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機関銃要塞の少年たち の商品レビュー

3.9

7件のお客様レビュー

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2024/07/07

 前回読んだ「弟の戦争」も印象的だった、イギリスの児童文学作家、ロバート・ウェストールのデビュー作(1975年)は、戦争の引き起こす心の病や狂気性を描きながらも、テーマは当事者で無ければ想像もつかないような、私にとっては思いも寄らぬものであった事が、強く心に焼き付けられた。  ...

 前回読んだ「弟の戦争」も印象的だった、イギリスの児童文学作家、ロバート・ウェストールのデビュー作(1975年)は、戦争の引き起こす心の病や狂気性を描きながらも、テーマは当事者で無ければ想像もつかないような、私にとっては思いも寄らぬものであった事が、強く心に焼き付けられた。  物語は、第二次大戦下のイギリスのタインマスをモデルとした「ガーマス」を舞台とし、ドイツ軍による空襲警報で防空壕に入らなければならないような状況の中、戦争コレクションに没頭する少年「チャス」は、墜落したドイツ爆撃機の尾部から機銃を、冷徹な程の知恵を活用して持ち出してしまい、やがては、仲間たちと共に、それを中心とした自分たちの要塞を作り上げてしまう。  上記だけだと、なんて愚かなことをと思うかもしれないが、本書で問い掛けていたのは、当時の戦時下に於いて子どもたちが抱いていた親への不信感であったことに、単純に善悪の区別が付けづらいような、これまでの価値観を揺らがせるものもあって、そこには確かに敵とはいえ、死体をそのままにして盗む行為には倫理観を疑わせるものがあるが、その一方で、彼らは傷ついたドイツ兵に親以上の信頼感を寄せたりする、そんな彼らを、そのドイツ兵は『あまりにしかつめらしく、あまりにもおとなびている』と感じながらもそれを気に入り、『両親にも、隣近所にも、フューラー(総統)にだって、おれのことなどこんりんざいわかるもんか』と、改めてこれまでの現実に疑問を抱き、新たな未来を見ようとする思いを内に抱いたのは、おそらく彼らの影響が大きいのだろうと思わせるものがあった。  かといって、親たちが全面的に悪いとも私は思えず、全ては戦争さえ無かったらと言ってしまえば、最早それまでなのだけれど、そうした事を考えさせてくれただけでも本書は読む価値があると感じ、仮に本書の設定が、全く知らない世界で起こっているファンタジーなのだとしたら、スリルがあって面白いかもと思ってしまいそうな怖さもある、だからこそ余計に戦争の愚かさを実感させてくれた、そんなリアルな物語はウェストールの、『この作品の生みの親でもあった わたしの父と母に』という献辞からも十分に感じられた。  そして物語の終わり方に、ヒリヒリとした諦観めいた哀愁を感じられたことには、その時点でまだ彼らは、戦争に終結があることを知らなかっただけに切ないものがあり、確かに彼らのやっていたことは、ふざけているように思われたのかもしれないが、彼らは彼らなりの大人とは違った真剣さで、戦争を終わらせたい気持ちや、こんな世界に生まれてきてしまったことへのささやかな抵抗感があったのではないかと、私には思われた、そんな少年たちの狂おしい葛藤は決して馬鹿にはできない真摯さがあることから、児童文学としても考えさせられた内容に、改めてこのようなテーマをデビュー作とした、ウェストールの凄みを感じられたのである。

Posted byブクログ

2023/06/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「0080の元ネタだ」というツイートと「言うほどでもなかろう」というやりとりを目にして読んで見る気になった。 少年たちが敵国の兵士と交流し……という点において似ているかもしれない。テイストの共通点として「はだしのゲン」が感じられ、少年愚連隊の冒険物語という印象がある。

Posted byブクログ

2022/01/21

ナチス・ドイツとの戦時下、イギリスの少年マッギスが、ドイツの墜落戦闘機に載っていた機関銃を拾う。 仲間と機関銃を隠すため、隠れ家を作り上げていく... 機関銃と仲間と、敵であったルーディとの短いでも大事な一時。

Posted byブクログ

2019/03/09

こんな話を児童書として成立させてしまうウェストールが凄まじい! しかもデビュー作とは・・ 少年たちの目を通して語られる戦時下の日常。大げさでもなく、説教くさくもない。もちろん単純なハッピーエンドでも、悲劇でもないから、 ベタな感動を求める人向けではない。 生で聞く銃声の響きが...

