戦艦武蔵 の商品レビュー
ひたすら隠しに隠して建造された戦艦『武蔵』。棕櫚スダレや造船所の周りに設置された監視所、新たに造られた倉庫や進水したばかりの商船を使用する奇策には当事者は真剣そのものだったろうが、私には滑稽に感じられた。米軍機の数次にわたる攻撃による艦上の様子は凄惨を極めたが、わずかに生き残った...
ひたすら隠しに隠して建造された戦艦『武蔵』。棕櫚スダレや造船所の周りに設置された監視所、新たに造られた倉庫や進水したばかりの商船を使用する奇策には当事者は真剣そのものだったろうが、私には滑稽に感じられた。米軍機の数次にわたる攻撃による艦上の様子は凄惨を極めたが、わずかに生き残った乗組員達は武蔵の乗組員だったことを隠すために、方々の戦地に配属されたり、軟禁同様の生活を強いられたことは実に哀れであり、軍部は彼らの犠牲のうえ最後までおのれ達の保身に努めたのである。
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戦艦武蔵の建造から沈没するまでの壮絶な記録が客観的に綴られている。 驚いたのは長崎市という狭く高台の多い不利な地形の港で極秘中に長きに渡って建造されていたこと。 建造に関わった造船所の人々の並々ならぬ苦悩と苦労が伝わってきた。
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記録文学の傑作の呼び声高い作品。謎のベールに包まれていた「武蔵」建造に関わった方々や、乗組員達の貴重な体験談が綴られており、毎年お盆が近づくと読みたくなります。
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当時の日本造船技術が結集して作り上げた巨大戦艦。その苦労は造船そのものだけではなく、造船を極秘にすること、浸水させること、と多方面にわたる。 そうした多大な努力の末、無事完成した武蔵。が、巨大46センチ砲で次々と米艦隊を沈没させる光景を描いた夢は叶わなかった。 完成したとき、...
当時の日本造船技術が結集して作り上げた巨大戦艦。その苦労は造船そのものだけではなく、造船を極秘にすること、浸水させること、と多方面にわたる。 そうした多大な努力の末、無事完成した武蔵。が、巨大46センチ砲で次々と米艦隊を沈没させる光景を描いた夢は叶わなかった。 完成したとき、すでに日本は敗戦濃厚。巨大戦艦を動かす燃料は不足し、巨大ゆえに戦闘機攻撃には弱かった。 結局、扱いに困った日本軍はおとり艦として武蔵を使い、これという戦果をあげることなく、武蔵沈没。
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世界最大・最強の戦艦を作るために命をかけた長崎の男たちの執念が伝わる。確かに時代遅れの長物だったかもしれないが、それでも武蔵を作った偉大な功績は消えない。著者の意図とは違う読み解き方だとは思うが、そう感じた。
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感情に左右されたような文章が無く、調査した事実(と推察される内容)を淡々と書いてあるが故に、これが現実なんだな~ということがひしひしと感じられた。『零式戦闘機』でも書かれているが、着手から最後までが、一定の調子で進められている。ただ、『零式戦闘機』と違うのが、あまりの規模の大きさ...
感情に左右されたような文章が無く、調査した事実(と推察される内容)を淡々と書いてあるが故に、これが現実なんだな~ということがひしひしと感じられた。『零式戦闘機』でも書かれているが、着手から最後までが、一定の調子で進められている。ただ、『零式戦闘機』と違うのが、あまりの規模の大きさ、そして作ることの条件の難しさだった。何で条件のすごぶる悪い長崎で作成せざるを得なかったのだろうか。経費も余計かかるだろうし、全くわりにあわないと思う。『零式戦闘機』の、牛車で運んだ逸話と似たものを感じる。長崎の人もとんだとばっちりだったろう。戦時下で統制されていたとはいえ、この頃の日本人はよく耐えていたな~と本当に感心した。 この作者の作品『零式戦闘機』『桜田門外ノ変』を読んだことがあるが、いずれも事実(と推察される内容)を淡々と書いてあるものであった。ただ、前者がそれが故に、戦争という広大な虚無のようなものの恐ろしさを味わえたのに対し、後者は、一藩の一侍の、一つの事象をはさんでの一生涯という、サイズの小さいものであったので、事実ではあるのであろうが、あまりゆりうごかされるものがなく、大変読みにくかった。このような書き方は、幕末の志士の生涯を書くには(それも正直あまりパッとしない)ちょっと向いてないのかもしれない。
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武蔵が完成してから沈没するまでの話かと思っていたら、半分以上は建造にまつわる話。 確かにあれだけどでかいモノを秘密に作るのは、大変だったろうな。 大和そして武蔵。さらにもう2艦計画されていたとは! 不沈艦武蔵も最期は悲惨でしたね・・・ 時期が悪すぎた。 しかし日本の戦艦は美...
