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パワー の商品レビュー

4.7

21件のお客様レビュー

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2024/03/10
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すごい。すごい……の一言。ギフトもヴォイスも好みだったけど、パワーはその集大成みたいな感じになってる。 ギフトは『親と子(過去から未来に続いていく)』がメインの物語。 ヴォイスは『味方と敵(世界は二色ではない)』の物語。 パワーは『自分と世界(複数視点を持つこと)』の物語。 どれも最初の物語『ギフト』の主人公オレックが出てくるけど、パワーでは実物は本当に最後にしか出てこなかった。最初の主人公が徐々に年を取っていて、パワーでは「目が悪くなっている」と書かれているの衝撃だった。 親との関係に悩み若々しく、目隠しをして暗闇の中にいたオレックが目が悪くなるほど年を取るなんて……大抵の物語はそんな風に書かないし『若い時だけ』もしくは『年を取っている一時期だけ』が切り取られてるので、時間の流れをあまり感じない。 でも、この物語はしっかり『時間の流れ』を感じる作りになっていて、それだけでもすごいなと思う。 『パワー』はエトラのアルカマンドに住む奴隷、ガヴィアの物語。 全四章に分かれている。 一章を読んでる間は『ヴォイス』も奴隷の話だったので同じ傾向なのかなと思ってしまった。 でも、その後の展開が見事すぎて一章で感じたのは間違いだった。 ガヴィアが『女性が虐げられている事』『女性が恐怖を感じている事』を理解するのも良かったし、『世界にどんな価値観があり、どう成り立ってるのか』を理解していく過程が……しっかり書かれているのすごい。 最初は『自分が奴隷であること』『そのために受ける理不尽な行為』に疑問を持たなかったのに、サロの死をきっかけにそれが『理不尽である』と気が付く。変化は急激ではないけど、小さな気づきが積もり積もって形になっていく様が『世界を知るとはどういうことか』を丁寧にくみ取っていてすごい。 こんな丁寧な物語、見たことない。 それでいて押し付けがましいわけではないし『気が付けなかった』と後から気が付くことや、『結局何もできない』とか『見放そうかと迷う』という人間的な部分も残ってる。教訓ではなくて、物語として、人間として書かれてるのも好き。 様々な文化が出てくるけど、どこでも女性というだけで虐げられている。 ギフトでは男女ともに力を継いで当主になれたけど、ヴォイスでは政治的話し合いなどは男性の力が強く、女の子は暴力を受ける危険があるので男の子の格好で主人公のメマーは動き回っていた。 パワーはさらに露骨な女性蔑視が出てくる。女性が馬羊と同じく略奪されてくるとか(奴隷も男女問わず略奪なので、女性だけというわけでもないかもしれない。けど、自由を求める元奴隷たちが女性に対しては自由を認めないのは、そういう事だなと思う) ラスト近いガヴィアの言葉は奴隷制のみならず『自分たちが今いる社会のありよう』も批判してるように見えるので、とても衝撃的だった。 メルも出てくる。ギフトではオレックの母親の名前として、ヴォイスではオレックの娘の名前として……どちらも亡くなっている。パワーでやっと死なないメルがオレックの家にたどり着く。隠しキャラ?と思ってしまった。 分厚くて長いので、本当に本好きな人にしか勧められないのが難点。

Posted byブクログ

2024/01/18

主人公ガヴが自由と居場所を探す旅をする。 シリーズ三冊を通して、主人公は違えど皆アイデンティティの確立のために翻弄され、頑張るという共通点がある。派手さはあまりないけど、じわじわ心に染みるような感動を感じた。

