幻影の書 の商品レビュー
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すべての文がフラット。 会話の文にも「」がなく、いつの間にか会話になり、いつの間にか地の文に戻る。 ときには作中作の中にまでも潜り込みながら、するするする進んでいく。 不思議な没入感。 飛行機事故で妻と子を失った大学教授のデイヴィッド。 茫然自失の日々を送る中、とあるテレビ番組で知った往年の無声映画の世界で活躍した知る人ぞ知る喜劇俳優ヘクター・マン。 水の中に潜っていたような日々に、ふとした笑いをもたらされたことをきっかけに、やることを見つけたとばかりに彼の残した12本の短編映画の研究に没頭する。 ヘクターは12本の作品を残しながらも、突如姿をくらまし、いまだ消息知れず。 彼に関する著作までをも上梓し、もはやその道の第一人者となったデイヴィッドのもとに彼の妻を名乗る者からの手紙が届く。 彼は生きている。。。 いやー、なんてことないんだよなぁ。 ヘクター・マンの不思議な魅力ある短編映画に端を発した彼の数奇な半生と媒介者であるデイヴィッドの心身回復の物語。 これっていう強力な惹きつけがないにも関わらず物語としての魅力が凄い。 「彼が生きているなんて本当なのか?」ってのが、リードする謎なのかと思いきや、どちらかと言うとディヴィットとヘクターの背景語りが程長く続く。 作中作(ヘクター・マンの映画のト書きのようなもの)に至ってはそこそんなに細かく書き込むとこ?と思うくらいの実像感。 途中、意味があるのかないのか自然体を装って混入される何故か妙にもてる男のロマンス沙汰が出てきたあたりで、あれ、この感じ似ている、村上春樹に。 と思ってググってみるとやっぱりよく挙げられる対比のようだ。 そうかそうか、あぁいう路線の物語の作家さんと思えば良いのかとなんか納得。 それにしても映画への入れ込み具合が凄かった。 映画が観たくなった。 最近は子どもとピクサーの映画観るくらいで、全然観てないもんな。 でもどうせ観るなら定期的に色んな映画観たいな。 残念ながら今はこれ以上そんなに時間が確保できそうにないので、もう少し色んな肩の荷が降りてからのお楽しみとしておこう。
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若い頃、ポールオースターを読むのがかっこいいと思っていた時期があって、著作を読んだような気がするけれど、全然思い出せない…。 『あの本、読みました?』 で激推しされていた本著は、妻と子を亡くした男が無声映画の俳優の人生を追ったもの。 主人公、デイヴィッド・ジンガ―の頭の中の思い...
若い頃、ポールオースターを読むのがかっこいいと思っていた時期があって、著作を読んだような気がするけれど、全然思い出せない…。 『あの本、読みました?』 で激推しされていた本著は、妻と子を亡くした男が無声映画の俳優の人生を追ったもの。 主人公、デイヴィッド・ジンガ―の頭の中の思いが淡々と1人称でひたすら描かれていています。考え方が重くて暗く、イライラしているデイヴィッド。そのイライラぶりや、妻の親友とぶつかるところなど、もどかしさを感じます。 ポールオースターの十八番、物語の中の物語が私はあまり合わなかったけれど、淡々とした文章の中に暗くて強い美しさを感じました。不穏な雰囲気は特別なものでした。
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ポール・オースターという作家は本当に不思議だ。理知的な書き手であることは疑いえないのだが、計算ずくで書いているとは思えない「天然」のストーリーテラーとしての才をも同時に感じさせる。この長編でもオースターは、右へ左へと自由自在に転がして私たちを誘導していく(ツッコミどころが多いと言...
