テロルの決算 新装版 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
右派であるとか左派であるとかは関係なく、大声で人を恫喝する人や暴力で言うことを聞かせようとする人が苦手です。 そういう人の話を聞くのもちょっと無理。 なので、テロリストのノンフィクションというのは、わたしには少しハードルが高いものでした。 それでも、レッテルを貼って知った気になってはいけないと自分を鼓舞して読みました。 読んでよかった。 殺された浅沼稲次郎も殺した山口二矢も、損得で行動する人ではありませんでした。 なんとなく流されるということのない二人は、どちらも人付き合いが不器用です。 ある意味、信念に基づいて行動する、聞く耳持たない人の方が始末に負えないのかもしれません。 浅沼は年の功というか、大勢の人の中で損な役割を押し付けられても鷹揚に受け流すことが出来ても、二矢の潔癖な青臭さは妥協を許すことが出来なかったのだろうと思いました。 「政治家になりたい」と親に言ったら、「財産を減らすだけだからやめろ」と言われるような時代があったんですねえ。 浅沼稲次郎のエピソードですが、今の時代とは大違い。 んで、二矢の、というか多くの日本人の、強烈な反共感情。 過剰なほどに平等主義なのに、なぜ共産主義が嫌いなのかが、私にはよくわからないのですが、多分天皇制に対する意見の相違が大きいのかな。 二矢にとっての天皇は神聖にして犯すべからざる存在で、浅沼にとっての天皇は、個人的には崇拝の対象でありながら、政治家としては庶民の生活を守ることが大切だった。 譲れぬことは譲れぬとして、人は寛容が大事だと私は思っているので、浅沼の生き方には大変感銘を受けました。 ”重大な案件が選挙のさいには国民の信を問わない。そのときには何も主張しないで、一たび選挙で多数をとったら、政権についたら、選挙のとき公約しないことを平気で多数の力で押し付けようというところに、大きな課題があるといわねばならぬと思うのであります” 歴史に学ぶって、ものすごく大事。
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鮮烈なルポルタージュ 『テロルの決算』 1.概要 沢木耕太郎氏の『テロルの決算』は、1960年の「浅沼稲次郎暗殺事件」という戦後史の暗部を抉り出した、魂を揺さぶるノンフィクションの金字塔です。 単なる事件の記録ではなく、その裏に隠された一人の17歳の少年の孤独な思想と、彼を取...
鮮烈なルポルタージュ 『テロルの決算』 1.概要 沢木耕太郎氏の『テロルの決算』は、1960年の「浅沼稲次郎暗殺事件」という戦後史の暗部を抉り出した、魂を揺さぶるノンフィクションの金字塔です。 単なる事件の記録ではなく、その裏に隠された一人の17歳の少年の孤独な思想と、彼を取り巻く時代の空気が、読者に重くのしかかります。 2.事件の真相 事件の発端は、社会党・浅沼委員長が中国訪問で語った「アメリカ帝国主義は、日中共同の敵」という強烈なスピーチでした。 この言葉は当時の右翼勢力に激しい怒りの火をつけ、事件の引き金となります。 これに触発された少年、山口二矢の思考が、本書の核心です。彼は、右翼の政治スピーチに感化されながらも、右翼組織の行動や思想に徐々に幻滅を感じていきます。 書物を通じて天皇崇拝の念を強めた彼は、組織に頼らず、自らの手で「成敗はみずから」と決断を下しました。 この17歳の若さで、世界と対峙し、自らの命を賭して「決算」をつけようとした孤独なテロルの論理が、生々しく描かれます。 3.まさに映像なり。 犯行当日、日比谷公会堂の警備体制は万全とは言えませんでした。 沢木氏の筆致は、事件が起きる直前の静寂から、警備の隙を突いて山口少年が壇上に駆け上がり、浅沼氏を脇差のような刃物で刺突する発生の瞬間までを、まさに映像のように切り取ります。 あの衝撃の瞬間を捉えた写真がピュリツァー賞を受賞したことからも、その凄まじさが伝わってきます。 この緊迫感あふれる描写は、ノンフィクションの醍醐味です。 4.敬意/20代の情熱と胆力への驚嘆 何よりも衝撃的なのは、本書が沢木氏が20代で、足掛け7年間もの歳月をかけて大成させたという事実です。 「声を持たぬ者の声を聴こうとする。それがノンフィクションの書き手のひとつの役割だとするなら、虐げられた者たち、少数派たらざるをえなかった者たち、歴史に置き去りにされた者たちを描こうとすることは、ある意味で当然のことといえる。」 という後書きは、彼の取材と執筆に対する徹底した姿勢を物語っています。 生い立ちから思想、そして独房での自決に至るまで、山口二矢という一人の人間の内面を深く掘り下げたその取材力と構成力、そして書き手の胆力には、ただただ驚嘆するしかありません。 5.読みおえて 事件の社会的背景だけでなく、テロリストの人間性を描くことで、私たち自身の「政治と暴力」への意識を改めて問い直す傑作といえると考えます。 ぜひ手に取って、この重厚なルポルタージュを体験してください。
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自分が生まれる前、まだ思想の熱量が高かった時代の日本。 彼は、本懐を遂げ満足だったのかもしれない。 けど、正しくはないよなあ。
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2025年3月読了。 沢木耕太郎が描く浅沼稲次郎の話だからとうの昔に読んでいておかしくない組み合わせなんだがエアポケットに入ったかのように見過ごしていた。 沢木さんの文春文庫に入っている本はいずれもタイトルを一見しただけでは中身を想像するのが難しいように感じる(一読後にタイトルが...
