馳せることになる。 堀江さんですね〜。
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雪沼とその周辺という短編集をかなり昔に読んで、なんと美しい田舎の風景を、描くひとなのだろうと、ずっとまたこの人の本が読みたかった。 久々に読んだ堀江さんの文章は、懐かしかった。男は頑固な職人みたいな人たち、女は器用に生きつつも、自分の立場だけではない、自分を置きたいところに置いて...
雪沼とその周辺という短編集をかなり昔に読んで、なんと美しい田舎の風景を、描くひとなのだろうと、ずっとまたこの人の本が読みたかった。 久々に読んだ堀江さんの文章は、懐かしかった。男は頑固な職人みたいな人たち、女は器用に生きつつも、自分の立場だけではない、自分を置きたいところに置いてる人たち。 舞台はなんとなく開発の波に飲まれかけて、バス停やらなにかインフラのための拠点として、自治体や国に目をつけられていて、どことなく、このまま老いていく町を踏み台にしてやろうとしている人たちがうっすら見える。 こだわりの道具、いつまでも取り入れられない新しい習慣。そういうどこか取り残されつつも、みんなすこしずつ不調があって、なにかが足りない。そういう感じで過ごしている。 特別起伏がある話というわけではないが、日常のドキュメンタリーを見たような、そういうかんじ。 時代も、場所もなんかわからんけど、、 以前雪沼を読んだ時はそうは思わなかったのに、どうしてか、取り残された人たちにいら立ち、なぜ変えようとしないのか、、と思ってしまった。自分はかわったのだなぁ。
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どこかの地方都市、ひっそりとした日常に小さな影はあれど、傍目には気付かないよう我々は暮らしていく。 夕焼けの中の鉄塔、寂れた商店、走り続ける路線バス。日々の営みか。
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同じ短編集でも、先日読んだ北村薫さんのとは対照的な作風だった。 何が起こるとか、すごい人が出てくるとかいうことはない。 鮮やかなプロットなど、小説の技で驚かせるようなこともない。 地方の小さな町に住む人たちの暮らしや、人生の一場面が掬い取られる。 何気ない描写に、その一瞬だけ...
同じ短編集でも、先日読んだ北村薫さんのとは対照的な作風だった。 何が起こるとか、すごい人が出てくるとかいうことはない。 鮮やかなプロットなど、小説の技で驚かせるようなこともない。 地方の小さな町に住む人たちの暮らしや、人生の一場面が掬い取られる。 何気ない描写に、その一瞬だけでなく、その人物たちが送ってきた長い時間が感じられたりする。 自分自身に同じ体験がなくても、その場の空気や、感覚がわかる気がする。 そう思わせてしまうところが、この作品のすごいところなのかもしれない。 例えば。 親族の集まりで、夫が両親や祖父母ではなく、叔父叔母に似ていると聞かされ、不愉快になる嫁の悠子さん。 自分が育った集団であれ、誰しも一度は後から加わったメンバーの立場は誰しも体験する。 親族の物語をただ聞くしかない状況のもどかしさとつながるものではないか、なんて想像する。 一人での子育てと仕事に疲れた母に、祖母の家へ預けられる少年。 起きる前と起きた後の様子が異なると混乱を感じる、というあたりも、経験はなくとも何かわかる気がする。 こういう説得力は、いったいどこから出てくるのだろう。
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『雪沼とその周辺』続編。昭和の雰囲気も少し感じさせるような描写が懐かしい。でも前作に比べると、少し寂しい物語が続いていると感じた。『雪沼...』が地域と大人を描いていたのに対し、本作は子どもに纏わる作品が並び、しかもいずれもどこか家庭に欠けているもの(主に家族構成において)がある...
『雪沼とその周辺』続編。昭和の雰囲気も少し感じさせるような描写が懐かしい。でも前作に比べると、少し寂しい物語が続いていると感じた。『雪沼...』が地域と大人を描いていたのに対し、本作は子どもに纏わる作品が並び、しかもいずれもどこか家庭に欠けているもの(主に家族構成において)があるためだろうか。地域の名前も出てくるけれど、あまり浮き上がってこないのも、子どもを描いているからだろう。大人は地域とつながりを持って生活するけど、子どもは子どもの世界だけで完結しているから。そうでなければ、著者を含め私たちも地域とのつながりが薄れている世界に住んでいるからだろうか。
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とある地方都市で暮らしている人々の話。 丁寧な文章で純文学のお手本みたいに感じました。 読み進めると地方都市と登場人物の過去や現在の状況がだんだんわかってきます。 「苦い手」のほのぼのしているけど、最後のちょっと寂しいかんじが印象に残りました。
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山肌にドミノ倒しのように立ち並ぶ鉄塔、緩やかなように見えて実は急な未見坂、そこを走るバス路線、坂の中ほどにある今は老人ばかりが残された市営住宅、寂れた個人商店・・・。 尾名川流域の架空の土地に住む人たちのささやかな日常を描く物語は、子供の頃のどこか懐かしい匂いと、時代に取り残され...
