原稿零枚日記 の商品レビュー
げんこう・ぜろ・まい・にっき・・・と読む~~続けて女性作家の告白ものみたいな小説を読んでいて,女で小説家であるというのは結構辛いことらしいと一人合点している。最初,原稿が書けない苦悩を原稿に起こすとはどういうことだ???と思い,最初の苔料理を食べる部分を読んでフィクションだと気が...
げんこう・ぜろ・まい・にっき・・・と読む~~続けて女性作家の告白ものみたいな小説を読んでいて,女で小説家であるというのは結構辛いことらしいと一人合点している。最初,原稿が書けない苦悩を原稿に起こすとはどういうことだ???と思い,最初の苔料理を食べる部分を読んでフィクションだと気が付いたが,作家の日常に起こりそうなスランプを虚実取り混ぜて書いているものと納得した。どこまでが実で,どこからが虚か,書いた人しか分からないのか,書いた人でも分からないのか,確かではないが。役所から生活改善課の係員が来てくれて注意をしてくれて,最後にはトランペットの演奏を聴かせてくれたら・・・,あらすじを上手に書くことができて,作家も認めてくれ,一般の人も講釈たれずに聞くそのためだけにわざわざ来てくれたら嬉しいだろう。苔料理は遠慮しておく。運動会荒らしが女性だけというのは何となく納得してしまう
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女性小説家の日記、という形をとった小説。 この主人公、小川さん・・・?って聞きたくなるぐらい、私の中の「小川洋子像」にぴったり。変なんです。変態なんです。 突っ込みどころがあらゆるところに散りばめられ、ニヤニヤがとまりませんでした。 小学校の運動会や、赤ちゃん相撲・病棟に‘...
女性小説家の日記、という形をとった小説。 この主人公、小川さん・・・?って聞きたくなるぐらい、私の中の「小川洋子像」にぴったり。変なんです。変態なんです。 突っ込みどころがあらゆるところに散りばめられ、ニヤニヤがとまりませんでした。 小学校の運動会や、赤ちゃん相撲・病棟に‘荒らし’としてひっそりと出没する主人公。その‘在り方’が好きなんです。 小学生の踝へ執拗に注がれる視線、止まらない妄想。 たまりません。 奇妙な奇妙な日常を、覗いているような気分になれる素晴らしい小説でした。あぁ、こんな人と友達になりたい。
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『図鑑の文章が好きだ。無欲で平易なのに、とてつもない事実をさり気なく提示してくれる。』 小川洋子の文章は「図鑑の文章」のようだ。 図鑑の文章・・・あるいは科学的な文章というべきか。 実験と観察と考察、ひたすらこの繰り返し。 (決して悪い意味でなく)読んでいる方が倦んでしまうくら...
『図鑑の文章が好きだ。無欲で平易なのに、とてつもない事実をさり気なく提示してくれる。』 小川洋子の文章は「図鑑の文章」のようだ。 図鑑の文章・・・あるいは科学的な文章というべきか。 実験と観察と考察、ひたすらこの繰り返し。 (決して悪い意味でなく)読んでいる方が倦んでしまうくらいに。 彼女はそれをやめない。 観察することを、発見することを、それをスケッチするように描写することを。 彼女の文章を読んでいると、中学校の理科の教科書を思い出す。 「正しいスケッチの仕方」というあのページだ。 影をつけてはならない、線を重ねてはならない、よく削られた鉛筆で、正しく、正しく。 どんな生々しさも、彼女の手にかかれば美しい標本になる。 個々の事象がいつしか物語へと紡がれ、クライマックスへとなだれ込む。 後には寂しさとも孤独とも似ていない茫々とした【blank】が残るだけ。 空っぽの薬壜が、真っ白な頁が。 次は何が書き込まれるのだろう、その空欄に。
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誰にも気づかれないような事や物をそっと掬い上げて物語りに登場させるところがツボですな。思いもよらないところから胸がうたれポロっと涙がこぼれること多々。お母さんの靴のところと健康ランドの帰りの場面ははヤバイ。蓑虫の寝汗(笑)
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あらすじを書いたりあらすじを語ったりするのが得意な主人公。 応募小説の下読み係として、あらすじ書きにいそしむうち、本編よりあら筋の方が魅力があるという主格転倒が起きる。そのために、下読み係をクビになってしまうというのが、皮肉で、でも現実的な帰結。 あらすじ教室の講師として、長編は...
