ユダの窓 の商品レビュー
メリヴェールが実際に殺人現場に赴いて推理を働かせるのではなく、今回は裁判で被告人の無実を証明していく。海外の裁判なので、日本と違い陪審員たちに訴える裁判。読んでて日本との裁判の雰囲気の違いがまた面白かった。
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まず、今回は物語の展開が非常に面白い。 冒頭の、非常にシンプルな密室殺人について、今までの事件現場に名探偵が登場して、関係者の証言、周囲の状況から推理して犯人を解き明かすのではなく、今回は既に容疑者は逮捕され、起訴されている状況で、裁判で無罪であるのを証明するというスタイルを取っている。しかも被告人側弁護人がHM卿というのが面白いではないか! そして各章の末尾で明らかになっていく新事実。 単純に思えた事件が裏では実に複雑に絡み合っていたのを1枚1枚薄衣を剥ぎ取るかのごとく、読者の眼前に示していくストーリー展開は胸躍らされながら読まされた。 その中でも特に印象的なのは10章以降からの展開だ。 10章の最後で、被害者のエイヴォリーが娘の婚約者のアンズウェルだけでなく、彼のいとこのレジナルドとも知り合いであり、呼び名の聞き間違いであったという箇所から物語が一気呵成に明らかになっていく。まるで長くだらだらと続いていたトランプゲームの神経衰弱が一気に終末に近づいていくような感覚を覚えた。 ただ不満もある。 この物語のテーマである「ユダの窓」の正体がなんともチープだったことだ。本来、刑務所の留置所の看守が覗くシャッター付き窓の事を示すこの言葉が、今回はドアノブを外した跡の穴を指すとは、期待していただけに肩透かしを食らった感が正直ある。 これだと巻頭に示した館の内部図面は全然関係ないものになるんだけどなぁ(でも、こういうイメージ図があるのとないのとでは物語の理解度が違うのも確か)。 犯人も今回は意外だった。 しかも物語上、この犯人である必然性もかっちりしており、十分納得がいった(今回、話中で登場人物の一人に「どうせ今回も犯人は予想も付かない人物で解るはずのない人なんでしょ」みたいな台詞を吐かせているのがセルフパロディで面白かった)。 『白い僧院の殺人』では読みにくい事件経過にいきなりズドンと打ち込まれた真相にびっくりして、4ツ星だったが、今回は逆にワクワクする事件経過に唸らされ、ユダの窓の正体に失望したために4ツ星という評価だ。 まあ、これがカーらしいといえばカーらしいんだけど。
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1938年発表作で、古典的名作として世評が高い。法廷を舞台に殺人事件の被告が有罪か無罪かを問う論証をメインとし、〝本格物〟の醍醐味を味わうには最良の設定。その分、場景は固定されたままで動的でないのだが、読み手は陪審員の一人として、じっくりと裁判の流れを追うことが可能だ。お家芸であ...
1938年発表作で、古典的名作として世評が高い。法廷を舞台に殺人事件の被告が有罪か無罪かを問う論証をメインとし、〝本格物〟の醍醐味を味わうには最良の設定。その分、場景は固定されたままで動的でないのだが、読み手は陪審員の一人として、じっくりと裁判の流れを追うことが可能だ。お家芸である怪奇趣味も一切盛り込んでいない。恐らくカーは、本作にかなりの気合いを入れたのだろう。 だが、個人的な結論から述べれば、物足りなかった。良くも悪くも本格物の域を出ない。以下に若干の理由を述べる。 愛憎が絡んだプロットは比較的地味なもので、密室殺人の真相を関係者の証言と証拠物件をもとに解き明かす過程に集中する構成をとっている。フェアプレイに徹するカーは、持てる技巧を存分に発揮してはいるのだが、大逆転劇へと展開する伏線は大人しいもので、ケレン味に欠ける。要は物理的/機械的なトリックに偏重しがちな本格物の粗が際立っていると感じた。真犯人の動機の凡庸さも、そのままパズラーの弱さへと繋がっている。時代背景を考えれば致し方ないことだが、探偵役のみに有益な鍵が見つかるというご都合主義が目立つ。偶然性に頼り過ぎる面もあり、極めて限られた時間内での犯行が、単なる〝素人〟である殺人者に可能であったのか、という疑問も残る。そもそも、こんな七面倒臭い殺害方法を短期間で思い付くだろうか。事件関係者が多数出入りしているはずの部屋(殺人現場)から被害者と容疑者の指紋しか発見されないという不可解な事象も、あっさりと流されていく。本作の〝売り〟となる法廷での駆け引きは、探偵役となる弁護士の一方的展開。終盤に至っては、検察側は審理を投げ出しているほどだ。