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幻影の書 の商品レビュー

4.2

46件のお客様レビュー

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2011/07/17

柴田さんのトークイベントに向けて借りた本第3弾。もうイベントは終わってしまったけど。ガラスの街といいこれといい装丁が綺麗。星の数は4にしようかまよったんだけど、3.7くらい。私★3の幅が広いからなあ。 文体はとてもとても好み。様々な人の、意志の物語。ヘクターの人生が適度にぼかし...

柴田さんのトークイベントに向けて借りた本第3弾。もうイベントは終わってしまったけど。ガラスの街といいこれといい装丁が綺麗。星の数は4にしようかまよったんだけど、3.7くらい。私★3の幅が広いからなあ。 文体はとてもとても好み。様々な人の、意志の物語。ヘクターの人生が適度にぼかしてというか、外側にあるものとして描かれるのがいい感じです。あくまでも主人公はデイビッドなんだ。時間的な意味でも要素的な意味でも、いろんなものを含んだ深いお話を素敵にひとつにまとめるというか。そういうのが上手い作家さんなんだなと思った。明瞭で、綺麗で、無駄はないけどぴっしりとした柴田さんの訳がそれにまたきっと合ってる。

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2010/06/09

 オースターの本に登場する主人公はいつも誰かしらの死によってもたらされた大金を手にしている。3冊目ともなるとどうにもそれが解せなくなった。勿論それだけその状況に拘るのだからそのことは重要な意味を持つのだろうし、〈大金はどんな人間の人生をも変えてしまう〉ということを言いたいのだろう...

 オースターの本に登場する主人公はいつも誰かしらの死によってもたらされた大金を手にしている。3冊目ともなるとどうにもそれが解せなくなった。勿論それだけその状況に拘るのだからそのことは重要な意味を持つのだろうし、〈大金はどんな人間の人生をも変えてしまう〉ということを言いたいのだろうし、失ったものとの繋がりの深さの象徴なのだろうけど、私はやっぱりどうしても「またか」と思わざるを得なくて出だしから中盤に差し掛かるまでなかなか読み進めることができなかった。  ところが、話は中盤から大きく動き出し、前半のことが嘘のように面白くなって一気に読めてしまった。そして読み終えるとやっぱりオースターって面白いし凄い作家だよな、と思ってしまう。  どんな話かと聞かれたら、作中のいくつかの本のタイトルや映画のタイトルをあげるのがいちばんこの本の的を得ていると思う。『ミスター・ノーバディ』『死者の回想録』『マーティンフロストの内なる生』『あざ』。それから最後の方に語り手の主人公が使う ”借りものの時間で自分が生きている” という言葉だったり。固有名詞や文章や引用がきちんと意味を持って随所に散りばめられている。  結末は決して明るいとは言えないけれど、後味が悪いわけでも暗く悲しいわけでもない。  帯に書かれていた"オースターの最高傑作"というのは強ち間違いじゃない。

Posted byブクログ

2010/03/24

自分の中のオースター・ランキング・ベスト3には入る傑作で、久しぶりに高揚する読後感。話は飛行機事故で妻と子供を亡くした主人公の絶望から始まるけれど、ある無声コメディー映画時代の監督の作品を追いながら、息もつかせぬ展開へと…。 絶望とコメディー、映像と文章(言葉)などの対比的なテー...

自分の中のオースター・ランキング・ベスト3には入る傑作で、久しぶりに高揚する読後感。話は飛行機事故で妻と子供を亡くした主人公の絶望から始まるけれど、ある無声コメディー映画時代の監督の作品を追いながら、息もつかせぬ展開へと…。 絶望とコメディー、映像と文章(言葉)などの対比的なテーマを軸に織りなす絵巻は、オースターの真骨頂ともいえる。いつもながらの柴田サンの翻訳のセンスの良さもさることながら、現代の寓話、ストーリー・テリングとして、★5つ。

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2010/03/16

こんなに面白い小説を読んだのは久しぶりだ。あり得ないような出来事が起きていて、あり得ないように思えるのに説得力がある。空に月が2つ浮かんでるようなことを書いてる場合じゃない。これぞ物語の力だと思う。

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2020/12/18

入れ子になった二つの(あるいは三つの)物語のロードムービー的な要素、“非在”をめぐるストーリー、ある意味「いつもの」オースターではあるが、「ムーンパレス」辺りより老成したなあというか年輪を重ねたなあという印象が残る、ちょっと受け止めきれないほどの重い読後感(作品自体はバッドエンデ...