あらすじを書いたりあらすじを語ったりするのが得意な主人公。 応募小説の下読み係として、あらすじ書きにいそしむうち、本編よりあら筋の方が魅力があるという主格転倒が起きる。そのために、下読み係をクビになってしまうというのが、皮肉で、でも現実的な帰結。 あらすじ教室の講師として、長編はもちろん原稿用紙20枚の短編でも30分あらすじを語るというのはありえないでしょう。(本編より長い話はあらすじって言わない)。でもそんな世間の約束事には縛られない幻想的な主人公。 現実と幻想の間を、クラゲのように漂ってきた、そんな読後感です。
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2012.03.02. 久しぶりに。よくよく考えてみると、この主人公は結構難儀な人物かもしれない。 2010.11.08. 好き。小川さんの日記のつもりで読み始めて、読み終わる。運動会荒らし、その気持ちが少しわかります。 2010.09. 小川さんの新作、新聞の書評で知りまし...
2012.03.02. 久しぶりに。よくよく考えてみると、この主人公は結構難儀な人物かもしれない。 2010.11.08. 好き。小川さんの日記のつもりで読み始めて、読み終わる。運動会荒らし、その気持ちが少しわかります。 2010.09. 小川さんの新作、新聞の書評で知りました。読みたいです。 図書館で予約済み。
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小川洋子の紡ぎ出す言葉選びの羅列が、麻酔注射のように神経を麻痺させていく。 麻酔とは、例えば切開手術をする場合に使用される訳で、痛みから逃れるためにそれはある。 なので、そういう観点から言えば、この比喩は正確ではない。むしろ逆? 心穏やかで、逃避すべき重要案件などがない時でなくて...
小川洋子の紡ぎ出す言葉選びの羅列が、麻酔注射のように神経を麻痺させていく。 麻酔とは、例えば切開手術をする場合に使用される訳で、痛みから逃れるためにそれはある。 なので、そういう観点から言えば、この比喩は正確ではない。むしろ逆? 心穏やかで、逃避すべき重要案件などがない時でなくてはこの麻酔注射の楽しみを享受することは出来ない。 ・・・みたいなことを 書きたくなる本だった。 「小さいのから大きいのへ、二つの平面が織りなす絶妙な曲線」と例えた子どもたちの並び、そしてそれに続くラジオ体操描写 玉入れの棒を支える役目を渇望する女の想像力 子泣き・撲の赤ん坊の手首のくびれの奥の汗ばみ 額をつ吐息で曇らせた新生児室のガラス。 いつも部外者であることの後ろめたさ、置いて行かれる事への心底の怖れ・・。 全てを温度を伴って感じる事ができたというのに、この作品を語る言葉を私には私の中から選び出せない。 その事が口惜しくてならない。
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『猫を抱いて象と泳ぐ』から1年半振りとなる本作は、日記形式で不条理な世界を描く連作。 苔専門の料理店に始まり、小学校の運動会にまぎれ込む「運動会荒らし」、小説を下読みする「あらすじ係」などなど、あくまでも日常を描いているなかでシュールな世界観に浸食されていく様は、ユーモラスで...
『猫を抱いて象と泳ぐ』から1年半振りとなる本作は、日記形式で不条理な世界を描く連作。 苔専門の料理店に始まり、小学校の運動会にまぎれ込む「運動会荒らし」、小説を下読みする「あらすじ係」などなど、あくまでも日常を描いているなかでシュールな世界観に浸食されていく様は、ユーモラスでありながらも深い哀しみが滲み出てきます。 そして著者特有の硬質な文章はやはり美しく、繊細に写実するなかで映像的に真実を映し出すような印象を受けます。特に、子泣き相撲を見物する一編の描写が好きだなぁ。 「盆栽フェスティバル」とか「子宮風呂」とか、言葉遊び的な発想から生まれる幻想譚に好みは分かれるでしょうが、これも僕は好きなほうです。
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よくある作家の身辺雑記ものかと思わせて、ここではない世界に連れ込む手管に感服。小川ワールドここにあり。 なんでもないことが書かれているようで、ひたひたと不穏な気配が迫ってくる。それが決してありがちな着地におさまらず、読者は胸騒ぎのまま取り残される。それなのになぜか静かなものに抱...