これでは、スリルなど生まれるはずがない。しかも、常に無罪を主張していた被告が、途中で「私が殺した」という発言をするが、その真意は最後まで曖昧なままとなる。恐らく私の読解力が足りないためか、読み進める中で幾つかの矛盾点があり、緻密さが要求される本格物としては、完成度が低いと感じた。 〝探偵小説の黄金時代〟を継ぐ本作は、敢えてリアリティを捨てているようだが、不自然な違和感だけが増幅されていった。不可能犯罪の状況を創り出すためだけに〝後付け〟で配置されたかのようなストーリーに加え、感情移入できる魅力的な登場人物が探偵も含めてひとりもいないことも痛い。無論、これは個人的な好みだが。また、キーワードとして序盤から登場する「ユダの窓」についても、その意味自体が種明かしとなるため、探偵は中盤まで引っ張るのだが、勿体ぶる必然性がない。被告人の人生に直結する裁判に対し、弁護士の姿勢は、あまりにも緊張感がなくマイペース過ぎるのである。 と、ここまで〝カー・マニア〟の反感を買うようなレビューを書いてきたが、これも期待の裏返しである。ミステリ初心者の時に読んだ「三つの棺」(1935)には大いに感動した記憶が残っているため「カーの凄さはこの程度のものではないはずだ」という気持ちがある。 結局、本作でロジックの快感が得られなかった私は、本格物を楽しめる〝純粋さ〟を失ったということだろう。哀しいが、仕方が無い。
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翻訳で法廷モノということで身構えたが、読みやすかったです。仕掛けはあっけないと感じるものだったと感じるし、HM卿がもったいぶってるように感じもしたが、法廷での登場人物たちの動きと徐々に開陳される答えに魅せられた
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王室顧問弁護士H・M(ヘンリー・メリヴェール)卿ものです。 カー特有の密室不可能犯罪に加えて、法廷ミステリーの醍醐味を感じさせる佳作になっていると思います。 だが、ふふふ、わかってしまったもんねー。(笑)いや、密室トリックは無論わかるわけがないのですが(笑)、犯人は見当した通り...
王室顧問弁護士H・M(ヘンリー・メリヴェール)卿ものです。 カー特有の密室不可能犯罪に加えて、法廷ミステリーの醍醐味を感じさせる佳作になっていると思います。 だが、ふふふ、わかってしまったもんねー。(笑)いや、密室トリックは無論わかるわけがないのですが(笑)、犯人は見当した通りでした!(笑)しかも、やみくもに見当を付けたわけではありませんで、終盤の整理表を待たずして、証人質問の過程でわかっちゃったもんねー。(笑)ははは。 ということで(笑)、本作は割と論理的にスマートな作りになっていまして、裁判の過程はまどろっこしいのですが、その分、論理性が全面に出ていたともいえます。自分なんかが考えたいくつかの疑問点についても、最後にはそれなりに解答が示されていたので、その辺りも好感がもてました。(笑) 本作は法廷物ということで杓子定規的な物語の進行がずっと続くわけですが、静かに細かく進む事件の事実確認から、次第にムードを盛り上げていくカーのお手並みはなかなかのもので、中盤あたりで判明する事件の見方の大きな転換まで山を次第に登っていく感覚は、法廷物ならではの醍醐味だったともいえるでしょう。 そして終盤からは、被告人の有罪無罪を決定づける証明と密室トリックの解明が矢継ぎ早に提示されて、ラストには全体像を明らかにするという、魅せ場が次々と続く構成となっていて、もう読者を釘付けにすること間違いないしのカーの魅力全開の作品でした。 ただ、本作はクラシカルな推理小説を楽しむというスタンスで臨むべきでして(笑)、解説にもあるように密室のハードルを上げ過ぎているきらいがあって、密室トリック自体は、可もなく不可もなくという感じで細かい部分でどうなのか?というきらいがあり、そこは純粋なミステリーとして楽しむべきでしょう。(笑)それにしても、警察の初動捜査で、犯人も特定されている中でアレを持ち帰るとは・・・、純粋推理には必要な部分であるとはいえ、可笑しかったです。(笑) 今回は珍しく自分なりの推理で犯人を当ててしまったので、自分に酔いしれた意味も込めて、星5つです。(笑)
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文春の東西100に載った時から探してました。 なかなか見つからなかったのですが、貸していただいて。 凄い。 前に読んだ本のH・M卿なの?