入れ子になった二つの(あるいは三つの)物語のロードムービー的な要素、“非在”をめぐるストーリー、ある意味「いつもの」オースターではあるが、「ムーンパレス」辺りより老成したなあというか年輪を重ねたなあという印象が残る、ちょっと受け止めきれないほどの重い読後感(作品自体はバッドエンディングとは言えないと思うけど)をもたらす作品。 「見なかった」月は「出ていなかった」のか。人の目に触れることなく消えたフィルムや文章は、存在しなかったのと同じなのか。突然消えた映画俳優は?ある日奪い去られた家族は? “不在”ではなく、“非在”。この世界のもはやどこにも存在しない、けれど確かに何かを残していった者/物たちは、幻影なのか。ジンマーは三つの物語を経て、それらが幻影であろうとなかろうと揺るがないという境地にまでたどり着いたようだけど……。 ある存在が“非在”のものとされるそのあっけなさは、オースターならではの乾いた恐怖感を残します。でも、幻影(=人生、とも言える)を愛する勇気を与える作品…なのかもしれない。色々考えつつ、この機会にオースターの旧作を再読してみたい。

Posted byブクログ

2009/10/22

映画とオースターの関わりの深さは今更の事でもないが、今作は 映画そのものが物語の命になり、舞台になる。「幻影」とは映画の ことでもあり、ヘクターの半生でもあり、この物語そのものでもある。 そう考えると「幻影の書」とは単に小説のタイトルなのか、ジンマー によって語られる物語のことな...

映画とオースターの関わりの深さは今更の事でもないが、今作は 映画そのものが物語の命になり、舞台になる。「幻影」とは映画の ことでもあり、ヘクターの半生でもあり、この物語そのものでもある。 そう考えると「幻影の書」とは単に小説のタイトルなのか、ジンマー によって語られる物語のことなのか。或いは読んでいる自分の生も 含めて総てが幻影なのか。オースターにって二重三重に仕掛け られた「幻影」の物語から未だ開放されそうにない。 ヘクターは映画を作りながら映画を生き、映画に生かされる。 ジンマーのもとに手紙が届くまで、ヘクターは映画の中にだけ存在 する、いわば死者であった。妻子を失い絶望に沈み、他社との関わり を絶ったジンマーもまた死者であり、死者の生は即ち幻影に等しい。 ジンマーはシャトーブリアンの「墓の彼方からの回想」(ジンマーは "死者の回想録"と訳す)の訳を手がけ、作中にも象徴的に引用 される。 最近は本を読むとノートにあらすじや感想をメモしておくのだが、 今回は5ページ以上になった。うち3ページ以上は、登場人物、 ヘクターの映画、地名等、固有名詞目録。なぜそんなことを記録 したかというと、いつかどこかでリプライズしてくる可能性がある からだ。 主人公・語り手のデイヴィッド・ジンマーの名前は「ムーンパレス」や 「最後の物たちの国で」に登場した名前だし、ヘクターの作品名と して「写字室のなかの旅」("Travels in the Scriptorium "未訳)が 挙がっているが、これも後のオースター作品と同じタイトル。思い がけず再会する楽しみがあるかもしれないのだ。 こうした仕掛けは、遊びの要素であると同時に、オースターが自身の キャリアや人生を一つの作品として生きようとしていることの表れ であるように感じる。人生は一本の映画ではなく、いくつもの結末を 迎えながらも続いていく。巻頭のシャトーブリアンの文章もそう言って いるようだ。

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2009/10/04

大学教授の語り手と、映画スター、ヘクターと、主役が二重構造になっていて、今までのオースターの小説と一味違った。 ヘクターが自己を消滅させようとするのに対し、語り手は生を選ぶ展開だった。進歩というか、総まとめという趣きの小説。

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2009/10/07

ポールオースターの本をはじめて読んだ。 翻訳本を久々に読んだため最初は戸惑ったが、すさまじい展開に引き込まれていった。 最後の最後まで、息つく暇がなかった。「そうくるか!」の連続だった。 また本書の中に出てくる、映画の内容も実に細かく、本を読んでいるのに、映画鑑賞をしているようだ...