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2022/10/05
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” 運の神は片耳が聞こえないという。ぼくらが祈りを捧げるほうの耳だ。運の神には、ぼくらの願いは聞こえない。運の神に何が聞こえているのか、運の神が何に耳を傾けるのか。それは誰も知らない。” --P.206 ”「悪い奴隷制ではなかったんです」とぼくは言った。「けれども--」ぼくは言いよどんだ。  メマーが口を挟んだ。「悪くない奴隷制なんて、ありうるでしょうか?」 「自分の主人たちの人柄がよければ--そして、ほかの制度がありうるということを知らなければ--誰もが、今のあり方が当たり前で、そうあるべきなのだと信じているとしたら、奴隷制がまちがいだということに気づかないものです」” --P.464 設定が多い。 このシリーズを通じて、この印象はついに拭いえなかった。それが不快なわけでは無いが、一人称視点ではどうにも説明くさくなる。「設定を語っている」ように読めるということだ。そういう印象もまた繰り返し覚えて拭い去られることはなかった。 思うよりもはるかに、語り口調は我が嗜好を左右しているようだ。 流転の物語である。 これも一貫している。ヒロイックでもエピックでもない。物語の主人公として特別な輝きをもってはいるが、大きなものではない。多くの人がそうであるように、力強い後ろ盾を持たない個人が状況に抗うことは難しい。主人公格においても例外ではない。流されて、弾き出されて、流転の末、居場所を見つける。 かつて、「世界を救う」物語が大嫌いだった。主にJRPG由来で、誰も彼もが世界を救ってしまうことに辟易していた。一方で、本作品のような「小さくまとまった」物語を好んでいた。はずだった。それも程度によるということか。好みが変わったということか。 主人公が自らの力でなにも解決していないように読んでしまったことが挙げられるのかもしれない。自分の意志で決定したことですら、状況に流された結果と見えてしまった。 良い出会いではなかった。

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2019/01/16

3巻を読みようやく、「西のはての年代記」が力を授かった子どもたちの物語だけではなく、詩句や歴史、抑圧から自由を獲得する物語なのだと理解した。ル=グウィンの作品が信頼できるのは、登場人物が作者の分身ではなく、育った環境に影響を受けたひとりの人間だからだ。私たちは小さなころ無条件に親...

3巻を読みようやく、「西のはての年代記」が力を授かった子どもたちの物語だけではなく、詩句や歴史、抑圧から自由を獲得する物語なのだと理解した。ル=グウィンの作品が信頼できるのは、登場人物が作者の分身ではなく、育った環境に影響を受けたひとりの人間だからだ。私たちは小さなころ無条件に親を信じていたけれど、しだいにそれは間違っていたと気づく。主人公が性に未熟な男の子だったおかげでこの話のつらさが多少は緩んだ。権利を主張できない女をどんな悲劇が襲うか、彼女の筆は容赦ない。つらい物語だけれど終わって欲しくなかった。

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2018/10/06

前2作と変わりない世界観だが、本作を読むと前2作が準備段階だったことがわかる。本作の主人公ガヴのギフト(能力)は予言とか予知、それと記憶能力の2つ。同じ単語が種族によって違う意味で使われていることとか、ギフトを持っていても使う人で意味が変わるとか、設定が大変示唆的。タイトルのPo...

前2作と変わりない世界観だが、本作を読むと前2作が準備段階だったことがわかる。本作の主人公ガヴのギフト(能力)は予言とか予知、それと記憶能力の2つ。同じ単語が種族によって違う意味で使われていることとか、ギフトを持っていても使う人で意味が変わるとか、設定が大変示唆的。タイトルのPowersのメインシームはスレイバリー(Slavery)とパワーであることは明白だが、経済力、政治力、軍事力、肉体物質的な力、信じる力、裏切りの力、カリスマの力。1巻のGifts(特殊能力)、Voices(声の力、伝える力)とと合わせて、非常に意味のある力。ラストにオレック、グライ、シタール、それに大人になって美女になったメムーが登場する。この先が読みたいとも思うが、いいラストではある。

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2016/05/24

ゲド戦記のファンです。 西のはての年代記は話はゲド戦記とは関係ありませんが、内容・雰囲気はゲド戦記の後半と近いです。 淡々とした語り口、自由への望み、人間の悪意、女性への蔑みと尊敬・・・ この本も何度も読み返して、その良さが深まっていく予感です。

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2014/07/10

自由。自分の生きてきた中でしか人はものを考えられない。今の生き方が正しいのか、間違っているのか、人はたくさんの経験をすることで自分のあり方を考えることができる。自身の経験もあり、人から聞いて学びこともあり、本を読むことによって学ぶこともできる。ガウィアとともに旅して、そんなことを...

