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パワー の商品レビュー

4.7

21件のお客様レビュー

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2012/01/08
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「西のはての年代記」3部作の本作は、そのタイトル「パワー(Power)」が示しているように、第1巻「ギフト」から描いてきた、もっといえば、ル=グウィンがこれまでさまざまな作品の中で追究してきた「力」の問題を、より社会的な視点で描いています。 この作品で描かれている「力」は、身体に及ぶ暴力だけでなく権力や権威にまで及びます。だから、3部作の中でも本作は最も重苦しい雰囲気に覆われています。奴隷制、戦争、そして子どもや女性に対する暴力など、主人公を取り巻く状況は、絶望的ともいえるようなものです。主人公が目にするのは、多くの大切な人が死んでいく現実を為す術なく、また言葉なく受け入れている大人たちの姿です。 凡庸なファンタジーであれば、主人公がそうした絶望を打開する強大な力を獲得したり、あるいは主人公が神がかり的な奇跡を起こす引き金を引いたりして、解決・大円団に至りますが、残念ながら?そうはなりません。 描かれているのは、絶望、屈辱、悲しみを抱いてあてもなく、さまざまルールや秩序をもつ都市や集落を渡り歩き、その中で自分の力と希望に目覚め、新しい自由な社会を希求する人々の元への逃亡を試みる主人公の姿です。 この作品の主題は、おそらく「解決」ではなく「希望」だと思います。実際、暴力におおわれた私たちの世界に解決策をもたらす魔法のような力はありません。 しかし、そんな世界でも、私たちは「希望」を見いだせなければならない、その希望は、私たちを諦め屈服させる権威や権力の存在を、言葉の力であばき、そして新しい社会を言葉の力でつむぎだしていかなければならない、作品はそう私たちに問いかけているのではないでしょうか。 それにしても、ル=グウィンのイマジネーションと言葉の力には感嘆します。私たちの心の中に、オレックやメマー、ガヴィアが苦悩し生きる「西のはての年代記」の世界を創り出してしまうのですから。

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2011/12/26

奴隷として生まれた男の子の成長物語。 奴隷という身分制度が「いけないもの」であることが当たり前である私たちの常識をいったん保留し、奴隷であることが当たり前になっている人たちの思考をリアルに描き、そうした世界の再評価をせまる。最終的に主人公は、そうした世界に疑いをいだくようになるの...

奴隷として生まれた男の子の成長物語。 奴隷という身分制度が「いけないもの」であることが当たり前である私たちの常識をいったん保留し、奴隷であることが当たり前になっている人たちの思考をリアルに描き、そうした世界の再評価をせまる。最終的に主人公は、そうした世界に疑いをいだくようになるのだが、そこにいたる過程の中でそれだけの犠牲を払い、迷いぬく。 旅に出た後では、一章一章が主人公の体験する世界ひとつひとつに対応し、主人公はそれぞれの世界をくぐり抜ける過程で成長を重ねていく。ただしその成長の過程は決して、ゴールに向かっての直線的なものではなく、それぞれの世界との、彼ならではの出会いが、彼を導いていく。

Posted byブクログ

2011/07/12

奴隷とはいえ教育を受け、優秀ゆえに将来も保証され、親身に面倒を見てくれる屋敷の主人を信頼していた少年ガヴィアは、姉の悲惨な死によって初めて自分のおかれた立場が虐げられたものであるか知り絶望の中屋敷を逃げ出します。放浪の末に悩み苦しみながら自分の生きる場所を得る主人公に共感できまし...

