国際正義の論理 の商品レビュー
近年政治哲学でも重要なテーマとなっているグローバル・ジャスティス論を主題とした新書。古典古代以来の正義観の問題にも触れながら、戦争の形態の変遷、グローバリゼーションによって生じた一国単位では済まない問題(難民や環境問題)の顕在化に対して、政治哲学がいかなるアプローチを取りうるのか...
近年政治哲学でも重要なテーマとなっているグローバル・ジャスティス論を主題とした新書。古典古代以来の正義観の問題にも触れながら、戦争の形態の変遷、グローバリゼーションによって生じた一国単位では済まない問題(難民や環境問題)の顕在化に対して、政治哲学がいかなるアプローチを取りうるのか、そして実際に国際社会でどのような取り組みがなされてきたのかを、要点をおさえながら解説してくれる。
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現代の国際政治において、正義論が直面している課題について解説している本です。 アリストテレスからカント、アーレントにいたるまでの政治思想史のなかで正義の問題がどのようにあつかわれてきたのかということについても、ごく簡単な紹介がなされていますが、本書全体を通じて思想的な側面を掘り...
現代の国際政治において、正義論が直面している課題について解説している本です。 アリストテレスからカント、アーレントにいたるまでの政治思想史のなかで正義の問題がどのようにあつかわれてきたのかということについても、ごく簡単な紹介がなされていますが、本書全体を通じて思想的な側面を掘り下げることはめざされておらず、どちらかというとアクチュアルな国際政治の出来事によって、国際正義の論理がどのような問題提起を受けているのかということを論じることに、本書の目的があるように感じました。 このテーマについて概観を得るとともに、その現代的な課題についても一通り抑えることができるという意味では、すぐれた入門書にはちがいないとは思うのですが、個人的には理論的な側面でもう一歩掘り下げた考察が欲しかったように感じました。
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国際関係・政治思想史の専門家が、「国際正義」に関する考え方の変遷と現状の課題を分析・解説した、2008年の著作。 本書は大きく二つのパートに分かれ、前半では正戦論や人道的介入などの軍事力行使に関わる問題を、後半では貧困や飢餓などを含む南北格差の問題を取り上げており、著者は以下のよ...
国際関係・政治思想史の専門家が、「国際正義」に関する考え方の変遷と現状の課題を分析・解説した、2008年の著作。 本書は大きく二つのパートに分かれ、前半では正戦論や人道的介入などの軍事力行使に関わる問題を、後半では貧困や飢餓などを含む南北格差の問題を取り上げており、著者は以下のように述べている。 ◆古代ギリシアから中世カトリックの世界までは、正義に国境はなく「唯一絶対の正義」であった。 ◆16~7世紀のヨーロッパの宗教戦争により、主権国家や民族という概念を背景とした「正義の領土化・国有化」(=統治者・国によって正義は異なり得る)という考え方が誕生した。その後、「正義により戦争を防止、停止させることはできないし、結果を何某かの正義とみなすこともできない」とする「無差別戦争観」が広まり、19世紀前半にはヘーゲルが「戦争は諸民族の自然淘汰の過程」であると主張した。その結果、各国家がいわば権利として、「勝算があればためらわずに戦う」、「好機があれば素早く仕掛ける」というスタイルが一般化した。 ◆その後、二回の世界大戦を経て、国際連盟・国際連合の設立や国際的な立憲化により、侵略戦争を違法化し、なお合法的な戦争の可能性をも低下させる枠組みが確立していく。 ◆冷戦後の世界では、ボスニア・ヘルツェゴビナでの紛争などを通して、二国間紛争や内戦への「人道的介入」の正義というテーマが、専門家の間での激しい論争を巻き起こしている。また、アメリカの主導する対テロ戦争、軍事介入なども、今後、国際的な合意が求められるものである、 ◆20世紀後半以降、南北格差(地球的な富の不平等)を問題とする「社会正義」が注目されるようになった。この問題は、「飢餓に苦しむ異国の人々を放置して、その人々よりましな境遇にいる同国人を救済することは、同国人と外国人に人種差別をするようなものである」とするコスモポリタンと、「正しさの概念はそれぞれの社会に固有なものであり、共通にそれを正しいと信じる人々の間でしか正義の履行は期待できない」とするコミュニタリアンによる論争のテーマとなっている。 ◆文明や国によって正義が異なることを認識した世界が目指す方向は、移民の国アメリカにおいて、各人の出身国の正義とは異なる「契約論的な正義」が浸透し定着しているように、国際的な対話の場では、文明・国内での正義を押し通すことなく、共通の正義を探し求め、対話により正義を達成するということであろう。人権をめぐる文明間の対話については、イスラムの教えとの矛盾の解消等の問題はあるものの、総じて前進を見せている。 本書により、「国際正義」の変遷については、改めて認識することができた。 しかし、本書刊行以降も、中東をはじめとした世界各地での紛争は止まることはなく、新たに台頭したIslamic Stateはまさに「イスラムの正義」を世界に主張している。混迷を深める世界で、国家レベルで如何に対応していくべきなのか、極めて難しいテーマである。 (2009年1月了)