自由。自分の生きてきた中でしか人はものを考えられない。今の生き方が正しいのか、間違っているのか、人はたくさんの経験をすることで自分のあり方を考えることができる。自身の経験もあり、人から聞いて学びこともあり、本を読むことによって学ぶこともできる。ガウィアとともに旅して、そんなことを考えました。

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2013/09/16
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自由を求める旅。 少し間延びしている感が否めないのですが まぁまぁ楽しかったです。 これで完結なのですが、続きが読みたい終わりかたでした。

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2013/03/06
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『ゲド戦記』のル=グウィンが、新たな構想の下に書き下ろした「西のはての年代記」三部作。『パワー』はその完結編にあたる。第一部『ギフト』の主人公オレックは、今では有名な詩人として知られるようになっている。第三部は、表紙裏の地図によれば『ギフト』の舞台となっていたスコットランドを思わせる高地地方と『ヴォイス』の舞台であった海峡に面した都市アンサルに挿まれた中央部の都市国家群を舞台にしている。 当時、都市国家群では群小国家が覇を競い合い、戦争に明け暮れていた。戦時下では人手はいくらあっても足りない。足りない分を補うため、奴隷狩りが横行する一方で、自由を求めて逃亡する奴隷も後を絶たなかった。そうした逃亡奴隷たちの中には森の中に自分たちだけの都市を持つものまでいた。 主人公のガヴは水郷地帯生まれだが、幼い頃、姉とともに奴隷狩りに遭い、今では都市国家エトナの元老院議員の館で奴隷として暮らしている。ローマ風の政治体制を持つエトナでは、奴隷も教育を受けることができる。人並み外れた記憶力を持つガヴは教師の手伝いができるほどの優等生だが、それを妬ましく思う一部の者からは執拗ないじめを受けていた。 この物語も他の多くの物と同じで、特別な力を持つ不遇な少年が、諸国を彷徨い様々な出来事を経て成長し、自分の居場所を見つけるところまでを描いた物語と一応は括ることができるだろう。しかし、主人公が自分の持つ特別な力で、次々と押し寄せる敵を倒し難問を解決していくという約束通りのストーリー展開を期待すると裏切られる。なにしろ作者があのル=グウィンである。『ゲド戦記』全巻を読み通した人にはお分かりのはず。 少年は二種類の力を持っている。それは「見たり聞いたりしたことを鮮明に思い出すこと」と「ときどき、これから見たり聞いたりすることを<思い出す>こと」ができる力である。一つ目の力は覚えた詩や物語を朗誦することに使え、聴衆を楽しませることができる。二つ目の力の方は、見たことや聞いたことがいつ起きるのか分からないので、それらを正しく読む力を持つ者の助けがなければ何の役にも立たない。 主人公の少年が他の物語のように大活躍できないのは、少年が持つ力が価値あるものとして遇されない世界にいるからだ。ファンタジーであれ、現実であれ、多くの世界は男性を中心に動いている。その点では、都市国家エトナも逃亡奴隷たちが共同生活を営む森の都市も同じだ。女は家事労働や男に(性的な)奉仕をする役割しか担わされていない。男村と女村に分かれ、ジェンダーによってするべき仕事も分かれている水郷地帯であっても、幻(ビジョン)を「見る力」は男のもので、女の見る幻(ビジョン)はたわごと扱いをされている。「詩を作るより田を作れ」という言葉がある。物語を語ったり、詩を朗唱したりする力は、男性中心主義の世界では、武器を操ったり、獲物を狩ったりする力と比べると一段低い能力と見なされることが多い。 しかし、主人公がそれまで当然のこととして受容していた世界に疑問を感じ始めるのは、オレックたちが書いた本を読んだからである。自分がいる世界を客観視するためには他者の視点が必要だ。「本」は持ち運びが可能な他者なのだ。文字のない世界や、本のない世界では詩や物語を語ることのできる人は「本」の代わり。主人公の少年は「本」の寓意である。「本」は戦わない。「本」は獲物を捕ることもなければ耕作もしない。では、「本」はほんとうに価値のないものなのか、という問いかけが三部作全編を通じて繰り返されている。 もちろん、「本」は素晴らしいものだ。その価値を知る世界では「本」は正当に遇される。それが、正当に遇されないのは、誰かがそうさせないからだ。少年の教師は「新しい」本を読むことを少年に禁じている。逃亡奴隷たちの首領は森の都市に学校を作ろうという主人公に同意しない。権威や権力を持つものは自分以外のものが見識を持つことを喜ばない。「知」の持つ力を恐れるからこそ、それを女、子どもが喜ぶものように言いなすことで、男をそこから遠ざけようとするのだ。 オレックと同じように、ガヴも「見たり聞いたりしたことを鮮明に思い出すこと」のできる力を母親からもらっている。「ギフト」は男と女をつなぐものだ。男と女が別々に暮らすのではなく、どちらか一方が服従するのでもない、互いに相補いあうことができるなら、今よりもっと豊かな実り多い暮らしが営まれるはず。そんなメッセージが「西のはての年代記」全編から響いてくる。その実現を言祝ぐかのように、祝祭的な明るさに満ちた終幕はオレックとその妻グライ、『ヴォイス』の主人公メマー、それにもちろんハーフ・ライオンのシタール(大好き!)も登場する。作者ル=グウィンの想いが本の外へ溢れ出してくるような力作である。