2025年3月読了。 沢木耕太郎が描く浅沼稲次郎の話だからとうの昔に読んでいておかしくない組み合わせなんだがエアポケットに入ったかのように見過ごしていた。 沢木さんの文春文庫に入っている本はいずれもタイトルを一見しただけでは中身を想像するのが難しいように感じる(一読後にタイトルが腑に落ちるかんじ)。 本書は浅沼稲次郎とその浅沼を屠った山口二矢の両方を描き思想に偏りを見せずに2人の生涯を追うもの。浅沼は刊行物が少なく事件だけがクローズアップされる人物であり、文庫で割と手に入れやすく大変に有り難い一冊だと思う。 (左っぽい人の事績を追うのに手軽に読める新書や文庫が手に入りにくいなあと思うのは、当方の読書傾向が偏っているからかしらん。) 以下備忘。 75ページ 山口二矢は愛国党員だったので愛国党の挿話が結構本書には登場する。このページは愛国党員のよくある1日の紹介をしている。「聖堂」に掲げられた「信条」がなかなか鬼気迫る感じあり。 95ページ 山口二矢が「リヤカーにハーケン・クロイツをなびかせ、荷台には軍服長靴」で疾駆していたところを不審尋問を受けたという話。うーむ、パンクすぎる。 122ページ 浅沼が属していた建設者同盟の共同生活の拠点が池袋にありそこはまさに「無産運動の闘士の梁山泊」なのだが、面白いのは隣家の住人が西条八十で西条家には絶えず美人の訪問があったとのこと。「闘士」たちはその西条家に向かって「放尿」し、「歌を忘れたカナリアは 野球のバットでぶっ◯せ」などと放歌高吟していたとのこと。対比が激しくてゲラゲラ笑った。 157ページ 浅沼と近藤日出造の座談での浅沼の独白。 「…人間としてですね、悩みを持ちつつ生きるということは尊いものだと私は思っています。悩みがない人間というのは、ウソなんじゃないでしょうか。生き方にウソがあるんじゃないでしょうか」 →こういう人間観を持っておきたい。 162ページ 1943年の東京の市制から都制への移行にあたって行われた都議会議員選挙後に行われた都長官主催の祝宴の一幕(浅沼は都議会議員であり都長官は民選ではなく官選)。芸者が呼ばれていることに1人の議員がいきり立ったが「まあまあ」となだめる浅沼。一口に「左翼の闘士」と言っても芸者を許容するような面もあったわけだ。 312ページ 浅沼暗殺後の衆議院本会議における弔辞贈呈、贈呈者は池田勇人(当時自民党総裁で首相)、衆院議長は清瀬一郎(弁護士、東京裁判で東條英機の弁護)というビッグネームが揃って壮観なものがある。
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沢木耕太郎の二矢という少年への強い思いが伝わってくる。普通の17才の「素直さ」「狂気」「儚さ」が見事に伝わってくる作品となっている。近年では安倍晋三の銃撃事件があったが、あの事件で、頭をよぎったのは、この「テロルの決算」だった。 まだ、読み終えていなかったこの小説のあとがきは、...