奴隷とはいえ教育を受け、優秀ゆえに将来も保証され、親身に面倒を見てくれる屋敷の主人を信頼していた少年ガヴィアは、姉の悲惨な死によって初めて自分のおかれた立場が虐げられたものであるか知り絶望の中屋敷を逃げ出します。放浪の末に悩み苦しみながら自分の生きる場所を得る主人公に共感できました。『ゲド戦記』にも垣間見えた著者のフェミニズムが今作にも現れている気がします。皆が自由であるはずの理想郷ですら、慰み者として生きるしかない女性達や「ギフト・ガール」という名の性の奴隷としての姉の人生など。自由に生きる立場でこそおかしい、と思えることも、それが当たり前と思って生きている人たちがいまだ世界各地にいることを思うとつらいです。

Posted byブクログ

2011/03/07

ここにレビューを書きました。 http://blog.goo.ne.jp/luar_28/e/a30a818f3ed502d816a6c8418663edaf

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2011/07/16

長かった〜。3冊中で一番厚い。ちょっとずつちょっとずつ読むべし。ガヴィアとともに長い長い旅をすることになる。時間、距離、世界。いろいろなものを見て、感じて、経験して、考えて、辿り着いた場所にオレックやグライ、そしてメマーもいてくれたことが嬉しい。にしてもトームとホビー許せん。もの...

長かった〜。3冊中で一番厚い。ちょっとずつちょっとずつ読むべし。ガヴィアとともに長い長い旅をすることになる。時間、距離、世界。いろいろなものを見て、感じて、経験して、考えて、辿り着いた場所にオレックやグライ、そしてメマーもいてくれたことが嬉しい。にしてもトームとホビー許せん。ものすっごい許せん!サロを失ったガヴィアの、そしてヤヴンの悲しみがどれほどのものか。・・・ヤヴンは悲しんだだろうか?怒っただろうか?内側にいると、しかもそれなりに生きられていれば誰も疑問など抱かない。気づくことがよいことか悪いことか?理想を声高に叫ぶもののその奥を見据えること。考えることがいっぱいある。ただ、ああおもしろかった、で終わらない本だ。

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2010/02/13

3部作の最後のお話。自由と人間の力について。魔法のえがかれ方がとても好き。川を渡る場面が圧巻です。小さな子を抱えて流れがある川とはいえ、膝くらいまでの深さの川を渡るだけなのに。本当に素晴らしい…!

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2010/04/24

三部作の完結編ということです。 奴隷として育った少年ガヴの運命の転変を丁寧に描いて、何とも読み応えのある書きっぷり。 西のはての都市国家エトラ。 水郷の民から幼いときにさらわれて、アルカマンドという裕福な一家の奴隷となった姉のサロと弟のガヴィア。 家族的なあたたかい暮らしの中で教...

三部作の完結編ということです。 奴隷として育った少年ガヴの運命の転変を丁寧に描いて、何とも読み応えのある書きっぷり。 西のはての都市国家エトラ。 水郷の民から幼いときにさらわれて、アルカマンドという裕福な一家の奴隷となった姉のサロと弟のガヴィア。 家族的なあたたかい暮らしの中で教育も受け、奴隷制には疑問を持たずに暮らしていましたが、幻を見る力があることだけはひた隠しに。 戦争の時期の奴隷の扱いに悩み始めます。一家の長男ヤヴンのギフトガールとなった姉も幸せそうだったのですが、理不尽な急死。ガヴは衝撃を受けて、館を出奔。 森での自由民の暮らしに加わり、学問のある若者として期待されますが、そこでも中心人物のバーナと問題が起きて、出身地の水郷の里へ。 親族を見いだしますが、おばの幻視で追っ手がかかっていることを知り、また出て行くことに。 森で再会した少女メルを連れての逃避行のはて、奴隷のいない国ウルディーレへ。 一作目の切なさや、二作目のダイナミックさを兼ね備えて、人生と世界を感じさせます。 2007年の作品、2008年8月、翻訳発行。

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2009/10/04

最後、感涙。 最初の方の街での描写の長さに比べて、最後の方がアッサリし過ぎてるのが残念といえば残念かな。 でも、それさえも心理描写としては正しい気がするし。 久しぶりに人に薦めたい本でした。小学校高学年男子に読んで欲しい。

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2009/10/07

「ギフト」「ヴォイス」に続く“西のはての年代記”3冊目。 今回は自由を知らない少年奴隷のガヴィアが主人公です。 古代ローマ帝国がモデルかと思わせる歴然とした身分社会で、何の疑問も抱かず現在の境遇を受け入れているガヴィアに、自由が当たり前の私は違和感を覚えるとともに、考えさせられる...

