日本語教室 の商品レビュー
本書は、日本語そのものを学ぼうというのではありません。 井上ひさしが考える、日本語の現状をさらっと把握して、「日本語とはどういう言語か」ということを考える書です。 気になったことは以下です。 ・15歳を過ぎるとどんな言葉も覚えることができない ・母語は道具ではない、精神そのも...
本書は、日本語そのものを学ぼうというのではありません。 井上ひさしが考える、日本語の現状をさらっと把握して、「日本語とはどういう言語か」ということを考える書です。 気になったことは以下です。 ・15歳を過ぎるとどんな言葉も覚えることができない ・母語は道具ではない、精神そのものである ・日本は、いつもそうです。世界で一番強い文明を勉強します。中国そして、欧州、戦後はアメリカです。 ・日本には、自分の住んでいるところは大したことなくて、優れたものは他にあるという、そういう精神構造はいまだにあります。 ・たいへん便利で、大きな文明が入ってくると、そこにもとからあったものはなくなっていって、大きな文明に吸収されていく、言葉も然り ・言葉が自然に消えていくということはありません、必ず何かの、社会的、経済的、政治的圧迫で消えていくのです ・日本語の文法はどこから来たのか。ウラル・アルタイ語族、つまり、トルコ語と、日本語がよく似通っていることから、どうやらウラル山脈あたりから、シベリアを通ってやってきたのではないかということになっています。 ・ほんとうに日本語はたいへんですよね。やまとことば、漢語と、外来語の3つを覚えなければなりません。 ・日本語の音韻体系は簡単で完結で、非常な合理性をもっています。五十音図を思い出してください。あれで日本語の音全部を云いつくしているわけですからすごい ・近代国家にとって必要なものは、少なくとも3つある。貨幣制度、軍隊制度、そして、言葉の統一です ・いずれにせよ、明治国家は言語を統一しようとして、標準語をつくろうとしました ・逆にいうと、まだまだ日本語は完成されていないのです、また、そもそも日本語というものがあること自体おかしいともいえます ・日本語では音節が子音で終わることはありません、かならず母音で終わります ・日本人にはもう文法は必要ない ・一般に「口語文法」というときの「文法」というのは、だれか整理し組織立てたものなのか、わからない。これはつまり、私たちひとりひとりそれぞれの文法があるということです ・私たちは日本語の文法を勉強する必要はないのです、無意識のうちにいつのまにか文法を身につけていますから。 目次 はじめに 第1講 日本語はいまどうなっているのか 第2講 日本語はどうつくられたのか 第3講 日本語はどのように話されるのか 第4講 日本語はどのように表現されるのか 井上ひさし著書・単行本目録(抄) ISBN:9784106104107 出版社:新潮社 判型:新書 ページ数:192ページ 定価:720円(本体) 発売日:2012年04月10日 14刷
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本書は上智大学のOB会「ソフィア会」主催の「日本語講座」を書籍化したものである。この講座の聴講料は留学生の奨学金に充てるとのこと。 2015年に本書を購入し一読したが、今回改めて読み直した。 著者の井上ひさしはものを書き始めると、悪鬼のようになり、妻に暴力を振るった。それは、文章...
本書は上智大学のOB会「ソフィア会」主催の「日本語講座」を書籍化したものである。この講座の聴講料は留学生の奨学金に充てるとのこと。 2015年に本書を購入し一読したが、今回改めて読み直した。 著者の井上ひさしはものを書き始めると、悪鬼のようになり、妻に暴力を振るった。それは、文章を書くことにナーバスであったからに違いない。 例えば本書の冒頭に、 「母語は道具ではない。精神そのものである」 「小学校で英語を教えようということになったときに、僕は本当に危ないと思いました。すべて、そうやって、言葉は消えていくのです。」 とあり、日本語に対して思索を重ねてきたことが感じ取れる。 さらに読み進めていくと、仕事柄、膨大な研鑽を重ねてきたことが分かる。著者の独自の視点で研究してきたこともよく分かる。 しかしそれは、学問のための研究ではない。自分の作品を書くための道具としての日本語の研究である。道具としての言葉をここまで研究してきたのかと驚嘆する。 そしてそれを、ジョークに包んで言葉にできるところに井上ひさしという作家の狂気を見たような気がした。