山肌にドミノ倒しのように立ち並ぶ鉄塔、緩やかなように見えて実は急な未見坂、そこを走るバス路線、坂の中ほどにある今は老人ばかりが残された市営住宅、寂れた個人商店・・・。 尾名川流域の架空の土地に住む人たちのささやかな日常を描く物語は、子供の頃のどこか懐かしい匂いと、時代に取り残された寂しさを感じる。 同じ地域を舞台にした物語ということで「雪沼とその周辺」のような作品でありながら、それぞれの登場人物が重なる安易な連作短編になっていないところもいい。 堀江さんの作品を読むと、どんなもんだとばかりに意表をつくような小説や、紋切型の仰々しいキャッチコピーで飾られる小説がなんとも薄っぺらく思えて仕方がない。 なにが起こるわけでもない日々、だれの日常にもありそうな情景が他にはないというほど絶妙の言葉で描かれ、「あ~そんなことあったな~」と懐かしい気持ちにさせてくれる心地よさ。 自分の中にある原風景を反芻しつつ、いつまでも余韻に浸っていたくなる良質な物語でした。
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なんだかじわじわといい。 いろんなところでいろんな人が毎日を生きている。人物造形と描写が秀逸。でも「リアリティがある」というのとはなんだかちょっと違うような気がする。どこかにいそうな誰かたち。静かな町の静かな時間の中で、毎日汗を流したり、不安になったり、ぼんやりしたり、笑ったりし...
なんだかじわじわといい。 いろんなところでいろんな人が毎日を生きている。人物造形と描写が秀逸。でも「リアリティがある」というのとはなんだかちょっと違うような気がする。どこかにいそうな誰かたち。静かな町の静かな時間の中で、毎日汗を流したり、不安になったり、ぼんやりしたり、笑ったりしながら生きている人たち。〇〇さんという語り口が新鮮で、町内の人を語っているような印象を受ける。「ささやかな」という言葉がぴたりとくる物語。 メモを書いてるので参照すること。 ----- 堀江敏幸「未見坂」半分ぐらいまで読んだが、なんともじわじわといい。静かな町の静かな時間の中で、毎日汗を流したり、不安になったり、ぼんやりしたり、笑ったりしながら生きている人たち。人物造形と描写が秀逸。 さらに読み進めてますが、さらにじわじわいといいです。「雪沼とその周辺」「いつか王子駅で」も読み返したくなってきました。ストーリーを語るための人物ではなくて、人物を語るためのストーリー。他人の人生を垣間見(覗き見?)するような感じもします。なんといっても静かな語り口がしっくりときます。
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傑作『雪沼とその周辺』の姉妹編となる連作短篇集です。 とはいっても、『雪沼とその周辺』を未読でも十分に楽しめます。 『雪沼とその周辺』と本作は、どちらも静謐な文章によって紡がれた地域社会を舞台としています。両者の相違点を強いて挙げるとすれば、前者は総じて祝祭的であり、後者は総じ...
傑作『雪沼とその周辺』の姉妹編となる連作短篇集です。 とはいっても、『雪沼とその周辺』を未読でも十分に楽しめます。 『雪沼とその周辺』と本作は、どちらも静謐な文章によって紡がれた地域社会を舞台としています。両者の相違点を強いて挙げるとすれば、前者は総じて祝祭的であり、後者は総じて祝祭的でありながら陰影(たとえば入院、死亡、離婚などがもたらす陰影)にも富んでいます。 いずれも魅力的な作風ですが、印象の強さでいうと、構想の瑞々しさが伝わってくる『雪沼とその周辺』でしょうか。
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※このレビューにはネタバレを含みます
【本の内容】 山肌に沿い立ち並ぶ鉄塔の列、かつて移動スーパーだった裏庭のボンネットバス、ゆるやかに見え実は急な未見坂の長い道路…。 時の流れのなか、小さな便利と老いの寂しさをともに受けいれながら、尾名川流域で同じ風景を眺めて暮らす住民たちのそれぞれの日常。 そこに、肉親との不意の離別に揺れる少年や女性の心情を重ねて映し出す、名作『雪沼とその周辺』に連なる短編小説集。 [ 目次 ] [ POP ] 鎮守の森がある丘、常連客が噂話に興じる理髪店、自家製の団子を売るよろず屋……どこかなつかしい雰囲気が漂う架空の町を舞台に、人々の暮らしを丁寧に切り取った短篇集。 表題作は、都会から戻ってきて、地元の新聞記者になった37歳の女性が主人公。 小学校にあがる前から兄妹のように過ごしてきた「彦さん」に対する気持ちが変化した瞬間を描く。 [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]
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