沢木耕太郎の二矢という少年への強い思いが伝わってくる。普通の17才の「素直さ」「狂気」「儚さ」が見事に伝わってくる作品となっている。近年では安倍晋三の銃撃事件があったが、あの事件で、頭をよぎったのは、この「テロルの決算」だった。 まだ、読み終えていなかったこの小説のあとがきは、二矢が「生きていたら」という、言葉が胸を打つ。二矢を引き立てるために、他の人物を事細かく書くことで、二矢に寄り添いそして二矢を追ってきた沢木耕太郎にとってさらに思い入れの強い人物となっていたのだろう。 私にとっては、とてもいい作品であった。
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現実に起きたこの事件は知らなかったが、小説として書き起こされた当時の情景に息を呑む思いを感じる。17歳の少年が人を殺し冷静に取り調べを受け自決する。物語終盤の以下の言葉が少年テロリストのものに思えないが、そう思って読むと様々な感情が湧き起こってくる。 「私の人生観は大義に生きるこ...
現実に起きたこの事件は知らなかったが、小説として書き起こされた当時の情景に息を呑む思いを感じる。17歳の少年が人を殺し冷静に取り調べを受け自決する。物語終盤の以下の言葉が少年テロリストのものに思えないが、そう思って読むと様々な感情が湧き起こってくる。 「私の人生観は大義に生きることです。人間必ずや死というものが訪れるものであります。その時、富や権力を信義に恥ずるような方法で得たよりも、たとえ富や権力を得なくても、自己の信念に基づいて生きてきた人生である方が、より有意義であると信じています。自分の信念に基づいて行った行動が、たとえ現在の社会で受け入れられないものでも、またいかに罰せられようとも、私は悩むところも恥ずるところもないと存じます」
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社会党委員長の浅沼稲次郎が渋谷公会堂で行われた立会演説会の演説の最中にテロリストの若者と交錯した場面はテレビ映像で何回か見たことがあった。 この本は17際の少年がなぜ暗殺に及んだのか、また、その時現場にいた多くの人たちが何を見て何を感じたのか克明に描いている。 当時の政治情勢含め...
社会党委員長の浅沼稲次郎が渋谷公会堂で行われた立会演説会の演説の最中にテロリストの若者と交錯した場面はテレビ映像で何回か見たことがあった。 この本は17際の少年がなぜ暗殺に及んだのか、また、その時現場にいた多くの人たちが何を見て何を感じたのか克明に描いている。 当時の政治情勢含めて詳細に描かれた秀作だと思う。
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社会党政治家が右翼少年に刺殺された事件がテーマとなったノンフィクション作品。二人の過去を辿りながら、社会党政治家側の視点、右翼団体の視点、そして、テロ至るまでの経緯が丁寧に描かれている。 戦争、安保闘争、学生運動、その時々の人々の考えが伝わってくる、とても学びの多い作品だった...
社会党政治家が右翼少年に刺殺された事件がテーマとなったノンフィクション作品。二人の過去を辿りながら、社会党政治家側の視点、右翼団体の視点、そして、テロ至るまでの経緯が丁寧に描かれている。 戦争、安保闘争、学生運動、その時々の人々の考えが伝わってくる、とても学びの多い作品だった。それぞれの転換期にどちらに世の中が傾いたか。世代間の考え方の違いは、歴史の積み重ねであることを感じた
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沢木の処女作で代表作。最初の単行本刊行は1978(昭和53)年のことで、それからもう45年も経った。最初の文庫化も1982(昭和57)年、やはり40年以上が過ぎた。新装版も2008(平成20)年、それから15年も経った。 山口二矢という右翼少年による浅沼稲次郎暗殺事件は、1960...
沢木の処女作で代表作。最初の単行本刊行は1978(昭和53)年のことで、それからもう45年も経った。最初の文庫化も1982(昭和57)年、やはり40年以上が過ぎた。新装版も2008(平成20)年、それから15年も経った。 山口二矢という右翼少年による浅沼稲次郎暗殺事件は、1960(昭和35)年のことで、それからもう60年以上も経った。だが、内容は今なお、色褪せてないように思う。
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もともとノンフィクションは好きだが、文章が上手く、緻密で広い関係者からのヒアリングに基づきストーリーが作られた秀作。戦後に個人主義が進み、今は人間関係が薄い時代になっているが、まだまだ人間の濃さが残っていたのを感じる。
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