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ツキディデス:正義とは、「すなわり、強者が強制できることを強制し、弱者が、受諾せざるをえないことを受諾することである」(p.26) カントが戦争を難じた最大の理由のひとつが、戦争において、人格が不正に手段として取り扱われることであった。個人や国民や軍人であるからではなく、人間であるから尊重を払われるべきだとすれば、人格に対する尊重が、そのまま国境を越えた世界的市民社会の構成原理になりうるはずである。(p.60) 公共とはこの場合、排除性や競合性が働かない待機や自然のことであるが、「誰もが利益を引き出す」ことができ、また「誰もが必要以上の負荷をかけるべきではない」とされる地域的公共性、つまり、あらゆる人間が利害関係を有する大気、海洋、土壌などを汚染させることは、ステークホルダー理論では明らかな不正に相当する。 一国の開発や産業化と温室効果ガスの排出との関係、さらにそれらと地球温暖化との科学的因果関係が明確に立証されたわけではない。しかし、地球的公共性に影響を及ぼす蓋然性の高い活動、他者に危害を加える可能性のある活動を自由の名のもとに無制限におこないつづける者は、倫理的な責任の追及を免れることはできない。(p.67) 正しき介入の条件 【介入を始めるさいに適用される正義】 ①平和に対する脅威と認定すべき深刻な人道的危機が存在する。 ②機器の生じている領土政府が、それに有効に対処する能力も意志ももたないことが明らかである。 ③介入以外の政治的、経済的、外交的措置が、効果的でないことが立証される。 ④介入が危機の打開た事態の改善に役立つとの見とおしがある。 ⑤国連安保理が、介入の目的、時期、方法についての決定の責任を負う。 【介入についての正義】 ⑥介入は非単独でおこなわれ、そこには数カ国の兵員が加わる。 ⑦用いられる軍事的手段が、目的に見合ったものである。 ⑧非戦闘員が攻撃の対象からはずされている。 ⑨介入時の人道に反する罪、戦時法違反については、それが介入側によるものでも処罰は免れないという体制(監視など)が整っている。 【介入後に参照すべき正義】 ⑩介入後も、介入対象国の領土の範囲と一体性が保たれている。 ⑪正統政府の樹立までが、国際社会の支援によって速やかにおこなわれる。 とはいえ、緊急事態に対する矯正措置としての介入が、これらすべてを満たすことはまずないだろう。たとえば、コソヴォ紛争への介入の事例を見ても明らかなように、国連安保理の決議という要件は、しばしば人道的介入を「抑制する」方向に作用してしまう。そればかりか、もしこの要件を厳格に適用すれば、2003年のイラク攻撃はもとより、ハイチ、ソマリア、ボスニア、コソヴォなどへの介入は、すべて合法でないものとみなされる。 (p.116-117) 地球的な不平等は、いわば特的の容疑者のいない共同不正行為に似ている。このような行為の責任を論ずる場合には、伝統的な責任の概念を超え、傍観、無知、放置の責任にまで踏みこんでみる必要が、いや場合によっては無過失責任という概念をも導入する必要があろう。(p.145) 文明内の正義の常識では外界では通用しないという常識をもてば、自己の正義を押しとおすことなく、共通の正義を探し求めるという姿勢を育み、対話による正義の達成という理念に近づくのではないか。(p.199) 「現下の国際秩序やグローバル化の受益者が誰であり、犠牲者が誰であるのか」という問いを通じて、既存の秩序や規範を「正しさ」という基準で再吟味する姿勢を保ちつづけることである。さらにまた、たんに自己の主張や国益を押し通すためのコミュニケーション術ではなく、共通目的を設定し、ともにそれを推進するためのコミュニケーション術を身につけることではないか。(p.228)
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読みやすい。序盤の勢いに比べて、終盤の失速を感じた。人権のある程度の普遍性という落としどころでは。。。正義をめぐる思考の整理には役だった。 ・国の法律を犯さぬ限り、なにをしても不道徳ではない、という相対主義的な正義解釈を招き寄せる。良心の呵責ではなく。 ・戦争における相互性の原...
