おぱらばん の商品レビュー
そこはかとないウィットとノスタルジーを感じられる本。未だ知らなかった海外作家の情報を得られるのもよし。なかなか読み進められなかったのが不思議だ。貯水地のステンドグラスが1番のお気に入り。
Posted by
久しぶりに出会った素晴らしい短編集。 ダイヤモンドのような派手な輝きはないけれど 真珠のような淡い輝きが全編を通して感じられる。 パリで異邦人として暮らす描写が多いが なんとも優しいトーンで現実としてのパリの湿った空気が感じられそうだ。 読み終えるのがもったいなくなる。 ずっ...
久しぶりに出会った素晴らしい短編集。 ダイヤモンドのような派手な輝きはないけれど 真珠のような淡い輝きが全編を通して感じられる。 パリで異邦人として暮らす描写が多いが なんとも優しいトーンで現実としてのパリの湿った空気が感じられそうだ。 読み終えるのがもったいなくなる。 ずっと読んでいたい短編集だった。
Posted by
「おぱらばん」という不思議な語感は、実は"auparavant"というフランス語の単語。 収められている短編はすべて、パリで出会った人々や出来事と、同時に出会った本の中の世界とが不思議にシンクロする話。 堀江敏幸らしい静謐な文章を味わえる佳作。
Posted by
彼はまず、こちらの国籍を確かめもせずに、以前、東京へ行ったことがある、とフランス語で言おうとした。言おうとした、としか書けないのは、《以前》に相当するフランス語を思い出すのに、彼がたっぷり十分以上の時間をついやしたからである。顔を真っ赤にして、声にならぬ声を漏らしながら熟考した...
彼はまず、こちらの国籍を確かめもせずに、以前、東京へ行ったことがある、とフランス語で言おうとした。言おうとした、としか書けないのは、《以前》に相当するフランス語を思い出すのに、彼がたっぷり十分以上の時間をついやしたからである。顔を真っ赤にして、声にならぬ声を漏らしながら熟考した末に出てきたのは、くだけた日常会話ではあまり使われない《AUPARAVANT》という単語であった。片仮名に変換すれば《オパラヴァン》と表記しうるこの副詞は、ふたつの行為の時間差をはっきり示すために用いられる、どちらかといえば丁寧な言葉で、私は宿舎に滞在している中国人の多くが、《AVANT》のかわりにきまってこの単語を用いるのに気づいていたのだけれど、その理由を深くつきつめようとはしなかった。先生の発音は、不揃いな歯ならびと前歯にできた穴からは想像しがたい、まことに明瞭な単音で、ポップコーンでもはじけるようにひとつひとつばらけたその音の羅列は、いささか日本風に《おぱらばん》と、じつにキュートに、遠い国の魔法使いの、とっておきの呪文みたいに聞こえるのだった。私はその響きにうっとりしつつ、ひとつの文章ができあがるまでの膨大な時間を案じて会話を断ち切り、紙と鉛筆を用いた漢字による意思疎通を提言したほどなのである。 (「おぱらばん」本文p12-13)
Posted by
いつもの堀江さんのテーストに引き込まれ、見知らぬ仏文学の世界も知ってるような気に。今回面白かったのは、もちろん「オパラバン」にある、悲しいかな欧州で我々アジア的同胞が皆味わうであろう逸話であり、海胆先生であり、自称詩人であり、黄色い部屋でもあるのだが、一番は「のぼりとのスナフキン...
いつもの堀江さんのテーストに引き込まれ、見知らぬ仏文学の世界も知ってるような気に。今回面白かったのは、もちろん「オパラバン」にある、悲しいかな欧州で我々アジア的同胞が皆味わうであろう逸話であり、海胆先生であり、自称詩人であり、黄色い部屋でもあるのだが、一番は「のぼりとのスナフキン」の一節である。「・・・だが帰るべき場所があるかぎり、漂泊は甘えにすぎない・・・漂泊の真似事を許した身に、スナフキンの孤独を理解できるはずもないのである」ということで、パリ郊外を漂っている堀江さん自身が帰るべき場所を必要としている、スナフキンになれないことを自覚しているところに、どの本にも共通している地に足の着かなさ、のワケがあり、堀江さんに共感する理由があるのかもしれないと思った。旅行記だの滞在記だのを読んでも、自分が漂流者だと気づいていない人の文章は軽薄で何も惹かれないし、「冒険家」の椎名さんだって、もしかしたら岳物語などを通じて、家という確固としたベースがあることを知っているから好きなのかもしれない。スナフキンの自由は、孤独、あるいはそれに伴う痛み、に裏打ちされたものであり、それが覚悟できない者には選べない道であり、でもそんな彼にも年に数ヶ月?のムーミン谷という心のよりどころがあるであろうことは、ちょっとほっとする要素でもある。
Posted by
こういう文章を読むと パリっていいなぁと思う。 こんなにも素敵な本を今まで知らなかったのが、ちょっと残念。 毎日大切にちょっとずつ読んだ。
Posted by
大好きな作家の、短編集。素敵な一冊。 この人の「声」は、音にならない想いの足跡みたいなものに感じられます。 そして、孤独です。決して負の意味ではなくて、世界は独りの頭の中にある、という意味での孤独。 独りの時間の流れとは、さまざまな人と交わす言葉や、街角で出会うワンシーンが、自...
大好きな作家の、短編集。素敵な一冊。 この人の「声」は、音にならない想いの足跡みたいなものに感じられます。 そして、孤独です。決して負の意味ではなくて、世界は独りの頭の中にある、という意味での孤独。 独りの時間の流れとは、さまざまな人と交わす言葉や、街角で出会うワンシーンが、自分の中の記憶を起こしまた流れていく、その流れ。 川の流れのように、ひとつ、またひとつと想いがめぐるんです。 この人の本で一番最初によんだのが「河岸某日抄」だから、川のイメージが強いのかもしれないけど。 どの短編も雰囲気あるけども、「のぼりとのスナフキン」、「河馬の絵葉書」、「貯水池のステンドグラス」が特に好き。 どの話も、時代に忘れられた文学作品に想いが行き着くので、読んでみたいなと思う本が増えます。 こんなに想いに奥行がある方と、お話してみたいなぁ。 「帰る場所がある限り、漂泊は甘えにすぎない」。 独りで、静かに、特に夜、読むと美味しいです。
Posted by
人生における「偶然」が伏線として存在している短編集のように思われます。 作者の精神の放浪史でもあるような。
Posted by
床屋へ行く。絵葉書を探す。スナフキンに思いを馳せる。友人の家を訪れる……。 折々の日常のできごとにふれながら、筆致は、ふと横道にそれるように、様々な書物へと迂回する。 「私にはそんなぐあいに、書物の中身と実生活の敷居がとつぜん消え失せて相互に浸透し、紙の上で生起した出来事と平板な...
床屋へ行く。絵葉書を探す。スナフキンに思いを馳せる。友人の家を訪れる……。 折々の日常のできごとにふれながら、筆致は、ふと横道にそれるように、様々な書物へと迂回する。 「私にはそんなぐあいに、書物の中身と実生活の敷居がとつぜん消え失せて相互に浸透し、紙の上で生起した出来事と平板な日常がすっと入れ替わることがしばしばある。」 迂回すること。その愉悦と贅沢。
Posted by