国をつくるという仕事 の商品レビュー
(2009.07.29読了) 1980年にプリンストン大学で、経済学を教えていたとき、世界銀行に誘われ、2003年までの23年間「貧困のない世界を作る」夢を追ってすごした著者の仕事にまつわる回想録です。 世界銀行に行くための条件は、「発展途上国の民の貧しさを、自分の目で見てくるよ...
(2009.07.29読了) 1980年にプリンストン大学で、経済学を教えていたとき、世界銀行に誘われ、2003年までの23年間「貧困のない世界を作る」夢を追ってすごした著者の仕事にまつわる回想録です。 世界銀行に行くための条件は、「発展途上国の民の貧しさを、自分の目で見てくるように」ということだった。世銀で活躍していた教え子の勧めで、カイロへ飛んだ。そこの貧民街で、ひとりの幼女が著者の腕の中で息を引き取った。「民の苦しみなど気にもかけない為政者の仕業と、直感した。」 「世銀の使命は、貧困のない世界を作ること。政治力のない貧民のために正しいことを正しく行う、勇気あるリーダーたちの味方になる。この精神を本気で貫かないと、世界一流の知識や技術の提供が無駄になる。」(5頁)と世銀に誘ったチェネリー副総裁に言われた。 著者は、1997年から世界銀行の南アジア地域副総裁を務めたので、その頃の話が主に述べられています。対象となる国は、インド、パキスタン、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、ブータン、モルディブ、アフガニスタン、といったところです。 政治の眼がどこまで行き届いているのか知るために、貧村やスラムの家族の一員としてホームステイしながら生活の実態を体験するということをやっていたようです。その体験を武器に、世銀に融資を依頼に来る各国のリーダーの見極めをしています。 貧困解消のためにならないと判断した場合は、融資を断ることになります。森林開発という名のもとに、違法伐採で私腹を肥やしている実態を確認したプロジェクトへの融資は打ち切りになっています。 南アジアの国々の知らなかった様子をいろいろ知ることができました。 ●掘り抜き井戸によるヒ素中毒(183頁) バングラデシュを流れる河川は、汚染がひどく下痢に伴う脱水症状が毎年数十万人の児童の命を奪っていた。その悲劇から子どもたちを救おうとユニセフが掘り抜き井戸を支援した。70年代から始まった井戸事業は全国に広がり、児童死亡率は急速に下がっていった。しかし、井戸は掘っても水質検査をしなかったことが、第二の悲劇を生んでしまう。 1998年、全国約三百万ある井戸の水質検査の結果、半数の井戸がヒ素に汚染されていた。 ●かまどの煙(224頁) 母親に背負われてかまどの煙にさらされる幼児は、急性呼吸器官炎症や、種々伝染病にかかる確率が、約6倍になる。インド農村地帯では、無煙エネルギーに転換すると、五歳以下の幼児死亡率が半減する。 (かまどの煙は、平和な農民生活の象徴と思っていたのですが。) ●パキスタンのマリー・アントワネット(226頁) 2007年12月、ベナジール・ブットーパキスタン首相が暗殺された。 この、ブットー首相を著者は、民を憂わぬマリー・アントワネットと称しています。 ●真のリーダーが求めるのは(311頁)田坂広志 真のリーダーが求めるのは、無数の人々が、自分というリーダーに付き従うことではない。 真のリーダーが求めるのは、無数の人々が、自分の人生のリーダーとして生きていくこと。 (2009年7月30日・記)
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dankogai氏がリーダーがリーダーについて書いた本と評していたがまさにその通り。そして一番共感したのは、最後のほうに書かれていた、共感することにより発揮されるリーダーシップ。”自分が”何かをやりたいからではなく、心から共感して何かをしてあげたいと感じることからリーダーシップは...
dankogai氏がリーダーがリーダーについて書いた本と評していたがまさにその通り。そして一番共感したのは、最後のほうに書かれていた、共感することにより発揮されるリーダーシップ。”自分が”何かをやりたいからではなく、心から共感して何かをしてあげたいと感じることからリーダーシップは発揮されるというもの。だからこそ本書の中に出てくるリーダーたちは草の根を歩き回り、国民の(しかも声をあげられない国民の)現状を知り、共感して、そして「頭とハートがつながった」状態で施策を考えていく。このリーダーシップのあり方が目からうろこだった。(どうやら以前からサーバント・リーダーシップと呼ばれていたもののようだけど、最近日本で 復刊されたばかりのようだ)[2009/04/27]
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