きつねのはなし の商品レビュー
私の本棚より。 ざっくりとしか読んでいないので、細かいことは書けないのだけれども、本書の場合は、それでちょうど良いのかもしれない。 森見登美彦さんのシリアスなホラー寄りの作品という情報を聞いて、大分前に古書店で購入していたのだが、読んでみると、単純にホラーと位置付けて...
私の本棚より。 ざっくりとしか読んでいないので、細かいことは書けないのだけれども、本書の場合は、それでちょうど良いのかもしれない。 森見登美彦さんのシリアスなホラー寄りの作品という情報を聞いて、大分前に古書店で購入していたのだが、読んでみると、単純にホラーと位置付けていいのかどうか分からない曖昧さが強く、それが物語の展開の意味合い的にも同様であるところが、好みの分かれるところとは思われるけれども、それ故の面白さも感じられて、特に「果実の中の龍」の先輩の存在感には、物語の生み出される源が、あくまでも人間の心の中にあることを教えてくれながら、その手段が異なるだけで、こうも印象が変わってしまうのかという皮肉も露呈させている点に人間の哀愁も滲ませていることには、森見さんが単に怖いものを描きたいのではなく、人間味を描きたいのだということがよく分かる。 また、その中でも、人間が生まれる前から存在し続けるものに対する(それを『もの』と言ってしまうのは畏れ多い気がするものの)、森見さんの敬意とも捉えられそうな「水神」も印象深く、更にそこに琵琶湖疏水の歴史のエピソードを絡めるのが何ともスリリングでありながら、やはり哀愁的なものも潜まれていて、論理的に説明するのが難しい事象から漂い出す恐怖が、怒りだけではなく悲しみの方がより大きいのは、和の怪談でもお馴染みの構成と感じながらも、そこに一捻りあるのが森見さんならではのホラーなのかもしれない。 それから、上記の琵琶湖疏水からも分かるように、本書は京都が舞台となっていることで、より朧気な印象が強く、それは四つの短編に登場する様々な要素が緩やかに繋がっていることからも感じられたのだが、その中でも二度登場する吉田神社の節分祭は、雪の降る夜の描写とも相俟って何とも情緒豊かでありながら、物語の置き所としては、まるでカレイドスコープを覗いているようなクラクラとした、美とも悪夢ともつかない状況を追体験できたのは、その場から放たれる独特なエネルギーもあるようで、そうした現場ならではの感覚を実際に行って追体験できる、京都に住む人達が羨ましくてならない。
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2025年最初の一冊。京都はやっぱり「怪異」が似合う街だと思う。それは多分、京都という土地が人の思いとともに積み上げてきた歴史がそうさせているのだと思う。その歴史は良いことばかりではなく、歴史の闇に消えていった人々の怨嗟も含んでいる気がする。言霊、ではないけれど、京都の地名に感じ...
2025年最初の一冊。京都はやっぱり「怪異」が似合う街だと思う。それは多分、京都という土地が人の思いとともに積み上げてきた歴史がそうさせているのだと思う。その歴史は良いことばかりではなく、歴史の闇に消えていった人々の怨嗟も含んでいる気がする。言霊、ではないけれど、京都の地名に感じる魅力はそういった歴史の積み重ねがあるからだとも思う。だから京都は「ホラー」でも「怪談」でもなく「怪異」が似合う。この作品はそんな怪異を扱った作品だ。 森見登美彦氏は文体がどこかユーモラスで、正直個人的にはそんなに怖さを感じなかった。ホラー小説と思って読むと拍子抜けするかもしれない。しかし前述の通り、私はこれを「怪異小説」と捉えている。京都の街の怪異のお話、と思うと、なんだかゾワっとするのに京都に出かけたくなる、そんな話に感じるんじゃないかな、などと考えた。
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久しぶりに読んだ!10年ぶりくらいかも……?そのくらい読んでなかったので「怖かった」という印象以外忘れていたのだけど、やっぱり怖かった! 表題の「きつねのはなし」がナツメさんと過ごす静かで優しい日々に段々暗雲が立ち込めていく雰囲気が好きだ。 「果実の中の籠」、先輩の秘密が分かってからの物悲しさがたまらなかった。 「魔」が一番怖かったかも……妙なところで途切れるシーン達に戸惑いながら読み進めていって最後……。 この本に水が勝手に溢れ出していく印象があるのは何故だろうな〜と思ってたら、たぶん「水神」の印象だったんだろう。