ポールオースターの本をはじめて読んだ。 翻訳本を久々に読んだため最初は戸惑ったが、すさまじい展開に引き込まれていった。 最後の最後まで、息つく暇がなかった。「そうくるか!」の連続だった。 また本書の中に出てくる、映画の内容も実に細かく、本を読んでいるのに、映画鑑賞をしているようだった。

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2010/02/24

『幽霊たち』が出版された時、ブルーとかブラックなんて名づけ方がなんだかイヤ、と思って以来、オースターを手に取ることなく過ぎてしまった。柴田元幸氏の訳書にも思い入れはなく、どちらかというと金原瑞人氏の翻訳書を選んでいた時期が多かったのだが、ジャック・ロンドンの『火を熾す』が本当に素...

『幽霊たち』が出版された時、ブルーとかブラックなんて名づけ方がなんだかイヤ、と思って以来、オースターを手に取ることなく過ぎてしまった。柴田元幸氏の訳書にも思い入れはなく、どちらかというと金原瑞人氏の翻訳書を選んでいた時期が多かったのだが、ジャック・ロンドンの『火を熾す』が本当に素晴らしくて。ミルハウザーも読んでみたら、これまた素敵な読み心地。で、やっとのことで、オースター。面白かった! 幸いなことにまだそういう経験はないのだけれど、もし家族を不慮の事故などで失ったとしたら、本書の語り手のディヴィッド・ジンマーのように、あの時、こうしていれば、とか、もしこうだったら、とか、詮無いことをくよくよくよくよいつまでも考え続けるに違いない。その共感によって、のっけからぐいぐい物語の世界に引き込まれる。 悲しみに苛まれた日々の後、TVを見て笑った一瞬に訪れた“私のなかのどこか一部分が、まだ生きたがっているのだ”という認識。そうしたジンマーの振る舞いや感情、作中で語られるヘクター・マン主演の無声映画のコメディに関する解説、ヘクターの人生の物語、ヘクターが作成した映画・・・・・そのどれもが独立した面白さとインパクトをもちながら、一つの物語として練りあげられていくのが、すごい。 ――The Book of Illusions by Paul Auster

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2009/10/07

最初の100ページ程度はただひたすら冗長で、前進してくださいませ、頼むから。 と、テレビ画面と小説を交互に見ながら、消化していきました。 偶然(ポール・オースターの小説で俺が嫌いなところ。あっさり偶然って単語を書くな!)と偶然が重なって・・・みたいな感じ。 もう、このパターンはあ...

最初の100ページ程度はただひたすら冗長で、前進してくださいませ、頼むから。 と、テレビ画面と小説を交互に見ながら、消化していきました。 偶然(ポール・オースターの小説で俺が嫌いなところ。あっさり偶然って単語を書くな!)と偶然が重なって・・・みたいな感じ。 もう、このパターンはある種のお家芸ですわ。 第二章ともいえる、へクターの昔話から、味が濃くなってきます。 無声映画の監督兼男優だった彼の、人生。転がる転がる。 ここらへんで、作家の成長が垣間見えるのは、偶然を必然として素直に呑み込めるよう書けている点。 それと、もともとこの人は描写の一秒を現実の一秒の中に収めるのが上手いのだけど、そこに緊迫感がうまれていた気がする。 (感覚的な発言で申し訳ないっす) 僕はポール・オースターの名を世間に知らしめた、ニューヨーク三部作に目を通していないので確かな発言はできないけど、たぶん、幻影の書はポール・オースターの代表作になるんとちがうかな。少なくとも偶然の音楽、ムーンパレスより秀逸な出来。 これは、いわゆる、一皮むけた作品だと思う。

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