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カーを代表する名作の一つ。 法廷もので、同じような場面での物語がおおいため、小説の面白さとして『皇帝のかぎ煙草入れ』にはわずかに劣っているように思う。 だけど双方の立場から緻密に論理を組み立てていくその過程はハイレベルなディベートを聞いているようで、読んでいて本当にスリリング。 ...
カーを代表する名作の一つ。 法廷もので、同じような場面での物語がおおいため、小説の面白さとして『皇帝のかぎ煙草入れ』にはわずかに劣っているように思う。 だけど双方の立場から緻密に論理を組み立てていくその過程はハイレベルなディベートを聞いているようで、読んでいて本当にスリリング。 個人的には『皇帝』と同程度に楽しんで読めた。 最後のインパクトがちょっと弱いかなあ。ほんとに、ちょっと。
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「アンズウェルは結婚の許しを乞うため、恋人の父親を訪ねた。すすめられるままに飲み物を口にした彼は、喉に異様な感触を覚え、意識を失ってしまった。そして、目を覚まして見た光景は、完全な密室で事切れている将来の義父の姿だった。…」(ハヤカワ・ミステリ文庫 裏表紙あらすじより抜粋引用) とんとんとん、と欠けていたピースがはまっていく感覚を楽しむことができた。論理的な筋立てである。真相が詳らかになったときには、否応なしに「逆繰り」をしてしまう。 しかし、ジェイムズ・アンズウェルはとことんついてない。いとこのレジナルドは「キャプテン・クズ」といっても過言ではないくらいの奴であるし、婚約者のメアリはレジナルドにあんなことやこんなことされていたのだし、最もたる不幸はエイヴォリーに「キャプテン・クズ」とよりにもよって人違いをされてしまったことだろう。本当に、同情しきりの人物である。 トリックは簡単明快で、腑に落ちる(ただし、「糸繰り」については想像するに難かった)。しかし、あのような作業をものの十数分で片付くのだろうか。無粋な指摘ではあろう。 あと、瑣末なことだが、前半の法廷で目立って描写されていた女性二人組のジュリーが、後半では息をひそめてしまった。どうしたのだろうか。
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やるじゃん! 作者の名前なんていうの? カーターディクスンっていうんだ。 面白いっちゃ面白いけど、これくらいの書ける人、ごまんといるからいつまで通用するかわからないよ? ま、頑張って書き続けてよ。 大変、すみませんでした!
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あらすじ アンズウェルは結婚の許しを乞うため、恋人の父親を訪ねた。すすめられるままに飲み物を口にした彼は、のどに異様な感触を覚え、意識を失ってしまった、そして目を覚まして見た光景は、完全な密室でこと切れている将来の義父の姿だった。当然のごとく彼は殺人の容疑に問われた。しかし、厳し...
あらすじ アンズウェルは結婚の許しを乞うため、恋人の父親を訪ねた。すすめられるままに飲み物を口にした彼は、のどに異様な感触を覚え、意識を失ってしまった、そして目を覚まして見た光景は、完全な密室でこと切れている将来の義父の姿だった。当然のごとく彼は殺人の容疑に問われた。しかし、厳しい追及に対し、無実を信じるヘンリー・メリヴェール卿がユダの窓の存在を主張し敢然と立ち上がった! 密室の帝王こと、ジョン・ディクスン・カーの、カーター・ディクスン名義での傑作です、カーと言えば、密室講義で有名な「三つの棺」や、怪奇趣味バリバリの「火刑法廷」などが有名どころではないかと思いますが、この「ユダの窓」もそれらに負けず劣らず素晴らしい作品だと思います。 三つの棺って、傑作だとは思うんですけど、読みづらいんですよね、いろいろ複雑だし。火刑法廷も一回読んだきりですけどあんまり印象良くない。でもユダの窓は初読時の印象が最高だった。 何がいいかっていうと、まず読みやすい。いわゆる法廷ミステリで、初めに被疑者から見た事件の内容が示され、その後二日間にわたる裁判の内容が書かれてるだけ、単純明快でした、あんま考えないでも読めると思います。 そしてそのストーリー。H・M卿の弁護によって、鉄壁である検察側の主張を切り崩し、状況からして絶対犯人であるとしか思えないアンズウェルの嫌疑がだんだん晴れていく、という構成。最高です。 それとやっぱりトリック。「ユダの窓」が何なのかをH・M卿が示した時、僕は感動を覚えました。ただ、有名なトリックで現在はかなり使いまわされてるらしいので、途中でわかる人も多いかもしれません。僕は類似作品全然知りませんでしたが。 とにかくカー読むならとりあえずこれを読むべきだと思います、それくらい好きです。 ていうかno image のリンクしかなくて悔しいです、アマゾン?仕事しろ。 (玉津)
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