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只今絶賛積読消化中である。この小説もその一つであり、奥付の発行年月日から推測するに購入したのは10年以上も前である。高校生の私がこの小説を手に取ったのは所謂ジャケ買いであり、購入したは良いものの怖い話が苦手な私であったため、今日まで読まれず本棚のスミに積まれていたという訳である。実際読んでみて、怖いというより不気味という言葉が似合う小説であり、かなり私好みだった。この小説は、「きつねのはなし」「果実の中の龍」「魔」「水神」の全四編からなる。はじめは語り手が全て同一人物なのかと思っていたが、「魔」を読み始めたあたりでどうやら違うことに気がついた。全ての話を読んだ上で、異色に感じるのは「果実の中の龍」である。他の三編では語り手自身の体験が描かれているが、「果実の中の龍」では、語り手は勿論、先輩の体験談と思いきや結局は先輩の創作であり、単なる御伽話として描かれる。しかしこの「果実の中の龍」で語られる先輩の創作物語は、全く同じではないものの他三編を想起させるものであり、全ての物語の原案のような印象を受ける。さて、物語に登場する主たる物怪は「雷獣」と「水神」(おそらく龍)であるが、その固有名詞は多少出てくるものの、その実態は始終ぼんやりとしており、一瞬姿が見えたと思ってもすぐ何処かへ消えてしまう。物語全体には生臭いようなケモノくさいような臭いと奇妙な雰囲気が延々漂っており、踏み込まなければ何もしてこないが、一歩でも踏み込んだ途端襲ってくる、そんな雰囲気がある。実際襲われるのだが、明白な解決は一切せず、結局しっぽが掴めないまま物語は終了する。全四編を通して深まる謎や各話の微妙な接点から読者の考察欲は掻き立てられるが、明瞭な解答が得られることはない。謎は謎のまま、奇妙な雰囲気を楽しむのがこの小説の正しい読み方なのかもしれない。
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謎の獣に遭遇する若者たちの話。森見さんの書かれる怪談は語り口がさっぱりしているからするする読めて読み心地がいいね。2番目の話が一番好き
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#43奈良県立図書情報館ビブリオバトル「妖怪」で紹介された本です。 2014.7.19 https://m.facebook.com/photo.php?fbid=903326536348455&id=248452188502563&set=a.268268019...
#43奈良県立図書情報館ビブリオバトル「妖怪」で紹介された本です。 2014.7.19 https://m.facebook.com/photo.php?fbid=903326536348455&id=248452188502563&set=a.268268019854313
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読むのは、たぶん3回目。 単行本が出た時、「これは読みたい!」と、すぐ読んで。 文庫になった時、表紙を見て、「あー、この感じ、この感じ」と、なんだかミョーに嬉しくて、表紙目当てに買って読んだ。 中身は同じなのに2冊も買ってしまって、なんだか狐に化かされたようだw ていうか、新潮社...
読むのは、たぶん3回目。 単行本が出た時、「これは読みたい!」と、すぐ読んで。 文庫になった時、表紙を見て、「あー、この感じ、この感じ」と、なんだかミョーに嬉しくて、表紙目当てに買って読んだ。 中身は同じなのに2冊も買ってしまって、なんだか狐に化かされたようだw ていうか、新潮社ぎつねに見事たぶらかされたってことなんだろう(爆) そんな『きつねのはなし』を久しぶりに読んだのは、『怪談のテープおこし』を読んだからだ。 『怪談のテープおこし』は、いわゆる“すんごい怖い怪談”wなのだが、自分は“すんごい怖い怪談”って、すんごい怖いからこそ、逆に怖さを感じない。←なに言ってんだかわかんんねーよ(^^ゞ だって、オバケの怖さって、それが存在するってわかった瞬間がマックスなわけじゃない?w つまり、いるの?、いないの?、あるいは、存在するの?、しないの?と不安がどんどんつのっていって。 どうする?、どうする?、どうする?……と、嵐の前の静けさを経て、バーン!とお出ましになったソレに「バカヤロ。やっぱ、いるじゃねーか!」と、心臓が頭のてっぺんに飛び上がっちゃった時の怖さこそが最大なわけじゃん。 その後、いくらオバケがあーでもない、こーでもないしたところで、出た瞬間の怖さは絶対越えられない。 まー、三津田信三は数多の実話怪談の“作り手”と違って、その辺りは心得ているようで。 ソレがいるからいないに変わる前のグレーの段階をちゃんと引っ張ってくれるから、怪談の醍醐味であるゾクゾク感をちゃんと味わえるんだけど。 