ポール・オースターという作家は本当に不思議だ。理知的な書き手であることは疑いえないのだが、計算ずくで書いているとは思えない「天然」のストーリーテラーとしての才をも同時に感じさせる。この長編でもオースターは、右へ左へと自由自在に転がして私たちを誘導していく(ツッコミどころが多いと言えば多いのだが、それを言い出せばこの物語そのものが語り手の妄想だったという可能性すら考慮しなくてはならなくなる)。誰にも見せないためにわざわざ作られる映画、というカフカばりの喜劇的なモチーフ。オースターのコミカルな側面が一皮剥けた
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『無声映画役者に振り回された人たちの物語の物語』 実在するかのような映画の描写、実際に目の前で起きているかのような回顧録、これらが、入れ子になって重なりあい、ますます物語に引き込まれていく。複雑だけど自然な繋がりを持つ構成と目に浮かぶような細やかな描写は、さすが、オースター!
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「世にごく稀にいる、精神が最終的に肉体に勝利を遂げる人物」「年齢はこうした人々を貧しくしない。老いさせはしても、彼らという人間を変えはしない。長生きすればするほど、彼らは自分の本質をますます豊かに、消しがたく体現していく。」
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翻訳小説には、ありがちな拒否反応が私にはあります。幼稚ですが登場人物が、分からなくなってしまう。そんな私が何故が読みました。分かりやすかったです。何層にも重なるストーリーに魅力があります。
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存在の不確かなモノを追う物語 オースターの小説には,このパターンが多いと思うが,その中では,現実味のある読み応えのある内容だった。 主人公が追っていくうちに,存在の不確かなモノの存在がだんだん現実味を帯びてくる。 ふわふわ漂っていた物語が,最後はしっかり着地したような感じで,とて...
存在の不確かなモノを追う物語 オースターの小説には,このパターンが多いと思うが,その中では,現実味のある読み応えのある内容だった。 主人公が追っていくうちに,存在の不確かなモノの存在がだんだん現実味を帯びてくる。 ふわふわ漂っていた物語が,最後はしっかり着地したような感じで,とても面白く読めた。
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久々のオースター作品。嵌まってしまうとやはり面白い。 オースターの本って、嵌まるまでちょっとツラいねんな。みっちり詰まった活字に、微細な情景描写、勢いで上っ面なでるように活字を流してしまうと、途中で描写が分からなくなりページを戻るはめに陥ったり… でも、リズムに乗ってしまうと、のめり込んで行ける。この本もそう、最初の方はぎこちなくページを繰ったり戻ったりしてたけど、のめり込んだらしめたもの、語り手ジンダーと主人公ヘクターの数奇な人生を共に歩んでいるような感覚で、現実を忘れそうになるくらい読み耽ってしまう。 映画を作ること、小説を書くこと、外国文学を訳すこと、評論を書くこと…ジンダーもヘクターも数奇な人生を送る中で、その横に必ずあったものがそういう表現活動だった。人との付き合いをほぼ絶ってしまっても、彼らの愛した人々が次々とこの世を去ったとしても、彼らは絶望の淵にしがみついて生を諦めきれず、創作活動を続けた。 その生きざまが、悲劇にも喜劇にもなる。オースター自身が小説も映画も創作する表現者である故、勘所をついた文の面白いこと嵌まること。想像していたほど重厚な文学ではなく、かといってエンターテイメント性だけを押しだした小説でもない。小説としてだけでも十分に楽しいが、孤独とか創作とか継続とか、そういう生きて行く上でやっていくことを濃密に考えさせられる小説、濃い読書の時間をもてて本当に良かった。
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読み出したらとまらない。 ストーリーテラーってこういう作家のことを言うのか。 ニューヨーク三部作は、抽象的な部分も大きかったが、この本では、家族を亡くした主人公の話、突然いなくなった俳優の話、映画の中の話などが重なって、完成度が高くなっている。
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無声映画の描写が素晴らしい。柴田元幸氏の翻訳の真骨頂だろう。 物語は後半に向かい怒涛の展開を見せ、わずかな希望を残すにとどまるが、起きてしまったことに比べれば読後の絶望感は意外なほど軽かった。 文章が端正さを極めているからだろうか。 「面白い本を読んだ」と心から思えた。
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