武蔵が完成してから沈没するまでの話かと思っていたら、半分以上は建造にまつわる話。 確かにあれだけどでかいモノを秘密に作るのは、大変だったろうな。 大和そして武蔵。さらにもう2艦計画されていたとは! 不沈艦武蔵も最期は悲惨でしたね・・・ 時期が悪すぎた。 しかし日本の戦艦は美しい。
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本作も当然の☆☆☆☆☆ 宇宙戦艦にもなった大和は有名だけど、実は同じような戦艦がもう一つ建設されていた。しかも大和より武蔵のほうが後に作られたからより改善されている。 武蔵は世界最大の戦艦という以上に日本帝国海軍の夢が託されていた。それは性能への期待ではなく存在への期待...
本作も当然の☆☆☆☆☆ 宇宙戦艦にもなった大和は有名だけど、実は同じような戦艦がもう一つ建設されていた。しかも大和より武蔵のほうが後に作られたからより改善されている。 武蔵は世界最大の戦艦という以上に日本帝国海軍の夢が託されていた。それは性能への期待ではなく存在への期待であり、連合艦隊司令長官への畏怖と同じような偶像崇拝であった。 いったいどれだけの金をつぎ込んだんだと思うくらいに徹底された巨像は、その期待ゆえに戦火から離され、いざ戦火にさらされたときは、その巨像ゆえに真っ先に攻撃された。 非常に物語がある鉄の塊。 謎の男が日本中の棕櫚を買いあさり、日本から棕櫚が無くなったという枕ではじまるところがいつもの吉村昭らしくて心が騒ぐのだ。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
なかなか興味深く読みました。戦艦武蔵が出来上がるまでと、壮絶な終焉までが書かれた作品です。 最初の方は、軍ってなんて勝手なんだろう、勝手に工員たちに武蔵の建造を押し付けておいて、精神的な自由も奪いながらそれを名誉とする。と、憤りを覚えながら読みました。 ですが、それだけ工員たちが苦労して、時には事故者も出しながら、神経と肉体をすり減らしながら作った武蔵・・・・。きっと彼らにとっては、自分の子ども同然だったろうと思います。それが沈んだとか、撃たれたとか聞いた時のショックは相当なものだったかと思います。 見たものが息を飲む圧巻の戦艦。それは戦時中の「熱っぽい空気」の中では不没の戦艦と言われて、誰もがそれを信じて疑わなかった。でも、結局は沈みました。不没の戦艦(戦艦に限らず船はすべて)なんてないんじゃないかと思いました。 後半、武蔵が沈没するまでに、乗組員のかなりの人数が亡くなりました。それは淡々とした語り口が相まって、まるでどこか遠い国の絵空事を読んでいるようでした。こんなに簡単に、あっけなく、かなりの人数の人が亡くなるような出来事がたった66年前にあったかと思うと、不思議な気持ちです。 筆者が、「武蔵こそ、私の考えている戦争そのものの象徴的な存在のようにも思えてきた」と言った意味がわかるような気がします。 「熱っぽい空気」の中で、異常に団結しながら神話を作り上げて、それを信じて止まなかったがために、あっけなく終りを迎える。 多数の人の死や、苦労を、「あっけなく」と表現するのは不適切かもしれませんが、戦後生まれの私から見ると、あまりにあっけなく感じるものでした。ですがそのあっけなさが、戦後、大いに反省を齎すことになったと思います。 興味深い、面白い本でした。巻頭についている、武蔵の見取り図もいいですね。そして今の新潮文庫の表紙も好きです。
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戦艦武蔵の建造から沈没までにまつわる人々のお話。戦争ものにありがちな、人々の大和魂的な内面表現は少なく、客観的、記録的な淡々とした文章が吉村昭らしい。あくまで戦艦武蔵という軍艦が主人公で、その誕生から沈没まで武蔵に関わる人々が描かれているというのが面白い。長崎の民間造船所で秘密裏...
戦艦武蔵の建造から沈没までにまつわる人々のお話。戦争ものにありがちな、人々の大和魂的な内面表現は少なく、客観的、記録的な淡々とした文章が吉村昭らしい。あくまで戦艦武蔵という軍艦が主人公で、その誕生から沈没まで武蔵に関わる人々が描かれているというのが面白い。長崎の民間造船所で秘密裏に軍艦を建造することになる人々の様子や当時の雰囲気が、その淡々とした客観的記述によってリアルに浮かび上がってくるのが面白い。
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