六百六十円の事情 の商品レビュー
この作者さんが好きで、常に作者買いをしています。 いままでの作品の中で一番好きですね。 読後感が爽やかでした。
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どーでもよくて、たいせつな、それぞれの事情。 男と女。彼氏と彼女。親と子供。先生と生徒。爺ちゃんと婆ちゃん。世の中には、いろんな人がいる。そこには、「ダメ人間」と「しっかり人間」なんてのも。 それぞれ 事情 を持つ彼らが描く恋愛&人生模様は、ありふれているけど、でも当人たち...
どーでもよくて、たいせつな、それぞれの事情。 男と女。彼氏と彼女。親と子供。先生と生徒。爺ちゃんと婆ちゃん。世の中には、いろんな人がいる。そこには、「ダメ人間」と「しっかり人間」なんてのも。 それぞれ 事情 を持つ彼らが描く恋愛&人生模様は、ありふれているけど、でも当人たちにとっては大切な出来事ばかりだ。そんな彼らがある日、ひとつの 糸 で結ばれる。とある掲示板に書き込まれた「カツ丼作れますか?」という一言をきっかけに。 日常系青春群像ストーリー。
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“「……静さ、カツ丼作れる?」 ふと、先週のコミュニティの書きこみを思い出してそんなことを質問してみる。口にした後に、馬鹿な質問したなぁって公開したけど静は普通に答えてくれた。 「そりゃ作れるよ。食堂のメニューにあるし、そもそも食べに来たことあるよね」 「そーね」 静が働き始めて...
“「……静さ、カツ丼作れる?」 ふと、先週のコミュニティの書きこみを思い出してそんなことを質問してみる。口にした後に、馬鹿な質問したなぁって公開したけど静は普通に答えてくれた。 「そりゃ作れるよ。食堂のメニューにあるし、そもそも食べに来たことあるよね」 「そーね」 静が働き始めてから、一回だけ遊びに行ったことがある。カツ丼、六百六十円なり。 「スゲーね、静って」 でもそれが主人公っぽいかって聞かれたら、なんか違うと思う。 「由岐も練習すれば作れるよ」” “「おーい、北本ー」 あ、振り向いた。届いたみたいだ。じゃあ聞いてみるか。食堂の娘らしいし。 「お前、カツ丼作れるのかー?」 あの掲示板で見た、顔も知らない他人にするには少々浮いた質問を真似てみる。北本も質問内容が以外だったのか、首が後ろにがくんと仰け反った。おいおい、運転中だぞ。 北本は悪魔に憑かれた少女が原チャリを運転するような姿勢のまま、快活に言い放つ。 「練習中!」” “カーテンに窓からの光が遮られて薄暗い部屋の中、寝汗をかいたわたしが身体を起こす。それから、ああ今日はカツ丼の日だ、と考えて寝起きで重い頭の周りが一層、憂鬱のせいで締めつけられる。痛い、苦しい、めんどくさい。 頭の横を押さえながら部屋を出た。廊下、階段、洗面所。顔洗う、寝癖直す、欠伸する。それから服を着替えて、靴はいて、外へ出る。台所の冷蔵庫の中にはきっと今日も、ラップのかかったカツ丼のどんぶりが三つある。それを見る気になれなくて、敢えて無視した。 お腹の中にはまだ、昨日のヤキソバの具が溶けずにそのまま残っているみたいで身体が重い。ラジオ体操から帰ってきても、ご飯を食べられるか怪しかった。お昼に回そうかな。 大体、朝からカツ丼ってどうなんだろう。胃に優しくないとかそういう問題以前だ。” “例えばカツ丼を食べようと思い立った際、ソウに作ってもらうところを『油ないから作れない』いやこれは先月、掲示板で見かけた質問についてソウに聞いたときの返事だから、微妙に関係ない。つまり、お金があれば。カツ丼二杯を注文できるお金があれば、ソウと一緒に北本食堂へ行ってカツ丼を作る時間は省かれて、一緒にオレンジページを開いて料理の写真の感想を言いあう、楽しい時間が生まれるわけだ。それは間違いなく幸せである。 だったらお金がいっぱいあればソウがいなくても僕は、そこそこ幸せってことなんだろうか。んー?いや、それはなんか凄く嫌だな。幸せでも、なんか辛い。それに多分、この幸福とお金がイコールになっているのは、若い内だけなんだと思う。” カツ丼を巡る、四つの二人組みと、一人と、一組の親子の話。 どこぞの青春男の親戚らしきしっかりものの丹羽静。同居人でギターを弾くことが好きな三葉由岐。 食堂の娘の北本。同学校同学年隣クラスの竹仲。 家出を計画する小学生の『ドミノ』。一緒に家出の計画を立てる竹仲くん。 ニートの中家ソウ。同居人にして同じくニートの各務原雅明『各務原雅明』。 そして、老人の私。 カツ丼を巡る各々の抱える様々な問題の話。 気がつけばそこでもここでも話が繋がっていて、「小規模」みたいな入間さんの書き方がすごい気に入った。 田舎だからとか、そういう問題じゃなくて。 世界は狭いなっていう。 丹羽一族は、どうしようもないダメ人間をほっておけない遺伝子が組み込まれているに違いない。うん。 “長い長い足踏みを終えて、衰えた足をしかるべき場所へ進めていく。それは再起ではなく、成長だ。私は成長していかなければいけない。子供から大人、そして、老人へ。 衰えを、老いを見つめること。そういった成長もある。私は今の自分を肯定しよう。 そうすればこんな足腰でも、なにかにしがみつかないでここに立っていられるだろう。 『カツ丼は作れますか?』 ええ、若い人たちが毎日、がんばってくれています。 私は作ってもらう立場にこの夏、ようやく落ち着けたのだと思います。 それを認めると、足はいとも簡単に私を前へ進ませていった。 午後からまた、若い人に私の知っている料理を教えなければいけない。 そして夜、食堂の営業時間が終わってから、娘に会いに行こう。話を、しよう。 劇的ではないが、これぐらいの変化はあってもいいだろう。 今日は久しぶり、と言っても二日ぶりぐらいなのだが、散歩仲間の青年と橋の側ですれ違う。片手をあげて、二人で笑顔を見合わせた。うん、まだまだ生きられる。”
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この入間はいい入間ですなー。とても切なく、素敵な 群像物語。地に足が着いたというか、上っ面で書かれた ものではない...っていう空気が充満していて、なんとも 言えない幸せと孤独感が交互に自分の感情をチクチクと 刺激してくれます。よいなー。 文体も今までの入間作品からはほど遠く読み...
この入間はいい入間ですなー。とても切なく、素敵な 群像物語。地に足が着いたというか、上っ面で書かれた ものではない...っていう空気が充満していて、なんとも 言えない幸せと孤独感が交互に自分の感情をチクチクと 刺激してくれます。よいなー。 文体も今までの入間作品からはほど遠く読み易いw。 「カツ丼作れますか?」というコミュ掲示板の 書き込みに反応した4人。その4人の日常が交錯して 繋がっていくんですが...一番グっときたのは 「各務原」くんのお話し。とても、とても素敵な 生き方をほんの些細な事で見つけられたんだものね。 何故か読みながら頭の中では、ビートルズではなく、 神聖かまってちゃんが流れていた。
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