「ギフト」「ヴォイス」に続く“西のはての年代記”3冊目。 今回は自由を知らない少年奴隷のガヴィアが主人公です。 古代ローマ帝国がモデルかと思わせる歴然とした身分社会で、何の疑問も抱かず現在の境遇を受け入れているガヴィアに、自由が当たり前の私は違和感を覚えるとともに、考えさせられる事が多々あります。 やがて、ある事件をきっかけにガヴィアも自由への道を歩んでいき、ラストでは前2作の登場人物達も登場します。 このシリーズは全体を通して深いテーマが脈々と流れている作品だと思います。 “西のはての年代記”の3冊を通しての評価は★5つですね。

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2010/02/24

『ギフト』『ヴォイス』に続くシリーズ最終巻。 このように丹念に書き込まれた物語を読むのが、やっぱり一番好きだなぁと、再確認。 ごくごく幼少の頃に姉とともに奴隷捕獲人にさらわれたガヴィア少年の、自分の居場所を見出すに至るまでの彷徨が描かれている。前作同様、言葉・物語のもつ力、人間の...

『ギフト』『ヴォイス』に続くシリーズ最終巻。 このように丹念に書き込まれた物語を読むのが、やっぱり一番好きだなぁと、再確認。 ごくごく幼少の頃に姉とともに奴隷捕獲人にさらわれたガヴィア少年の、自分の居場所を見出すに至るまでの彷徨が描かれている。前作同様、言葉・物語のもつ力、人間の尊厳、自由、性差について等々、様々に考えさせられる作品。 奴隷の扱いに寛大なアルカ家の館での子ども時代。アルカ家の次男トームの突発的な暴力や、その異母弟でやはり奴隷のホビーの憎しみという脅威はあるものの、姉サロの愛に包まれて、まずまず満ち足りた生活を送っていたガヴィア。夏の農園での子どもたちの生活は、牧歌的な美しさに満ちてもいる。 この、エトラ市におけるガヴィアの生活は、物語の半分近くを費やしつぶさに描き出されていく。この詳細な描き込みによって、“自由”という言葉を目にし奴隷以外の生き方の可能性があることを初めて知った時にガヴィアが感じた驚き・戸惑い・反感に対して、そしてその後の彼の旅に対しての共感を無理なく抱くことができる。物語終盤での、幼い少女メルを連れての、追っ手からの逃避行における緊迫感を一層増すことにもなったと思われる。 『ゲド戦記』の後期の作品と同様、魅力的な女性が多く登場している。 愛に溢れたサロ、支配者階級でありながら、その歪みを誰より感じているようなソトゥール。高娼であったディアロの静謐さ。ガヴィアのおばゲゲマーの、厳しい外見の奥に秘められた情愛の深さ。ガヴィアと同じく幻視の能力を持ちながら、固定的な男女の役割分担にとらわれている水郷の社会においては正当な評価を得られない、その孤高。メルの利発さとけなげさ。そして、グライ。彼女の精神の快活さと包容力には、前作と同様魅了される。 逃亡奴隷の都市“森の心臓”の創始者であるバーナも忘れ難い。 フィディル・カストロを彷彿とさせる風貌、その人間的魅力と実行力、カリスマ性。革命の初志が、いつしか己の屋敷の瀟洒さへの希求へと変転してしまうあたり、独裁国家の末路をも暗示しているような。 この物語は、ガヴィアが20年後に自分の妻に向けて書いたものという体裁をとっている。妻とはメマーだろうか。再三「思い出し」で、その姿を目にしていたことだし。それとも・・・・と想像するのも楽しい。 ――Powers by Urusula K.Le Guin

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