バーン!の後も引っ張る悪いクセがあるんだよね(^^ゞ ま、ホラー・怪談業界的には、バーン!の後こそ読みたい/聞きたいとする人の方が多いから。 読者サービスという面もあるのかもしれないけどねぇーw つまり、この『きつねのはなし』というのは、バーン!以降がない。 ちゃんとゾクゾクのニーズを満たせて、話がスパッと終わる。 個人的に、怪異な出来事というのはそういうものなんじゃないか?って思うこともあって、 そこがいいわけ。 そんなこの『きつねのはなし』には、4つのお話が入っている。 最初の「きつねのはなし」は、一番ゾクゾクくるお話。 主人公は大学生で、ナツメさんという女性が店主の古道具屋でバイトをしている。 そのお客に天城さんという、長い坂の上にある屋敷に住んでいる人がいて。 主人公は、店主に言付かって、届け物をするところから話が始まる。 店に戻った主人公は、店主のナツメさんに「天城さんはちょっと怖い感じの人ですね」と言う。 すると、ナツメさんは「そうですね」と頷いて。「本当は私が行かなければならなかった。でも、私はあの人のところに行くのが嫌なのです」と言う。 そんなナツメさんを見て、天城さんのところにはなるべく自分が行くようにしようとする主人公はある時、彼女である奈緒子の写真を天城さんに取られてしまう。 すると、奈緒子は…… みたいなお話。 2話目の「果実の中の龍」は、主人公(一話目の主人公とは別の人)と先輩、そしてその彼女をめぐる、ちょっと寂しい、でもどこか素っ惚けている青春譚。 といっても三角関係の話ではないんだけど、最近、村上春樹ばかり読んでいたせいかな? 村上春樹の小説によくある関係のようで、イメージがダブってしまう。 ていうかー、3人の関係って、『ノルウェイの森』のワタナベと永沢、ハツミの関係とほぼ同じだよね。 まぁ、永沢とくらべるとこっちの先輩は虚構を現実として生きている、かなりの変人なんだけどさw ただ、永沢は永沢で、現実を虚構(ゲーム)としてしか生きられない人だからなぁー。 先輩の彼女である瑞穂さんと主人公の会話が意味深で面白い。 「先輩はつまらない人ではないですよ」「僕こそつまらん男ですよ」 「みんな、なぜそんなことにこだわるの。その方がよっぽどつまらない」 また、お話の最後、京都を離れることになった瑞穂さんをおくる京都駅では、タイトルになっている龍の根付けについて、瑞穂さんが、 「彼は本当に忘れてたと思う?(ネタバレになるので以下略)」と言うと。 主人公は「あり得ることです」と。 「ひどいこと、あっさり言うね」 「僕は嘘をつけない男です」 「嘘つき」 それらのシーンの、暖かみがあるユーモアの裏に隠れている寂しさがすごくいいんだよね。 なんだか「なごり雪」を思い出すんだけど、あんがい著者もそれを意識していたのかな? てことで、3話目と4話目はハードカバー版につづく(^^ゞ
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気持ち悪くてジメジメした話だった うっすら話が繋がった怪談?の短篇集 まだ咀嚼できていないのかモヤモヤが残っているけど、咀嚼できたとしてもスッキリしない話のような気がする。 生臭い龍みたいな何かとかキツネみたいな細長い獣とかなんだったんだろ?
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森見登美彦さんの小説で好きな一冊。 怖い話は得意ではないが、たまに無性に読みたくなるきつねのはなし。背筋がゾワっとする瞬間。ほっこりする瞬間。いやな冷や汗をかく瞬間。物語の緩急のつけ具合が絶妙で、心を虜にされる展開。吉田神社の節分の時、どこかできつねのお面を被った着物風情の人がひ...
森見登美彦さんの小説で好きな一冊。 怖い話は得意ではないが、たまに無性に読みたくなるきつねのはなし。背筋がゾワっとする瞬間。ほっこりする瞬間。いやな冷や汗をかく瞬間。物語の緩急のつけ具合が絶妙で、心を虜にされる展開。吉田神社の節分の時、どこかできつねのお面を被った着物風情の人がひっそり紛れ込んでいるのかもしれない。対価交換で得る利と不利益。妙なことには口を挟まず、我存ぜぬのスタイルを貫けたらどんなに楽だろう。主人公である大学生の揺れ動く心情と物語の不気味な展開具合は最高に面白い。
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京都と森見ワールドが溶けて一緒になっているみたいで、リアルじゃないのは分かってても妙にリアルに感じた。 最初の2つが特に、面白かった
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