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日本語教室 著者:井上ひさし 発行:2011年3月20日 新潮新書 2001年、当時、最も正しい日本語を使う作家とされていた井上ひさしが、母校の上智大学で4回にわたって日本語について講演したものを書き起こしてまとめた新書。軽いタッチで非常に充実した、しかも誰しもが興味津々となる内容でした。 著者が手書きで思いつくままにまとめた現在の日本語成立過程の図は圧巻でした。仙台一高出身の著者、縄文時代の標準語は東北弁だった、と主張。 主格を示す格助詞「は」と「が」の使い分けについても、我々が教えられた常識とは違うことで結論づけていて、誠に勉強になりました。 外来語の問題点 再生、改良、仕立て直し、改築、増築、改装。日本語にはたくさんの意味があるのに一言で「リフォーム」と言ってしまうことが問題。 「イエスかノーか」はだめ デジタル思考にすぎない。本当はイエスとノーとの間に大事な領域がある。国連の公用語に戦勝国の言葉だけでなく、なぜスペイン語が含まれるか。それはスペインがどちらの立場の国に対しても間に入って大きな貢献をしたから. 理想に一番近い文章を書く人 丸谷才一か、大江健三郎か(でも少し漢字が多い) 言葉の長さ 英語やフランス語で2時間の芝居を日本語に訳すと4,5時間かかる。言葉が母音で終わり、音節の種類が少ないから。 濁る、濁らないの区分け 茶畑の畑は「ばたけ」と濁るが、田畑の畑は「はた」と濁らない。前者は畑がメインだから。つまり、茶の畑だから。田畑は田と畑で同等。「弾きがたり」と「弾きかたる」は、用言と用言が重なるから濁り、用言と体言だと濁らない。 そばの数詞 ざる蕎麦は、更科系が「枚」で、天竜系が「杯」。 「は」と「が」の使い分け 格助詞の「は」について、以前は区別の「は」と言われていたが、大野晋が研究を重ねて結論を出した。 例えば、「おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山に柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に」 これは区別の「は」ではなくて、既知の旧情報は「は」、未知の新情報を受ける場合は「が」を使っているに過ぎない。未知の情報、おじいさんとおばあさんのことは「が」であり、すでにそれが出てきた既知の旧情報だから柴刈りや洗濯は「は」となる。 日本語の成立 ①原縄文語 ↓ ②前期九州縄文語→琉球縄文語→琉球諸方言 →表日本縄文語→山陽・東海方言 →裏日本縄文語→東北方言 ↓ 後期九州縄文語 ↓ ↓ ↓ ③原弥生語=後期九州縄文語+裏日本縄文語+渡来語 ↓ 弥生語 ↓ 関西方言 ↓(+漢語やラテン語、ポルトガル語など) 官制日本語 ↓ 現・日本語 ↓(+英語) ?語 *つまり、昔は東北弁が標準語だった、その一部が今も出雲地方に残る 後、大野晋「タミール語源説」通りに渡来語が入り、弥生系、関西方言になり、それが広まった 日本語をあてた際の罪 例えば、「ライト」を日本語に訳した時、仏教でいう力ずくで得る利益の意味の「権利」をあててしまったのが過ちだった。西洋では当然の「ライト」が日本ではやましいニュアンスもある「権利」となった。権利を主張するなら義務を果たせ、という風潮が出来てしまった。 標準語とは 東京の山の手言葉だけとは限らない。 例えば、おまわりさんの官制標準語は常陸(ひたち)弁。「○○であります」は山口の言葉。 日本はよい国か? ボストン大学の社会学者メリー・ホワイトの言葉。 「アメリカはよい国か。イエス。ただし、奴隷制や、先住民族抑圧や、日系人の強制収容や、無差別爆撃や、原子爆弾の投下や、ベトナム戦争がなければの話だが。日本はよい国か。イエス。素晴らしい国である。ただし、台湾・朝鮮の植民地化、満州国のでっち上げ、それからオキナワとアイヌに対する差別、被差別部落、それから在日韓国・朝鮮人に対する抑圧、それから従軍慰安婦問題、そして南京虐殺を除けばだが」 山梨県の奈良田という村、名古屋弁 戸数が50戸ぐらい。「つ」という音が巻き舌になって「トゥ」になる。月見はトゥキミ、狐はキトゥネ。名古屋弁は「え」が「ええー」、「お」が「おおー」になる。だから、「エエービフリャー」となる。
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山形県出身の小説家で、NHKテレビの人形劇『ひょっこりひょうたん島』(1964)を始め劇作家としても長く活躍した井上ひさし氏が、母校の上智大学で行った日本語に関する講演をまとめた一冊。古来から日本固有の「大和言葉」、中国から伝わった「漢語」、カタカナで表記される「外来語」の3つを...