こんな話を児童書として成立させてしまうウェストールが凄まじい! しかもデビュー作とは・・ 少年たちの目を通して語られる戦時下の日常。大げさでもなく、説教くさくもない。もちろん単純なハッピーエンドでも、悲劇でもないから、 ベタな感動を求める人向けではない。 生で聞く銃声の響きが乾いているようにウェストールの描写はかわいていて、でも重い現実の手触りがあって、土地や時代を軽々と超越して、胸に迫ってくる。そしてウェストールが人間を見つめる眼差しは厳しくそしてどこまでも温かい。誰もがゆとりを失い追い詰められている状況で敵国ドイツの捕虜が、一番人間的で魅力のある 人物として描かれているところがまたグッとくる。 ウェストールがどんな作家だったかは「ブラッカムの爆撃機」の巻末の紹介文が適格なので引用したい。 -「どうしたら子どもたちに、希望を裏切ることなく真実を伝えられるか 」を自問した人 -彼はすべての作品で信念を貫いた。真実はそのまま、決して低音殺菌などせずに子どもたちに伝えるべきだという信念を。 -殺菌され無菌化された政治倫理のルールブックとしてではなく、この世を生き抜くためのサバイバルキットとして役立つ、フィクションが必要だ」

Posted byブクログ

2018/08/23

機銃を見つけたところから、仲間と一緒に敵国の飛行機を撃ち落とす秘密基地を作ろうとする話。自分も同じくらいの歳だったら同じことを考えそうだけど、あんなにちゃんとしたものは作れない!すごい!と思いました。 戦争が身近なところにある子どもたちの、憧れと恐怖の混ざり合う心情をリアルに感じ...

機銃を見つけたところから、仲間と一緒に敵国の飛行機を撃ち落とす秘密基地を作ろうとする話。自分も同じくらいの歳だったら同じことを考えそうだけど、あんなにちゃんとしたものは作れない!すごい!と思いました。 戦争が身近なところにある子どもたちの、憧れと恐怖の混ざり合う心情をリアルに感じました。

Posted byブクログ

2014/11/10

リアル。このリアリティを共有できるのは、なぜだろう。戦争という状況下での大人たちの狂気と、子どもたちの正気。だが、それも、じつは、歪んだファンタジーのなかにあるというねじれ。そこにリアルを感じる。 結末に向かって行くときの加速感がよかった。宮崎駿がこの作品を好きなわけがわかるよう...

リアル。このリアリティを共有できるのは、なぜだろう。戦争という状況下での大人たちの狂気と、子どもたちの正気。だが、それも、じつは、歪んだファンタジーのなかにあるというねじれ。そこにリアルを感じる。 結末に向かって行くときの加速感がよかった。宮崎駿がこの作品を好きなわけがわかるようにも思うし、彼は自身の作品では描かないだろうなあ。

Posted byブクログ

2009/10/04

小さい頃は、秘密基地をもっていました。倉庫の隙間とか木の上、他人サマの麦畑を踏み荒らした空間。秘密基地を理解してくれる大人もいれば、してくれない大人もいます。得てして厳しい時代に、子供の遊びは許されないことが多いです。それでも、すんなりと諦めなかった子供は、秘密基地を決して無くさ...

小さい頃は、秘密基地をもっていました。倉庫の隙間とか木の上、他人サマの麦畑を踏み荒らした空間。秘密基地を理解してくれる大人もいれば、してくれない大人もいます。得てして厳しい時代に、子供の遊びは許されないことが多いです。それでも、すんなりと諦めなかった子供は、秘密基地を決して無くさないような気がします。結果が、どれほどに苦くあっても。

Posted byブクログ