Posted byブクログ

2013/07/31
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去年の春にシリーズ1作目を読み始めて、やっと最終巻を読みました。 楽しみだったから読むのを我慢していたところもある。笑 もう著者は90のおばあちゃんだし、続きは出ないかなぁ。残念だ。 西のはての年代記は全作通して、言葉の力(まさにパワー!)や書物の重さが重要な鍵となっていて、本って本当に贅沢な心の栄養だなぁっとしみじみ感じた。 最後にはシリーズの主人公が全員集まってホッとできるんだけど、そこに辿り着くまでは、不幸一色な物語。奴隷制度や女性軽視、人種の区別がそこかしこにまざまざと描かれていて、暗い。その中で残酷な問題が多発し、ついに逃げ出した時にガヴィアを救うのは、奴隷の従順さ・無欲さとマスターのもとで受けた教育だ。 「勉強ができる」より、そういうことでは身につかない直観やセンスにいつも憧れてるんだけど、たまにはコツコツやった勉強が報われているのを見て安心した。笑 そういう話ってあんまりないやんね!真面目で運が悪くて不器用で、いじめられても大人しくしてる主人公なんよ。 私はゲドよりこっちの方が好きだなぁ。 ゲドは忘れちゃってるからそう思うのかもしれないけど、こっちのが主人公が大切に守っている愛が、読んでいて暗い気分の中で温かい慰めになるし、敵もドラゴンとか影とかと闘うのと違うからかな。穏やかなで綺麗な色の恐ろしさと向き合っていく感じです。 前へ未来へ駆け足しないと!という焦燥感のある昨今、こういう歴史や古くから伝えられる教育を大切にする世界観に触れて、人間にとって価値あるものの幅広さを思い知った。教養と娯楽にはキリがないね!

Posted byブクログ