山形県出身の小説家で、NHKテレビの人形劇『ひょっこりひょうたん島』(1964)を始め劇作家としても長く活躍した井上ひさし氏が、母校の上智大学で行った日本語に関する講演をまとめた一冊。古来から日本固有の「大和言葉」、中国から伝わった「漢語」、カタカナで表記される「外来語」の3つを無意識的に織り交ぜる日本語を「日本精神そのもの」と絶賛し、言葉のグローバリゼーション(世界化) が日本に与える悪影響を懸念する。西洋の文化を積極的に取り入れた明治の時代に、スピーチを「演説」、フリーダムを「自由」、エコノミーを「経済」と訳して日本に定着させた福澤諭吉のセンス(←感覚 ?)に感服する一方で、その素晴らしい日本語の劣化が近年著しいと嘆いている。日本の化粧品メーカーのFANCLが「ファンケル」と読ませる現状を「横暴」と言い切って日本語の危機を覚える感性は、次項で紹介する言語学者の井上史雄や鈴木孝夫に通じるものがある。
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さまざまな視点から日本語について学べる一冊。 近年、グローバル教育が盛んに行われているが、日本語の学習を疎かにしてはいけない。母語を土台に第二言語を習得していくので、結局、母語以内でしか別の言葉を習得できない。 また、日本語(言語)について考える場合、日本語だけで考えても正確には...
さまざまな視点から日本語について学べる一冊。 近年、グローバル教育が盛んに行われているが、日本語の学習を疎かにしてはいけない。母語を土台に第二言語を習得していくので、結局、母語以内でしか別の言葉を習得できない。 また、日本語(言語)について考える場合、日本語だけで考えても正確には分からない。他のものとの比較検討によって理解することができる。 このことから、やはり、外国語の習得には日本語力が必要だと感じた。 その他にも、日本語に同音異義語が多い理由や、連濁、「は」と「が」の違いなど、当たり前に身につけている法則についても解説してある。
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2019.8.29済。 非常に読みやすい文体。 こういう文体好きだなあ。 「美しい日本語はひらがなと漢字のバランス」 「劇のセリフは、観客に即分かる単語で」
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我々日本人が無意識にやっている、日本語のささいな使い分け、日本語の成り立ち、構造など、筆者の深い教養と分かりやすい説明で興味深く読め、勉強になった。また、外来語を漢訳した際に生じた齟齬というべきもの。権利や自由の話。日本人の考え方に、漢字の選択が影響したというのは面白かった。 読...
我々日本人が無意識にやっている、日本語のささいな使い分け、日本語の成り立ち、構造など、筆者の深い教養と分かりやすい説明で興味深く読め、勉強になった。また、外来語を漢訳した際に生じた齟齬というべきもの。権利や自由の話。日本人の考え方に、漢字の選択が影響したというのは面白かった。 読み通してみて、日本語とは、良い意味で、あいまいなものであり、つかみどころがなく、その一方で実に面白いものなのだなと感じました。
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著者が亡くなられて、テレビだったか新聞だったかで知ったことばがある。「むずかしいことをやさしく/やさしいことをふかく/ふかいことをゆかいに/ゆかいなことをまじめに」うまいこと言っているなあと思った。そのまま、自分の授業方針に使わせてもらった。その後、NHKで「國語元年」というドラ...
著者が亡くなられて、テレビだったか新聞だったかで知ったことばがある。「むずかしいことをやさしく/やさしいことをふかく/ふかいことをゆかいに/ゆかいなことをまじめに」うまいこと言っているなあと思った。そのまま、自分の授業方針に使わせてもらった。その後、NHKで「國語元年」というドラマを見た。抜群に面白かった。明治に入って、ことばの問題は大きかったのだろうとつくづく思った。そして本書。井上ひさし氏の日本語に対する気持ちが伝わってくる。意味が分からないまま読んでしまったところもあり、もう少し勉強しなければいけない。たとえば英語の母音が31で、米語の母音が32など。日本語は音節の数が少ないため、同音異義語が多く、だから駄洒落が作りやすいというのは納得。それから「山田長政」たしかにaが7個続く。そういえばそんな英単語はないなあ。
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昨日テレビで厚切りジェイソンと金田一秀穂が対談する番組をやっていました。なんとなく日本語モードになってたまたま家族の持っていた本書を一気読み。数の数え方の話も出てきて井上ひさしって日本人の厚切りジェイソンじゃん!日本語に含まれている「なんとなく」に突っ込み入れてお笑いにしているの...
昨日テレビで厚切りジェイソンと金田一秀穂が対談する番組をやっていました。なんとなく日本語モードになってたまたま家族の持っていた本書を一気読み。数の数え方の話も出てきて井上ひさしって日本人の厚切りジェイソンじゃん!日本語に含まれている「なんとなく」に突っ込み入れてお笑いにしているのと、「なんとなく」を突っ込んで考えて日本語の文学にしているのが違いだけど。Why Japanese people?そう、Whyって言わずに無意識に日本語を駆使し、日本語を変えていくのが日本人!
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井上ひさしさんが、上智大学で行われた公演をまとめたもの。できる限り話し言葉を再現しています。 言語学的な内容が含まれていますが、とても易しく、おもしろい。実際に話しているのを聞いているような、そんな読書体験でした。 楽しい日本語本。
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