読みやすい。序盤の勢いに比べて、終盤の失速を感じた。人権のある程度の普遍性という落としどころでは。。。正義をめぐる思考の整理には役だった。 ・国の法律を犯さぬ限り、なにをしても不道徳ではない、という相対主義的な正義解釈を招き寄せる。良心の呵責ではなく。 ・戦争における相互性の原則:赤十字関連条約、ジュネーブ条約、ハーグ条約 ・戦争における犯罪者の一方的な特定とそれが引き起こす不満は、いまもない未解決。 ・アメリカの正義のディスコースを批判することは容易。しかし、人道的介入も国際犯罪もアメリカ抜きには成り立たない。 ・トマス・ポッゲによると、過去15年間で2億7千万人が貧困で死んでいるが、20世紀のあらゆる戦争で死んだ人間よりも多い。 ・世界人権宣言では、義務の主体について各国政府をほのめかすのみ。 ・世界価値観調査から見える多様性 ・「異文化への寛容」「文明間の協力」を申し合わせて幕を下ろすのが通例。 ・アダム・スミスの公平な観察者というヒント。
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「(国際)正義」という概念が、どのような変遷を辿って伝播されてきたかという記述的な理解の促進に役立つ(*^◯^*)
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一冊の中にもの凄い量の情報量(少なくとも初学者の私にとっては)なので、繰り返し読まないと押村先生の言いたいことを拾いきれないと思う。 理想はメモとりながら読むこと。って大学の講義かい。
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とりあえず通読後の簡単なメモをば。 私は「正義は複数個ある」という認識でとどまっていた部分があったので、 正義が乱立する中でどのように共通規範を作っていくか考えるためのきっかけになったかな。 観察を通して理解を深めるのも大事だが、価値判断から逃げている部分がある。「立ち位置を決...
とりあえず通読後の簡単なメモをば。 私は「正義は複数個ある」という認識でとどまっていた部分があったので、 正義が乱立する中でどのように共通規範を作っていくか考えるためのきっかけになったかな。 観察を通して理解を深めるのも大事だが、価値判断から逃げている部分がある。「立ち位置を決めるべき」と自らに強いるのもなんだが、、 まだ理解浅いので、いずれレビューを書きたい。(20120108)
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内容が難しい。2週してなんとなくわかった。時代により正義の違いについて書いてある。 正義とは勝者によるもの。
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信仰が世俗の領土と結びつきを強めると、宗教は国家宗教的な色彩を帯びてくる。聖書を俗語であるドイツ語に翻訳して信仰の国民化を促した。 学者や実務家たちは、国際関係に正義を持ち込むのをやめようと提案してきた。特にイデオロギー対立が激しくなった20世紀半ば以降、正義はプロパガンダの類...
信仰が世俗の領土と結びつきを強めると、宗教は国家宗教的な色彩を帯びてくる。聖書を俗語であるドイツ語に翻訳して信仰の国民化を促した。 学者や実務家たちは、国際関係に正義を持ち込むのをやめようと提案してきた。特にイデオロギー対立が激しくなった20世紀半ば以降、正義はプロパガンダの類でしかなく、平和の切り札にも秩序の手助けにもなりえないとみなす懐疑主義が浸透した。 正義という主題は国際関係論の主流うからは敬遠された。とくにリアリストは国際政治の主要アクターが国家にほかならないと考え、国家間関係をつかさどる原則が正義でなく、パワーであると解釈していた。 自由貿易体制は、自国が費用を投じなければ開発できない産品については外国より安く買い、お互いが不足分を補うことにより、地球全体として資源の節約を導くものだといわれる。この意味では自由貿易は地球的な公共性にかなった正義とみなされる。
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