よくある作家の身辺雑記ものかと思わせて、ここではない世界に連れ込む手管に感服。小川ワールドここにあり。 なんでもないことが書かれているようで、ひたひたと不穏な気配が迫ってくる。それが決してありがちな着地におさまらず、読者は胸騒ぎのまま取り残される。それなのになぜか静かなものに抱かれたような安心感もある。これはこの人にしか出せない味わいではないか。 思わず笑ってしまう箇所も。「生活改善員」のRさんのために用意する特別な茶葉の名前が「蓑虫の寝汗」!いったいどんな味だ? 油断しているとすっと忍び込むヒンヤリとした空気。病院で寝たきりの母親の爪を切る。それを持ち帰って部屋で焼くと「人の焼ける匂いがした」。「荒らし」としていく運動会にも、文学賞パーティにも、スパランドにも、この空気は待ちかまえている。しっかりした現実の地面から5ミリほど浮いているような心許なさがしーんと胸に落ちていった。
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(2010.10.11読了)(2010.10.06借入) 小川さんの新作の小説です。「猫を抱いて象と泳ぐ」が出版されてから一年半になります。まだ読んでない小説も結構積んであるので、このくらいのペースで出してくれるといいかなと思います。 小説家の女性が、日記を書いているという体裁...
(2010.10.11読了)(2010.10.06借入) 小川さんの新作の小説です。「猫を抱いて象と泳ぐ」が出版されてから一年半になります。まだ読んでない小説も結構積んであるので、このくらいのペースで出してくれるといいかなと思います。 小説家の女性が、日記を書いているという体裁で書かれた小説です。一日の日記の終わりに、(原稿零枚)、(原稿三枚)、(原稿五枚)、等その日に何枚の原稿が書けたかが記してあります。原稿零枚の日が多いので、この作家は、ちゃんと暮らしていけるのだろうかと心配になりますが、余計なお世話かもしれません。 日記に書いてあることは、いかにもありそうなことを書いていていそうで、実は有り得ないことだったりするので、実に上手に、お話の世界に連れて行ってくれます。「薬指の標本」などで、発揮されていた小川さんらしさが、充分に発揮されています。 温泉旅館に行って、散歩に出たら、「苔料理専門店」があったので、ルーペで苔の様子を確認しながら苔料理を食べた話。 近隣の保育園、小学校、幼稚園の運動会を父兄に紛れ込んで見物する話。 公民館で不定期に開講している『あらすじ教室』の講師を務める話。 子泣き相撲を見学する話。 野外アートを観賞するツアーに参加したら、最初6人だった参加者が一人ずつ脱落して、帰る頃には二人だけになってしまった話。(『そして誰もいなくなった』?) 短編集を読んだ感じですが、語り手が同じだし、前の話で出てきた小道具が後で使われたりなので、連作短編集と言ったところでしょうか。 結構楽しめました。小川さんのファン必読です。 ●特別な紅茶葉(68頁) 駅前ショッピングモールの中にある専門店で、一番高級な葉を20グラムだけ買うのだ。その店では茶葉に、“天女の羽音” “阿古屋街の涙” “箒星の残り香”などと独自の名前が付けられており、私の求める最高級の缶には“蓑虫の寝汗”と書かれたラベルが貼ってある。 ●あらすじ係(82頁) それまであらゆる賃仕事に携わり、ひたすら恥をかいて自己嫌悪に陥るばかりだったのに比べ、あらすじ係は締め切りさえ守れば、手先が不器用でも計算が苦手でも赤面症でもやっていけた。脳無し呼ばわりされることもなかったし、誰かにお世辞を言ってぺこぺこ頭を下げる必要もなかった。 小説のためのネタ探しをして、アイデアを書きためたけど、うまく長編小説に仕立てることのできなかった断片をうまく利用して、日記と言う体裁にすることによって一冊にすることができた、と言ったところでしょうか。 ☆小川洋子の本(既読) 「シュガータイム」小川洋子著、中央公論社、1991.02.25 「妊娠カレンダー」小川洋子著、文春文庫、1994.02.10 「薬指の標本」小川洋子著、新潮社、1994.10.30 「博士の愛した数式」小川洋子著、新潮社、2003.08.30 「偶然の祝福」小川洋子著、角川文庫、2004.01.25 「ブラフマンの埋葬」小川洋子著、講談社、2004.04.15 「まぶた」小川洋子著、新潮文庫、2004.11.01 「世にも美しい数学入門」藤原正彦・小川洋子著、ちくまプリマー新書、2005.04.10 「ミーナの行進」小川洋子著、中央公論新社、2006.04.25 「海」小川洋子著、新潮社、2006.10.30 「物語の役割」小川洋子著、ちくまプリマー新書、2007.02.10 「夜明けの縁をさ迷う人々」小川洋子著、角川書店、2007.08.31 「生きるとは、自分の物語をつくること」河合隼雄・小川洋子著、新潮社、2008.08.30 「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子著、文芸春秋、2009.01.10 「小川洋子の偏愛短篇箱」小川洋子編著、河出書房新社、2009.03.30 「カラーひよことコーヒー豆」小川洋子著、小学館、2009.12.01 「原稿零枚日記」小川洋子著、集英社、2010.08.10 (2010年10月12日・記)
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